No.02 プロローグ
プロローグです。No.02ですが。
強く、在りたい。
気付けばそんな感情に満たされていた。
私には過去三年間の記憶がない。
家族や周りが言うには父さんの運転する車が事故に遭ったのだという。
その事故で父は亡くなり、私は頭を強く打って、一命こそ取り留めたが記憶がなくなってしまったそうだ。
私が生き残ってしまって父さんに申し訳ない、過去三年の記憶がない――だから、だろうか。
昔を失った私はただただ力を欲した。何かに報いるように。何かを埋めるように。
幸い、その頃の私は高校入試に合格を果たして入学手続きまで終えている状態にあった。
入学する学校は《日本騎士育成学園》。日本初にして唯一の、騎士育成学校。私はそこの第一回目の入学生だった。
私はそこで己を磨いた。もっと、もっと強大な力を得るために。失った過去が、いないはずの私が、今の私を急きたてる。
学園は小さな島の上にあり、ろくに知人にも会うこともない。ことさら最近の記憶がない私は、そこで顔を知らない友人たちに会うようなこともなかった。
私は理由もよくわからないままにがむしゃらに努力して、いつのまにか一年が過ぎた。
その甲斐あって、私は学年最終試験で学年二位の成績を獲得した。
話がそれるようだが、私には一つ下の妹がいる。ホノカという名前で、私のことをとても慕ってくれるかわいい妹だ。
その妹が、今回《日本騎士育成学園》の二期生として入学してくることとなった。
そこから、この話は始まる。
これは私だけの物語。私だけが知っている、過去の真実の物語。
ガッ キンッ カァン ギンッ
上、右、斜め左上、突き。
大きめの両手剣を使い、相手の繰り出す攻撃を捌く。
続けて相手は右斜め下から切りかかってきた。
その剣の切っ先をそらし、横から弾く。そして空いた相手のわき腹を上から切りつけた。
ダメージを与えた、と思ったのも束の間。
今度は上から剣がせまっていた。重そうな一撃。当たったら全損とまではいかなくても、ひどいダメージを負うだろう。
私はそれを回避不可能と判断し、迎え撃つ形で剣を振り上げる。
ガァアン!
剣同士がぶつかりあった瞬間、一際高い音が鳴り響いた。
「……っ」
いわゆる鍔迫り合いの状態。すこし、私の方が押されている。
「……ふ、んっ」
相手の剣を強く押し、自らもステップを踏み大きく後退して距離をとる。
そして相手を見据える。
金属的な光沢をした銀色の機体、中世欧州で見られそうでありながら、古臭さを感じさせない威風堂々とした鎧姿――いわゆる一般的なイレイザー。
中で操作している人間は現役の竜騎士だ。今はまだHPでは顕著な差が出ていないが、長引けばジリ貧で負けるだろう。
ちら、と残りパラメーターを見る。さっきの打ち合いでHPが削られたらしい。あと十分も打ち合えば、HPは尽きてしまうだろう。
ならば、力押しで一気に決めた方がいい。
私はそう判断して、エネルギーの出力を上げるよう心の中で念じる。
背中に装着している反物質生成装置、クウォークがその役割を果たし、反物質の生成がより増す。
それにより、今までより重い攻撃を繰り出すことが可能となる。
そこで私は収納石に念じて剣を収納させ、右手の内に突撃槍を召喚する。
私がもう決着をつけようとしているのが見て分かったのだろう。相手は迎え撃つつもりのようで、剣を構えてじっとしている。
私はそんな様子の相手を見据えながら、脚部エンジンにエネルギーを溜める。
気付けばついさっきまで武器を打ち合わせる音が響いていた空間に、幾許かの沈黙が訪れていた。
……そろそろ、十分かな。
私は槍を構え、相手目掛けて飛んだ。