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No.15 黒騎士事件 前編

 その直後、私は宙に放り出されたような感覚を得る。


 ――目を開くと、一〇〇メートルくらい下に海が広がっていた。


「――――――っ!? イレイザーっ!」


 叫ぶ必要はないのに、思わず叫びながら、イレイザーを装着する。


「ふう、びっくりしたな。大丈夫か、優姫」


 重は私よりも早くイレイザーを展開したようだ。上で滞空しながら訊いてくる。


「うん、大丈夫。重は?」


「俺も大丈夫。さて、じゃあ、予定通り目的地に移動しようか」


「うん、了解」


 例の電波妨害プログラムのおかげでレーダーが使えない私は、先を行く重のあとについていく。


「この辺だな」


 重が速度を落とし、止まる。


 事前説明に違わず、数分と経たないうちに目的地に着いたようだ。


 そして、その説明の続きによれば――


「もうしばらくしたら、ミサイルが来るな」


「うん」


「……よし」


 そこで重の鎧が黒く変色し、黒い炎の覆われて――黒化する。


 ごめん、と小さく重が呟いた……気がした。


「優姫、ちゃんと手筈は憶えているよな?」


「うん、大丈夫だよ。


 重も、私が合図を出したら、ちゃんとアクションをとってね」


「ああ、もちろ――」


 キィィイイイイイイイイン!


 そこで、何かが高速で近づいてくる音が会話を遮る。


 もうミサイルが来たのだろうか?


「レーダーには何も映ってない。優姫、警戒してくれ」


 私の疑問に答える形で、重が警告する。


 音がする方を見てみると――鉛色の点が見えた。


 その点はだんだんと大きくなり、人型であるようだと認識して数秒後、私たちの数十メートル手前で停止した。




「――――竜騎士!?」




 相手は鉛色のイレイザーをまとう竜騎士だった。イレイザーの色からして正竜騎士ではなく、軍に所属している一般の竜騎士だろう。



「お前が、黒騎士か」


 鉛色の竜騎士は、そう訊ねる。


「……ああ、そうだ。俺が、黒騎士だ。おまえは?」


 重がそれに答えた。


「私はフランス第三竜騎士団フィエフト所属、竜騎士ベルティーユ・アゼマだ」


 フランス――元の時間軸で原子力発電所をジャックされていた国。


 彼女――ベルティーユはどうやら、私たちと同じ時間軸の人間のようだ。


 ベルティーユは右手に握っていた剣の先を、重に向ける。


「黒騎士、一年前のフランス国境で起きた戦争中の事件を憶えているか」


「フランス国境で起きた事件?」


 私が病院にいた時に、散々ニュースで流れていた事件だ。


 確か、内容は――


「……フランスが隣国間との戦闘中、相手国側が負けると判断して一機の竜騎士を投入、フランスの部隊一つを攻撃し、多くの死傷者を出した事件か」


 そう。当時、まだイレイザーの配布から一年も経っていない頃で、各国ではようやくイレイザーを乗りこなせる竜騎士が一人育成されたかどうか、といったところだった。


 そのフランスの事件はイレイザーが初めて戦争に投入されたために起こった事件。相手国が竜騎士を投入したのを見て、あわててフランスが自国の竜騎士を投入して、戦いはそのまま沈静された。


 その相手国は国境間の戦いで負けてしまった後、クウォークから制裁として、軍の持つすべてのイレイザーを没収された。また、国際会議にかけられ、その時の竜騎士、そして出動命令者は有罪判決を受けた。


