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突然、ゲイ日本代表

作者: よしたろう

 2008年7月27日午前0時フジロック最終日、1番大きなグリーンステージではエイジアンダブファンデーションがフィナーレを飾り、3日間で30程のステージを巡り、音楽と同化するべくシャーマンのように踊り続けていた僕は、すぐにでも足がつってしまうような体力が限界に近い状態で芝生の上に座り、祭りが終わってしまった空気が漂う切ない余韻を、夜空を見ながら味わっていた。


 フジロックとは国内最大級の音楽フェスであり、新潟県の苗場スキー場で7月の週末の3日間開催されていて、国内外のロックファンを唸らすロックバンドから、全く知らないアフリカのファンキーなバンドまで、ありとあらゆるジャンルの音楽が、大小8つくらいの緑溢れる山に囲まれたステージで奏でられる、まさに音楽の祭典である。


 その祭典を思う存分満喫した僕は、この3日間の寝床であったスキーのゲレンデに垂直に立っているテントに戻って寝ようかとも思ったが、メインステージでのライブは終わったものの、1時間40分後にはレッドマーキーというサッカー場くらいの大きさの赤いテントの下にあるステージで、僕が好きなフリーテンポというサンバとかボサノヴァとかを基調にした電子音楽をダンサブルに奏でる人のライブがある。レッドマーキーで、ライブが始まるまで寝ておけばいいと思い、向かうことにした。


 行ってみると、全然知らんバンドがライブをしていた。僕は疲れきっているにも関わらず、3日間で音楽が全身に染み渡ってしまっているので、つい手癖足癖止まらず踊ってしまっていた。


 そしてそのバンドのライブが終わった時、すっかり人もいなくなっていたが、ついに目当てのフリーテンポの出番だと思い、僕は最前列で待ち構えていた。


 しかし出て来たのは、胸が大きく開いて腕から何本ものヒラヒラを垂らした銀色のピチピチした衣装を着たロン毛で華奢なインド系ぽい外人と、似たような衣装を着た黒人と白人2人であった。


 『あれ?なんか違う』


 僕は大きな違和感を覚えた。


 演奏が始まると全然ブラジルではなく、70年代イギリス的なロックであった。ここまでくるとフリーテンポじゃないとさすがに気付いたが、他にも気付いた事があった。

 

「バンドメンバー3人は、絶対全員ゲイである」


 という事だ。特にギンギラギンのボーカルは派手にセックスアピールしまくって物凄かった。 

 

 そしてもうひとつ重要な事に気付いた。

 

「どうやら客も絶対全員ゲイである」


 という事だ。客はほとんどいなかったが、柵から身を乗り出している白人も、隣りで踊る白人も、どう見たってゲイだった。


 何と呼ぶのかはわからないが、バンドメンバーも客も全員ゲイである音楽ジャンルがあることをその時初めて知った。そして問題はフジロック最終日のメインステージもとっくに終わったド深夜である今、わざわざ残って1番前で踊りまくる僕は何だという事だ。


 外人たちは音楽に熱狂していたが、内心は『日本にもこのバンドを愛するゲイがいたのか!めくるめく巡る夢のようなゲイの宴を共に楽しもうじゃないか!』と、こんなふうに思っているのかもしれない。


 ゲイしかいない熱狂の最中でこのまま踊り続けていて大丈夫なのかという不安もあったが、しかし最前列で待ち構えていて、さらにこうして踊ってしまった以上、今更ゲイたちの期待を裏切るわけにはいかない。


 僕は頑張った。日本を代表して頑張った。日本のある種のゲイ界を背負う責任が僕にはあった。


 試合が終わった後、僕は芝生の上で大の字になり、何か大きな仕事を成し終えたような充実感に包まれていた。


 次は本物のフリーテンポが出て来て本当に良いライブだったが、いかんせんその前の奴らの印象が強烈過ぎた。テントに向かいながら、フジロックが全て終わった余韻を感じるというよりは呆然自失で、初めてのゲイワールド、ゲイ日本代表選出ショックに包まれていた。


 奴らのバンドは「ファンシー」と言う。




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