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追放物理学者の快適辺境ライフ 〜辺境の暮らしを快適化していただけなのに、なぜか聖女と賢者が弟子入り志願してきた〜  作者: しいたけ
第2章 聖女と賢者

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第32話:自動迎撃と聖女の過剰防衛

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

行商人から不穏な噂――エルディナ王国による「討伐隊」と、ヴィンデル帝国による「調査団」の派遣――を聞いてから、数日が過ぎた。


村の空気は、表面上は穏やかだった。

畑では野菜が青々と茂り、牧場からは鋼鉄猪の赤ん坊たちの元気な鳴き声が聞こえてくる。

だが、村人たちの目の奥には、わずかな緊張感が宿っていた。彼らは知っているのだ。自分たちの平穏が、いつ脅かされてもおかしくないということを。


「……アシュランよ。本当に大丈夫なのか?」


村の防壁の上で、ギードが心配そうに南西の空を見つめていた。その方角には、かつて俺たちを追放したエルディナ王国がある。


「トマスたち難民を受け入れて、壁はできた。じゃが、それを守る兵がおらん。わしが鍛えている若者たちも筋はいいが、正規の騎士団相手にどこまで通用するか……」


元軍人であるギードの懸念はもっともだ。

数に勝る軍隊が押し寄せてくれば、いくら壁が頑丈でも、守り手が足りなければいずれ突破される。


「心配するな、ギード。そのための『自動化』だ」


俺はニヤリと笑い、眼下の広場を指差した。

そこには、二人の天才と、彼らが作り上げた「最高傑作」が並んでいた。


「準備はいいか! カイン、エレノア!」


俺が声を張り上げると、二人はビシッと敬礼を返してきた。この敬礼は、彼らが考えた俺に対する敬礼。なんでもアシュラン式と言うらしい。そんなことはしなくてよいのだが……


「いつでもいけます、マスター!」


「完璧ですわ、師匠!」


「よし。それでは、ウルム村自動防衛システムの最終テストを開始する!」



まずは、攻撃面。担当は賢者カインだ。


「マスターにご教授いただいた『ゴーレムの自律思考回路』と、ノーリアから着想を得た『歯車式自動装填機構』。これらを組み合わせたのが、この『自動追尾式連射バリスタ・改』です!」


カインが誇らしげに紹介したのは、防壁の四隅に設置された、巨大な弩砲だった。

以前俺が設計したものとは、もはや別物だ。

鉄製のフレームには複雑怪奇な歯車が噛み合い、魔石を埋め込まれた「眼」が、ギョロリと周囲を睥睨している。


「テスト対象は、前方三百メートルに設置した、あの鉄板を張り付けた案山子です」


カインが指差した先、平原の彼方に、豆粒のような標的が見える。

普通の弓矢なら届くはずもない距離だ。


「起動!」


カインが魔力を流し込むと、バリスタの「眼」が赤く明滅した。


機械的な駆動音と共に、バリスタが素早く旋回し、標的を捕捉する。

そして、次の瞬間。


ヒュンッ!!


風を切る音など置き去りにするほどの速度で、太い鉄の矢が射出された。

いや、一本ではない。


シュパパパパパパッ!!


「なっ……!?一本じゃない?!」


ギードが目を見開く。

矢は途切れることなく、まるで機関銃のように連射されていた。

歯車が高速回転し、次々と新しい矢を弦に送り込み、発射する。そのサイクルが、目にも止まらぬ速さで繰り返されているのだ。


ドガガガガガガッ!!


遠くの標的から、凄まじい破壊音が轟いた。

砂煙が晴れた後、そこにあったのは、見るも無残にひしゃげ、蜂の巣にされた鉄板……いや、鉄屑だった。

しかも、矢の勢いは止まらず、その背後にあった岩山までをも砕き、巨大なクレーターを作っていた。


「……やりすぎだろ」


俺が思わず呟くと、カインは眼鏡のブリッジを押し上げて、涼しい顔で言った。


「計算通りです。風魔法による加速と、ジャイロ効果による弾道安定化。さらに、着弾の瞬間に矢じりに込めた衝撃魔法が炸裂する仕様となっております」


「……カインよ。あれは、魔獣を狩る道具か? それとも、城を攻め落とす兵器か?」


ギードが震える声で尋ねる。


「村を守るための『錠前』ですよ。マスターの平和を脅かす者は、塵一つ残しません」


爽やかな笑顔で恐ろしいことを言う賢者様。

まあ、これならワイバーンの群れが来ても撃ち落とせるだろう。頼もしい限りだ。



次は、防御面。担当は聖女エレノアだ。


「お待たせいたしました、師匠! カインの野蛮な兵器とは違う、慈愛と鉄壁の守りをご覧に入れますわ!」


エレノアが、防壁の中心に設置された「結界石」の前に立つ。

それは、俺が精製した高純度の石英ガラスに、彼女が数日かけて魔力を注ぎ込み続けた、特製の魔導装置だ。


「展開!」


彼女が杖を掲げると、結界石から淡い光のドームが広がった。

光は瞬く間に村全体を覆い尽くし、半透明の膜となって空気を遮断する。


「師匠の『マナ粒子エントロピー増大則』を応用し、結界を構成するマナの拡散を極限まで抑え込みました。これにより、従来の結界の数倍の強度と、数日間は魔力供給なしでも維持できるほどの長時間稼働を実現しましたの!」


