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ゴーレム

短めです。

「やっと抜け出せたと思ったらまたずいぶん気分の暗くなる道が続くものね......」


「そうですねぇ......」


ティアとロレイアーナの魔力制御訓練は一通り終了し、鍵を無事開けることもできた。


ここまで5時間ほど。

休憩を挟んだとはいえこれは驚異的な早さである。

ロレイアーナはここで食料なしに数日かかってしまうことさえ覚悟していた。そうなったら衰弱でまともに動けなくなるところであった。


荒い方法をとったとはいえここまで早かったのは、本来魔力制御で身に付けていくはずの2つの要素、魔力量の多さと魔力純度の高さがある程度ティアに備わっていたことがある。

どちらも感覚を掴むのに有利な要素。

魔神から授かった魔力はここで大きな助けとなっていたのだ。


だが鍵を開けて終わりではなかった。

その先に広がるのは巨大な迷宮。

道は分かるとはいえそこを守るゴーレムたちの防衛機構をくぐり抜け外に出なくてはならないという。


「ここを守る役目を与えられるだけあって手強い相手ですが、対処法が分かっていれば大丈夫ですよ」


「じゃあさっきの打ち合わせ通りにね」


「ティアさん......どんな外見の敵でもうろたえないでくださいね......」


「えっ、それはどういう--」


突然その微笑んでいる顔を心配そうにさせるロレイアーナの言葉にティアは疑問を抱く。


しかしそれを聞く間もなく耳が闇の奥から響く音を捉えた。

ペタペタと何か音が近付いてくる。

裸足の人が歩いているような音。

ロレイアーナがその穏やかそうな顔に若干の真剣さを交えて闇を見据える。


「うえっ、何よあれ......」


光の下にその姿を晒したのは1人の男。

ただしその首元から腰にかけて果物の皮のように肉が剥け、中に収められた無数の牙を見せる。

露になったあばら骨や背骨は金属で出来ているようで鈍い輝きを放つ。

手はかぎ爪状になっている。


「......ここの防衛機構を設計した天才コレアッシュは稀代の狂人とも呼ばれていたのです......私はあの人に任せるのは反対したのに......」


「愚痴はあとでっ!」


ティアがゴーレムと聞くとおとぎ話で語られる岩や人形で作られたものを連想するが、目の前にいるのは生身の質感を持った異形。

それが予想していた以上に素早く、前に出ていたティアに向かって飛び掛かってきた。


Хупа(フウラ)Сэф(セフ)Иста(イスタ)


驚くティアの前でゴーレムが弾かれる。

防御魔法。

聖女ロレイアーナの得意とする魔法。

その防御はあらゆる攻撃を弾く。


「大丈夫です!今のうちに!」


事前に2人で打ち合わせていたことだが、ロレイアーナが守り、ティアが攻める。


「やるしかないか!」


ティアが体勢を崩したゴーレムの胸の部分、あばらに隠れ牙に覆われたところへと腕を突っ込む。

あらかじめロレイアーナに借りていた高位神官のローブはその高性能の防御力でティアの腕を守り、その手を目的の場所まで辿り着かせる。


「私のローブぅ......」


覚悟の上でここでの使用に踏み切ったのだが、生体でできたゴーレム、その唾液や血のような体液がべったりとローブに付く様にロレイアーナが落ち込む。


「これかっ!」


ゴーレムを動かす魔法陣に魔力を供給するのはこの洞窟そのものである。

そしてそれを受けとる装置、それを処理することがここのゴーレムへの一番手早い対処法なのである。


一般的にはそのようなことをするより本体を破壊する方が楽なのだが、そこは天才で狂人の生粋たる作品。

皮膚は魔法、物理攻撃に対して高い耐性を持ち、生半可な攻撃は通らない。


何体からも同時に襲い掛かられれば、上級者のハンター達でも壊滅の恐れがあるのだ。


Щумэа(シュメア)Сэф(セフ)Иста(イスタ)


ティアが魔力受信装置を兼ねる中枢部分に手を触れたまま魔法を発動させる。


「ぐっ......!このっ......!」


ゴーレムを動かす大量の魔力がティアの魔法に抵抗するが、それを押し退けて発動に至る。

使ったの魔法は攪拌かくはん

物を混ぜる魔法である。


まるでぶちぶちと音が聞こえるかのようにゴーレムの魔力回路が引き千切られているのが分かる。

ゴーレムは何度か体内を蠕動ぜんどうさせ牙をコートに突きつけて抵抗するも、すぐに動かなくなった。


ティアが人以外で初めて倒した敵であった。


「ふう......」

「お疲れ様です。これで私のローブも浮かばれます......」

「ちょっ......そんなに落ち込まないでよ......」

「ええ、そうです、まずは反省会ですね」

「うん」


これまでの会話で、ロレイアーナの実戦経験の豊富さや魔法に関してのこだわりがある程度分かっているので、素直に聞いておく。


「まず動きそのものは悪くありませんでした。複数相手にまた改善点など出てくるとは思いますがそれはそのときに。

ティアさん自身ある程度鍛えているようですね?」

「まあスラムに居ればね......ひ弱な子どもじゃいられないわよ」


ティアとしては聖職者で聖女など戦いとは無縁の存在だと思っていたロレイアーナがそこまで分かるのか、と内心驚いていた。


「私は近接戦闘は専門外なので詳しくはお教えできませんがそれなら問題なさそうです。

問題は魔法の方ですねぇ......」

「やっぱり?」


手を頬に当ててロレイアーナが言う。


「慣れれば感覚的に対象の魔力の抵抗から魔力の流し方から適切な量も分かってくると思います。

今のままだと複数を相手にしたり連戦は厳しいですね」


そしてなにより、とロレイアーナは続ける。


「ここにいる生体ゴーレムは魔法を喰らうというので防御魔法も長く持ちません。防御や支援は繰り返し行いますが、できるだけ多数を相手にするのは避けましょう」

「とことん面倒に作られてるのね......」


実際ここは2人で攻略するような場所ではないのだ。

物理的にも、魔法的にも相手をするのは難しく、さらに中心に向かうほどその数も増す。

2人は無事脱出できるかどうか、一抹の不安を抱えながらも先に進む。

お読みいただきありがとうございます。

厳しい評価、感想、お待ちしております。


ロレイアーナが攻撃すればいいのでは?という疑問については次話で。

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