♪お内裏様とお雛様 二人並んで いい笑顔♪
「お母さん おはよ」
「晶 おはよ」
今日は雛祭り
晶ちゃんは駅に来ていた
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ!」
晶ちゃんは小太郎に会いに一人で行こうとしているのだ
「小太郎くんのお母さんには言ってありますから」
「うん!じゃ行ってきま〜す」
ジリリリリ…プシュ〜…
三日前…
「はい はい わかりました 小太郎も喜びます はい大丈夫ですよ お待ちしてます」
電話を切る母ちゃんの元へ
「母ちゃん電話誰?」
「小太郎 晶ちゃんが 土曜日一人で遊びに来るって」
「本当か母ちゃん!」
ガタン!
神棚が動く
神棚を不思議そうに見る小太郎と母ちゃん
「後 何回寝たら?」
「後 3回寝たらだよ」
「じゃ 今から昼寝するから寝たら起こして!3回繰り返す!」
小太郎…一眠りで一日過ぎたらすぐ歳取るぞ…
こうして晶ちゃんの冒険が始まったのだ
電車の席に一人で座る晶ちゃん
晶ちゃんの膝の上には 小太郎へのプレゼントが
「お嬢ちゃん 一人?」
男の人が声をかける
「お母さんと一緒!」
警戒して 嘘を言う晶ちゃん
次の駅で重そうな荷物を背負ったおばあさんが乗ってくる
電車の席は埋まっていた
「おばあさん ここどうぞ!」
「あら〜 お嬢ちゃんありがとね〜」
おばあちゃんに席を譲る
「お嬢ちゃん どこに行くんだい?」
「お友達のとこ」
「偉いねぇ〜 1人でかい?」
晶ちゃんは周りをキョロキョロして 頷く
「お嬢ちゃん 歳は?」
晶ちゃんは手のひらをめいっぱい拡げてみせる
「五歳か 偉いねぇ〜」
しばらく晶ちゃんはおばあさんと話しをしていた
「うぅ……」
急に胸を押さえ苦しむおばあさん
「おばあさん!どうしたの!」
同じ車両に乗っている乗客がざわめく
「おばあさん!誰か!おばあさんが!」
晶ちゃんが大声で叫んだ
「大丈夫ですか?誰か車掌に連絡を!お嬢ちゃん大丈夫だから!」
その 男の人はおばあさんの脈を測る
すぐに車掌が来た
「どうしたんですか?」
「多分…心臓に病いを持ってるかと!次の駅に救急車を!」
「わかりました!」
車掌が連絡する為 走って戻る
おばあさんを診ている男の人は おばあさんの持っていた小さい巾着袋を覗いている
「あった!これだ間違いない!」
男の人は 袋から取り出した物を おばあさんに飲ませる
「それ…何?」
晶ちゃんが恐る恐る聞く
「お嬢ちゃん もう大丈夫だよ!これはお薬だよ」
「おばあさん 治るの?」
「大丈夫だよ」
「お嬢ちゃんありがとね…」
次の駅で 待ってた救急車に乗るおばあさんは意識が戻り 晶ちゃんにお礼を言ったのだった
「私 こういうものです!私が一緒に行って説明しますんで」
救急隊員と話してる さっきの男の人
「お医者さんでしたか!そうしてもらえると助かります」
「後 このお嬢ちゃん…おばあさんが心配で電車降りちゃったんだけど…」
「お嬢ちゃん どこまで行くところだったの?」
