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追放物理学者の快適辺境ライフ 〜辺境の暮らしを快適化していただけなのに、なぜか聖女と賢者が弟子入り志願してきた〜  作者: しいたけ
第1章 追放者たちと快適化計画

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第5話:大人たちの変化と次なる構想

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

俺が子供たちと一緒に水路を掘り始めてから、一週間が過ぎた。


単調な作業は相変わらず続いていたが、現場の雰囲気は最初の頃とは比べ物にならないほど明るい。子供たちは、もはや完全に遊びの延長としてこの土木作業を楽しんでいた。


「アシュラン! こんなに大きい石が出たぞ!」


「すごいな。だが、それは避けて掘った方が効率的だ」


「えー! でも、やっつけたい!」


そんな他愛もない会話を交わしながら、俺は黙々と鍬を振るう。


そんな俺たちを、村の大人たちは遠巻きに眺めていた。

最初は冷ややかだった彼らの視線も、日が経つにつれて少しずつ変化していることに、俺は気づいていた。


「おい、あいつ、まだやってるぞ」


「てっきり三日坊主で終わるかと思ったが……。たいした根性だな」


「ああ。それに、子供たちの顔を見てみろ。近頃、あんなに楽しそうな顔は見たことがなかった」


彼らの囁き声には、以前のような侮蔑の色は消え、かすかな感心と戸惑いが混じっている。追放者としてこの村に流れ着き、希望を失いかけていた彼らにとって、黙々と未来のために土を掘り続ける俺の姿と、それを無邪気に手伝う子供たちの笑顔は、忘れかけていた何かを思い出させる光景だったのかもしれない。


そして、変化は静かに訪れた。

その日も、俺が子供たちと作業に励んでいると、一人の大柄な男がこちらへ歩いてきた。最初に俺に声をかけてくれた少女、エリアナの父親だ。彼は俺の前で立ち止まると、少しばつが悪そうに頭を掻いた。


「……よう。うちの娘が、毎日世話になってるな」


「いや、こちらこそ助かっているよ」


「そうか。……なあ、俺も手伝うよ。何すれば良い?」


その言葉に、俺だけでなく、周りの子供たちも驚いて動きを止めた。エリアナが「父ちゃん!」と嬉しそうに駆け寄る。


「ありがとう。助かる」


俺が笑みを浮かべて感謝を伝えると、男は照れくさそうに「おう」とだけ答え、俺の隣で鍬を振るい始めた。


その一歩が、ためらっていた他の大人たちの背中を押したのかもしれない。

翌日には、「うちの息子も楽しそうだからな」と言って別の男が加わり、その次の日には、さらに二人、三人と、アシュランを手伝う大人たちが一人、また一人と増えていった。


「ありがとう」


俺は、新たに加わった村人たち一人一人に、そう声をかけた。子供たちも、自分たちの親が参加してくれたことが嬉しいのか、いつも以上にはしゃいでいる。


もちろん、村人全員が協力的になったわけではない。

子供たちのリーダー格だった少年とその父親は、相変わらず俺たちの作業を遠くから苦々しげに眺めているだけで、かたくなに手伝うことを拒否していた。彼らにとっては、自分たちの常識を覆そうとする俺の存在が、気に食わないのだろう。


だが、そんなことは些細な問題だった。 大人たちが加わったことで、作業効率は飛躍的に向上した。男たちが硬い地面を掘り起こし、女たちが土を運び、子供たちが小さな石を取り除く。かつて俺が一人で始めた孤独な作業は、いつの間にか、村の協働作業へと姿を変えていた。


そして、あの日からさらに二週間後。

ついに、その時は訪れた。


「……着いた!」


最後の土が掘り起こされ、広場から引かれた水路の終着点が、川まで到達したのだ。


「おおっ!」「やったぞ!」と、村人たちから歓声が上がる。

子供たちは、完成した溝の中を駆け回り、大喜びだ。


だが、その喜びも束の間だった。


一人の男が、水路の終着点から数メートル下にある川岸を見下ろし、当然の疑問を口にした。


「しかし、アシュランよ。これ、どうするんだ? こんなに高低差があったら川から水路に水を引き込む事なんてできないぞ?」


その言葉に、村人たちの歓声がピタリと止んだ。そうだ、と誰もが気づく。彼の意見は、完全に正しかった。水路は村のすぐそこまで来た。だが、川から水を流し込まない限りは、それはタダの溝に過ぎない。


静まり返った村人たちの中で、俺は一人だけ落ち着いていた。


「大丈夫だ」


俺は、不安そうな顔をする彼らを見回して言った。


「ここからが本番さ。川の流れを利用して、この高低差を乗り越えるための『水車』を作る。水を汲み上げて、この水路に流し込むんだ」


「すいしゃ?」


村人たちは、初めて聞く言葉に困惑した表情で顔を見合わせる。彼らの知識の中に、「水車」なるものは存在しないのだ。


俺は、そんな彼らの反応を楽しみながら、ニヤリと意味ありげげな笑みを浮かべた。


「まあ、心配するな。面白いものを見せてやる。もちろん、手伝ってくれるよな?」


その言葉には、もう誰も反論しなかった。彼らは、俺がただの夢想家ではないことを、この水路で証明したからだ。


それからの日々は、まさに村を挙げた一大プロジェクトとなった。俺が描いた設計図の元、男たちは森から木を切り出し、女たちは部品を運び、子供たちはその手伝いをする。


俺の快適な辺境生活のための第二段階が、村人たちを巻き込んで、今、始まろうとしていた。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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