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プロローグ

息抜き短編です。


 はじめまして。私の名前はリオン・ランスレイ、6歳。

 転生者である。

 転生した理由?そんなもん私が知るわけない。

 だが私には日本という国で、女として生まれ育ったという記憶があるのだ。

 ちなみに今居るここは日本ではない。それどころか地球ですらない。

 前世の知識を用いて言うならば、私は異世界に転生したという事になる。


 私は現在、大きな体育館というか立派な柱が複数個伸びている華美な講堂にいる。

 これから国立魔法学園の初等部の入学式が始まるのだ。

 この国の入学式は日本のものとそんなに大きく変わらない。校長や教頭、他にも色んな大人の眠たい話を延々と聞くだけだ。

 私以外の子どもは目を輝かせたり、そわそわしながら話を聞いているが、私としてはさっさと終えて家に帰りたいところである。

 前世の記憶の影響か、微妙に大人びた(ひねくれた?)性格になってしまったので、子ども向けの話は正直つまらないのだ。さっきから欠伸を噛み殺すのに一苦労である。


 魔法学園という言葉からも分かると思うが、こちらの世界には魔法がある。

 この世界は私にとってはただの現実(リアル)だけど、前世の記憶にある空想(フィクション)の話ではもはやありきたりのように感じる、剣と魔法の存在する中世ヨーロッパのようなファンタジ-世界だ。

 神の加護や特殊技能(スキル)を持った人間もちらほらいたりする。かくいう私もあまり役に立たない加護とスキルを持っている。というか、加護(これ)のせいでこの学園に通う事になったのだ。



 入学式はまだまだあって暇なので、これまでの私の経緯をざっと振り返ろう。

 この世界はさっきも言った通り、剣と魔法の存在する中世ヨーロッパ風のファンタジ-世界だ。

 人間の他にエルフやドワ-フ、獣人や魔族、翼の生えた天族などがいる。

 ファンタジーっぽく魔王は存在するが、魔族の国の王と言う意味であって悪の化身とかではない。

 人間と魔族は勢力的に敵対する事はあるが、あくまでも国同士の争いという感じだ。ちなみにこの世界には魔物もいるのだけど、魔族とは全然関係ない系譜だったりする。


 私はその世界のそこそこ大きくて豊かな国に生まれた。

 国の名前アボロド。

 豊かな自然に満ちていて魔法技術が他の国より発展している。人間の王様が統治している国だ。


 この世界の大半の国では科学よりも魔法が盛んに研究されている。

 なので中世っぽい割に水洗式トイレとかシャワーとかが魔法を駆使して既に存在していて、庶民でも生活水準はそれなりに高い方だ。

 教育機関もそこそこ整っている。アボロドでは農民は16歳まで、流民、浮民以外の王都に住んでいる町の人なら、18歳まで学校に通うのが普通なのだ。

 中々恵まれた国だと思う。

 

 私は一人っ子で父は建築家っていうか大工?で、母は専業主婦のごく一般的な家庭に生まれた。

 普通の顔立ちの父とそこそこの美人の母を持つ私の容姿は、良く言って中の上あたりだ。

 人混みに紛れ込んだらモブになる程度の顔面偏差値だが文句はない。

 父に似た少し眠たそうな灰色の目と、母と同じ背中まで伸びた黒髪を私は気に入っている。

 まぁ日本と同じで四季のあるこの国で、年中黒い手袋と膝丈までのローブが通常装備の私は常に周りから浮いているんだけどね。

 入学式はローブ着用が正装なので今は変な目で見られていないが、夏とかになったら引かれる事請け合いである。一応言っておくけど私は別に格好つけたい中二病とかじゃないから、あしからず。



