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No.13 クエスト決行、5日前

 次の日の朝。私たち『黒騎士騎士団』の面々は、学長室にまたいた。


「先日のクエストはありがとうね。昨日はしっかり休めたかい?」


 という学長の切り出しから始まり、しばらくいろいろ確認した後、例のクエストの話に移った。


「えっと、もうみんな知っていると思うけど、このあいだ僕の言っていたもう一つのクエストの内容説明をしようと思う。


 内容は至ってシンプル――黒騎士の再現、だ。


 今回の詳しい作戦内容は、玲君に話してもらうね。


 じゃ、あとは頼むよ、玲君」


「はい、まかせてください、関根さん。


 さて、じゃあ早速、説明しますね。


 黒騎士事件に直接かかわる兄さんと優姫さんは、よく聞いててください。


 もう、あえて黒騎士事件に必要な道具とか計算とか時間移動に関する事とかそういうのは省いて、具体的な内容について話しますね。


 まず、世界中の核発射装置へのハッキングですが、それはこちらで行います。一番遠い場所だと世界の裏側辺りですからね、兄さんたちが行ってからだと時間が足りませんので。


 次に、兄さんたちのすることですが、おおまかに分けると行動の流れは三つあります。


 まず、ミサイル撃墜地点までの移動。


 次に、ミサイルの撃墜。


 それから、各国政府に対しての心感鉱の発掘場所を明かすこと。


 それが終わったら、だいたい時間切れになると思います」


「あ、ごめん玲」


「なんですか、優姫さん」


「私は、なにをすればいいの? その流れだと、私は必要なさそうだけど」


 今、玲が言った大まかな流れの中には、私が必要になりそうな場面は見当たらない。


 具体的に私がどう立ちまわる、いや立ちまわれるのかさえわからなかった。


「それについては、ちゃんと考えがあります」


 玲はまかせてください、と言わんばかりににっこり微笑んだ。


「優姫さんには、兄さんと一緒にミサイルの撃墜を手伝ってもらいます」


「え? でもそれだと、重と一緒に私の姿も見られちゃうんじゃ……?」


「そうですね、今の機体の状態で行ったら、確かにそうなりますね。


 ですから、今回優姫さんの機体にはとあるプログラムを組み込ませてもらいました」


「とあるプログラム?」


「はい。あの頃のレーダーに感知しなくなるようになる、特殊な磁場を周囲に形成するプログラムです。


 もう既に世界中で流布している、公式のプログラムなんですけどね。


 優姫さんにはそれを使ってもらって、人知れずミサイルを破壊してもらおう、というわけです」


「ん、玲、俺からも一ついいか?」


「はい、なんでしょう、兄さん」


「優姫がそのプログラムを使ってミサイルを墜とすのはいいとして、いきなりミサイルが消えたら不審に思われないか?」


「そちらについても、ちゃんと考えてます。


 優姫さんがミサイルを墜とすときに、兄さんが手をかざすなり、剣を振るなりすればいいんです。


 当時の人たちにはそれで十分通用するはずですから」


「あ、そっか。黒騎士の映像にそんなシーンがあったね、たしかに」


「ええ、そのとおりです、ほのか。


 でも残念ながら、その映像の通りにはならない可能性が大きいので、過信することはできません。


 ですから兄さんや優姫さんは、油断せず十分警戒してクエストに当たってください」


「え? 玲、事件自体は過去のことなのに、なんであの映像通りにならない可能性が高いの?」


「優姫、それはだな、俺たちが行う時間移動による変化は、この世界におけるものではないかもしれないからだ」


 玲が口を開く前に、重がそのことについて説明を始める。


「? どういうこと、重」


 重はいまから説明する、と続けた。


「優姫、俺たちは、今いるこの時間軸から遡って事件が起きたころに戻るわけだよな?


