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地下の魔法講習

今回は魔法の設定についての説明が入ります。読むのがめんどい!という方は▽▽▽▽から△△△△の間やその前後が設定説明ですので飛ばすなどしていただければ。

少々イジワルな言動がありますが、どうか目をつむってあげてください(笑)

暗闇の中に1つ浮かび上がる光球の下、肩にくすんだ赤い髪をかけた少女ティアと、滑らかな金髪を後ろで纏めた少女ロレイアーナ、2人の少女が対峙している。


ティアは教会関係者の信用をどのように得るかと考える。

信心深いなら宗教を持ち出す、慈悲深く正直なら同情か負い目を持たせる、権力に溺れた亡者なら金か金品。

思考を一通り巡らせているとロレイアーナの方から話を切り出してきた。


「あの......連れてこられたと仰っていましたが、どういうことでしょうか」


お互いに名乗ったところで、ロレイアーナはやはり気になったのか、ティアが連れてこられたという部分に触れてきた。


どこまで話していいものか、ティアは考える。

教会は、魔神復活などと言えばたとえ故意でなくとも要因の1つであるティアを殺そうとするだろう。

しかしこのロレイアーナは先ほど、自らの未熟さで封印が解けてしまったと嘆いていた。ならばそこにつけ込ませて貰おうと算段を立てる。

嘘は言わずに、誤解を招いてもおかしくないよう言葉をぼかす。


「私もよく分からないのよね。

命を落とす直前に突然呼ばれて、力を与えるって言われたと思ったらいつの間にここよ。

たしかに魔力は上がったけど使いづらくて仕方ないわ」


「......魔神に力を......?あなたは力と引き換えに魔神を解き放ったのですか!?」


誰もそんなことは言っていない。

しかし教会関係者としてはその点についての言及が必要であるし、この状況では焦らざるを得ないのだろう。

この糾弾も遠慮なく利用させていただく。


「そんなわけないでしょ!

私が封印を解けるわけないんだし、一方的に力を与えるだの言われて後は突然ここに置いていかれていたのよ!」


少し不機嫌な声音を作って言う。

嘘は言っていない。


「っ!ごめんなさい!私の早とちりで......。封印のかなめの私がもっとしっかりしていれば......。」


「あなた1人で行ったわけじゃないんでしょ?それに今自分を責めても何も変わらないわ」


「そう......ですね」


涙目で謝るロレイアーナをしれっと慰めるティア。

この程度で罪悪感は抱かない。

これが自分の生き延び方であったし、もしかしたらこの態度が演技の場合だってあるかもしれないのだ。


「お互いの話はまた後にしましょう。

それよりもここから出る方法、知らない?

向こうの扉は魔力で開く仕掛けなんだけど私には無理そうなの」


そういって背後を指差す。

聖女とまで呼ばれる者なら魔力の扱いも相当であるだろうし、鍵も知っているのではと期待してのことだ。


「ここは魔神を封印するために作られた地下神殿です。ここから出入りするため道はあの扉だけですが、私は鍵を知っていますので開けることは可能です」


「じゃあ--」


「ですがあそこを通る1人1人に認証が必要です」


「はあ!?」


扉を開けられると言うロレイアーナに、やっと脱出の糸口が見えたかと思ったティアだが、続けて語られた扉の仕組みに思わず声を上げる。


「どんだけめんどくさい設計なのよ......」


「で、ですのでティアさんに魔力制御と鍵をお教えしたいのですが......」


「本当?ありがと。

置いていかれるかと思ったわ」


「そ、そのようなことは......!」


ティアは微笑んでそう言う。

あっさりと向こうから言い出してくれたので手間が省けた。

とりあえず協力は得られたようだ。

脱出の算段が立った。



###



ティアとロレイアーナは互いに座って向き合い、魔力の使い方講座を開いていた。


「えっとまずは......ティアさんはどこまで魔法について習ってますか?」


「私はスラム育ちだから魔法なんて全然習ってないわね、使えるのは生活魔法だけよ」


「では魔力制御についてはどの程度練習していますか?」


「魔力制御の練習?なにそれ?」


「!もしかして今では一般人の魔法技術は衰退してしまっているのでしょうか」


「うーん、どうなんだろう。私はそれこそ魔法を習う余裕なんてなかったから」


ティアが魔法を習っていないのは、スラムで生きていたから、という理由とともに、ロレイアーナの時代との差というものもある。

ロレイアーナの生きていた時代は、魔神や魔種ガラルの侵攻で、全ての真人ノブルが兵力として数えられていた。

そのため末端にもある程度の魔法知識は広まっていたのだ。


現在ではハンターとなるものや騎士になるもの、そして貴族などが習う程度で、平民たちにその力が与えられることはほとんどないのだ。


「ではまず魔法とは何か、魔力とは何かということですが......」


「そういうのはいいから早く開けられるように--」


「だめですっ!魔法というのは積み重ねなんです!基礎を怠れば事故にもなりうんですよ!とくに魔法は正確な想像の反映と地道な魔力制御の結果なのですからしっかり理解しないと--」


