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追放物理学者の快適辺境ライフ 〜辺境の暮らしを快適化していただけなのに、なぜか聖女と賢者が弟子入り志願してきた〜  作者: しいたけ
第2章 聖女と賢者

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第26話:弟子たちの進化と防衛構想

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

俺の自称弟子である聖女エレノアと賢者カイン。

この二人が村に住み着いてから、ウルム村の技術発展は、もはや俺一人の手を離れ、一種の突然変異とでも言うべき、爆発的な進化を遂げていた。


何が凄いかって、彼らは俺が教える物理法則や化学の理論を、スポンジが水を吸うように吸収すると、即座にそれを自らの魔法と融合させてしまうのだ。


例えば、エレノアの治癒魔法。

以前の彼女は、ただ膨大な魔力を放出して、傷や病という「結果」を力ずくで塗りつぶすことしかできなかった。だが、俺が教えた解剖学と細胞学の知識を得た今、彼女の治癒は全く別の次元に到達していた。


「――見えるのです、師匠」


彼女は、腰を痛めた村の老人を治療しながら、俺にそう言った。


「師匠に教わってから、人の体の中を流れる魔力の『淀み』や『滞り』が、まるで濁った川の流れのように、はっきりと見えるようになりました。この方の腰痛の原因は、ここ。この神経に沿った魔力経路(マナ・チャネル)の詰まりですわ」


彼女はそう言うと、指先に針のように細く、極小の魔力を集中させる。

そして、まるで鍼治療のように、その「詰まり」のポイントを正確に刺激した。

すると、老人の体から澱んだ魔力がふっと抜け、長年彼を苦しめてきた痛みが、嘘のように消え去った。


以前なら、村一つを覆うほどの大規模治癒魔法を使わなければ不可能だった精密治療を、彼女は今、ほんのわずかな魔力で、こともなげにやってのける。


カインもまた、驚異的な進化を遂げていた。

彼は今、ノーリアから着想を得た歯車機構を利用した、自動で動く人形――ゴーレムの開発に没頭している。

この世界のゴーレムは、ただ土や岩の塊に魔力を流し込み、力ずくで動かすだけの、非効率な代物だ。だが、カインが作るゴーレムは違う。


「マスター! この理論を応用させてもらいました。まず、ドルガン殿に作ってもらった鉄製の骨格で、力の伝達効率を最大化する。そして、関節部分に小さな魔石を配置し、そこだけに魔力を集中させる。こうすることで、従来のゴーレムの十分の一以下の魔力で、倍以上の速度とパワーを引き出すことが可能です」


彼は、まるで自分の子供を自慢するかのように、生き生きと語る。

俺が教えたのは、ただの構造力学とエネルギー効率の理論だ。だが、それが賢者の手にかかれば、魔法文明の常識を根底から覆す、とんでもないオーパーツを生み出してしまう。

エルディナ王国の、見た目の美しさだけを追い求めた非効率な魔法技術(アート)とは、まさに大違いだった。



その日の午後。

俺が村の子供たちに分数の計算を教えていると、少し離れた場所で、エレノアとカインが何やら真剣な顔で話し込んでいた。


「……エレノア嬢。どうやら、皇帝陛下が本格的に動かれたようだ」


カインが、声を潜めて切り出した。


「皇帝陛下が?」


「ああ。我が情報網によれば、『黒鴉(シュヴァルツ・クレエ)』が動いたらしい」


その名を聞いて、エレノアの表情がわずかに曇る。皇帝直属の諜報機関。その動きは、皇帝の意思そのものだ。


「よくご存知ですこと」


「こう見えても、賢者をやらせてもらっているのでね。というのは冗談で、帝都に残してきた部下からの、緊急の報せだよ。君も、再三再四の帰還命令を無視しているのだろう?」