 その事件を契機に、世界各国でイレイザーの一般兵士に対する使用を禁止する国際規約――つまり、戦争の主戦力が兵士から竜騎士へと移行することとなる条約が結ばれた。


「ああ、そうだ。私は当時、事件で滅ぼされた部隊の部隊長をしていた。


 黒騎士、一つ確認させてもらおう。お前は研究機関クウォークの関係者だな?」


「……ああ」


「なら、頼みがある。当時のイレイザー開発における中心人物と、イレイザーの設計者の名を教えてくれ」


「!」


 イレイザーの開発責任者兼設計者、いやそもそもの始まりを起こした人物は――重だ。


「……それを聞いてどうするつもりなの?」


 間接的に、重になにをするつもりなのか、訊ねる。


「元の世界に帰り次第、殺しに行く」


 淡々と、彼女は答えた。


「なっなんでそんなことを!? そんなことをしても、亡くなった人たちは――」


「黙れ!」


 そこで彼女は、おそらくずっと抑え込んでいたのであろう感情を爆発させた。


「お前に何がわかる! ともに戦ってきた友を、命を預けあってきた仲間を、目の前でさくさく殺されていくのを見たんだぞ!?


 それだけじゃない!! 命こそ無事だったが、身体の一部を失った者たちだっているんだ! もう戦えない身体になって泣いている彼らに、謝罪の一言もないなんてありえないだろう!?


 あの皆を殺していった竜騎士だけじゃぜんぜん足りない!


 私が! そいつを! 絶対に殺してやる!!


 皆の無念を――いまはもう亡き者の分も、今なお苦しんでいる者の分も全部ひっくるめて、私が晴らしてやる!


 さあ言え、黒騎士! 言わないようなら、お前たちを斬ってでも言わせてやる!」


 彼女はもう、怒りで身を満たしてしまっている。どんな説得も通じそうにない。


 どうすればいい? ミサイルはもうすぐここに到着するだろう。彼女に真実を伝えて、それを妨害されてはたまったものじゃない。


 ここはひとつ、心痛いけど彼女に騙されてもらって――


「……俺だ」


「か、重っ!?」


「俺だよ、ベルティーユ・アゼマ。イレイザー設計者かつイレイザー開発総責任者は俺――坂上 重だ」


 私の声を無視して、重は告げる。


 すると、ベルティーユからひしひしと怒気や殺気が叩きつけられるように伝わってきた。


「おまえか、黒騎士っ…………!


 英雄様も、落ちぶれたものだなっ!?」


 ビ―ッ ビーッ


 重の機体から警報が聞こえる。


 ――ミサイルがとうとう到着したんだ!


 私の頭はそれを認識すると、一瞬で冷えきった。


「重、私があの人の相手をする。だから、あなたは早くミサイルを迎撃して」


「でも優姫、俺はまだあいつと――」


「いいから!」


 私は重を怒鳴りつけた。


「謝るのも、戦うのも、あとからできる! でも今は、黒騎士事件の真っ只中だよ!?


 失敗したら最後、この世界が滅びる! 迎撃できるのは重、君しかいないの!


 いまは任務に専念して! お願いだから!」


「……! …………わかった」


 重はしばらくの間、驚いて固まってしまったようだったが、しぶしぶ返事を返す。


「ベルティーユ、すまない。こっちの用件が終わったら、じっくり話をさせてくれ。……本当に、すまない」


 くるりと背中を見せ、彼は飛んで行った。


「待て、黒騎士! 戦え! 私と戦えッ!」


 その背中にベルティーユが吠え、追随していこうとする。


 でも、私が彼女の前に立ちふさがった。


「重の邪魔はさせない!」


 突撃槍ランスを右手にしっかり握り、突っ込む。


 突然の攻撃に、ベルティーユは急停止し、私と向き合った。


「邪魔だ、どけ!」


 彼女は、右手の剣を振り下ろしながら、私に向かって攻撃してくる。


 ガァァンッ


 私の槍先と彼女の剣がぶつかる。


 彼女の力はとても強く、私は精いっぱい力を出して剣を受け止めた。


 しかし、私の方が押されている。


「……ぐっ……お前は、なんで黒騎士に味方する……?


 あいつは確かに偉業を成し遂げた、いや成し遂げているところかもしれないが、人として大切なことを忘れた行いをしたんだ、ぞっ!?」


 彼女の言葉を聞いた瞬間、私は理性を捨てて、感情をぶちまけた。


「あなたはなんでわからないの!?


