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§1-3.闇の底の聖女

魔法の詳しい説明などは次話かその次話あたりに。

冒険はそのあとに予定しています。

英雄として名高い勇者アルカトラムはこう語ったとされる。


「どのような危機に瀕していようと、私が真に1人であることはなかった。必ず誰かが私に力を貸してくれたのだ。もしそのうち1人でも欠けていれば、今ごろ私は誰にも知られず骨を埋めていただろう」


英雄には必ずと言っていいほど、絶対的に信頼をおく親友や仲間がいるものである。

どんなに超人的であろうと、英雄も人である。

人は1人では生きていけない。英雄であってもなんら変わらないのであろう。


もし読者に、我こそ、我が息子こそ英雄たらんと思う者がいるならば、唯一無二の親友を探すことから始めるのも良いだろう(親友を探すというのは比喩であり、実際に探すことは愚かであるが)。


ドヴェスター・ラクトマン著『英雄から解く人魔大戦終結』



#####




長き時を闇に埋めていた広大な空間の一角が、1つの光球によりその姿を浮かび上がらせる。


ティアは少し埃の積もった床を生活魔法の微風で掃除して、座り込んでいた (かなりの強風で埃が舞った) 。


「なんなの......ここは」


あの影との会話みたく、夢のように終わってくれればいい状況である。

というより、どこまでが現実でどこからが夢なのか。


ティアは首に手をやる。そこは黒い奴隷紋の凹凸があった場所だが、指に触れるのはその周囲と変わらない普通の肌。


「本当に消えてる......」


まるで生まれたときからそうであるように。今目で確認できないのが非常に残念である。


「でもここから出れないと結局死にそうよね......」


はぁ、と溜め息をつく。自由だなんだと言ってこんなところに置き去りにする魔神のことを思い出し顔をしかめる。

まあ自称魔神などという怪しい影のことを心から信頼出来るわけでもなく、死んでいないだけマシ、または奴隷から解放されただけ僥幸というべきであろうか。


もう一度だけ溜め息をつくと立ち上がり、周囲に視線を巡らせる。


前方は奥まで深い闇。

左右は50mほど離れたところに柱の列が並んでおり、その先の暗がり50mほどのところに壁が見える。

後方を見やると100m離れたあたりにうっすらと壁が辛うじて見えた。

柱の並びと前方の闇からここが長方形の形ではないかと一応の検討をつける。


「明らかに人工物の空間だし出入り口があってもおかしくはないはず......」


出入り口なしではどうしようもない。

ティアはとりあえず出入り口のありそうな、背後にあった壁に向かって歩き出した。




###



「はぁ、はぁ、はぁ......何よこれ......」


結論から言うなら扉はあった。


とても巨大で重厚な扉で、機械仕掛けかと思ったが、どうやら魔法によって仕掛けが施されているらしい。

横の壁にスイッチらしきものがあるのだが、魔力によって正しく鍵を作らなければならない仕組みであった。

鍵を知らない上に、今の「強力にはなったが制御の大雑把」なティアがすぐにどうかしようと思ってできる代物ではなかった。

ちなみにすでに一度、スイッチが物凄い音を立ててティアを弾き飛ばすという失敗を経験済みである。

下手すればスイッチが壊れそうだ。


力づくなどでも当然開きそうになかった。


「とりあえず他に何もなければこれを根気よく開けることにしよう......」


ならば次に向かうは振り返った先。

最初に前方に広がっていた暗闇の方向である。


「......化け物なんかが出てくるとかはやめてほしいわね......」


年不相応の仕事をこなしていたとはいえ、王都にいれば童話や物語のいくつかは知れる。

神殿で魔神を倒す勇者、太古の邪神と神たちの戦い。

そこには現存しない化け物や、存在そのものを疑われるような生物も登場した。


「......ここは勇者なんかが来る場所じゃないの?頼むから出てくるのは盗賊くらいにしてほしいわねー」


こんな空間で彷徨さまよっていれば気が滅入ってしまうため、自然と独り言が多くなる。

こんなところに盗賊がいれば逆に違和感しかない。むしろ人に出会えて歓喜するところだ。


50mほどの間隔で光球を打ち上げながら進んでいく。

扉から200mほど離れたところから、床に魔法陣が描かれ始めていることに気付いた。


魔法陣は大規模・高精度の魔法のために描かれるもので範囲指定などにも用いられる、らしい。

ティアは魔法は学んでいないので詳しく知ることはできない。