 私が前世の記憶を思い出したのは3歳くらいの頃になる。特に切っ掛けらしいものは無かった。

 当時幼稚園のようなところに通い始めていた私は、最初この知識が何なのかあまりよく分かっていなかった。

 知らない知識が気が付いたら突然頭の中にあったり、生活をしている中で急に閃くという感じだったのだ。

 知識の内容の意味は何となく理解できていたのだが、当時の私は幸か不幸かその事に違和感を抱く前にただの知識としてすんなりと受け入れてしまっていた。


 2年程かけて前世の記憶が大体出揃った頃には、この記憶が何処から来るのか大体理解出来るようになっていた。

 誰かに聞いたりした訳ではない。というか自分では特に変な事だと思っていなかったので、誰かに相談したりしようとも思わなかった。


 疑問(きおく)解答(ゆらい)は、思い出した知識の中の、ファンタジ-小説の内容の一部にあったのだ。

 異世界転生という言葉もその辺りの知識から拝借している。


 私の中にある自身が経験した事のない記憶や知識は、日本(いせかい)で女として生まれ育った人間の記憶であり、転生という現象により?異世界(このせかい)に生まれた私の中に、何故か突然浮かび上がってしまったものだ、という推測を立てることができたのだ。

 因みにこちらの世界には日本と同じで異世界が確かに存在すると大々的に主張をする人はいないので(多分)、親とかに相談しなくて本当に良かった。心配されて(頭の)病院に連行されるとこだった。

 ……けっこう危なかったが。


 4、5歳の頃の私は「かわいいは正義!」とか「ツンデレ萌え-」とか「ぐうっ……封印された右腕が疼くっ!」とかを日本語のまま使ったり、奇行を繰り返していた。

 私は周囲からは頭の可笑しい変人だと思われていて、親以外の人には遠巻きにされていた。……当然だ。自分で言ってて悲しくなってくるな。


 狙ってやった部分が大半だったので、結果(それ)自体には後悔はない。

 私は自分の持つ厄介な特殊技能(スキル)のおかげで、あまり他人とは交流したいと思わない子どもだったのだ。

 ただちょっとやり過ぎたとは思った。日本語で言ったからまだ良かったものの、意味を理解されていたら完全に黒歴史になっているところだ。

 浅慮だった幼い頃の自分が怖い。


 とっくにバレていると思うが前世の私は所謂オタクだったようだ。

 漫画やアニメ、ゲームの類いが好きだったようで、現在の日常生活では特に何の役にも立たないような知識ばかりが記憶の大半として残っている。

 ……残念なヤツだとか言わないで欲しい。私が一番そう思っているのだから。とは言っても、人格を引き継いでいる訳ではないのでそんなにダメージは無いのだけど。


 私は前世の記憶があるだけのただの一般人なのだ。

 いやいや、一般人とかww前世の記憶があればチ-トしほうだいだろwwと思われるかもしれないが、そんなことはあんまりない。

 私の持つ前世の記憶はかなり偏りがあるのだ。


 例えば一つの知識を何かの切っ掛けで思い出すとすると、それに関連する知識や記憶が浮かび上がってくるという感じなのだ。

 しかもいらん記憶ばかりが鮮明にある(オタク的な意味で)。

 人生はそんなに甘くはないものだと悟った瞬間だ。

 私の中ではほとんどの記憶が黒歴史認定である。


 眠気を押し殺して講堂の台の上を見ていると、一際背の高い男の人が中央に進み出た。



「これにて、第59回国立魔法学園初等部の入学式を閉幕いたします」



 おっと、やっと入学式が終わったみたいだ。このあとは自分のクラスに行って、もろもろの連絡事項を聞いて解散である。さっさと家に帰りたい。


 無駄に大きい学園の廊下を歩きながら横目で無駄に大きい施設を眺めていると、自分はなんて場違いなんだろうと思う。

 王立魔法学園は、本来は貴族や金持ちの商人の子ども向けに開かれている学園だ。

 私はここに入学する前も、町にある立派な幼稚園に通っていた。

 この幼稚園というのは、学園に入る前に子どもに基礎的な教育を施すという歴とした教育機関だ。

 義務教育ではなく、お金に余裕のある商人の子とか小金持ちな町人の子が通うものなのだ。

 因みに貴族とか大商人の子どもは基本的に家庭教師を雇うみたいなので、6歳までは身分が釣合っているか個人的な繋がりでも無いと会うこともない。


 親が普通の町人である庶民の私がそこ通っていたのは、加護持ちだった為だ。 

 加護持ちや特殊技能(スキル)持ちは無条件でこの学園に入学できるのだ。無条件っていうかほぼ強制的になんだけどね。


 特殊技能(スキル)は自己申告制だが、加護は生まれて1年以内に各地にある教会で調べられる。

 この世界には神がいて、(いくさ)の神や知の神、美の女神など沢山の神がいるらしいのだが、神は滅多に地上に降臨したりはしない。そこで、代わりに人に加護を授けて下さるそうなのだ。