 イレイザーを生みだしたことに、人を傷付けてしまうものを創ってしまったことに、自分が世界を変える兵器を生みだしてしまったことに!


 彼が、重がどれだけ苦しんでいるのか!」


 彼女の剣を、徐々に押し返す。


「それに彼は、私が知っている坂上重は!


 誰よりも優しくって、人間らしい!


 戦い方も、誰よりもがむしゃらに頑張ったような我流の戦い方で!


 あの黒化による力も、人をもう二度と傷つけないためのもの!


 誰かを護るための、彼が見つけた強さそのもの!


 そういうふうに思った! そういうふうに思えた!


 黒騎士はみんなにとって英雄かもしれない、だけど!


 私にとっては泣き虫で、弱虫で、何でもかんでも背負おうとする、ただの男の子だ!」


「……っぐぅ!?」


 彼女の剣を弾き返す。


 そのまま突っ込んで攻撃したいところだが、攻撃後の反撃が怖い。


 私は後ろに下がり、距離をとる。


「はぁ、はぁ……ふぅっ」


 押し返すために力を使いすぎた。息を整える。


 そして私は槍の先端を彼女に向け、高らかに言った。


「気付きなさい、ベルティーユ・アゼマ!


 黒騎士だって、ただの一人の人間なんだ!


 彼はもう十分すぎるくらいに、背負っている!」


「じゃあ何故だ!?」


 ベルティーユは反論した。


「誰よりも人らしいというのなら! 何よりもその責任に負い目を感じているというのなら!


 何故あいつは、私たちのところに来なかった!? 何故あいつは、謝罪しなかった!?


 イレイザーによって傷付いた人間が、死んでしまった人間がたくさん出たのに!」


「……それはっ……」


 思わず、口ごもる。


 ――私は、その答えに既に行きついていた。


 あまりの偶然に悔しくなる。


 事件が起きたのは、私がまだ大事を取って、しばらく入院していたころ。


 私が病院にいたころのこと、ということは、彼はまだ事故で腕を失った直後。まだまだ治療が必要だったころでもある、ということだ。


 それに、他にも理由があったのだろう。年端もいかない子供が、開発者だという事実を公表することはあまりにも危ない。またそこから情報が漏れて、研究者たちのみならず、重のまわりの人間――つまりは私やほのかに危害が及んでしまうかもしれない。


 だから彼は言わなかったし、言えなかった。ほかならぬ、彼の優しさのせいで。


 でもそれらの理由は今、ベルティーユには届かない。彼女の目から見れば、それはただの詭弁にしか映らないだろうから。重がそう思って、心を苦しめているように。


「なんだ、言えないのか!?」


「ちがう! 理由は……理由はいっぱいあるの!」


「それでは答えになっていない!」


 ベルティーユは言いながら、今度は袈裟切りのような形で、剣を振りかぶってくる。


 ゴォンッ


 私はそれを、左手に構えた盾で受け止めた。


「それらは私では伝えきれないの!」


「はっ! なんだ、黒騎士のことをよく知っているからこそ、言えないっていうのか!?」


「そうだ、よ!」


 盾をスライドさせ剣を防ぎながら、槍をベルティーユの身体に突き出す――寸前。


「『螺旋凱槍らせんがいそう』っ!」


「なっ!?」


 体を捻ってかわそうとしていたベルティーユの横っ腹に、私の槍が追いかける形で突き刺さる。


 ダメ―ジをもろに喰らったベルティーユは、一旦後ろに後退する。


「……っく、技持ちか……!」


 彼女はおそらく、時間移動してからここまでずっと飛んできたのだろう。その飛行で、エネルギーを少なからず消費しているはず。


 つまり、そろそろ、ベルティーユのHPは二分の一をきったころだ。


「……オッケー、ここからは本気でいく」


 急に、ベルティーユの雰囲気が変わった。


 手負いの獣ほど、警戒するべし。そういうことだろうか。


「……行くぞ」


 不意に、ベルティーユが接近する。


「……ふっ!」


 そして、目にもとまらぬ攻撃を繰り出した。


「っ」


 ガァアン!