「ああもう分かったわよ!分かったから落ち着いて!」


本当に分かってるんですか?と言いながらロレイアーナは詰め寄った分だけ下がって座り直す。


先程までの大人しい様子を一転させて意見を述べてくる辺り、当初のティアの印象よりも芯の強い一面も持っているようだった。


「では改めて......

魔法はこの世に神が幾柱も現界しておられた頃、あるいはその神たちと魔神が戦争を行った頃から存在していると言われています。

魔法は神が私たちに与えてくださった神の下で戦う力であり、魔神たちと戦うすべなのです」


「へー......」


ティアは神が与えてくれたのだろうが、魔神が与えてくれたのだろうが、どうでもいいという考えだ。使えれば。


「魔法の発動にはまず、空気中の魔力を取り入れて身体に貯蓄したものを使います」


「魔力ってのは空気中にもあるのね。

それは使えないの?」


「はい、身体の中に一度溜め込むことで個々人の扱える質に変化させて使うといわれます。ですから訓練によって最大貯蓄量を増やすのは大切なことです。たくさん使ったり、強力な魔法を使うにはそれだけ必要な魔力は増えますから」


「じゃあその訓練をするの?」


「いえ、確かに強力な魔法の発動には魔力量は必要ですが、それとともに大事なのが魔力制御なのです。

まずは話を戻して魔法発動までの過程を説明いたします」


「お願い」


ティアの口調はともかく、その光景はまさに先生と生徒、または小生意気な妹にものを教える姉のようだ。

ティアが気付いたら不本意だと顔をしかめるだろうが。


▽▽▽▽


「魔法を発動させるには、始めに発動させる現象に合った真言しんごんを覚えて正しい語順で口に出すことが必要です」


「この生活魔法の発動も真言ってやつなのね」


「はい、ティアさんは一文でそのまま覚えていますが、真言を知れば工夫もできますよ」


ティアが使った光球を出す魔法。

Руй(ルイ)Райлэ(ライレ)Иста(イスタ)


Руй(ルイ)は「始まりの」、 Рылэ(ライレ)は「光」、 Иста(イスタ)は「起動、発動」などの意味がそれぞれあり、正しい語順で口に出すことが発動には必要になる。


試しに、とロレイアーナが魔法を発動させる。


Рюа(リュウア)Райлэ(ライレ) Иста(イスタ)>[転回せよ、光球]


光球が現れ、2人の周囲を尾を引きながら回り始める。


「発動には初動魔力、干渉魔力の2種類が使われます。

初動魔力は真言と真言同士の結び付きに、干渉魔力は対象に影響して効果を持続させるために使われます。

その魔法の効果を受けにくい材質や魔力を持つものに対しての発動、範囲や威力の強化にはよりたくさんの干渉魔力が必要になります」


「スラムじゃ便利だからって生活魔法の詠唱文を丸暗記させられただけだったわ」


「それは勿体無いですね。

訓練をしなければ無意識に干渉魔力は一定量消費されるだけなので毎回威力や効果は同じです。

おそらく今のティアさんは急激な最大量の増加に身体が錯覚を起こして干渉魔力を増やしてしまったのでしょう」


△△△△


「私がするのは干渉魔力の制御ってやつね?」


「はい。鍵を形作るには干渉魔力の制御が必要ですし、実は強力な魔法を使うときの真言同士の結び付きにも魔力制御は必要なんですよ。

......それを怠りただ馬鹿の一つ覚えで魔法を使う者があまりにも多すぎるんですよ......特に貴族や騎士には手を焼きました......まだ子どもの方が教えやすかったです......」


魔法のことには並みならぬこだわりでもあるのだろうか、はっきりとものを言うときがある。


「それじゃあ魔力制御について教えてくれる?」


やっと鍵を作るための第一歩である。



###



「時間もないので少々荒っぽく行きますね、まずは軽く......」


そう言うとティアの返事も待たずにロレイアーナは魔法を発動させる。


Мюца(ミューツァ) Ежем(イェジューム) Иста(イスタ)