 もっともピンからキリまである特殊技能(スキル)持ちと違って、神の加護を持つ人間も物凄く稀なのだけど。


 戦の神の加護持ちなら、一騎当千の力を持っていたり大勢の兵を動かす能力に優れている。

 知の神の加護持ちなら、あらゆる知識を持つと言われる賢者の称号を得る。

 美の女神の加護持ちなら、その美しさで国を興せることもできるとか。

 大体の加護持ちに共通しているのは、良くも悪くも誰もが傑物だということだ。

 

 国としては神の加護を持った国民を他国にやりたくないらしく、加護持ちは例えどんな加護でも様々な特権を目の前にぶら下げられて国に留まらせられるのだ。

 ほとんどの場合において将来が約束されていて、貴族よりも扱いが上になる事もあるらしい。

 私は教会で加護持ち認定されたので、優遇措置の一環として幼稚園やこの王立魔法学園に通う事になったのだ。


 自分のクラスに着いたので適当に席に着き、配られた校内図を眺めた。

 王立魔法学園は、王立というだけあって校内には惜し気もなく大金が遣われている。

 初等部から高等部、大学まで揃っている敷地内には、さっき横切ったでかすぎる実習棟や図書館、植物園かと言いたくなる中庭までもがある。

 どこの城だここは、と言いたくなる程だ。


 クラスは1クラスが大体20~30人で5クラス+aある。A~Dの普通クラスと位の高い貴族や特待生等で構成されている特別(エリート)クラス、あとは若干名しかいない特殊能力クラスだ。

 初等部が6年、中等部が3年、高等部が3年だ。大学は研究所みたいな事も兼ねている専門的なことを学ぶ施設なので、特待生以外の進学率は意外と少ない。


 私は加護持ちなので特別クラスにいるのだが、クラスメイトが高位貴族ばっかりで正直馴染める気がしなかった。

 ……いや、嘘を吐いたな。例え普通の学校に通っていても周囲と馴染む気なんて欠片もなかった。


 後ろに陣取った席からクラスメイトを眺める。

 特別クラスは他の普通クラスと違ってクラス替えはないので、これから長い事この面子と顔を合わせる事になるのだ。今から億劫になっても仕方が無いが、なるべく人目につかないように空気で居ようと決意する。

 幸いクラスメイトの中に目を引く人が数人居るので簡単だろう。


 連絡事項を聞いて諸々の書類を渡され、その日は何事も無く解散した。

 私は待っていた両親と漸く一緒に家路に着いたのだった。

 



 

 ---------------------------



 




 は~い。お久しぶりです。

 入学式から一ヶ月足らずだけど、私は相変わらず他人との交流が吐きそうなほど苦手なので、順調に周囲との間にうず高い壁を建設しているぜイェイ。


 クラスメイトの中で一番地位の高い公爵家の幼い(同年代だが)イケメンとか、二番目に地位の高い侯爵家のぱっと見美幼女の男の娘(笑)とか、外見天使の加護持ち美少女がクラスメイトとの仲をそれとなく取り持とうとしてくれたりしたけれど、余計なお世話だとばかりに遠ざけた為にボッチまっしぐらである。





 ……引きこもりたい。割と本気(マジ)で。


 ちなみに喜ばしい事にクラスメイトは皆揃って毛並みのいいお坊ちゃんとお嬢さんなので、幾ら私が浮いてようとイジメとかは起きていなかった。

 最終手段を使わずに済みそうで良かったよ。ほろり。


 

 そんなぼっちで放課後に特にすることもない私が、中庭の死角になっているベンチでボーっと座っていたこの日、声をかけられた。


「リオンちゃん、何してるの?」


 そう言って肩に置かれた手を私は思わず叩き落とした。

 誤解のないように言うと、その子は知らない人でも不審者でもない。もっと言うならクラスメイトだ。しかも、無愛想な私に毎朝おはようと言ってくる物凄く性格の良い女の子で、上記の外見天使の加護持ち美少女だったりする。

