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継母と義妹にいじめられてますが、本屋で出会った男性に大切にされるようです  作者: 冬木ゆあ


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第5話 ウィルフリッドの覚悟

 ウィルフリッドは自室で、昨日のダンスパーティを思い出していた。

 リディアと会えたことは嬉しかったが、クレアの行動が気になってしかたがなかった。


 ――あれは娘に対する態度だろうか。嫌な気分だ。


 ウィルフリッドが鈴を鳴らすと、ひとりの若い茶髪の男性が入ってきた。


「御用でしょうか」

「ああ。ジャック、フィッツロイ家のリディア嬢に関して知っていることはあるか?」


 意外な問いにジャックは驚いたが、それは一瞬ですぐに回答した。


「フィッツロイ家のリディア嬢は、社交界にもあまり顔を出さないようです。妹のレティーシャ嬢はよく見かけますが……。――ああ、そうだ。リディア嬢は病弱だと聞いたことがあります」


 ウィルフリッドはそれを聞いて首を傾げた。


 ――今までで会った中で、病弱な様子はなかった。気になるな……。


「ジャック、リディア嬢について調べてくれないか」

「かしこまりました。しかし、旦那様が女性に興味を持つなんて珍しいですね」


 ウィルフリッドは言うか迷って、しばらくして答えた。


「……リディア嬢が本屋で出会った『スベトラーナ』だったんだ」


 それを聞いたジャックは驚き、納得したようにうなずいた。


「なるほど。旦那様は『スベトラーナ』に夢中ですもんね」

「いいから、さっさと行ってこい」


 ウィルフリッドが照れた様子で軽く手を振ると、ジャックは軽くお辞儀をした後、部屋を後にした。


 ジャックは何日も街で人を探していたが、やっとお目当ての女性を見つけて声をかけた。


「失礼。フィッツロイ家にお勤めの方ですよね?」


 振り返ったのはルーシーだった。怪しむようにジャックに視線をやる。


「……どなたですか?」


 ジャックはにこやかに答えた。


「アーヴァイン公爵家に仕えている……」


 そこまで言ったところで、ジャックは言葉を遮られるように腕を掴まれ、ルーシーに路地裏に連れ込まれた。ルーシーのその顔は鬼気迫るもので、驚き目を丸くしているジャックに詰め寄る。


「今、アーヴァイン公爵家とおっしゃいましたか……?」


 ジャックはルーシーの勢いに押されて複数回うなずいた。

 すると、ルーシーは必至の様相でジャックに言った。


「お嬢様を助けて……!」



 ルーシーから一部始終を聞いたジャックはその足でウィルフリッドの執務室へと急いだ。ノックをし、中からの返事を待たずにドアを開けた。

 驚いたウィルフリッドは、ジャックの顔を見てさらに驚いた。その顔は怒りで満ちていたからだ。


「……なにがあった?」


 ウィルフリッドの問いにジャックはひどく低い声で答えた。


「リディア嬢は監禁されています」


 その一言にウィルフリッドは眉間に皺を寄せた。


「詳しく話せ」

「いつもリディア嬢についている侍女に話を聞いたところ、リディア嬢は常日頃から継母と義理の妹からひどい扱いを受けていたそうです。ダンスパーティ以降、ずっと部屋に閉じ込められていると言っていました。助けを求めています」


 ダンスパーティ以降も、何度か本屋に足を運んでいたが、ウィルフリッドはリディアに会うことはできずにいた。心配をしていたが、ジャックの報告を待つしかなかったウィルフリッドはその判断を後悔していた。


「こんなことなら、フィッツロイ家に様子を伺いに行けばよかった……」


 ウィルフリッドは額に手をやり、首を横に振り、思い留まった。


「……いや、他家のことだ。闇雲に首を突っ込むことはできない。――なにか案はないか?」


 ウィルフリッドの問いにジャックは呟くように言った。


「婚約などしていれば、口も出せますが……。今の状況では難しいでしょうね」


 ウィルフリッドははっと顔を上げた。


「それだ! フィッツロイ家に手紙を出す」


 ジャックは訳が分からず、ウィルフリッドに尋ねた。


「それとはどれです?」


 ウィルフリッドは手紙をしたためながら答えた。


「リディア嬢と婚約をする。申し込みをするんだ」


 ジャックは驚いたように茶色の瞳を丸くした。


「急展開についていけませんが、同情からでしたらその案はお勧めしません。リディア嬢だってそんなの嬉しくないでしょう」


 ウィルフリッドは顔を上げた。その顔は真剣そのものだった。


「同情だけではない。俺はリディア嬢に惹かれていた。その彼女が実家から酷い目にあっていると聞いて、黙っているほど俺は軟弱者ではない」


 ジャックは驚いた顔でウィルフリッドを見た。


「……本気ですか?」

「ああ。すぐにこの手紙をフィッツロイ家に届けろ」


 ウィルフリッドは書き終えた手紙をジャックに手渡した。



 一方、リディアは閉じ込められた自室の窓からただ陽が落ちはじめた空を眺めていた。その瞳は虚ろで、希望など何もない。


「ウィルフリッド様……」


 そうぽつりと呟いて、一筋の涙を流した。

 父親であるフィリップに相談してみようにも、今は仕事で外国にいる。リディアが頼れるものはなにもなかった。

 ここから逃れても行く当てはない。今は耐えて、クレアの考えが変わることを祈るしかない現状が歯がゆくて、情けなかった。

 遠くで閉門を知らせる鐘が鳴った。

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