 左手の盾がなんとか間に合い、防ぎきる。


 が。


「――――――――!?」


 彼女の左手に、もう一本剣が握られていた。


 左手の剣は振りかざされ、私の右の肩に食い込む。


「ぐぅっ……」


 私のHPが減る。そのことに注目できたのは、本当に短い間だけだった。


「――――はあぁぁぁあああああっ!」


 ベルティーユが双剣で乱舞し始めた。


 ガァン キンッ カン ガッ ゴン


 すべての攻撃をいなしきれず、いくつも攻撃が防御をくぐりぬけて、鎧に当たる。


 なんとかベルティーユの腹を蹴って後ろに距離をとったころには、私のHPはもう三分の一を下回っていた。


「ふぅ、なんだ。黒騎士の彼女にしては、あまり強いわけじゃないのか」


「――――っ! てりゃああああぁぁぁぁああああっ」


 馬鹿にされた!


 腹を立て、ベルティーユに向かって特攻する。


 しかし彼女は、動じることなく冷静に対応した。


 ベルティーユは私から見て左の方に踏み込み、左手の剣で牽制として私の盾を叩く。


 そしてそのまま私の背中にまわって、後ろから右手の剣で私を斬りつけた。


「ぐっ……」


 そのまま私は直進し、振り返って今度は冷静に、ベルティーユの動きに注意を払う。ベルティーユも警戒して、迂闊には動かない。


 しばらく、にらみあいが続く。


 HPを確認すると、もう四分の一くらいになっていた。


 …………負けちゃうのかな。


 ふと、そんな考えが頭に浮かぶ。しかし、そのすぐ後に重の顔が思い浮かんだ。


 そうだ。私は負けられない。こんなところで、立ち止まっているわけにいかない。重に追い付くんだ。彼の背中を、護るために。


 そこで、前思いついた疑問がよみがえった。――なぜ、私は重をこんなにも支えたいと、想っているのか。


 確か、私が彼の何かに惹かれてるのではないか、というところまで考えたはずだ。


 モチベーションを上げるためにも、私は考えを深めていく。


 私は重の何に惹かれているのか? ……言葉にはしにくいが、なんだかこう――一緒にいると気持ちいいというか、楽しいというか。


 ただ、そばにいたい。


 ……ただ、そばにいたい?


 それってつまり、私が重のことを、好きということ?


 いやいやまさか、まだ会って一週間しか経っていないのに。


 でも、いままで会った誰よりも、近い距離にいるのは重だ。これは断言できる。


 その証拠として、彼とずっと行動を共にしていた五日間は、いままでで一番楽しい日々だった。重のことも、今や私は沢山知っている。さっき、ベルティーユに叫んだくらいに。


 …………たった一週間しか、経ってないのに…………?


 それを言うなら――記憶こそないけれど、彼とはもう四年前に会っているはず――




――――『優姫さんは、やっぱり今も昔も全然変わらないんですね。兄さんと会ってすぐ仲良くなったのも、うなずけます』――――




 ――!


 そうなの……?








 私は昔から、記憶をなくす前から、重のことが、好きだった、の?