直後、ティアは突然感じたことのない目眩と気持ち悪さでふらつく。

何か外から入ってきたものと、体の内からこみ上げてきたものがせめぎ合う感覚が続き、少しすると消えて楽になる。


「うっ......今のなに......」


「今ティアさんが感じたのが魔力です。私がティアさんにかけた魔法にティアさんの魔力が抵抗したんです。

これから自分の中で感じたその魔力を使って私の魔法を弾いてもらいます」


「確かに荒っぽいけど......失敗したらどうなるの?」


「ふふ、ちょっと私が魅力的に見えて目が離せなくなる程度です。まあティアさんの場合魔力量が多いのでちょっと使えれば弾けなくとも押し返すくらいはできるようになりますよ」


「......まあ善処するわ」


「では始めます」


Мюца(ミューツァ) Шай(シャイ) Ежем(イェジューム) Иста(イスタ)>[彼の意識を集めよ]


外から入ってくるもの--ロレイアーナの魔法か魔力か--が先程よりも強く感じられた。

それとともに内側からこみ上げてくる別の力。

ティアはなんとかそれを捉えようとするもまるで水を掴もうとするかのようで、顔をしかめて集中する。


ロレイアーナの魔力とティアの魔力が拮抗する。


「......ぐ」


しかし突然ロレイアーナの魔力の攻勢が緩み、まるで体勢が崩れるかのようにティアの魔力が揺らぐ。次の瞬間猛然とロレイアーナの魔法がティアの身体の奥底まで浸透し、その影響を見せる。


身体に異常はない。

ただ心に異常が起こる。


ティアはロレイアーナから目が離せなかった。

後ろに一纏めにして流した美しい金髪。

光に透けてはっきりと綺麗な緑色の目がティアを見つめる。

整った鼻梁、顔、瑞々しい唇。

首元からのぞく潤った真っ白な肌。


こんなにもロレイアーナは美しかったのか、なぜ先ほどはあんなに平気で泣かせてしまったのだろうか、いや涙を浮かべたロレイアーナを思い出すだけで......--


「......っ!?」


我に返るティア。

今自分は何を考えていたのか、と。


「魔力量が多いと術が解けるのも早いですね!」


ロレイアーナは何事もなかったかのようににこやかに手を合わせている。


「......あんた......」


「はい?」


「私にどんな魔法掛けたのよ!ふざけんじゃないわよ!あ、あんなっ......」


思わず感情が昂りナイフを取り出すティア。


「えええええっ!?ちょっと待ってください落ち着いてください!

こ、後遺症とか残らないよう気をつけてやりましたよ!?とりあえずお話しましょう!何事もそれからです!」


ロレイアーナは驚いて涙を目に浮かべながら腕を前に突き出した。



####




やがて2人とも落ち着いたのか向かい合って座る。ティアは少し居心地の悪そうな顔である。


「......それでさっきのは何よ......」


ティアが苦々しい顔で尋ねる。


「あ、あれは対象の意識を一時的に特定方向に向ける魔法です......。魔力制御を短期間に習熟させたいときには、これで感覚が掴めることに賭けるのが一番です。

私も師匠にこれで魔力制御を教えてもらいました。

ティアさんは魔力量が多いので少し気合いを入れてかけさせて貰ったのですが......」


対象の意識を一点に集中させるこの魔法は、威力によっては魅了魔法とも呼ばれる。ロレイアーナはティアの膨大な魔力と張り合うために、より魔力を使って質を上げていたのだ。


「ああ、まあそういうことなら分かったわ......だからって何度も経験したくはないけどね......」


それにしても、とティアは思い返す。

先ほどのロレイアーナの魔力の動き。魔力制御も上達次第ではあんなことも出来るのかと感心する。

このままここから出られなければいずれ死ぬ。一刻も早く鍵の形成に必要な分の魔力制御だけでも身に付けなくてはならない。


「......すみません」


そう言うロレイアーナにティアは、気付かず最初よりも明るく返す。


「そんなので謝らなくてもいいわ、私が頼んでるんだもの。

それより早く再開してくれるかしら?」


「は、はい!」


魅了魔法の効果はすでに失われて、影響も残らない。

だが一度関心が高まったせいか、それとも心さえ支配可能な優位な立場でいながらも柔らかなその言動のせいか。

ティアは無意識に、練習を始める前より確実にロレイアーナに気を許していた。


「ところでティアさん」


「なに?」


「私のことも『ロレイン』って呼んでくださいよ」


「......別に必要ない」


打ち解けるにはまだ早いようである。

お読みいただきありがとうございます。

厳しい評価、感想、お待ちしております。


レズ嫌いなんだけど......と言った方、ご安心を。それはありません。

ロレイアーナの師匠は教会関係者ではなかったので少々外れたところが無きにしもあらずなのですw

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