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4,茉衣


 2年7組、帰宅部所属の茉衣。

 この茉衣と蒼の関係を、ただ一番仲の良い友だちだ、とだけ説明するのはあまりにお粗末であろう。この二人について話すと、きっと数十分、へたすると数時間もかかることになる。そう言ってとしても、おそらく過言ではないはずだ。しかしそんなに時間をかけてしまうのは、些か厄介で面倒なこととなる。だからここでは、簡潔に語ることとしよう。



 

 蒼と茉衣の初めての出会いは小学校。

 小学三年生のとき、同じクラスになり、仲良くなった。いや、こう言うと語弊を招いてしまうだろう。二人は直接知り合ったのではない。単に、蒼の友だちが茉衣とも仲が良かったのだ。そして三人で遊ぶようになり、しだいに蒼と茉衣は交流を深めていった。

 とまあ、小学校パートはこんなものでいいだろう。特に何かあったという訳でもない。・・・・・しかしそれでも1つ上げるとするならば、それは二人の好きな人は同じ人だったといったことだろうか。でもこれは小学校の時には何ら関係はない。なので次を語ることにしよう。


 

 次に二人は同じ中学に入学した。この学校は小学校から中学校へは、入試はあったもののほぼエスカレーター式になっており、二人が同じ中学に通うのはいわば必然のことだった。クラスは違ったものの、二人は同じ部活に所属していたので、放課後になるといつものように顔を合わせた。部活は運動部。ここで蒼は爽やかに青春を過ごしたのだった、と語りたいものだが残念なことにそうはいかない。蒼の中学生活は波瀾万丈の人生だった。 一つ上げると、それは今まで蒼が必死に自分の想いを隠し、明かしていなかった好きな人のことが茉衣に知られてしまい、それによる茉衣との衝突。

 次に上げると、部活内分裂。幾多も部活内で口論、考えのすれ違い、挙げ句は無視などの精神的争いを頻繁に起こす。結果的には一人が転部し、この部からいなくなったということで片が付いた。

 最後に上げると、中学三年の頃に、クラスで一番仲の良かった蒼の友だち(茉衣とは又別の人)の突然の入院。理由は心臓の弱小化だった。それにより、蒼はクラスから存在が浮き、孤独というものをある程度の期間、味わうこととなる。

 こうやって並べてみると、実に蒼の人生はおもしろい。哀愁ともいえるだろうし、滑稽とも言えるだろう。蒼という一個体とは、こういうものだ。

 そしていろいろあったものの、蒼と茉衣は親友になった。いくらか衝突はしたものの、それも和解し、今では一番の心の友と呼べる関係にまでなった。蒼は趣味も合うし、話していておもしろい茉衣のそばにいることに、いわゆる安心感という物を得た。心から笑えて、大声で笑い、叫びあう時間が蒼は好きだった。

 でも一つだけ。

 ほんとうに小さくて、他人にとったらどうでもいいと言われるかもしれない問題を蒼は考えていた。考えていた、と自発的に言うより、考えさせられていた、と強制的に言った方がこの場合は正しいのかもしれない。それでその悩みというのは、

 茉衣が人から好かれやすい人だ、ということだった。

 いや、何も蒼は茉衣を独占したいという独占心に駆られた訳ではない。そうではなく、蒼はいつも好かれている茉衣をうらやましく思う。茉衣は人と会話をして、相手をその気にさせ、意気投合するのが上手く、そしてなにより話しやすい。そんな茉衣ならば友だちがたくさんできてもおかしくないのだ、と蒼だって理解している。それでも、二人一緒に歩いていて,茉衣が他の人に声をかけられたりするのを見ると、切なくなった。人と上手く話すことが出来ず、そこら辺を彷徨き回ることしかできない自分が歯がゆかった。そんな感情を感じる時が、蒼は一番嫌いであり、憂鬱であった。これが、おおまかな蒼の中学生活である。