「○○駅…」
「○○駅か!わかった おじちゃんがおばあちゃんを病院に届けたら送ってあげるから一緒に乗って!」
「うん!ありがとう」
サイレンを鳴らし病院へ向かう救急車
「お嬢ちゃん 偉かったなぁ!おばあさん もう大丈夫だからね」
「ほんにありがとなぁ」
お医者さんとおばあさんにお礼を言われ照れる晶ちゃん
「おばあさん またね!お医者さん おばあさんをよろしくお願いします」
お医者さんに頭を下げる晶ちゃん
「お嬢ちゃん ありがとね 隊員さん お嬢ちゃんをよろしくお願いします」
「わかりました!責任を持ってお届けします」
救急車に乗り込む晶ちゃん
その頃…
「小太郎!次の電車ですよ」
小太郎と母ちゃんは 駅まで晶ちゃんを迎えに来ていた
「早く来ないかなぁ!」
待ち遠しい小太郎
駅に電車が入って来る
改札口で首を伸ばし見てる小太郎
しかし…
「母ちゃん…晶ちゃん居ないぞ…」
次の駅へと向かう電車
「おかしいわねぇ…次の電車かしら?」
「お嬢ちゃん1人で何しに行くの?」
「お友達に会いに行くの」
晶ちゃんは 救急隊員に救急車で そのまま○○駅に送ってもらう事になったのだった
「先輩…まずくないですか?私用で救急車使っちゃ…」
「馬〜鹿!私用じゃないだろ!こんな小さな子がおばあさんを助ける為に夢中でいろいろしてくれたんだ!その為に税金使って何が悪い!」
かなりむちゃくちゃな先輩隊員…
「お嬢ちゃん それ プレゼントか何か?」
晶ちゃんは 小太郎へのプレゼントをニコニコしながら持っていた
「うん!今日 雛祭りだから!太郎ちゃんにあげるの!」
「なんだお嬢ちゃん 彼氏いんのか!」
照れる晶ちゃん
「太郎ちゃんはね…」
晶ちゃんは 小太郎と出会った時からの話を救急隊員に話した
とても楽しそうに…
そして 転校する時の事をとても寂しそうに…
「先輩…ちゃんと前見えてるんすか?救急車が事故っちゃ洒落になんないっすよ…」
「うるせぇ!ちゃんと見えてらぁ」
晶ちゃんの話で涙を拭きながら救急車を運転してる先輩隊員…
「そう言うなら運転代わってくれ」
「俺も…ダメっす…」
後輩隊員も…
晶ちゃんは 小太郎に会える
その喜びから 1人笑顔で話を続けていた
「母ちゃん…この電車にも晶ちゃん居なかった…」
「なんだろうね?ちょっと晶ちゃんのお母さんに電話してくるから 小太郎 ここで待ってなね」
心配になった母ちゃんは 公衆電話を探した
「先輩 混んで来たっすね」
「今日 休日だからなぁ…」
道路が混んでなかなか進まない
小太郎へのプレゼントをニコニコして見てる晶ちゃん
その晶ちゃんを見た 救急隊員の2人
「やるか!」 「やりますか!」
救急隊員は 魔法 を鳴らした
ピ〜ポ〜 ピ〜ポ〜…
『緊急車両が通ります!車を左に寄せて下さい!』
左に寄る一般車両
「後 ちょっとだからね」
サイレンを鳴らした救急車を最早 邪魔するものはなかった
「先輩…バレたらクビっすかね?」
「さぁな 署長に人間の血が流れてれば大丈夫じゃないか?」
ピ〜ポ〜 ピ〜ポ〜!
