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桃色万引き

作者: たのシイナ


 額が広めといえば聞こえがいいが、ようするに禿頭。それに黒縁の眼鏡とくると、どうしても得体の知れない風貌で、贔屓目に見ても昆虫を思い出してしまう。


 ただし巣の真ん中で獲物を待ち構える蜘蛛だが……。


 そんな男・里中はスーパーマーケットの警備員。主とした仕事は商品を万引きから守ることにある。


 ある日のこと、獲物が紺色のデニムのスカートに赤いハイヒールを履いてやって来た。


 見回りで二階の婦人服売り場から下へ通じる階段に向かおうとしたとき、エスカレーターでその女が上がって来た。


 背の高い女だったので余計に目立っていた。見事なバストに、きゅっと締まったウエストと形の良いヒップ、そして驚くほど長い足。


 スカートは膝上なんてものじゃない。股下十センチかと思えるほどだ。


 歳は二十代なかばぐらいか。涼しい顔つきをしていて、入って来たときから気になった。


 ポニーテールにした髪が、歩を進めるたびに背中で揺れる。小さな花柄織りのブラウスの襟を立て、肩からは麻生地あさきじ風のトートバッグを提げている。


 身のこなしはしなやかで、お楽しみのためなら、ちょっとした冒険は歓迎よ、といった雰囲気だ。


 欲しいものには手を出さずに居られない。里中には、そんな女に見えた。

 いや、周囲を見回す仕草は、それらしいどころじゃない。この仕事が長い彼には、獲物を嗅ぎ分ける臭覚には自信があるのだ。


 里中は壁際の商品棚の陰に立った。

 女は下着売り場へと向かった。


 ことのほかセクシーなランジェリーの棚の傍で足を止め、ピンク色のパンティを掴むと、マッチするブラジャーを選び、辺りをもう一度見回してから試着室に入って行った。


 里中はカーテンの向こうで起こっていることを想像した……。


 女が出て来た。だが、手には何も持っていない。持って入った下着は試着室に置いてきたか、それともバッグの中か?