ティアは、足下の魔法陣がこれから向かう先を中心とした円形ほんの一部分であり、それがとてつもなく巨大なものであることに驚いた。


「なに......この大きさ......というかまさか今まで床に刻まれてた模様って魔法陣の一部じゃないわよね......?」


思わず顔がひきつる。


どうやら効力は失っているようであるので、気を付けながらも進むことにする。


幾重にも重なった魔法陣を踏み越えて歩を進めると、やがてその中心部が見えてくる。

何かの影が見えた。


「人......?」


壁から400mは歩いただろうか、そこには1人の少女がぺたりと座り込み、項垂れていた。


金色の滑らかでふわりとした髪を後ろで一纏めに括っていて、うつむいた顔にかかった髪で人相は窺えない。

大陸全土で信仰されている宗教、アルバワム教の高位神官の正装、コートのような形状で襟や合わせ目に金の装飾を施した純白の神官服を纏っている。


明らかに怪しい。

人の姿を模して罠を張る類いの魔物なのか。

だが場所が悪すぎる。

ここが街道でもあったならすぐに声でもかけたろうが、この明かりにも気付く様子もない。


少し離れたところで、ティアは懐のナイフに触れながら話しかける。


「あなたは何?」


ビクッ、と体を震わせた少女はティアを仰ぎ見る。


「......えっ!?ま、眩しい......!

ど、どうしてここに人が......」


ティアにも明かるさにも今気付いたといった様子で驚いている。


ティアより2、3ほど年上に見える少女である。

透明感さえある滑らかで白い肌、少し幼さを残しながらも整った顔立ち、涙を溜めたまま驚きに見開かれた深い緑の瞳。

聖女とはまさこのような女性を指すのだろう。神官服がその象徴であるかのようである。


このような少女がここにいることに、一層警戒を強める。


「どうしてあなたはここにいるのかしら?」


少し強めの口調で問う。


「え、ええと......私は魔神封印の術式の中核でして......おそらく魔神が封印から解かれたために私も......」


「......」


その言葉には、ティアは返答に窮する。

ティアはそこに関わっている可能性すらあるのだから。


「私の力が及ばなかったばかりに、再び魔神が復活してしまうことになり自らの非力さを恨んでおりました......」


「......魔神を封印、ね。

それは結局いつか解けてしまうものなんじゃないの?」


「はい。失礼ながら今は何年でしょうか?」


「たしかアストラ暦1402年だったはずだけど......」


「暦も変わってしまいましたか......では第2次人魔大戦はいつのことでしょうか?」


「第2次人魔大戦......?ごめん、私はそこまで教養のある方じゃないの。

でもたしか今の暦は魔神討伐を成した勇者の名前だって聞いたけど......」


「そうなんですか?

......でも名前が全然違うし......改名でもしたのでしょうか......だとしたら1400年しか封印できなかったということに......はぁ......」


なにやら少女は1人で落ち込み始めたが、このままお互い素性が分からないままでは話が進まない。


ティアはこれまでの会話からこの少女は少なくとも魔物ではないと結論づけていた。

もしここまでの話が嘘で、実は罠を張った魔物だとしても、ここまで巧妙に話を作れる魔物なら、それこそ魔物かどうか疑うだけ無駄だと思ったのだ。

あとはこの少女が嘘をついているかどうか、どこまで信用が置けるか、この空間からの脱出で協力できるかどうか、話をしながら見極めなくてはならない。


「私の名前はティアよ。

魔神とか名乗る影みたいな奴にここに連れてこられたの」


「あっ、名前も名乗らずに失礼いたしました......。私はロレイアーナ=ヴィシニェツカと申します。アルバワム教にて聖女の位を賜っておりました。

ロレインとお呼びください。」


ティアが名乗ると、少女--ロレインも姿勢を正し、微笑みを浮かべてそう名乗った。


これが2人の出会い。

ティアとロレイアーナ、生に貪欲でひねくれた少女と優しく清らかな少女、生きた立場も時代も違う正反対の2人が後に無二の親友となったのは、この深い闇の奥底でこそ生まれ得た、ほんの小さな奇跡の一片だったのだろう。

お読みいただきありがとうございます。

厳しい評価、感想、お待ちしております。


今回は話があまり進みませんでした。

それでもやっとティア以外の主要ネームドキャラ......ティアも独り言をぶつぶつ言わなくて済みます(笑)。

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