「何だ!」
駅に近づいてくる サイレンが小太郎の野次馬根性に火をつけた
駅の外に出ると救急車がターミナルに入って来るのが見えた
「こっちに来たぞ!」
そこへ母ちゃんも電話が終わり帰ってきた
「なんかあったのかねぇ?」
休日で人が多い駅に入って来る救急車は 注目を浴びている
駅に横付けされた救急車から出て来たのは 晶ちゃん
「あっ!晶ちゃん!」
「まぁ…」
「ありがとうございました」
救急車から降りた晶ちゃんは 元気に救急隊員にお礼を言っている
「晶ちゃ〜ん!」
「あっ!太郎ちゃん!」
小太郎と母ちゃんが晶ちゃんの元へ
「どうしたの!」
母ちゃんが救急隊員と話している
「晶ちゃん スゲー!救急車で来た!」
小太郎は興奮しきり
「そうですか…わざわざありがとうございました」
母ちゃんが戻って来る
「晶ちゃん 偉かったねぇ!」
母ちゃんが晶ちゃんの頭を撫でた
「君が 太郎くんか?」
「俺は小太郎だ!」
「小 が付くのか!彼女ちゃんと送り届けたからな!」
「ご苦労!」
救急隊員に敬礼をする小太郎
「ははは!元気がいいな!お嬢ちゃん ありがとな!」
「こちらこそ ありがとうございました」
救急車がサイレンを鳴らさずに走り出す
「小太郎 母ちゃんちょっと晶ちゃんのお母さんに電話して来るから ここで待ってるんだよ」
「わかった!」
小太郎と晶ちゃんは 駅への階段の一番上に腰を下ろした
「太郎ちゃん これ!」
「なんだこれ?」
「雛あられだよ」
「ありがとう!」
「おい!見てみろ!」
「今日は雛祭り…か…」
渋滞で動かず まだターミナルから出れないでいる救急隊員
階段に腰掛けて 雛あられを食べる晶ちゃんと小太郎を見ていた
「すまし顔じゃなく 笑顔のお内裏さまとお雛様だな」
「今晩 白酒で一杯行きますか?先輩の奢りで!」
「白酒でいいんだな」
「出来ればビールで…」
「ほら!お雛様が手を振ってるぞ!」
救急隊員は お雛様に手を振り 仕事へ戻って行った
小太郎達は家に帰って来た
「晶ちゃん 改めて いらっしゃい」
「お世話になります」
「晶ちゃんはしっかりしてるねぇ!それに比べて…」
小太郎を見る母ちゃん
「ん?どうした母ちゃん」
母ちゃんは何も言わなかった
「晶ちゃん!今日泊まるんでしょ!」
「うん!太郎ちゃん よろしくお願いします」
「ヤッター!」
明日は日曜日 晶ちゃんは小太郎のところに泊まりで遊びに来たのだ
「晶ちゃん!園庭行ってみない?」
「行きたい!」
晶ちゃんが越してから久しぶりの園庭
「母ちゃん!園庭行って来る!」
「じゃあ 帰りに油揚げとお肉と卵買って来て」
「わかった!晶ちゃん覚えた?」
晶ちゃん任せの小太郎
「油揚げとお肉と卵!」
「晶ちゃんよろしくね」
母ちゃんも晶ちゃん頼み
「は〜い!」
小太郎と晶ちゃんは嬉しかったが
それ以上に嬉しかったのが母ちゃんだった
「さてと 今日は腕によりをかけて雛祭りのお料理作りますか」
女親としては女の子が出来たようで嬉しかったのだ
小太郎と晶ちゃんは幼稚園へ
「みんな居るかなぁ?」
「会いたいなぁ〜」
「晶ちゃん 今の幼稚園は楽しい?」
「うん…でも太郎ちゃん達と一緒の時の方が楽しかった!」
その言葉が 小太郎は嬉しかった
園庭に来ると何人かが遊んでいた
「お〜〜い!」
「あっ!小太郎くん… あぁ〜!晶ちゃんだ!」
みんなが駆け寄ってくる
「晶ちゃ〜ん!」
「みんな元気だった?」
「うん!晶ちゃんは?」
「元気!」
小太郎はニコニコして みんなと話してる晶ちゃんを見てる
「あら…こんにちは」
「あっ!先生!」
先生も残りの仕事をする為に 幼稚園に居たのだ
「晶ちゃんどうしたの?」
「太郎ちゃんとこに遊びに来たの!」
「そうなの〜 良かったねぇ」
こうして ミニ年中組が完成した
「みんなも来ればいいのに」
「太郎ちゃん まさか今日 晶ちゃんが来るなんてみんな知らないから…ここに居る子達でなんかやりますか」
「先生 やろ〜!」
「何やろうか?」
「晶ちゃん何やりたい?」
「ん〜とね 今行ってる幼稚園で縄跳びやってんだけど…みんなと縄跳びやりたい!」
こうして プチ縄跳び大会が始まった
「晶ちゃん あっちの幼稚園はどう?先生は優しい?」
「うん…先生 優しいよ」
「若いの?」
先生…そこ気になるか?