 私は思わず固まった。


 多分、今話し掛けてきたのも、授業中でも休み時間でも常に一人(ぼっち)で、陰で変なやつと言われて(いるんだろうな、たぶん)遠巻きにされている私に気を遣ってくれての事だと思う。


「ご「ごめんね」ぇぇ……」


 謝ろうとしたら先に謝られてしまった。もうちょい待っててよ!そんなしょぼんとした顔しないで!罪悪感がマッハで押し寄せてくるからっ!


 彼女の名はアメリア・ミロワだ。

 入学式から一ヶ月も経っていないがすでに学園の有名人ななっている。

 私と同じ一般人(しょみん)の加護持ちで、彼女は愛の女神の加護を持っている。

 愛の女神の加護と言えば、もっぱら聖女や聖人と呼ばれる教会の最高機関である神殿の最高責任者に多い加護だ。

 ん?いや、逆かな?愛の女神の加護を持った人が、神殿の最高責任者になりやすいのかもしれない。

 まあどっちでもいいか。


 加護持ちの事を記した本には、愛の女神の加護持ちは他人から愛される性質を持っていると書かれている。

 例に漏れず彼女も私と違って友人が多く、誰からも愛されるような明るい子だった。

 問答無用で手を叩き落とした私が言っても説得力はないのかもしれないけれど。


 アメリアは美しい金色の髪と透き通った蒼い瞳を持つ地上に舞い降りた天使のような美少女で、その外見だけでも学園内で高い人気がある。

 申し訳なさそうにこちらを見る彼女は、同い年で同性の私から見ても十分に可愛らしいのだが……。


 私は落ち込んでいる彼女を冷や汗を流しながら見つめた。周囲に誰も居ない事をそっと確認する。

 もしこの場面を人に見られていたら、私の学園生活は地に堕ちることになっただろう。

 さっさと謝って帰ってもらおう。


「あの、ごめんなさい。でも私に触らないで」

 愛想がなさ過ぎるどころじゃないな。もう少し言い方を変えれば良かったと後悔するレベル。ぼっちの弊害だ。

 これできっとこの子にも嫌われて完全に孤立するのだろうな。

 泣いてなんていない。


 だがしかし!アメリアの次の言葉に私の予想はいい意味で裏切られたのだ。


「リオンちゃんあの、じゃあお話だけならしていい?」


 私がこれを聞いて最初に思ったのは、えっ?!何この子、天使?天使なの?だ。

 実を言えば私だって当然友達は欲しいのだ。だけど厄介な特殊技能(スキル)のせいで、友達どころかご近所の人間関係ですら覚束なくなっている。私まだ6歳なのに。


 特殊技能(スキル)というのは数え切れないほどの種類がある。

 特殊技能(スキル)の定義は、ある一定の計測された数値や常識から突出した技能(さいのう)とされている。

 よくあるスキルは走るのがもの凄く速い[瞬足]とか、力がもの凄く強い[剛力]とかだ。

 滅多に無いものは心を読む[読心]や、頭の中だけで意思疎通できる[念話]、相手を虜にする[魅了]など他にも色々ある。


 その特殊技能(スキル)によっては発動条件があるのだ。

 例えば[魅了]なら相手の目を見て鍵となる言葉を言って初めて発動するとかだ。

 私のスキルも発動条件があり、それが人との接触なのだ。

 私はスキルが発動すると気分が悪くなり、吐いたり倒れたりしてしまうのでこれまで人との接触を出来る限り避けて来ていたのだ。

 ちなみに自分がスキル持ちだとは誰にも言いたくなかった(というか言えなかった)ので、両親には体の弱い子と勘違いされていたりする。


 なので話だけをするというアメリアの言葉には、少しどころじゃなく心を動かされた。

 私は少し照れくさかったので、内心の歓喜を表に出さないように答えた。

「別にいいけど」

 ……無愛想過ぎだろ私。

 だがしかし!神は私を見捨てなかった!

