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軌跡と奇跡

小太郎 六歳 春 今日は卒園式


「小太郎!起きなさ〜い!」

「母ちゃん…もうちょっと…」

「何言ってんの!卒園式に遅刻しちゃいますよ!」

「あっ!なんで起こしてくれないんだよ!」

「さっきから何回も起こしました!」

母ちゃんは 声がかすれていた…

今日は小太郎最後の登園日

「先生!おはよ!」

「太郎ちゃん おはよ!」

小太郎は 幼稚園に入った当初 おはよう の挨拶をしなかった

「おはようございます」

「あっ!先生 おはようございます!」

「だから 私はもう先生じゃありませんよ」

「そうだった…でも 私にとってはいつまでも先生は 先生です」

「全く…今日まで小太郎を ありがとうございました」

卒園式前に涙を流す先生

「ほら!式の前に 化粧落ちちゃいますよ」

「あっ いけない…」

羽織袴姿で卒園式に挑む先生は 涙を堪えた

「みなさんは今日で この幼稚園を巣立って行くんです…楽しかったですか〜!」

「楽しかった〜!」

小太郎は話しを聞かず 今は違う子が座ってる 隣の席を眺めていた

「太郎ちゃん」

晶ちゃんがそこにいるような気がして…

「晶ちゃん 元気にしてるかなぁ…最近 連絡ないんだよなぁ…」

呟く小太郎…


「それでは これからホールで卒園式を行います この日の為にみんなが練習してきた成果をお父さん お母さんに見てもらいましょうね」

「は〜い!」

園児達はみんな笑顔

「それじゃ 二列に並んで隣の人と手を繋いでください!」

体育館の入り口で二列に並び 隣の人と手を繋ぐ園児達

しかし…

「先生〜!小太郎くんが手を繋いでくれない!」

「太郎ちゃん…ちゃんと手を繋がないと…」

先生は知っていたのだ…晶ちゃんが みんなと泣きながら別れの挨拶をし 小太郎が晶ちゃんの手をひき席に戻った時以来 小太郎は誰とも手を繋いでいない事を…

「しょうがないから いつものように ねっ」

小太郎の隣の子が 小太郎の園服の袖口を掴む


入場曲として 某アニメの 曲 が会場に流れる

一生懸命に手と足をあげる園児達

もちろん 足並みはバラバラ…しかし その真面目さが会場の父兄達には愛くるしく見えるのだ


園長先生の挨拶が始まる

入園式の時は誰一人として話を聞く子が居なかったが 三年の月日で成長した子供達

一人…小太郎を除いて…


小太郎は 年中さんの時 晶ちゃんが転校して来た時の事を思い出していた

「太郎ちゃん よろしくね」

この言葉が忘れられない小太郎

「太郎ちゃん 大丈夫?」

この言葉が 口癖だった晶ちゃん

秋の遠足のバスも隣に居た晶ちゃん

溜まり水の主との最終決戦で

「太郎ちゃん!イケー!」

楽しそうに笑ってた晶ちゃん

幼稚園にお泊まりした時に一緒に見た星空

そして…

晶ちゃんとの突然の別れ…

かじかむ手を擦りながら 珍しいどんぐり を見つけた時の嬉しかった事

それを握りしめ寝た事

晶ちゃんが それ を受け取り夕陽の向こうへ消えていった時の事を…

小太郎は 何度も涙を拭っていた…


小太郎達は 式が終わり 教室に戻って来ていた

「みなさん この幼稚園で学んだ事を忘れないで 小学校に行っても元気に みんな仲良く勉強してください!」

「は〜い!」

幼稚園生活も後数分

「先生〜!」

小太郎が 珍しく手をあげた

「なぁに?太郎ちゃん」

「先生…俺 楽しかったぞ!俺…先生にいっぱい迷惑かけちゃって…ごめんな…でも 俺…楽しかった!先生が俺達の先生で良かったぞ!先生…ありがとう!」

小太郎が 笑顔で涙を流しながら感謝を伝えた

「太郎ちゃん…」

式も終わり 化粧が落ちてもよくなった先生も ボロボロ泣いた

後ろで見ていた 父兄達も拍手する人 涙を拭う人 先生に感謝の気持ちで頭を下げる人が…


先生が 小太郎の母ちゃんを見ると

小太郎の母ちゃんも 笑顔で涙を流しながら 拍手をし

(ありがとう そして おめでとう 立派な先生になりましたね)