「ええ、まあ。ですが、『黒鴉(シュヴァルツ・クレエ)』を動かすほどのことかしら?」


「君がそれを言うか?」


カインは、やれやれと首を振った。


「帝国の至宝である聖女と賢者、二人が揃って帝都に戻らず、こんな辺境の地に長居しているんだ。確かめにも来るだろうよ」


「そうねぇ」


エレノアは、楽しそうに働く村人たちに視線を向けた。


「でも、カイン。長居、と仰いましたけれど、わたくし、もう帝都に帰るつもりはありませんわよ」


その、あまりにもあっさりとした言葉に、カインは目を見開いた。


「……本気か?」


「ええ」


エレノアは、穏やかな、しかし一点の曇りもない瞳で頷いた。


「だって、わたくしは、そもそも死ぬはずの身でしたもの。帝都の誰も、わたくしを救うことはできなかった。最後には、皆、諦めていましたわ。でも、師匠は違った。諦めずに、力の限りを尽くして、この命を救ってくださった。それだけではありません。この素晴らしい環境と、わたくしが知らなかった、世界の真理を教えてくださった。……もう、わたくしの忠誠心は、帝国にはありませんわ」


「忠誠心は、アシュラン師匠に、か」


「そうよ」


エレノアは、そう言うと、ふと、誰もいないはずの木陰に視線を向けた。

そして、振り向きもせずに、静かに、しかしはっきりと、こう言った。


「……お分かりになりましたか? 皇帝陛下にも、そうお伝えくださいな」


その言葉に、カインは驚くでもなく、小さく肩をすくめた。


「なんだ。気づいていたのか」


「ええ、途中からかしら。でも、言いたいことがはっきり言えて、良かったわ」


木陰の闇が、わずかに揺らぐ。

そこに潜んでいた『黒鴉(シュヴァルツ・クレエ)』の総隊長――ベアトリクス・フォン・アイゼンは、内心で舌打ちをした。


(……気づかれていた? この私の気配を? あり得ない。聖女と賢者、化け物か……!)


それ以上に彼女を驚かせたのは、エレノアの言葉の内容だった。

帝国への忠誠を、あっさりと捨てた。それも、あんなにも晴れやかな顔で。


(報告、どう上げる……? 『聖女エレノア、辺境の男に心酔し、帝国を裏切る』? 冗談ではない。そんな報告、皇帝陛下にできるはずが……)


ベアトリクスの思考が混乱する中、今度はカインが、やれやれと首を振りながら、誰もいない空間に向かって、独り言のように呟いた。


「陛下は、寛大で聡明な御方だ。エレノア嬢が本気だと知れば、無理強いはなさるまい。……となると、だ。そろそろ、私自身も、己の立場を明確にせねばならんのかな」


その言葉は、明らかに、自分に向けて放たれたものだった。


(……いい加減にしてほしいわ、この二人)


ベアトリクスは、鉄の仮面のような無表情の下で、今すぐ帝都に帰って報告書を書きたい、という衝動に駆られていた。



そんな、水面下での高度な腹の探り合いが行われていたことなど、俺はつゆとも知らず、村の防壁の上で、ギードと二人、のんびりと村を眺めていた。


「なあ、ギード村長。やっぱり、もうちょっと、この村の防御態勢を強化した方がいいと思うんだ」


「とは言ってもな、アシュラン。そもそも、多少人は増えたが、大半は鍬を持つ農夫じゃ。戦える兵士となると、まだまだ数が足りん、戦えるような屈強な若者となると尚更じゃ。確かに、村の若い衆に武術の訓練を施してはおる。じゃが、悲しいかな、それはまだ付け焼き刃に過ぎん。いざという時の戦力としては、ちと物足りんのう。これ以上、どうしろと?」

ギードは広場で槍の稽古をしている若者たちに目を向け、嘆息した。


ギードの言うことは、もっともだった。

どんなに立派な防壁があっても、それを守る兵士がいなければ意味がない。

しかし、俺には腹案があった。


「ああ、そこは大丈夫だ」


俺は、自信満々に頷く。


「俺に、考えがある。カインとエレノアの協力が必須になるが、実現すれば、人間が見張りをしなくても済むようになる」


「……なんじゃと?」


「人手を必要としない、全自動の防衛システムを作るんだよ」


俺の脳裏には、新たな構想が、明確な設計図となって広がっていた。 カインが開発中のゴーレムの自律思考回路を流用した、自動迎撃型の連射式バリスタ。 そして、エレノアの精密な魔力制御で稼働させる、村全体を覆う、物理的な防御結界。


科学と魔法の融合が生み出す、究極の防衛システム。


俺は、その構想を思い浮かべ、子供のように、胸をワクワクさせていた。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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