「お母さんくらいかなぁ?」
ガッツポーズする先生…
「あっちの幼稚園 楽しいけど…こっちの方が全然楽しかった!」
周りのみんなが うんうんと大きく頷いている
「よ〜し!誰が一番飛べるか競争だぞ!」
「せ〜の!」
「い〜ち!」「に〜ぃ!」「さ〜ん!」…
小太郎は い〜ち! の時点で終わり
「晶ちゃんが一位!」
「晶ちゃん スゴ〜イ!」
「今 行ってる幼稚園で毎日縄跳びしてるから…」
みんなと楽しそうに遊ぶ晶ちゃん
「先生」
「なぁに?太郎ちゃん」
「晶ちゃん 楽しそうだね」
小太郎の嬉しそうな顔を 微笑んで見る先生
「太郎ちゃん 良かったね」
「うん!」
小太郎のこんな笑顔を見るのは久しぶりだった
西の山が赤く染まる
「太郎ちゃん そろそろお買い物して帰らないと」
「晶ちゃん!いっぱい楽しんだ?」
「うん!スゴイ楽しかったよ!」
「えぇ〜!もう帰っちゃうの?」
他の子達が 名残惜しそうに言う
「また会えるよ!みんな 今日は楽しかったよ ありがとう」
「じゃあ 最後にみんなで写真撮りましょうか」
「先生!カメラ持ってんのか?」
「有るよぉ」
この みんなの笑顔を写真に収めたい先生
「じゃあ 太郎ちゃんと晶ちゃんが一番上に並んで その下に 女子3人 その下に残りの人達入って…下もうちょっとくっついて はい!チーズ!」パシャッ!
お内裏さまとお雛様 その下に三人官女と五人囃子
みんないい笑顔で写真に収まった
「じゃあ みんな!またね!」
晶ちゃんは満足そうな顔をしていた
「さて帰るか!」
「太郎ちゃん!お買い物しないと!」
「あっ!そうだった…何買うんだっけ?」
すっかり忘れている小太郎
「油揚げとお肉と卵だよ!」
「晶ちゃんスゲー!」
晶ちゃんが居なかったらどうなっていたことか…
その頃 母ちゃんは
「ふふん♪」
雛祭りのお祝いの料理を楽しげに作っていた
小太郎と晶ちゃんは商店街へ
「大将!…何買うんだっけ?」
また忘れる小太郎
「おじさん お肉くださいな」
もちろん晶ちゃんは覚えている
「なんだ小太郎!今日は彼女連れか?」
小太郎は 商店街でも人気者
「晶ちゃんだぞ!」
「あ〜〜!よく母ちゃんと来てくれた…最近見なくなったなぁ」
「晶ちゃんは引っ越しちゃったんだよ」
「そうなのか!今日はどうしたんだ?」
「太郎ちゃんに会いに来たの!」
「そうか!小太郎よかったな!」
「へへ…大将!早くお肉くださいな!」
「あいよ!今日は雛祭りだからいっぱいおまけしてやるぞ!」
小太郎と晶ちゃんの笑顔に 肉屋の大将のおまけも弾む
「おじちゃん ありがとう!」
「よし!買い物終わり!帰ろう」
「太郎ちゃんまだだよ 卵と油揚げも買うんだよ」
母ちゃん 晶ちゃんいて良かったな…
「ばっちゃん!卵くださいな!」
「なんだ小太郎くん 今日は でえと か?」
「でえと?」
二人で首をかしげる
「卵な 待ってろ…最近 腰痛くてなぁ…」
ゆっくり立ち上がるばあちゃん
「大丈夫か?ばあちゃん」
「小太郎くんは優しいなぁ〜 ウチの孫なんか そんな優しい言葉 かけてくんないぞ〜」