 女は急にエスカレーターに向かった。しかも、下りのエスカレーターの場所を間違えて、慌てて反対側に回っている。


 その様子に気付いたのか、ちょうど通りかかった掃除係のおばさんが声をかけた。


 女はそれに左手をちょこっと上げて応えると、明らかに一階の出口に向かってまっしぐらだ。

 おばさんは小さな段ボール箱を抱え、モップを手にしたまま見送った。


 これはもう間違いないと里中は思った。脚が許すかぎりのスピードで追った。階段を飛ぶように下りて、出口を出たところで女に追いついた。


「済みませんが、バッグの中を見せていただけますか?」


 女は驚いた表情を見せながら、トートバッグを開いて見せた。だが、下着はなかった。


「そうですか」里中は確信をもって言った。「ちょっと事務所までご同行願えますか?」


 女はその場を離れようとする。里中は女の二の腕を掴んだ。


「いやいや、人が見ているところで騒ぎを起こさないほうがいい。事務所に一緒に来てください」


 女は納得できない仔馬のように、ポニーテールの頭を揺すった。彼を腹立たしげに、そして強情そうな目で見た。その目は怒りと恥じらいに翳っていた。


 これは長年の経験からおなじみの表情だ。無言の罪の告白だった。直感は外れないだろう。


 中二階の警備員室へつづく階段は先に上がらせた。里中の目と同じ高さで形の良いヒップが弾んでいる。デニムのスカートから伸びた足が見事なまでに美しかった。


 部屋に入ると先ほどの掃除係の鈴木さんがいて、ダンボールの箱を片付けているところだったが、事務的な口調で言った。


「まだ途中だけど、あたしは出てった方がよさそうだね」


「ああ、悪いが後で……明日でもいいし」


 鈴木さんが出て行くと、里中は机に向かい合った椅子に腰掛けるようにと女に言った。


「バッグの中身をここへ出してください」


 櫛、口紅、財布、携帯電話と出て来た。


「試着室に入ったときに持っていて、出て来るときには無かった下着はご存知ありませんか?」


「ああ、あれね。試着室に掛かってます。元の場所に戻さなかったんです」


「すぐ、調べてみましょう」


 里中は受話器を上げた。出たのはフロア主任だった。

 二言三言で電話を終えると、里中はニヤニヤしながら暫らく考えていた。


「何もないそうです。胸のボタンを外して確認させて頂かないと……」


「なんですって?」


「冗談です。じゃまあ、後は警察に任せましょう」


 里中、また受話器を取った。ボタンを押し始めた。


「いえ、待って。警察はだめ」と女は慌てた。


「警察がだめなら、どうするつもりで?」


「返します」

 と女は立ち上がった。「返せばいいんですよね。試着室で返します」


「だめです!」


 警備員の語気に驚いて女の体が震えたようだった。里中は続けた。


「あなたは盗んだんですよね? 万引きですよ。再犯の場合は刑務所行きかも知れません。初めてじゃありませんね、どうです?」


 女は黙り込み、なかば諦め顔で椅子に座り直した。

 里中は同情の欠片も見せずに言った。


「やっぱり警察を呼びましょう」


「警察は止めて、お願いですから」


「あんなことをする前に、ちゃんと考えておくべきでしたね」


 目の前の嘆願の表情を見て、里中は考え始めていた。生殺与奪の権限を握っているのも悪くないものだ、と。


