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No.07 敵、襲来

 学長室を出て廊下をつき当ったところで、私たちは重が出てくるのを待っていた。


「どうしたんだろうね……か、重」


「……こんなに初々しい優姫さん、ほんとに懐かしいですね……。


 兄さんのことですから、関根さんと他愛もないことでも話してるんじゃないでしょうか?」


「あ、重だ」


 廊下を見ていたほのかが言う。


 見ると、学長室から重が出てくるところだった。


「あれ、三人とも。待っててくれたのか」


 私たちの姿を認めると、重はそう言った。


「特にすることもないからね、べつにこれくらいどうってことないよ」


 ほのかが代弁する。


「これからどうする?」


 私は初めてのチームだ、とわくわくしながら、今からなにをするのか訊ねた。


「んー、そうだな。優姫、手合わせお願いできるか?」


「え? いいけど……剣で? それともイレイザーで?」


「イレイザーはいざって時使えなくなるとまずい。それに、入学式後に見た試合でだいたいわかったよ。


 だから、剣の方で頼む。純粋なお前の力をちゃんと知っておきたいし、俺自身も身体をほぐしたい」


「ふぅん、わかった。じゃ、模擬練習場に行こうか」


 一つ下に見えてもやはり正竜騎士。ここは素直に従っておこう。


 ……久々に強そうな人と戦えそうだし。


 でも、筋肉のつき方が剣を振っていたにしては変だ。ほんとは剣以外を得意にしているのではないだろうか。


 んー……最初は様子見で行こうかな……。


 そう考えながら簡単に承諾して、私は先立って歩きだす。


 しかし、その簡単な受け取り方に不満を持ったのだろうか。


「……言っとくけど、一つ下だからって手加減するなよ?」


 重が不敵に言う。私はそれに反応して、ちょっぴり意地悪な気持ちが芽生えた。


「んー、それは君次第かな」


 だから、思わずそう口走っていた。


 すぐにしまった、と思う。が、


「そうか? なら、試合開始後すぐに本気にさせてやるよ」


 そんな重の応答が返ってくる。


 私はそれに羞恥は感じず、むしろ爽快さを感じた。


 だから私は、その調子を崩さず、むしろ乗っかる形で返事をした。


「お? 言うねー、新入生君」


「ふん……。あのときからの一年間の訓練の成果、見せてやるよ」


「ん? 『あのとき』?」


「あっ……。いや、えっと……昔、優姫と試合してこてんぱんに負けたことがあったからさ、そのときのことだよ」


「ふうん? じゃあ、私がびっくりして、昔のこと思い出しちゃうくらいに見せつけて頂戴ね?」


「……お、おう……。



 ……そんなに簡単だったら、話は早いんだけど、な……」



「あれ? なんか言った?」


 特に後半はぼそぼそ言っていて聞こえなかった。


「なんでもない! さっさと行こうぜ、さっさと!」


「あ。待ってよ、重」


 ずんずん先を歩く重。私はその後を笑いながら追う。


 やっと、重との距離感がつかめた気がした。







「……仲いいですね。まだちょっと優姫さんがかたいですが」


「お姉ちゃん、一応重とは一時間前に初めて会ったようなものだからね。多少かたくはなるよ」


「だとしても仲がいいです。波長が合ってるんでしょうか」


「それもあるし、なにより似たもの同士だからかな? 


