No.01 黒騎士事件
どうも、初めまして。川崎 悠という者です。
本作「黒騎士物語 -The black knight's story-」をお読みいただき、ありがとうございます。
自分もネット上で公開する以上、恥がないようなるべく邁進していく所存ですので、どうか今後ともよろしくおねがいします。
「大統領! 朝鮮半島でも、核を積んでいると思われるミサイル三発が発射されましたっ!」
衛星モニターを見ていた通信兵が悲鳴を上げる。
「そんな……」「まだ増えるというの!?」「もうおしまいだ……」
その報告にどよめく大臣たち。
「…………」
そんな中、大統領は一人ただただ沈黙していた。
二〇四五年某日、世界各国で核を積んでいると思われるミサイルが、太平洋上のある一点を着弾点として、ほぼ同時刻に着弾するように次々と発射されていった。
アメリカにあった核ミサイルも、つい数分前に謎のハッキングを受け、発射された。
原因は不明。同盟国に連絡したが、「わからない」の一点張り。
アメリカ大統領は、今の状況について考えを巡らせる。
――既に地球を滅ぼすためには多すぎるくらいの核ミサイルが発射されている。
たとえ撃墜したとしても、その時点で地球が持たないし、なにより全てを叩き落とすこと自体が不可能……。
「……神よ……!」
ここまでくれば、誰かが意図して世界中の核ミサイルの発射システムを支配、強制発射させたことは明白だ。
理由はわからないが。
だがそれも、今となってはどうでもいい。人類ができることは、ただ祈ることのみ……。
「神よ……」「あぁ……」「神様ぁ……」
大統領が祈るのを見て、各大臣たちも手を合わせ祈り始めた。
人類が助かることを、この絶望的状況をひっくりかえす奇跡がおきることを願って。
ミサイルが目標地点に到着するまであと二分をきったころ、通信兵から再び報告が入った。
「!? 大統領、ミサイル軌道上になにかあります!」
どこか別の国が設置した、緊急措置的なものだろうか。
大統領はそう考え、呟いた。
「……いまさら何をしようと、無駄だよ。手の打ちようがないからな……」
はぁ、と大統領は溜息をつく。
一方で、衛星モニターを見ていた通信兵は驚愕していた。
「……なっ……!?」
「ん? どうした? この状況下で、驚くようなことがあるのかい?」
大統領の投げやりな言葉。それに対して、通信兵は現状の報告をする。
「……ミサイルが……消失しました……」
「……なんだって?」
世界中の核ミサイルが集結しているのだ、見間違えたのだろう――と、モニターの映像をスクリーンに投影させる。
――すると、次から次にミサイルが消えていく異様な光景が映し出された。
「なんだ、これは……!?」
会議室にいた者全員が、息をのむ。
「あ、あれは!?」
不意に、大臣の一人がモニターの一点を指さしながら声をあげる。
……よく見ると、ミサイルが消える寸前に小さな何かが動きまわっているように見えた。
「おい、この小さなものをズームしてくれ!」
粗暴な言葉に従い、モニターの映像が拡大される。
――それは騎士だった。ミサイルに比べれば蟻のように小さい。
黒い甲冑を身にまとい、漆黒の大剣を振り回している。頭にも黒い兜をかぶっているようだ。
見たところ、騎士は空中を自在に飛べるらしい。
騎士は近くにあるミサイルに近づき、それをぶった切るように大剣を振りぬく。
すると、ミサイルは半分も斬られないうちに、まるで剣に吸い込まれてしまうようにして消えてしまった。
一つ消えたと悟ると、騎士は近くにある別のミサイルに斬りかかる。
そしてまたミサイルを消すと、また別のミサイルに突っ込んでいく。
そんな調子で、騎士はどんどんミサイルを消していった。
大統領たちはモニターに見入っていたが、いつの間にか「そこだ、いけ!」「頑張れ!」などと応援しはじめていた。
そこで突如、悲鳴が上がった。
騎士の背後からミサイル十数発が迫ってきている。騎士もまるで気付いている様子がない。
ああ、当たってしまう――!