 今まででも似たような状況がなかった訳ではないが、今回ばかりは少し違う。いや、大きく違う。彼がそう考えてしまうほど、女は顔も容姿も美し過ぎるのだった。


「取り敢えず」と里中は言った。「名前を訊かせてください」


 目の前にノートを広げ、ボールペンを手にした。女は手元を見つめたまま黙っている。


「名前をどうぞ!」


 女はしぶしぶ名前を言った。


「歳は?」


「二十五です。あの……警察なしで、なんとか処理することは出来ませんか?」


「どういう意味です?」


 女は財布を出した。


「お金なら払います。もう二度と……」


「財布は仕舞ってください」

 里中は言いながら、相手をじっと見た。そして言った。

「この件を我々だけで解決するとしたら、カネは問題にもなりませんね」


「と言うことは?」

 女はやや希望に目を輝かせたが、それまでバストのあたりを舐めるように見ていた相手の視線を受けとめた。「まさか……」


「そう!」と、里中は上体を起こした。「その、まさかです。今ここで盗んだ下着を返してもらいましょう!」


「あの……どなたか女の人は」


「女店員?」


「はい」


「みな、本来の仕事で忙しい」


 それを聞いて、女はもじもじし出した。


「見るだけですか? それで許してもらえるんですか?」


「なに?」


「ですから、わたしの身体を見るだけ?」


 里中は机に両肘をついて身を乗り出した。


「あんたは、見るだけで満足できたの?」


「え?」


 女は言われている意味が理解できなかった。すると、里中がしたり顔で言った。


「自分の物でもないのに盗ったじゃないか、あんたは。私にしたって同じですよ」


 と、なにやら凄い理屈をつけて続けた。


「囚人服を着て刑務所に入るか、ここですべきことをするか、二つに一つだと思いますよ。

そこまで淫らな下着を着けた女性には、それ相応の期待をしてもいいと思いますね。さ、全部返しなさい!」


 女は二、三秒躊躇ってから花柄のブラウスのボタンを外し始めた。背中を向けてブラジャーを外し、後ろ向きで机の上にそれを置くと、再びブラウスを肩にはおった。


 次に向こうを向いて短いスカートの裾を上げると、商品のピンク色のパンティが現れた。それを指先で摘むと一気におろした。その下から現れた純白のパンティが眩しかった。


 里中はその対比に驚く。まさか白が現れるとは思っていなかったからだ。


 もっとも、ピンクの下着を万引きする女は純白の下着を身に着けない、などというのは里中の勝手な思い込みに過ぎないのだが。


 女は片手で胸を隠しながら、商品を机の上に返した。

 室内は不自然なほど静まり返っていて、聞こえるのは里中の息づかいだけ。


 彼はそこに座って、クリスマスプレゼントの包装紙が剥がされていくのを見つめる子供のように、一刻一刻を楽しんでいた。


 こんなことでもなけりゃ、鼻もひっかけちゃくれない若くて美しくて、びっくりするほどセクシーな女が、目の前で服を脱いでいる。しかも、俺だけのために!


 腰にある小さな下着は、隠している以上のものを露わにする。輝く絹の影とでも言ったらいいのか……あー、夢のようだ!


 いいい……ひゃっほー!


 里中はそんな奇声を張り上げたい、カウボーイの気分だった。古女房の豚のようなケツに、擦り切れたようなデカパンとは、えらい違いではないか。


 それに、羽織っただけのブラウスに隠れた、零れそうな乳房を両手で隠している姿といったら!


 ええい!