そう言ってるかのように 頭を下げたのだった


そしてとうとう最後の挨拶

「先生 さよなら!みなさん さよなら!」

最後はみんな笑顔で挨拶が出来た


「太郎ちゃん 学校行っても そのままの太郎ちゃんで頑張るんだよ!」

「おぅ!先生…顔 黒いぞ!」

「うるさい!全く…最後まで太郎ちゃんは…」

「それじゃ 先生 お世話になりました」

「こちらこそ 先生と太郎ちゃんに 三年間いろいろ教えていただきありがとうございました」


「小太郎 ここで写真撮りましょう」

卒園おめでとう と書かれた看板の隣に立つ小太郎の後ろには七分咲きの桜

小太郎は 左手を握りしめ 写真におさまった

隣に 晶ちゃん が居るかのように…


小太郎 もうすぐ小学生

ここで少し 話しを冬休みに戻そう


「母ちゃん いいでしょう」

「小太郎ちょっとおいで もうちょっと調整してあげるから…これでいっぱいか…」

「大丈夫!」

「小太郎は小さいから…もうちょっと大きくならないと…」

小太郎が自慢してるのは ランドセル


数日前…

「小太郎 居たか?」

「おぉ おじちゃん!母ちゃん!おじちゃん来た!」

「あら お兄さんどうしたの?」

「小太郎に用があってな」

「俺に用?」

「あぁ!ほら小太郎!じいちゃんからだ!」

「じいちゃんから?」

小太郎のじいちゃんは小太郎が3歳の時に亡くなっている


「じいちゃん 遊びに来たぞ!」

「おぉ 小太郎待ってたぞ」

じいちゃん家に行くとあぐらをかいたじいちゃんは 小太郎の特等席

「小太郎は後何年で学校に行くんだ?」

「ん〜っと…」

一生懸命 指を見る小太郎…答えは出ない…

「わかんない…」

「小太郎が小学校にあがる時は じいちゃんがランドセル買ってやるからな」

「ランドセル?」

「そうだ 学校に行く子はみんな 背負って行くんだぞ」

「なんだかわかんないけど…じいちゃんありがとう!」

「小太郎はめんこいなぁ」

小太郎を可愛がったじいちゃん

じいちゃんが大好きだった小太郎


「おじちゃん じいちゃんは死んじゃったんだぞ…」

「この前 部屋片付けてたら こんなのが出て来てな」

おじちゃんが持って来た 一枚の紙切れを母ちゃんが読む

『もし俺が死んでいたら 蔵の二階にある やつ を小太郎に渡せ!』

「隠居部屋掃除してたら引き出しから出て来てな 蔵の二階に行ってみたら これがポツンっと有ったんだ」

「もしかして 亡くなる前に買ってたの?」

「だろうな…親父は小太郎が産まれてすぐ鯉のぼり買ったくらいだから」

「せっかちって言うか…それだけ可愛がってくれてたのは嬉しい事なんですけど…」

「内孫より手かけてたもんなぁ」

「母ちゃん!じいちゃん何寄越したの?」

「さぁ なんだろねぇ 小太郎開けてごらん」

中身はわかっているが あえて小太郎に教えない母ちゃん

「母ちゃん!これ…しょうこ姉ちゃんが持ってるのと色違いだ!」

「これはランドセルだよ」

「ランドセル…あっ!じいちゃんが買ってやるって約束してたのだ!」

「小太郎 じいちゃんとそんな約束してたの?」

「うん!じいちゃんが買ってやるって言ってた!」

「よかったな小太郎 じいちゃん約束守ってくれたんだな」

「うん!」

喜んでランドセルを背負おうとするが 小太郎にはまだ大きいみたいだった

そして次の日

「母ちゃん!じいちゃんとこ連れてって」

「どうしたの?」

「俺 じいちゃんにお礼言いに行く!」

「そうだね 明日行きますか」


「おじちゃん!来たぞ!」

「おぉ!小太郎よく来たな」

「おぅ!おばちゃん!」

「おっ 来たな小太郎 ほぅ〜ランドセル背負って来たのか」

小太郎は じいちゃんに買って貰ったランドセルを背負っている

「もう…言ったら聞かなくて…冬休みなのに 小ちゃい体にデカイランドセル背負ってるから電車の中で目立って目立って…」

「小太郎 似合ってるぞ!」

「えへへ そうだろ!」

「ほら 小太郎!じいちゃんに挨拶しな」

「あっ!そうだ!」

チ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!