 その戻った時間軸では、潰えてしまったはずの沢山の『未来への選択肢』がまだあるわけだ」


「ふんふん」


 休日の朝に、『今日の過ごし方』がいっぱい存在するように、過去の休みの日にも沢山の『今日の過ごし方』があった……ようなものかな。


「で、時間を遡るということは、その移動した時間から、今俺たちのいる時間までをリセットする行為に等しい。


 簡単に言えば、その時からのデータを上書きする、ってところか。


 だから、今いる時間軸というのはあくまでただの一例――一つのセーブデータにすぎない。むしろ全く同じセーブデータを再現するのが難しいように、俺たちがまた『同じセーブデータ』をつくることはほとんどありえない――むしろ世界が滅びるというバッドエンドになってしまうことさえありえる。


 だから俺たちは、油断せずに今度のクエストに当たらないといけないんだ」


「え、ちょっと待って。それって……」





 同じ『セーブデータ』を作り出すことができない、ということは。





 同じ『データ』――つまり私が今いるこの瞬間をもう再現できない、ということで。





 私たちはもう、この時間軸――今いるここにはもう戻ってこれない、ということ?





「優姫さんたちは戻ってこれますよ」


 玲が、私の心配を払拭するように言った。


「優姫さん、こう考えてください。


 今回行う時間移動による過去の改変は、あくまで優姫さんたちが存在した間――黒騎士事件が起きた時間においてのみ、反映されるんです。


 兄さんの言う『上書き』は、そういう意味でぴったりの表現ですね。


 何か決定的な変化がない限りは、そうそう世界のシナリオが書き変わることはありません」


「…………そ、そっか……」


 いまいち理解できた気はしないけど――とりあえず、今回の場合においては、作戦が『成功』すれば問題ないのだろう。


「……ううぅぅ……」


 となりを見ると、ほのかがふらふらしていた。……頭の処理が追い付かなかったらしい。


 よくわかるよ、ほのか……とほのかに同情の視線を送っていると、玲が作戦内容の説明を再開した。


「っと、まあ時間移動に関する講義はこの程度にしておいて、作戦の説明を続けますね。


 さっき言い忘れてたんですけど、優姫さん、例のレーダーに映らなくするためのプログラムを発動している間、すべての無線機器が使えなくなります。


 ですから、ミサイルを墜とす際には、兄さんに何かしらの合図を送るようにしてください」


「あ、うん。わかった。重、その辺はここ数日の間に一緒に考えて決めよっか」


「ああ、そうしよう」


 重が私の提案に、すぐ同意してくれる。





「「……仲いいなぁ(ですね)……」」





 そのとき、なにか聞こえた気がした。


「ん? なにか言った、ほのか?」


「いや、ただ事実を述べただけだよ、お姉ちゃん」


「玲もなにか言ってなかったか?」


「いえ、普通の、ありのままのことを口走ってしまっただけですから。気にしないでください、兄さん」


「「ふーん、そっか……」」


 確かに今、なにかぼそぼそ言ったはずなんだけど……。まあいいや、様子から察して、あまり大したことじゃなさそうだし。


「あ、玲、もうひとつ訊いていい?」


 ふと疑問が湧いて、玲に訊ねる。


「なんですか、優姫さん」


 玲はこっちに身体を向けた。


「私たちが過去に行っている間、ほのかは何をするの?」


 ほのかも作戦説明を受けに来ているのだ、何かしらの役目を負っているはずだろう。


 しかし、それに対する返答は、ちょっと意外なものだった。


「なにもしませんよ?」


「えっ?」


「厳密には、ほのかのイレイザー……というかクウォークを借りるので、なにもできないというのが本当なんですけどね」


 玲は苦笑しながらそう言った。


「クウォークを借りる? なんで?」


「過去に跳ぶためには莫大なエネルギーが必要になる、ということはもうお話ししましたよね?


 ほのかにクウォークを借りるのは、そのエネルギー源の一つとして利用するためです」


 なるほど。確かにクウォークには、反物質の生成を行うために、核によるエネルギー発生装置が搭載されている。さながら、小さな原子力発電所、といったところか。


 原子発電所と言っても二十世紀初頭のころに使用されていたものに比べると、収納石や反物質のおかげで、ほぼ完璧に安全性が確保されている。だから、クウォークに搭載されている核が、拡散される危険性はゼロに等しい……らしい(父さんが昔言っていた)。


 ちなみにイレイザーのHP回復――厳密にはクウォーク内の核を制御するために必要な物質の再装填作業――は、機体の中に入っている装置が行っているため、時間が経てば勝手に行われる形になっている。