「ほう、それはすごいな」


俺は感心した。

通常、この規模の防御結界を維持するには、数人の高位魔術師が交代で魔力を注ぎ続ける必要がある。

だが、エネルギーのロスを極限までなくすことで、エレノア一人で、しかも余裕を持って村全体を守れるようになったわけだ。


「では、テストをお願いしますわ!」


エレノアの合図で、カインが再びバリスタを構える。

標的は、結界の外側に置かれた丸太だ。


「行きますよ。……発射!」


放たれた鉄の矢が、結界の表面に激突する。


カィィィン!!


硬質な音と共に、鉄の矢があっけなく弾かれた。

結界は、波紋ひとつ浮かべず、その攻撃を無効化したのだ。


「おおっ! カインの矢を防ぐとは!これなら、投石機だろうが魔法攻撃だろうが大丈夫じゃな」

ギードが歓声を上げる。


「……いや、待て。これ、内側からの攻撃を通さないなら拙くないか?」


俺が指摘すると、ギードも腕を組んで唸った。

「む? 言われてみればそうじゃな。一方的に攻撃されるだけで、こちらから反撃できんのではジリ貧じゃぞ。攻撃できないのか……」


「あ、あッ……そ、それはちゃんと調整しますわ! 透過設定の調整を……!」


エレノアが視線を泳がせながら、必死にその場を誤魔化すように声を張り上げた。

「そ、それよりも! この結界の真骨頂は、その『識別能力』にありますの!」


「師匠は『清潔で快適な生活』を望まれております。ですからこの結界は、敵意ある存在だけでなく、師匠の害となり得る“あらゆる要因”を排除するよう設計しましたの」


「……要因?」

俺が首を傾げた、その瞬間だった。


ブン、と羽音がした。


一匹の大きなハエが、結界へと近づいた刹那――


バヂィッ!!


青白い閃光が走り、ハエは一瞬で炭化して地面に落ちた。


「……は?」


続いて、風に舞う枯れ葉。


バヂッ。


消失。


そして――


通りかかった野良犬が、何気なく足を上げた瞬間。


ドン。


衝撃波に弾かれ、犬は地面を転がると、そのまま全力疾走で森へ逃げ去った。


「……えーっと、エレノアさん?」


「完璧ですわ!」

彼女は胸を張った。


「害虫、埃、病原菌、不潔な動物。すべて排除します。これぞ、師匠のための絶対不可侵領域(サンクチュアリ)です!」

エレノアが、うっとりと結界を見上げている。

俺は、頬を引きつらせながら彼女の肩を掴んだ。


「エレノア?!どう考えてもやりすぎだ。」


「ええっ!? なぜですか師匠!?」


「お前は世界を無菌室にする気か!」

俺は思わず頭を抱えた。


「虫まで弾く結界があってたまるか! 作物はどうする! 村人は!」


「あ……」


エレノアは、ようやく事態を理解したように瞬きをした。


「……いえ、正確には。“人間を例外として扱う”という発想が、最初からありませんでしたわ」


「思想が極端すぎる!」


俺は頭を抱えた。

性能は申し分ないが、セキュリティーレベルが高すぎて、住人まで締め出す欠陥住宅みたいになっている。


「調整だ! すぐに『許可された者』と『無害なもの』を通すように術式を書き換えろ!」


「は、はいっ! 申し訳ありません師匠ぉぉぉ!」



夕暮れ時。

数時間の調整を経て、ようやくバリスタと結界は実用段階に落ち着いた。

バリスタは「明確な殺気」と「ギードやカインの許可」がない限り発射されないようにロックをかけ、結界は「登録された人たち」はフリーパスで通れるように設定し直した。


「ふぅ……。疲れた」


防壁の上に座り込み、俺は夕焼けを眺めた。

隣には、反省して小さくなっているエレノアと、満足げにバリスタを磨いているカイン、そして呆れつつも安堵しているギードがいる。


「まあ、多少のトラブルはあったが……」


俺は、眼下に広がる村を見渡した。 物理と魔法のハイブリッド防衛システム。 その威力は、俺の想像を遥かに超えるものだった。


「これなら、王国軍が攻めてきても、指一本触れさせずに追い返せるな」


「うむ。わしが知る限り、王国の騎士団にこれほどの攻撃を防げる盾はないし、この結界を破れる矛もない」


ギードが太鼓判を押す。

「これで、枕を高くして眠れるというものじゃ」


「ああ。全くだ」

俺は大きく伸びをした。


脅威への備えは万全だ。

あとは、彼らが「攻めない」という賢明な判断をしてくれるのを祈るだけだが……まあ、あのアルベールのことだ。十中八九、来るだろう。


「来たら来たで、歓迎してやるさ。」


俺はニヤリと笑った。

その笑顔は、確固たる自信に裏打ちされた、勝者の余裕に満ちていた。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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