凛を思い切り鳴らす

「じいちゃん!来たぞ!ランドセルありがとう!」

デカイ声でお礼を言う小太郎

「あははは 小太郎 じいちゃん起きてくるぞ!」

小太郎が居るだけで 場が明るくなる

「じいちゃんはこの明るさが良かったんだろうねぇ」

「年越し うちでゆっくりして行きな!」

「いいのか!」

「せっかくだけど…明日帰らないと」

「なんだ母ちゃん…ダメなのか?」

「父ちゃんから連絡来るかもしれないし…こっち来てるの言ってないから…」

「そうか…おばちゃん また来るから!」

「そうかい…小太郎いつでも来いな」

「うん!」

年越しは無理だけど 今晩は泊まるみたいだぞ…小太郎とおばちゃん…

「小太郎…そろそろランドセルおろしなさい」

「ちょっと外行ってくる!」

「そのまま…ってもう居ないし…」

小太郎は行動が早い

「おぅ!おじちゃん!」

「おぉ!小太郎 来てたのか!」

さりげなく後ろを見せる小太郎…

「なんだ?小太郎 学校にあがったのか?」

「今度あがるんだぞ!これじいちゃんに買ってもらったの!」

「じいちゃん?」

「そうだ!じいちゃんに買ってもらったんだぞ!」

「…そうか!良かったな!」

小太郎はみんなにランドセルを自慢したかったのだ

満面の笑みでじいちゃんとの散歩コースを自慢して歩った


「あら もうこんな時間…小太郎どうしたのかしら…」

「そろそろ暗くなるなぁ…」

「全く…ちょっとそこら辺見てくる」

母ちゃんは小太郎を探した

「すいません 小太郎来なかったかしら?」

「来たよ!嬉しそうにランドセル背負って」

「何時頃…」

「そうだなぁ 一時間くらい経つかな…」

「そうですか…ありがとうございます」

「なんだ?まだ帰ってないのか?」

「えぇ…」

母ちゃんは一旦 おじちゃん家に戻った

「居たかい?」

「ううん…みんなにランドセル見せには行ったみたいなんだけど…」

「どこ行ったんだ?」

「全く…いつもこうなんだから…もう一度見てくる」


母ちゃんは心当たりがあるところは全部あたった…

「後 どこあるだろう…まさか…こんな暗いし それはないよね…」

母ちゃんが半信半疑で来たのは お墓

そこに小太郎は居た

墓石に向かって何かを話している

「じいちゃん…ランドセルありがとう みんな似合うって言ってくれるぞ!じいちゃん…俺…じいちゃんに会って…ちゃんとお礼言いたいぞ…じいちゃん…ばあちゃんと仲良くしてるのか?」