「あ、でもほのかには優姫さんたちが帰ってきた後に頑張ってもらいますよ」


 そのとき、玲が付け足すように言った。


「え? なにするの?」


「優姫さんたちが墜とすミサイル以外の核ミサイルの処理です。


 優姫さんたちが墜とすのは、そのときたまたま発射できる状態にあったものだけです。


 そうなると当然、発射できる状態になかったミサイルが残ってしまいます。ほのかにはそれらの処理をしてもらうんです」


「あ、そっか。それも必要だね」


 黒騎士事件の後、人類は一時的に核ミサイルをすべて失ってしまった。そのために必要なことなのだろう。


「ほのか、私たちの後は頼んだよ」


「うん、まかせて、お姉ちゃん」


 ほのかはしっかりと頷いた。


「他に何か、訊きたいことなどはありますか?」


 玲が訊ねる。が、声をあげる者はだれもいなかった。


「……ないようですね。では、私からの説明は以上です。関根さん、あとはどうしますか?」


 後ろでずっと書類に目を通していた学長は、顔を上げる。


「ああ、終わった?


 あとは各自、自由にしていいよ。僕個人から言うことも特にないからね。


 騎士学園学長として言わせてもらうとすれば……一つだけ。君たちの今度のクエストは、人類にとって重要なことだ。だから、作戦決行のその日まで、君たちができることは全部やっておくように。……そのくらいかな。