ばあちゃんが卵を紙袋に詰めてくれた
「ほら 卵 おまけしておいたかんな」
ここでもおまけされる
「おばあちゃん ありがとう」
「晶ちゃん!俺持つよ!」
「大丈夫 太郎ちゃんはお肉持って!卵は私持つから」
晶ちゃんのナイス判断
小太郎の事を知り尽くしている晶ちゃん
「さぁ 帰ろう!」
「まだだよ!後は油揚げ」
「晶ちゃん よく覚えてんなぁ!」
小太郎は忘れ過ぎだ…
「おばちゃん!…晶ちゃんなんだっけ?」
小太郎は何一つ覚えていない
「おばさん 油揚げくださいな!」
「小太郎くん 今日はめんこい彼女連れて来たなぁ」
「おばちゃん!晶ちゃんだぞ!」
「あぁ!よくお母さんと一緒に豆腐買いに来てくれてたよね」
「うん」
「最近見なかったけど…」
「晶ちゃん…引っ越しちゃったから…」
「そっかぁ…そりゃ寂しいねぇ」
小太郎は晶ちゃんのおかげで 無事買い物を済ませ 豆腐屋さんで 貰ったオマケのペロペロキャンディを舐めながら帰った
ガラッ!ポイッ!
「母ちゃん!ただいま!」
「小太郎!卵!」
「卵は私が持ってるから大丈夫だよ!」
晶ちゃんの予感的中…
「晶ちゃんありがとう…」
ホッとする母ちゃん
テーブルの上には お祝いのご馳走が
「うわぁ!」
「どうした母ちゃん!」
「今日は雛祭りだからね」
「あっ!お雛様ある!」
「母ちゃんが子供の頃のだからちょっと古いけど…」
「綺麗〜!」
「今日は 晶ちゃんが来てくれたから出してみたんですよ」
お雛様を見ている晶ちゃんを見ている母ちゃん
その母ちゃんを見てる小太郎
みんなが微笑んでいた
「さてと 御飯にしますか」
「俺 腹減った!」
「私も!」
「はい はい」
「私 なんか手伝うよ!」
「じゃあ お箸運んでくれるかな?」
「は〜い!」
いつも一人で用意する母ちゃん
晶ちゃんが居てくれるだけで 母ちゃんもかなり楽になった
「晶ちゃん いっぱい食べなさいね」
「うん!美味しい!」
「良かった…小太郎!ほら 水飲みなさい!」
小太郎は急いで食べて 喉に詰まらせ目を白黒させていた…
いつもは二人の食卓に 晶ちゃんが一人加わっただけで その日はとても華やいだのだった
「ふぅ〜食ったぁ〜!」
「私もお腹いっぱい 美味しかったぁ〜」
「それは良かった 幼稚園には誰か来てた?」
「何人か居たよ!後 先生も居た!」
「そう〜!晶ちゃんよかったねぇ」
「うん!みんなで縄跳びやったんだよ!」
「晶ちゃんが一番跳んだんだぞ!」
「すごいねぇ!」
「今の幼稚園で毎日やってるの!」
晶ちゃんは 楽しそうに小太郎と母ちゃんにお話しして聞かせた
一生懸命話す晶ちゃん
「晶ちゃん 今の幼稚園楽しいんだね」
「うん…でも 太郎ちゃんと一緒の幼稚園の方が楽しかった…今日 みんなと遊んで やっぱりこっちの幼稚園が一番楽しかった」
晶ちゃんは嬉しそうに…そして淋しそうに言った
そんな晶ちゃんに気付いた母ちゃんは
「デザートあるけど食べれる?」
「食べる!」
晶ちゃんに笑顔が戻る
母ちゃんはケーキも作っていたのだ
「母ちゃん!このケーキの絵…なんだ?」