母ちゃんは少し離れたところからそれを見ていた

「じいちゃん…」

小太郎は袖口でたまに顔を拭いている


「小太郎…」

母ちゃんが優しく声をかける

小太郎は背中を向けたまま立ち上がり 顔を拭い振り返る

「母ちゃん!」

「風邪ひくから帰りますよ」

「うん!」

いつもの小太郎の笑顔をみせる


「じいちゃん なんて言ってた?」

「小太郎 似合うぞ!って笑ってた」

「そうか よかったね」

「うん!」

母ちゃんは 小太郎にマフラーを巻き 優しい我が子の手を引いておじちゃん家へと帰っていった


そして…

「小太郎起きなさい!入学式に遅れますよ!」

今日は小太郎の入学式


「それでは よろしくお願いします」

「上手く行けばいいんですが」

「あの子なら…もしかしたら…」


満開の桜が 春一番の子分と闘っていた

「風なんかに負けんな!」

桜の花びらが舞う中 春をもう少し楽しもうと 桜を応援する小太郎


長い校長の挨拶が終わり やっと入学式が終わった

「あぁ〜長かった…」

小太郎達は 教室へと向かった

教室に入り自分の席を探している時

「あれ?晶ちゃ〜ん!」

邪魔なやつらをつき飛ばし 晶ちゃんの元へ向かう小太郎

「晶ちゃん!この学校だったの?また一緒だね」

「あっ!晶ちゃんだ!」

他の子達も集まってくる

「…誰?」

「俺だよ!小太郎だよ!」

「小太郎…?」

「なんだよ晶ちゃん!忘れたのか?太郎ちゃんだよ!」

「太郎ちゃん?」

先生が教室に入ってくる

「みなさん 自分の名前が書いてある机に座って下さい」

「あっ…探してる途中だった 俺の机は…あった… おっ晶ちゃん 隣だね!よろしくね」

晶ちゃんの隣の 机 に座る小太郎

「うん…よろしくね」

「小太郎くん そこは机ですよ 席に座ってください」

「先生 自分で言ったろ!自分の名前が書いてある 机 に座れって!」

屁理屈なのか 本気だったのか…

後ろに居た 母ちゃん達を爆笑させた瞬間だった

小太郎の母ちゃん以外…


みんなとの挨拶も終わり 小太郎の母ちゃんと晶ちゃんの母ちゃんが何かを話している

「晶ちゃん 鉄棒行こう!」

晶ちゃんの手を引っ張って 鉄棒のところへ向かった

多分…俺達が聞く話じゃないと思って離れたのだ

少しだけ大人になった小太郎…

「晶ちゃん 見てろよ」

注目を浴びたいのは変わってなかった…

逆上がりを何度もする

「すご〜い」

小太郎は年長さんの時に習得していた

しかし 調子にのるのも変わっていなかった…

握力がなくなり 目が回り 頭から落下…

「くぅ…」

頭を抱える俺を 晶ちゃんが覗き込む

「大丈夫?」

「へっちゃら…さ…くぅ…」

地球の硬さを実感した瞬間…


小太郎は家に帰って来た

「小太郎」

「なんだ!母ちゃん」

「晶ちゃんね 去年 交通事故にあってね」

「交通事故!」

「そう…それから前の記憶が戻らないんだって…」

「記憶喪失ってやつか?」

余計な知識はある 小太郎

ガタン!

また神棚から音がする

「?」

小太郎と母ちゃんは 神棚を不思議そうに見上げる

「晶殿が記憶をなくしたとな…」


母ちゃんが言うには

晶ちゃんは 記憶をなくす前 小太郎達との幼稚園生活が楽しかったらしく 事ある毎にその話をしていた もしかしたら その生活に戻れば記憶が戻るのでは という事なのだ


「晶ちゃん!おはよ!」

「小太郎くん おはよう」

「太郎ちゃんでいいよ!」

「うん 太郎ちゃん」

「そうだ!太郎ちゃんだ!」

小太郎は晶ちゃんの記憶を戻そうと奮起する

「太郎ちゃん おはよう」

ペシッ!