 僕からは以上だよ、玲君」


「わかりました。では、みなさんには私からやってほしいことがありますから、今からそれを言いますね。


 っと、そのまえに優姫さん、これを」


「あ、私のイレイザー」


 玲が、私のイレイザーを収納した紅い収納石を手渡してくる。


「優姫さんには早速、兄さんと『絶対防御』の練習をしてもらいます。アリーナにはもう既に申請してありますので、この後向かってください」


「わかった」


「了解」


「ほのかは残ってください。話したいことがありますから」


「おっけー」


「それと最後に――」


 そこで玲は大きく息を吸って、言い放った。




「――今度のクエスト、絶対成功させます! みなさん、頑張って行きましょう!」




「「「おー!」」」


 私たちが声をそろえて答えると、玲ははにかんだ。


「……えへ、ありがとうございます。では、さっき言った通り兄さんたちは行ってください」


「うん。じゃあね、玲、ほのか」


「またあとでな」


「ええ、またあとで」


「がんばってねー、お姉ちゃん、重!」


 私たちは礼をして学長室をあとにし、アリーナへと向かった。









「さてと。玲、話したいことって?」


「えっと、優姫さんのことなんですけど――」


「んー、私からは何とも言えないな」


「……先に答えないでください」


「まあまあ。訊きたい事には大体見当が付いてたからね、ちょっと先回りしただけだよ」


「はぁっ……。まあそれはいいです。なんで、『何とも言えない』んですか?」


「お姉ちゃんが覚醒するには、あまりにも時間が足りなさすぎる気がするんだよ。いくら条件がそろってる、といってもね」


「……ですよね。できればもうちょっと、はやく接触したかったんですけどね」


「それこそ今言ってもどうしようもないでしょ? それに私は、『何とも言えない』って言ったんだけど」


「え? 可能かもしれないんですか?」


「んー、微妙だね」


「……」


「そんな顔しないでよ、玲。私にもどうしようもないんだからさ」


「……私がこんな顔をしているのは、あなたが煮え切らない返事ばかりしているからですよ、ほのか」


「おっと、ごめんね。じゃあ結論を言うと――この三日間でどれくらい重との距離が縮まるか、それにかかってるよ」


「正確に言えば、あとはどんどん膨らんでいく自分の気持ちに気付けるかどうか、なんですけどね」


「あれ? もうそんな段階までいってる?」


「はい、今日の昼過ぎに優姫さんが言ってました――兄さんが目の前で泣いてるのを見ていたら、今私が動揺してたらだめだ、しっかりしないと……。そう思ったって」


「……あんまり当てにしてなかったけど……やっぱり昔の感覚が残ってるみたいだね。


 お姉ちゃんがこの学園に来てから頑張ってたって聞いてたけど、たぶん昔に比べて自分の力が弱くなっていることにたいして、無意識のうちに焦ってたからなんだろうね」


「まあ、そうでしょうね」


「……策士さんだなあ、玲。気付いてたんだね?」


「そうだったらいいなー程度でしたけれど。まったく考えてなかったと言ったら、ウソになりますね」


「……そっか。玲は鋭いなあ、妹の私でも気付けなかったことに気付いてたなんて。


 ところで、そんな策士さんはお姉ちゃんの『紅化』のこと、重にはなんて言ってるの?」


「『情熱の紅』と言ってありますよ」


「……がんばれ―、お姉ちゃん……。挽回するのが大変だろうけど……」


「仕方がないじゃないですか! それ以外なんと言いようもなかったんですから!」


「……まぁ、『憤怒の紅』とか言われるよりかはましだけどさ……。でも、乙女心をそんなふうに言うのはちょっと……」


「いいじゃないですか! わかった時にはどうせ同じでしょう!?」


「うわ、開き直った」


「ふんっ! この件については開き直ってなんぼですからっ!」


「わあ、こんな玲初めて見た……。でもまあ、さっきも言ったけど、悪い判断ではなかったと思うよ?」


「……優姫さんは、兄さんほどではないにしても、一応あの実験での二人目の適合者ですからね。


 ……イレイザーの色自体が赤だったことと、兄さんに比べて変化が小さかったのとで、最初見落としそうになりましたけど。


 何かしらの感情がクウォーク暴走の原因になっていることはわかりきってましたから、兄さんにはそうとしか言えなかったんですよ。……すいません……」


「仕方ないよ、玲。私も玲の立場だったら、同じようなこと言っただろうから。


 というか重がすごすぎるんだよ。普通、反物質の炎が出るまで感情が高ぶるなんてありえないよ?」


「……そうなんですよね。


 兄さんのに比べると、優姫さんのは精々鎧の色が変わる程度なので見劣りしてしまいますけど、優姫さんのも十分すごいんです。


 『絶対防御』を発動させるためにも、それで可能になりましたしね」


「『絶対防御』を発動するには、まず盾に一定量を超える反物質を流さないといけないからね。


 それに、あれを発動したときにしかできない形態があるから。


 お姉ちゃんには頑張ってもらわないと、ね」


「そうですね、あれがあるのとないのとでは、優姫さんの強さも段違いですからね」


「あれ、でも今回のクエストで『絶対防御』やアレは必要になるかな?


 考えてみれば、今のお姉ちゃんの力でも十分事足りるんじゃない?」


「いえ、優姫さんには兄さん――黒騎士の手伝いをしてもらうんです。


 誰かのサポートというのは、その人と同じくらい強くないとできません。背中合わせで戦う、といえばわかりやすいですかね」


「すっごく騎士らしい表現だねぇ。でも、お姉ちゃん、そんな一気に強くなれるかなあ」


「できない話じゃないはずですよ? 優姫さんは、かつて兄さんとタッグを組んでいたくらいに強かったですから」


「……そうなんだけどね。ま、それもこれも、お姉ちゃんと重の仲次第だね。


 クエストまでの間、お姉ちゃんと重はなるべく一緒に行動させるつもりなんでしょ?」


「ええ、もちろん。騎士活動中はずっと一緒に行動してもらうつもりです」


「あと五日しかないから、もう半分賭けと言っても過言じゃあない。その方がいいだろうね、玲君」


「あ、関根さん。書類整理の方、どうですか?」


「あと三分の一くらい、かな。ちょっと目を休めようと思ってね」


「学園長ともなると大変だね、関根さん」


「他人事じゃないですよ、ほのか。あの書類、全部今度のクエスト用に借りた、エネルギー供給源とかの貸し出しにかんする書類ですよ?」


「これ全部!? 多すぎない!?」


「いやー、時間移動には原子力発電所三個分くらいのエネルギーが必要になりますからね。あれでもギリギリまで削ったものなんですよ?」


「この量で……!? ……関根さん、なにか手伝いましょうか?」


「あ、うん。ありがとう。じゃあ、お茶を淹れてもらっていいかな」


「はい、わかりました」


「関根さん、私も手伝いましょうか? しばらくの間は手持無沙汰ですから」


「じゃあ玲君には、こっちの書類の整理を手伝ってもらおう」


「はい、承りました」


「……あれ、私は戦力外ってこと?」


「「…………」」カリカリ。


「なんでふたりとも何も言わないの!?」



特訓中にて。

重「もっと! もっと、熱くなれよぉおおおおお!」


優姫「……と、突然どうしたの、重?」


重「……あ、いや、なんでもない……」

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