 戦闘に関して意欲的、もといやんちゃなところとか。それだけでもないけどね。


 あ、それに意外と昔の感覚が残ってた、とか?」


「それに関しては何とも言えませんね。


 あの様子を見る限り、かなりあり得そうなことではありますけど……。


 ま、なんにせよ、昔みたいでいいです」


「そうだねー、懐かしいなぁ。


 あれ、そういえば昔って、重とお姉ちゃんどっちの方が強かったっけ」


「剣に関しての対決だけでいうなら、優姫さんの圧勝でした」


「何でもありだったら?」


「五分五分でしたね」


「重の剣の腕がどれだけ成長したかに期待だね」


「すぐ痺れを切らして、何でもありに走る気がしますけどね」







「よっ、優姫、ほのか」


「優姫さん、ほのか、ここ、座らせてもらいますね」


 午後七時半過ぎ。私がほのかと夕食をとっていると、重と玲が食事を乗せたトレイを持って、向かい側に座ってきた。


 騎士学園は全寮制なので、食事の時間がかちあうこと自体はよくある。


「やっほー、重、玲」


「あら、こんばんは、玲。……あと邪道の重さん」


 挨拶してきた重と玲に、私とほのかも軽い挨拶を返す。……重には念入りに軽く。


「まだ根に持ってたのか、さっきの試合のこと……」


「なによ、まだって。あんな戦い方、ぜんぜん騎士らしくないじゃない」


 箸でご飯をひとかけら、口の中に入れながら思い返す。


 ――はじめはいい勝負をしていた。重の隙をつきについて、私が三連勝を収めるまでは。


 挑発するだけあって、重は確かに強かった。正直、私の想像を超えていたことは認めよう。


 でもそこで重が負けまくるのは性に合わんとかなんとか言いだし、突如変な戦い方を展開したのだ。


 剣で鍔迫り合いをしていたと思ったら、そのまま私の腰をつかんで足を払い、押し倒してきたり。


 剣の打ち合いをしていたら、突然剣を投げつけてきて、もう一本別の剣を収納石から召還したり。


 剣を構えて突っ込んできたと思ったら、剣を囮にして、私にショルダータックルをかましてきたり。


 しかも、大抵のものが重と私の顔の距離が異様に近かった。


 ……ちょっとしたはずみで、キスをしてしまいそうなくらい。


「お姉ちゃん、顔赤いよ?」


「ふぇっ!? べっべつに何も考えてないよっ!?」 


「……兄さん、試合中、優姫さんに何したんですか?」


「特に何もしてないぞ? いつも通りにやっただけだ」


「「ふぅーん?」」


「ほ、ほのかまでなんだよ?


 ていうか、二人のほうはどうだったんだ」


 私と重が模擬戦をしている間、ほのかと玲もとなりの練習場で模擬戦をしていた。


「べつに、なにもなかったですよ」


「うんうん、それこそ『いつも通り』だったね」


「……ずっと決着もつかず、打ち合いをしているあれか?」


 そう。私も休憩中ちょっと見て驚いたのだが、この二人はずっと、途切れることなく打ち合いをしているのだ。


 すこし優勢になったり劣勢になったりすることはあるけれど、決着がつくほどのものではなく、結果としてずっと打ち合うことになる……らしい(ほのか談)。


「なぜか、ああなるんですよね」


「なんでだろうね?」


 同レベルという言葉で片づけるには、あまりにもおかしな事象だ。


 ……それ以外になんといいようもないけれど。


「あ、そう言えば、兄さん」


 そこで、なんでもないことのように、玲が訊く。


「関根さんは何と言ってましたか?」


 あまりにも抽象的な問い。


「ん、ああ、今夜になるだろうって」


 しかし重は、それにしっかり答えた……ようだ。


 玲はそうですか、と返事をして食事を再開する。


「何の話?」


 兄妹のツーカーについていけず、私は訊ねた。


「例のクエストのことだよ。今夜は覚悟しておけよな」


 そう言って、重はご飯を口に運ぶ。


「へぇ、そっか。じゃあ今夜は早めに寝ておかないと、だね」


 ほのかも普通に受け止めている。


「…………」


 しかし私は、あまりにも急な話にしばらく呆気にとられていた。






 そして、夜中二時ごろ。


 ピリリリリリリ!


 敵襲を知らせるメールが届き、私のケータイは震えた。




部屋に帰ってから。


「……も、もうすぐ一緒にクエストこなさなきゃだし……ちゃんと名前言えるようになんないと……。


かさっ……重、……か、かさね、……かさね、かさね」




 そして、夜中二時ごろ。


「重、重、かさ、ね」


 ピリリリリリリ!


 敵襲を知らせるメールが届き、私のケータイは震えた。


「ひぅっ!?」


 ……私の背筋も一緒に。

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