 投げ遣りにも聞こえる言い方をした私に、彼女は笑顔を見せてくれた。

 ていうか笑顔が眩しすぎて背景に花を背負っている幻覚すら見える。

 アメリアは嬉しそうに、私が座っているベンチの空いた場所に腰掛けた。


「あのね、わたしリオンちゃんとお喋りしたいってずっと思ってたの」

「どうして?」

 自分で言うのも何だが私はこの学園で近寄りがたい人間5指ぐらいには入っていそうだと思う。

「えへへ、なんとなく!」

 はにかんで笑う天使がそこにはいた。

 あれだ、可愛いは正義って言葉はきっとこの子のためにある。

 私は一つ真理にたどり着いてしまったようだ。


「リオンちゃん、好きな授業はなに?わたしはね、魔術が一番好き!」

「私も……好き」

 魔術はまあほら、楽しいよね。体育とかと違って運動できない人でもできる実技だし。

「楽しいよね!ダンスの授業も面白いけど、魔術で水遊びした時の方が面白かった!」

「そうなんだ」

 微笑ましすぎて無難な相槌しか打てなかった。

 でもそれで構わなかったのか、そのあとも結構遅くまで他愛ない事を話してしまった。

 私はほとんど相槌しか打ってなかったのに、始終笑顔で凄くいい子だった。




 次の日の放課後もアメリアはやってきた。

 放課後以外にも話し掛けられたのだが、他の人も来たのでその時は避けさせてもらった。

 そんな薄情な私だったが、それでもアメリアは放課後になるとほとんど毎日私のところにやってきた。

 話す内容は学園や家での些細な事が多かったが、私にとっては充実した時間だった。








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 またもやお久しぶりです。

 あっという間に半年が経ち、季節は秋になって参りましたよ。涼しくていい季節だ。

 アメリアとは今では互いに友人と呼べる間柄になっている。

 初めての友達だよ。これで思い残す事はもう無いな……なんちゃって~。

 冗談はこれぐらいにして。


 肌寒くなってきた今日も、約束をしているわけでもないのにアメリアはいつものベンチにやってきた。

 というか今更過ぎるが何でこんなに私に構ってくるのだろうか。

 正直なところ、一週間もすれば飽きられるだろうと思っていたのだ。

 まぁ理由なんて特にないのかもしれないけど。


「リオンちゃん、おまたせ!」

 相変わらず笑顔が眩しすぎる。

「今日はね、リオンちゃんに渡したいものがあるの!」

「何?」

 首を傾げる仕草とかが可愛すぎてもうそれだけで十分ですけど。

「ジャーン!」

 そう言ってアメリアは手提げ袋の中からマフラーを取り出した。

「えへへ、わたしが編んだんだよ!」

 私はあんたの彼氏か!とか言いそうになったのを何とか堪えた。

 いや、ふにゃふにゃと嬉しそうに笑っている顔はかわいいんだけどね?


 アメリアは私以外にも仲のいい子がいくらでもいるはずだ。

 何で敢えて私なんだと、思わず顔が引き攣ったのは仕方ないだろう。

「いらなかった?」

 アメリアがしゅんとしながら聞いてくる。

「え、あ、その……いる」

 思わずいるって言っちゃったよ!美少女の憂い顔まじヤバイ。

「ほんと!よかった~。ありがとうリオンちゃん!」

 いや、お礼を言うのは私の方なんだが。

「これでこれから寒くなっても、いっぱいお話しできるね!」


 …………まさかそのためだけにマフラーを編んだの?天然ちゃんか。

 というかずっと外にいるつもりはない。本格的に寒くなってきたら図書館辺(しつない)りに移動するつもりだ。

 そういえばアメリアには言ってなかったな。

「アメリア、私は寒くなったら図書館に行こうと思ってたんだけど」

「……そうなの?」

 目をパチパチさせているだけなのに、超可愛いと思える生き物が私の目の前にいる。

 何このトキメキ。私を萌え殺したいのか。

「……リオンちゃん、わたしも図書館に行ってもいい?」

 オフコ-ス!!もちろんだとも!