「痛ぇ なんで叩くんだよ」

「俺は 小太郎だ!」

幼稚園の時もあったやり取り

微笑んで見てる 晶ちゃん


「1+1= はい!これわかる人!」

「はい」「はい」

「俺!」

小太郎は 手を挙げる時 「はい」とは言わない

まぁ ほぼ挙げる時なんかないけど…


「小太郎 手を挙げる時は目立つように挙げるんだぞ!」

小太郎の従兄弟からの助言だった

目立つ 意味を間違ってる小太郎…


「はい!小太郎くん」

「田んぼの 田!」

一同唖然となる…

「小太郎くん それは…」

「だって!従兄弟のあんちゃんに教えられたぞ!」

「それは クイズというか…とんちと言うか…」

隣で晶ちゃんが笑っている


晶ちゃんの記憶が戻らないまま 春の運動会

「母ちゃん遅れんなよ!」

「はい はい」

「あそこの場所だかんな!」

「はい はい」

「晶ちゃんの母ちゃんも誘うんだぞ!」

「わかりましたよ」

「絶対遅れんなよ!」

「…」

母ちゃんが無口になった…ヤバイ…

「行ってきま〜す」

逃げるように家を出る小太郎だが 途中まで行き 家に戻った

「母ちゃん シート!」

でかいレジャーシートを持って学校へ向かう

入学式の時

春一番の子分と戦った こいつ の根元にレジャーシートを 風に飛ばされないように敷き教室へ向かった

入場行進の時に そこ に母ちゃんと晶ちゃんの母ちゃんが座ってるのを見て安心する


「プログラム3番 一年生による駆けっこです」

女子が先にスタートラインに立つ

「晶ちゃん頑張れ〜!」


「位置について よ〜い!」パンッ!

「晶ちゃん 押せ!足掛けろ!」

勝負事に熱くなる小太郎…

何もせず 晶ちゃんはテープを切った!

「よ〜し!よくやった!俺の言った通り!」

少し黙れ…小太郎…


次は男子の番

「よ〜い!…」

「よ〜い!…」

負けず嫌いの小太郎…フライング二回…

「小太郎〜〜!落ち着いて!」

母ちゃんに気を取られ…

…パンッ!

出遅れる…

がむしゃらに走る小太郎は なんとか一等賞でテープを切る


「晶ちゃん お揃いだ!」

一等賞と書かれた 赤いリボン

去年の運動会で 来年入学するということで 招待された時に見た 憧れの 一等賞のリボン!

その日 母ちゃんが外し忘れて 体操着と一緒に洗濯をし 一等賞の文字が滲んでしまうとは 夢にも思っていない小太郎…


午前の部終了


「晶ちゃん行こう!」

朝 シートを広げたところに晶ちゃんを連れて行く

母ちゃんと晶ちゃんの母ちゃんが弁当を広げていた

「晶ちゃん!見ろ!この馬鹿みてぇなオニギリ!遠足の時 晶ちゃんにあげたんだぞ!」

「ん〜…そうなの?」

「…まぁ いいさ!食おう!」

「小太郎くん いっぱい食べてね」

「うん!晶ちゃんの母ちゃんの唐揚げ美味ぇ!」

「小太郎 母ちゃんも唐揚げ作ってきたでしょ…」

「母ちゃんのより…おっ!母ちゃんのも 珍しく 美味ぇ…あっ…」

顔色の伺い方を覚えたようで まだ中途半端な小太郎…

その日 一等賞を洗ったのは 母ちゃんの逆襲だったのか…

(晶ちゃん あのオニギリも覚えてなかったなぁ…あんなオニギリ 母ちゃんしか作れないのに…)

忘れず 晶ちゃんの記憶を取り戻そうと頑張る小太郎

(母ちゃんの話だと 晶ちゃんは あの時 が楽しかったって言ってた…なら そこに何かカギがあるはず…)

小太郎は その日 熱を出した…知恵熱…

「母ちゃ〜ん!桃缶づ!(桃の缶詰)」

「はい はい」

次の日 熱は下がった…

柿が赤くなれば医者が青くなる や 柿は医者いらずと言うが…

小太郎の場合

桃缶づは医者要らず!

ここに 新しいことわざが完成した


「晶ちゃん 今度の休み暇?」

「大丈夫だよ」

「んじゃさペクニック行こう!」

「ペクニック?」

「うん!ペクニック!弁当持ってね!」

ペシッ!

「太郎ちゃん 叩くなよ」

ペシッ!