 ・・・・・さて、中学パートはこんなものでいいだろう。雑にまとめてしまった感はあるが、さしてここもあまりこれからの物語には意味を成さない。単なるお菓子についているオマケだと考えた方がいいかもしれない。本題は、次のパートだ。


 

 1年5組。

 同じ、しかもトップクラスという生徒に蒼と茉衣はなり、二人で喜びを分かち合ったのは、西宮高校初日の日だった。二人で新たなクラスへ胸を躍らせながら向かい、5組の扉を開く。あの頃は、これから楽しくて充実した生活がやってくるんだと輝かしく思っていたものだ。今振り返ってみると、とてつもなくバカバカしい。鼻で笑い飛ばしてしまうほどに。

 でも実際、始まったばかりの四月の半分ほどまでは楽しかった。授業は・・・・・そりゃまぁ難しくなったし進度も早くはなったがそれでも、毎日学校に行くのが楽しみだった。茉衣と教室で顔を合わせ、語りながら二人で笑う。あぁ、これから青春が始まるんだ。蒼はそれを信じていた。

 だが蒼の予想は見事に裏切られることとなる。茉衣が鬱病という病気にかかり、学校に来なくなってしまったのだ。茉衣の本当の気持ちは茉衣にしか分かり得ない。その原因を推測して上げるとすれば、クラスが自分には合わなかった、考えていた華やかしい高校生活と実際のものとは大きくかけ離れていた、そんなところだと思う。他の人たちは、蒼と茉衣が二人だけで仲良くしている間に、まとまりを作り出し、グループに属して昼食をとるのに、茉衣と蒼はいつも二人での弁当の時間だった。二人の方が楽しかったし、二人だけの方が気楽だったからだ。他に、茉衣は中学校の時があまりにも楽しかったからその落差が激しかったらしい。茉衣は心の病にかかり、数ヶ月にも渡り自宅療養することとなった。しかし、それで残されたのは蒼。茉衣といつも一緒だったため、クラスの人とほとんど話したことなどなく、蒼はクラスに一人取り残された。移動教室の時も一人、体育の更衣室に行くときも一人。蒼自身一人になることに何の躊躇いもない。むしろ笑えもしないところで笑顔を作ったり、相手の話しに合わせながら話すことをしなくてもいいので清々する気持ちだった。けれども、蒼に悩みがあったのは、みなに、うわ、孤立してるよ、という目で見られることである。侮蔑した目なのか、それとも憐れみを込めた目なのか。どちらにしても蒼にとっては耐え難いことで、それに気づくと苦虫を噛み潰したような顔をして、早々とその場を去る。他人にそう思われることは、屈辱的であること以外の何物でもなかった。他の人のところに話しに行けばよかったのかもしれない。でも、人見知りでなおかつ人の気持ちを考えすぎてしまう蒼に、当然のことながらそんな勇気など持っているはずはない。友だちと仲良く話しているときに途中で入ってくるなんて、迷惑だよね。これは蒼が昔実感したことだ。だからこそ、その気持ちを知っているから、他人のところには入れない。普通なら大切にされるべき優しい心が、ここでは蒼のあだとなり鎖となった。

 でもその一週間後、蒼は結局あるグループに入らせてもらうことになった。それも自分から、だ。耐えきれなかった。一人は、辛かった。笑えないのに、無理矢理笑顔を作って。話しを合わせるのも必死でして。蒼は内心自分を嘲笑った。お前は何がしたいんだ。結局自分って一体なんなんだ。嫌なくせに。こんなの、嫌気がするくせに。

 ・・・・・もう、何だろうなぁ・・・・・・・・・。

 この生活は、茉衣が学校に復帰するまでの三ヶ月間続くこととなる。




 2年8組。

 ろくに友だちもできないまま、ギリギリ留年を免れた茉衣ともクラスが離れて、蒼は2年生となった。




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