 りきんだ里中は思わず、しゃがれ声で命じた。


「スカートを上げて後ろを向け!」


 後ろ姿のほうが、さらにそそられるに違いないと思ったようだ。


 実際、細い紐のようなパンティが、きゅっと張り切った二つの尻の間に消えていくところには思わず息を呑んだ。


「そのパンティも取るんだ!」


「こ、これは、わたしのです」と、女は振り返った。


 里中は受話器を手にした。

 それを見た女は諦めたように腰を落とすと、純白の下着を引き下ろして片足づつ抜いた。


 デニムのスカートひとつで、隠れるようにして机の向こうにしゃがみ込んでいる。

 手にしたパンティを丸めて机の上に置いた。


 そのときだった。


 机の上の電話が驚くほど大きな音で鳴りだした。受話器に手をかけていた里中は、反射的にそれを取り上げていた。

 女は両腕で胸を隠した。


「も、もしもし? ああ、主任ですか」


 女と目が合って、里中は座っている椅子をぐるっと回して背を向けた。


「はい……分かりました。もう少しでこちらは片付きます。はい……はい、定時の見回りはそれから」


 受話器を置くと、また室内は静まり返った。女は机の向こうで目から上だけ出して、里中を見ていた。


 彼はいきなり思い付いたように椅子を引くと、屈んで机の下を覗き込んだ。


「きゃ!」


 女は慌てて膝を閉じた。


 一瞬だったが良い眺めだったのだろうか。

「はははは」里中は楽しそうに笑ってから言った。「こっちに来い」


 立ち上がって恐る恐ると素直に近寄る女。

 その姿を見たとき、何故なのか里中の頭に不安がよぎった。


 だが、その考えは頭から即座に振り払らわれた。それは無理もないと言える。


 目の前に、膝を僅かに震わせながら──里中にはそう見えた──小さなデニムのスカート一枚を身に着けただけの女が立っているのだから。


「手をどかせ」と里中は命じた。「胸を見せるんだ」


 女はゆっくりと手を下ろした。綺麗で形の良い乳房が現れた。


 里中の喉が鳴った。椅子の背もたれから上体を起こし、前屈みになりながら顔を近づけた。


「他に隠していないか調べる」

 里中は己の両膝を開いた。「足を開いてこの上に座るんだ」


 女は顔をそむけた。その態度が、蜘蛛の里中の自尊心を傷つけた。


「……ならいい。そんなに俺の顔を見たくないなら向こうを向け。そしてここへ座れ」


 言われたとおり、女はクルリと背を向けた。だが、突っ立ったままでいる。


「俺の膝を跨いで座るんだ!」


 里中は自分の膝をぽんぽんと叩きながら言った。


 女は膝を閉じながら後退りし、警備員の足に触れた所で、ゆっくりと腰を落とし始めた。だが、すぐに動きを止めた。


「ん? なんだ!?」


 女は応えない。


「ちっ!」


 男は焦り、怒った。そして両手を伸ばすと、目の前の腰をぱんと突いた。


「きゃ!」


 突かれた勢いで男の膝に腰を落とし、女は前屈みになって両手を床に付く格好となった。


「ああっ」


 女の腰は浮き上がり、両足も浮き上がった。バランスを保つために、床に手を付いたままで慌てた。


 こんな格好になるとは予想もしていなかったのだ。なんと女は勢いでじゃじゃ馬の如く両足をピンと伸ばした。


 まるで器械体操の選手のように、里中の膝の上で体を一直線に伸ばし、赤いハイヒールの裏が里中の目の前に迫った。


 それに腹を立てた里中。思わず、その足をぱんと払いのけた。

 女は床に転がった。両腕で乳房を隠し、体をくの字に曲げたままで。


「くそ!」と、悪態をつく里中。


 あろうことか、女の腰のあたりを蹴り放した。


「痛ーい! 許して」女の目が潤んだ。「蹴らないでー」


「泣いてるのか?」


 だが、女はまたそっぽを向いた。


「またかよ、まあいい」


 里中の黒縁眼鏡は曇りだし、禿げ上がった額は汗をかくほどだった。


 だが、女のほうは願い下げにしたかっただろう出会いの前と同じで、涼しい顔になり始めていた。


 女の表情の変化に気付いた里中は、再び不安めいた感覚を持ったが、もう遅かった。

 不可思議な力の推移が起こっていた。


 里中がまともな思考力を失うにつれて、若い女は立場を逆転させるように感情を奮い立たせていたのだ。


 そして、ついに言った。


「不潔な奴!」


 女の目は、いつの間にやら蔑むような目つきに変わっていた。


「は?」


「いつもこんなことやってるの?」と、女は起き上がった。「万引きを見付けちゃ?」


「いつもって訳じゃないが……」


 里中は、女の勢いにきょとんとしていた。


「恥を知りなさい!」


 女はトートバッグの中の携帯電話に手を伸ばすと、続けて言った。


「ここに全部録音してあるからね。この三十分に起こったこと。脅迫、職権乱用、婦女暴行。今、蹴ったでしょ。あんたこそ、これで刑務所暮らしは間違いなし、と」


 驚いた里中は、慌てて携帯電話をもぎ取った。だが、女は勝ち誇ったように言った。


「そんなことしても何にもならないわ。うちの留守電に全部残ってるから」


「ええ! でも、どうして? どういうことだ?」


 里中はもう何もかも分からないと言いたげに相手を見た。


「あら、そんなこと訊くの? よりによってあんたが? あたしが法に触れることをしたからって、そのあと脅迫したのはあんただよ。しかも、わたしを裸にまでして。

……今度はあたしの番。あんたのやったことは、下着の万引きとは比べものにならないほど罪が重いの。調子に乗り過ぎよ。さ、どっちにする?