「いいけど」

 我ながら感情がほとんど篭らないセリフしか言えないのが憎らしい。

「ありがとう!」

 いや、だからお礼を言うのは私の方であって、……まぁいいか。

「あ、そうだリオンちゃん。マフラー巻いてあげるね!」

「っま、待って!」


 油断した!

 思わずマフラーを持ったアメリアの手を掴んでしまった。





 ヤバイ。


 ――――くる。




 アメリアの腕を掴んだ瞬間、私の頭の中に幾つかのイメージが奔流のように流れ込んできた。

 気持ち悪くなり、呻きながらバランスをとるためにベンチの背に凭れかかる。


「リオンちゃん!」


 突然の事に驚いているアメリアを落ち着かせる為に、片手を挙げて大丈夫だと示す。

「大丈夫だから。いつもよりはましだから気にしないで。すぐに良くなるから」

 この言葉は本当だ。それでもアメリアは心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

 心なしか泣きそうにも見える。

 大粒の涙を目に溜めておろおろしているアメリアもたいへん可愛いらしいが、流石にそれを眺めて楽しむ趣味は私にはない。


 頭を押さえつつ、アメリアに向き直る。

「アメリア。私は本当に大丈夫だから。心配かけてごめんね」

「え?う、ううんっ。先生呼んで来なくても大丈夫?」

「大丈夫。もう良くなったから」

 あからさまにホッとするアメリアに思わず笑みが浮かんだ。

 というかちゃんと原因を話した方がいいのかな?できればあんまり他人には話したくない内容なんだけど。

 ……いや、これからも友達付き合いをするつもりなら言った方がいいのか。また同じような事があっても困る。

 それに、アメリアなら話してもきっと大丈夫な気がする。


「アメリア、ちょっと聞いて欲しい事があるのだけど」

「なに?リオンちゃん」

 アメリアが心配そうな面持ちで見つめてくる。

 ううっ、何か緊張する。気持ち悪いとか万が一言われたら死んでしまいそう。心臓がドキドキしてくる。

 私は意を決して話し始めた。

「私ね、ある特殊技能(スキル)を持っているの」

「そうなの?」

「未来予知っていうスキルなんだけど、どういうものか分かる?」

 そう、私は未来予知という一見使い勝手のよさそうなスキルを持っている。

 実際には役に立たないどころか心身に悪影響を及ぼしているのだけど。

「えっと、未来のことが分かるってこと?」

「うん、その通り。このスキルね、少しでも人に触れたりするとランダムに発動するの」

 そうなのだ。これが私が人を避けて、直接肌に触れられないように手袋をして、年中ローブを着ている理由だ。正直気休め程度なのだが、無いよりはましなのだ。

 ちなみにこのスキル、自分の未来は見えないという超不親切設計である。



「さっきもそれで、スキルが発動してしまったの。いきなり色んなイメージが頭の中に湧いてきて、気分が悪くなるのよ。驚かせてごめんなさい。見えたイメージは誰にも話したりしないから」

「そうだったんだ。わたしもごめんね、全然気付かなくって」

「ううん。あとできれば、内緒にしてくれる?あんまり他人(ひと)には知られたくないの」

「うん、わかった!内緒にする!」

 私はアメリアが素直に信じてくれたことに安堵した。

 それにしても良かった、ひとまずアメリアに笑顔が戻った。

 気分が悪くなるのは主に内容のせいだけど、その事はまだ秘密にしておこう。

 引かれること間違いないし、普通は気持ち悪いと思うのだから。

 私だって見たくて見ている訳じゃないのだから、これぐらいの秘密は大目にみて欲しいのだ。


 私はアメリアの持っていたマフラーを、今度は手に触れないようにと気を付けながら改めて受けとった。

「マフラー、ありがとう。アメリア」

「どういたしまして!」

 お互いに笑いあう。

 この日はいつもよりも楽しくて、話している時間が経つのが大分速く感じられた。



 それにしても特殊技能(みらいよち)で見えたアメリアの未来に、クラスメイトの公爵家の次男ウィリアム・アルカトラと侯爵家の長男メリカ・ペインとのビジョンがそれぞれ浮かんだんだけど、それが乙女ゲームっぽくてなんか笑えた。











続きは気が向いたときに書きます。

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