絵心がない母ちゃん…
「……」
「あっ!お雛様…?」
「そう!晶ちゃんはわかってくれたんだ!」
母ちゃん…晶ちゃんにも ? ついてたぞ…
「これ お雛様か…?」
「切ればわからなくなるからいいの!」
開き直る母ちゃん
雛壇の前で ケーキを食べる3人
その日は3人で
お雛様を飾った部屋に布団を敷き寝た
次の日
「今日帰っちゃうのか…」
寂しそうに呟く小太郎
「太郎ちゃん…また来るから!」
もちろん晶ちゃんも同じ気持ちだが 明るく返したのだった
「うん」
晶ちゃんを送る為 駅に来た小太郎と母ちゃん
「晶〜!」
「あっ!お母さん!」
晶ちゃんの母ちゃんは 心配で迎えに来たのだった
「小太郎くん 晶がお世話になりました」
「晶ちゃん 偉かったんですよ 電車でおばあさんを助けたり お買い物をちゃんとしてくれたんだよねぇ」
母ちゃんが 晶ちゃんを褒める
「晶がいろいろお世話になりました」
「いいえ 晶ちゃんにはこっちがいろいろお世話になって…」
晶ちゃんが居なかったら 昨日の晩御飯はどうなっていたか…
「晶ちゃん またね」
「太郎ちゃん 元気でね」
「晶ちゃんも…」
二人は手を繋いでいるが 顔を合わせないで話していた
そこへ
「晶ちゃ〜ん!」
「ん?」
「晶ちゃん 明日何時に帰るの?」
「お昼の電車だよ」
昨日の園庭での会話
先生とお友達が 晶ちゃんを見送りに来たのだ
「先生 みんな…」
「昨日 晶ちゃんと太郎ちゃんが帰ってから みんなに頼まれて 先生連れて来ちゃった」
「みんな ありがとう」
「晶ちゃん また遊びに来てね」
「晶ちゃん 待ってるね」
「うん また絶対来るね」
晶ちゃんは嬉しかった
「先生!」
「だから 私はもう先生じゃありませんよ」
「あっ…でも先生 あの子達が自分から 晶ちゃんの見送りに行きたいって」
「晶ちゃんがそれだけ人気者なんですよ」
「それもあるけど…」
「晶はほんの数ヶ月しかこっちに居なかったのに こんなにみんなに思ってもらえるのは 小太郎くんのおかげなんですよ」
「そう!私もそう思います!」
「今の小太郎くんを見て」
晶ちゃんと他の子が楽しそうに話してるのを微笑んで見てる小太郎
「太郎ちゃんはいつもそうでした ここぞという時は自分の意見を言うけど みんなが楽しくしてる時は あぁやっているんです」
「買い被り過ぎですよ」
そういう母ちゃんも小太郎を微笑んで見ていた
「私 初めて受け持ったクラスがこの子達で本当に良かったです」
先生は自慢の教え子達を誇らしげに思った
「晶!そろそろ行きますよ!」
「は〜〜い」
ジリリリ…
「晶ちゃん!またね!」
「太郎ちゃん またね」
「また俺も行くから」
「うん…待ってる…」
晶ちゃんは我慢しきれず 涙を流す
「晶ちゃん 楽しかったか?」
「とっても楽しかった…」
「なら 笑おう…また会えるから…笑おう…」
「うん!またね!太郎ちゃん!」
「またね!晶ちゃん!」
プシュ〜…
走り出す電車
電車の窓から顔を出す晶ちゃん
「太郎ちゃ〜〜ん!またね〜」
小太郎と晶ちゃん
五歳の桃の節句