警察か、それとも内々に済ますか。お金で済ませたげるわ。言ってみれば罰金ってとこね」


 里中は無言で居た。


「……なら、声を上げるわ」


 女は机の陰にしなを作ってしゃがみ込むと、悲鳴を上げる顔付きをして見せた。


「ま、待て待て。い、幾らだ?」


「十万、たった今現金で」


「そんなに持ち合わせがない」


「財布は?」


 そう言われて里中は渋々出した。

 財布を広げて女は言った。


「あるじゃないの」


「うちの奴に頼まれて、帰りに買い物する予定だったんだ」


「六……七万あるわ。まあいいわ」


「それを持っていかれちまうと」

 不満そうである。目の前に裸の女がいても、もうそれどころではなくなった。「うちの奴に殺されちまう」


「あら、肝に銘じとくといいわよ」


 と言いながら女は万札を胸元に滑り込ませる仕草をしたが、裸のためにそれは成らなかった。バッグの中に仕舞った。服を身に着けながら、女は続けて言った。


「今日みたいなことをしたんじゃ、刑務所に何年かだけじゃ済まないわよ。もう今の仕事には二度とつけないわ。

そんなに情けない顔しないの。警察は巻き込まないで内々に始末するって、自分でも言ってたでしょ?」


 そこまで聞いて、里中は訊いた。


「あのとき警察を呼んでたら、どうするつもりだった?」


 女は笑った。


「あんたには万引きを嗅ぎだす嗅覚があるけど、あたしには助平野郎がすぐ分かるの。でも良かったじゃない、オジサン。めったに見れないものが見れて。安いものでしょ」


 肝心なところは殆ど見てないことに気付く里中。高い授業料だった。


「そうか、いつもこんなことしてるんだな?」


 女の口元が僅かに笑ったように見えたが、女がすぐに踵を返して部屋から出て行ったため、それは気のせいだったのかも知れないと里中は思った。


「はい、失礼しますよ!」

 と、清掃係の鈴木さんが戻って来た。いつものように机の上を拭き始めたが、ふと顔を上げて里中を見た。「あら、浮かない顔、しけた顔だねえ」


 反応がなかったので、鈴木さんは灰皿をバケツにコンコンと叩いて灰を捨てた。


「なあ、おばちゃん。俺がもし、この職を失ったとしたら、今の時代、大変かなあ」


 カンッともう一叩きした鈴木さん。


「どうしたね……あんた五十近いだろ? 余計なこと考えないほうがいいよ、その歳じゃ。なかなか仕事はめっからないからねえ。

それに、あたしみたいにサイドビジネスでもやらないと、なかなかお金も貯まらないし……」


「おばちゃんのサイドビジネスって、ここの掃除か?」


 と訊いてみた里中だったが、その答えにはそもそも興味がないのか返答を待つふうでもなく、さりとて急ぐふうでもなく、はあっと溜息をついてから見回りに出て行った。


 たぶん、先ほど七万円で済んだことを喜ぶべきかと、自分を納得させる溜息だったようだ。


 警備員が居なくなった警備員室で、

「いんや」と遅れて返事した鈴木さん。


 机の前の壁際に置かれたダンボールの小箱を抱え上げた。蓋を開け、手を差し込むと、小型のビデオカメラの停止ボタンを押した。


 巻き戻す。再生ボタンを押した。


「へえ……いい女だねえ」


 小さなモニターに先ほどの女の後姿が写し出された。裸の背中。めくれ上がったスカート。尻の形が逆さまにした桃のように美しい。


『も、もしもし? ああ、主任ですか』


 里中の声だ。机の向こうに座っているのだろうが、女の背中で見えない。今、彼の声の質が変わり、向こうを向いて喋り始めたのが分かる。


 すると女が動いた。中腰になって机の上に手を伸ばしている。ポニーテールの髪が揺れ、スカートの裾からは割れた桃が覗いている。


「あらららららら、今回のは中身が濃そうだねえ」

 と、鈴木さんは唸った。


 見ていると、女はトートバッグの中から携帯電話を取り出して、何かのボタンを押したようだった。


『はい……分かりました。もう少しでこちらは片付きます。はい……はい、定時の見回りはそれから』


 受話器を置きながら里中がこちらに向き直るとき、女は机から離れて腰を深く沈めた。


 その直後に、『きゃ!』という女の声。


 驚いた鈴木さんはモニターを凝視した。そこには膝を閉じて床にぺちゃんと座り込む女の後ろ姿が。片方に傾けた体の脇からは、机の下で覗く里中のにやけた顔が映っていた。


「ふんっ、助平め!」


 まるでエロ蜘蛛だねと、鈴木さんは思いながら停止ボタンを押した。


「これは高く値が付きそうね」

 と、小箱ごと大事そうに抱えて部屋から出て行った。



 ‐了‐

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