「……ふふっ」


 思わず、笑った。


「はっ、あははははははははははははっ」


 突然の私の奇行に、ベルティーユが判断しかねて静止する。


「そっか、そうか、そうだったんだ!」


 私は今まで、線を引いていた。『昔の私』と、『今の私』に。


 記憶をなくす前の私と、今の私は別の人間だって。


 同じもとの記憶、身体こそ持っているけれど、成長している方向性が違う存在だって。


 でも、違った。私は所詮、私だった。今も昔も、私は私だった。


 だって、同じ男の子にときめいて、同じ男の子に惹かれてるのだから。同じ人を、また好きになったのだから。


 目をつむり、視界が真っ暗になる。


 ……今なら、できるかな。


 だって、今の私は昔の私と一緒だもの。


 盾を意識して、多めの反物質を流す。


「…………っ!?」


 ベルティーユの息をのむ音。


 目を開くと、左手の盾が消え、私のまわりで六枚の正六角形のシールドがくるくる回っていた。


 よし、できた。


「やっと本領発揮か……? ……行くぞ、紅いの」


 ベルティーユが、右手の剣を私に向けながら、一直線に飛んでくる。


 私は思わず、いつも盾を握っている左手を突きだす。


 その私の防御の思念を感じ取ったのだろうか。シールドの内の一枚が、ベルティーユの突いてくる剣の前に移動する。


 シールドはどれも薄赤色で、向こう側を見透かせるくらいに薄い。……耐久度は大丈夫だろうか。


「はっ、この程度の薄い盾なんか、叩き割ってやる、よっ!」


 シールドを叩き割らんと、ベルティーユが後ろに引いていた左手を横に薙ぐ。


 ガァアン!


 しかし、シールドは割れなかった。


 驚いたことに、シールドはたったの一枚でその役目を果たした。


「……くそっ」


 壊せないと判断したのだろう、ベルティーユは後ろに下がる。


 あの盾の反物質量はあとどのくらいなのだろう……と思っていると、ふと、自分の体力ゲージの下に何かあるのに気が付く。


 そこには、六つの小さな新たな体力ゲージが表示されていた。うち一本は残りわずかとなっている。これが盾の体力のようだ。


 そこで不意にピロリン、と音が鳴り、メッセージが表示された。


『使用条件を満たしました。守転攻化しゅてんこうか、使用できます』


 インフォメーション、と書いてある枠のなかに、そんなことが書いてある。


 どうやら、盾が分散するようになったことで、技が使えるようになったらしい。


 どうやって発動する技なんだろう、と思っていると、ふと頭の中でイメージがよぎる。


 槍を持つ右手を掲げている、そんなイメージ。


 気が付くと、私は右手を高々と挙げていた。


 ――そのまま叫ぶ。


「『守転攻化しゅてんこうか』!」


 瞬間、私のまわりをまわっていたシールドが、私の突撃槍の手で持つ部分を覆うように貼りついた。


 それに伴い、銀色だった槍の表面に紅色の筋が走る。


 シールドは大きいので、私は正面からすっぽり覆われるような形になる。さらにシールド自体は半透明なので、前を見ることは可能だ。


 これなら、相手の反撃を気にせず突っ込める。


「やあぁぁぁぁぁああああああああああっ!」


 私はベルティーユを見据えて構えると、突っ込んだ。


「くっ、仕方ないか……。らあぁぁぁぁぁぁああああああああ!」


 突然の変形に、しばらく様子見をしたかったのであろうベルティーユは、仕方ないと割り切って、迎え撃つ形で突っ込んでくる。


 あと、距離五メートル。


「――――『螺旋凱槍らせんがいそう』ッ!」


 必殺の一撃の技名を、私は叫ぶ。


 形態変更した槍の『螺旋凱槍らせんがいそう』は、一味違った。


 名を叫ぶと同時に槍は灼熱色をおび、私を護っているシールドまでもが高速回転しはじめる。


 相手に引きつけられる力もずっと強い。


 ギャリインッ 


 ベルティーユの交差した二本の剣に向かって、槍は突っ込んでいく。


「はあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!」


「ぐっ……がああぁぁぁぁぁああああああぁぁぁああああああ!」


 互いの全力で押しあい、武器の接合点で火花が散る。


 しかし、こう着状態はすぐに崩れた。


 パキィィィイイイイイイン!


「な」


 ベルティーユの二本の剣から、音がする。


 ――私の槍がベルティーユの二本の剣を折った。


 ベルティーユは目を見開いている。


 槍はそのまま、ベルティーユの胸元に直撃する。


「……ぐっ……が、あぁ……」


 そこでイレイザーのHPが尽きてしまい、ベルティーユは崩れるようにして海へ墜ちる――と思った瞬間、姿がかき消えた。


 どこに!? と周りを見渡すが――どこにも姿は見えない。


 どうやら、時間移動の維持限界時間に達したようだ。


 私は振り向いて、もう一つの戦場を見遣る。


「――――重!」


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