と、騎士はまるで背中にも目が付いているかのように振り返った。
やった、と大臣たちが安堵するが、騎士は剣を振り上げるような素振りを見せない。むしろ剣を持った右手をだらりと下げている。
代わりに、騎士は空いている左手を前にかざした。
騎士の意味不明な行動に、大臣たちは「なにをしているんだ」と叫ぶ。
しかし、目に見えない壁に吸い込まれていくように、ミサイルは先端から消えていった。
一転して、大臣たちは驚き、歓声を上げる。
そして騎士はまた、他のミサイルに向かって飛んでいった。
しばらくして、ミサイルは一基残らず撃墜された。
救世主だ、ヒーローだ、などと興奮冷めやらぬ様子で大臣たちが騒ぐ中、スピーカーにノイズが走る。
「――ザッ――ザザザッ――あ、あー。テス、テス。
各国政府の方々、聞こえますでしょうか。俺は、今ミサイルを墜とした者です」
まだ若い男の声に、会議室はざわついた。
「先に言っておきますが、俺はどの国家にも属していません。
ですから、そうですね、俺の事は黒騎士とでもお呼びください」
彼、黒騎士はそう言うと、モニターの中で深々と頭を下げた。
「俺がここにいるのには、理由があります。各政府で協力して、やってほしいことがあるからです」
なんだろう、と身を乗り出して聞く大臣たち。
その一方で、大統領は考えていた。
なぜ、黒騎士は核ミサイル到着地点にいたのか。
なぜ、黒騎士は「各国政府の方々」を対象に話しかけているのか。
なぜ、黒騎士はこの会議室のスピーカーを使えるのか。
結果、一つの結論に至る。核ミサイルのハッキング・発射を行ったのは、彼ではないのか。
「その前に、一つ事実を言っておきます。世界中の核ミサイルを強制発射したのは、俺です。
それを理解したうえで、俺の言うお願いに乗るか乗らないかを判断してください」
ざわつく大臣たち。
大統領も戸惑っていた。それを暴露して、これからどう交渉するのだろう、と。
「俺の言うお願いというのは、木星と同軌道上にある星の調査です。
そこでは、今の科学を震撼させるだけの物体が見つかるはずです」
完全に予想外の要求に、大統領、大臣たちの困惑はより大きくなる。
しかし、彼が続けた一言により、彼らの困惑は吹き飛んだ。
「その物質を利用すれば、俺のこの力を誰でも得られるようになるでしょう」
大統領たちは誘われた――彼の言葉が本当なのか、詳しく吟味する気をなくしてしまうぐらいに。
核ミサイルさえも凌駕できる力を、誰もが持てる。その魅惑は、とても強かった。
「核ミサイルは今やもう存在しません。俺が全部墜としましたから。発射されてなかったものも、すべて無くなっているはずです。
だから、西とか東とか関係なく、協力して目的を達してほしい。その末に、この力を得てほしいのです。
そしたらきっと、世界は平和になるだろうから。
それが、俺からのお願いです。……よろしく、お願いします」
そこで彼はまた深く腰を折り、では、と小さく述べて、消えるようにいなくなった。
これが『黒騎士事件』の一部始終である。
この後、世界は大きく変わった。
事件のあとすぐに各国の研究者たち有志を集めた機関を作り、例の星への調査を行ったところ、心に反応する性質を持つ鉱石『心感鉱』が発見された。
この『心感鉱』は、黒騎士の言ったとおり、今までの科学を震撼させるものだった。文字通り心に反応する鉱石なのだが、逆に言うと、本当に心にしか反応しないのである。
実際、人の神経を流れる電流と同じ電流を流しても全く反応しないというレポートが提出され、その結果はただの一度も覆ることはなかった。
また、事件によって、騎士には警察以上に『正義の味方』というイメージが持たれるようになった。
そのため、各国では警察に代わり騎士を導入するようになり、日本でも事件から三年も経たないうちに騎士制度が確立された。