「おまえも来い!」

「どこに?」

「ペクニックだ!」

「ペクニック?」

「そう!ペクニック!」

「なんだそれ?」

「弁当持って川に行くぞ!」

「もしかして…ピクニック?」

「だから何回も言ってるだろ!」

自分の非を認めない小太郎…


幼稚園の時 みんなで来たピクニックの場所

晶ちゃんの帽子を取ろうとして 小太郎が落ちたところに 二人でやって来たのだ

「晶ちゃん ここで俺落ちちゃったんだよね」

「そうなの?」

「そうだよ 晶ちゃんにダメって言われたのに 俺ふざけてて落ちちゃった」

「そうなんだ…」

それでも思い出せない晶ちゃん

「……晶ちゃん 弁当食べよ」

「うん」

前と同じ所にシートを敷いて 二人並んで弁当を食べた

「太郎ちゃん ごめんね」

「どうしたの?」

「太郎ちゃん 私の為にここに連れて来たんでしょ?」

晶ちゃんはわかっていた

自分のために小太郎が 頑張っている事に

「…」

「思い出せなくて…ごめんね」

「晶ちゃん 謝るな!絶対戻るから!だから…謝るな」

「うん」

苦悩する小太郎…どうしてもあの時の記憶を取り戻してやりたい


「晶ちゃん帰ろう」

「うん」

(どうすれば晶ちゃんの記憶が戻るんだ!こんな寂しい顔の晶ちゃんなんて 晶ちゃんじゃない…)

「太郎!何やってんだ?こんなとこで」

振り向くと あいつ が友達連れでいる

「うるせぇ!幸太郎!」

「なんだ こいつ?」

「小太郎って生意気なガキだよ!」

「一個しか違わねぇだろ!俺に泣かされてたくせに!」

晶ちゃんが小太郎の後ろで震えてるのがわかった…

「晶ちゃん行こう!」

小太郎が晶ちゃんの手を引き立ち去ろうとした時…

「女のくせに『あきら』だってよ!」

こいつらが笑った…

小太郎は我慢した…晶ちゃんの振るえが 繋いだ手から伝わって来ていたからだ…

「変な名前!アハハ」

しかし我慢も一瞬だった

「名前を…馬鹿にするな〜!」

幸太郎達に飛びかかった


さすがに幼稚園の頃とは違うかった…

小太郎が一年生で幸太郎達は二年生

「太郎ちゃん大丈夫?」

晶ちゃんが泣いている

「へっちゃらさ!こんなの!あいつら泣いて行ったろ!俺は泣いてなんかいない!俺の勝ちだ!」

泣いたら負け 小太郎の独自のルール

「うん うん 太郎ちゃんの勝ちだよ」

「そうだ!俺は勝ったんだ!だから晶ちゃん笑え!俺が勝ったんだから笑え!」

その時だった

「太郎ちゃん あの時と一緒だ」

晶ちゃんが言った…

「あの時って?」

「私が太郎ちゃん達の幼稚園に初めて行った時 太郎ちゃんが 『名前馬鹿にすんな!』って…私が違う幼稚園に行く時の挨拶の時 『晶ちゃん 笑え』って…太郎ちゃん 言ってくれたよね」

「晶ちゃん…」

「太郎ちゃん?どうしたの?叩かれたとこ痛いの?」

「痛かないやい!ただ…」

小太郎は泣いていた…晶ちゃんに記憶が戻った…

小太郎の努力が実った…願いが叶ったのだ!

晶ちゃんが記憶を戻すきっかけとなったのは 小太郎の言葉


「晶ちゃんの母ちゃん!俺やったよ!」

「小太郎くん どうしたの?…どうしたの小太郎くん!その傷!」

傷だらけの小太郎に驚く晶ちゃんの母ちゃんだが 小太郎は最高の笑顔

「こんなのへっちゃらさ!それより…晶ちゃん!」


「お母さん 戻ったよ」

「何が?」

晶ちゃんの母ちゃんは 小太郎の頭に砂糖をつけ特大絆創膏をほっぺたに貼りながら 晶ちゃんの話を聞いている

「お母さん 私 年中さんの時 太郎ちゃんと一緒だったんだよね そして冬休みに入って違う幼稚園に行ったの あっ…後 これ」

ポケットから小さい綺麗な箱を出して

「この ドングリ !太郎ちゃんから貰った宝物」

「晶 あんた思い出したの?」

「うん!」

晶ちゃんは笑顔で頷く

「晶!良かった…本当に良かったぁ…小太郎くん ありがとう…本当にありがとうね…」

晶ちゃんの母ちゃんは 笑顔の小太郎と愛娘を抱きしめ ただ泣いた…

















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