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追放物理学者の快適辺境ライフ 〜辺境の暮らしを快適化していただけなのに、なぜか聖女と賢者が弟子入り志願してきた〜  作者: しいたけ
第1章 追放者たちと快適化計画

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第13話:スライムと見えざる敵

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

アシュランの建築革命は、俺の家という一つの成功例を生み出したことで、新たなフェーズへと移行していた。


最初の家は、いわば実物大の教科書だった。

村人たちはその建設を通して、石を突き固める布基礎の打ち方から、筋交いを入れた幾何学的な木組み、断熱材を詰めた二重壁、そして登り窯で焼いた瓦屋根の葺き方まで、一連の技術をその身に叩き込んだ。


「ヘイムの組は、二軒目の基礎を頼む! 水平器の確認を忘れるなよ!」


「ドルガン! 瓦の焼き加減はどうだ?」


「おうよ! 例の『鋼鉄猪(アイアン・ボア)のふいご』のおかげで、炉の温度が段違いだ! 釘も蝶番も、王都の職人が腰抜かすくらい良い鉄が打ててるぜ!」


鍛冶場の方から、ドルガンの野太い声と、カーン! カーン! という小気味よい金属音が響いてくる。

俺が指示を出すまでもなく、男たちはそれぞれの持ち場で、驚くべき効率で作業を進めていた。


鋼鉄猪(アイアン・ボア)の皮で作った耐熱ふいごの効果は劇的だった。

これまで温度が上がらず不純物が多かった鉄も、高温で精錬することで強度が跳ね上がった。その鉄で作った釘や工具が、さらに大工仕事の精度を高めるという好循環が生まれている。


役割分担が明確になったことで、村では常に複数の家が同時並行で建設されていった。

ひび割れた泥壁は、漆喰を塗った白く美しい断熱壁に。雨漏りしていた茅葺屋根は、赤褐色の瓦屋根に。

村の風景は、日を追うごとに、みすぼらしい追放者の集落から、機能的で美しい計画都市へと生まれ変わりつつあった。

大変な作業の中にも、村人たちの顔には疲労の色はなく、自らの手で未来を築いているという確かな自信と喜びに満ち溢れていた。


家々の建設が軌道に乗ったある日、俺は村人たちを再び広場に集めた。


「まだまだ完成とは言い難いが、家づくりはかなり軌道に乗ってきたな。だが、俺たちの生活には、まだ見えない脅威が潜んでいる」


俺の言葉に、村人たちは静かに耳を傾ける。かつてのように「またか」と呆れる者はいない。「次はなんだ?」という真剣な眼差しだ。


「それは、水だ」


俺は貯水池の方角を指さした。


「ノーリアのおかげで、農業用水と生活用水は豊富にある。だが、川の水をそのまま飲むのは、本当に安全だろうか? 上流で動物が死んでいるかもしれないし、目に見えない寄生虫がいるかもしれない」


村人たちが顔を見合わせる。彼らにとって水は「透明なら飲める」ものであり、それ以上の疑問を持ったことなどなかっただろう。


「そして、俺たちが出した汚れた水。生活排水や排泄物を含んだ水は、どこへ行く? 川に垂れ流せば、下流の誰かが病気になるかもしれない。あるいは、巡り巡って自分たちの井戸を汚すことになるかもしれない」


俺は地面に、村の全体図を描き、新たな計画を語り始めた。


「これから、この村の衛生環境を根本から改善する。まず、飲み水だ。今、貯水池にある川の水を、もっと安全で美味しくするための『ろ過装置』を作る」


「ろかそうち?」


キドが不思議そうに首を傾げる。


「ああ。砂や炭を使って、水を磨く装置だ。そして、各家庭から出る汚水は、この世界のやり方で浄化する」


俺はそう言うと、足元に置いてあった樽の蓋を開けた。

中には、半透明で青みがかったゲル状の塊が、たっぷりと詰まっている。


「こいつに、汚水を綺麗にしてもらう」


「あ! それって……!」


ヘイムが声を上げた。


「この前の『鋼鉄猪(アイアン・ボア)滑り台』で使ったスライムか!?」


「その通りだ」


俺は樽の中のスライムを棒でつついた。ぷるん、と震えるその物体を見て、村人たちの間に「おおっ」という納得と、若干の引きつった笑いが広がる。

あの時、この粘液のおかげで鋼鉄猪(アイアン・ボア)を捕獲できたことは記憶に新しいが、同時にその後の掃除が大変だったこともトラウマになっているようだ。


「アシュラン、そいつが役に立つのは分かったけどよ……まさか、水を綺麗にするのか? どっちかっていうと、汚してるように見えるんだが」


ドルガンが眉をひそめる。


「確かに、見た目はそうだな。だが俺が調べた限り、この種のスライムは、有機物……つまり汚れだけを食べて分解し、綺麗な水を排出する性質を持っている」


「汚れを……食べる?」


「そうだ。こいつらは自然界の掃除屋だ。こいつらの力を借りれば、大掛かりな魔導装置を作らずとも、下水処理の問題は解決できる」


俺の提案に、村人たちは驚きつつも、すぐに受け入れた。

かつてなら「スライムごときに何ができる」と鼻で笑っただろう。だが、彼らはすでに知っている。この男にかかれば、最弱の魔物も最強のトラップになり、ただの泥が鉄壁の要塞になることを。


「わかった。アシュランが言うなら、こいつらは最高の掃除屋なんだろう」


ギードが頷いた。


「俺たちは何をすればいい?」


「二手に分かれるぞ。上水道チームと、下水道チームだ」



計画は二本立てで進められた。

一つは、貯水池の水を極上の飲み水に変える上水道の建設。

もう一つは、各家庭の汚水を一箇所に集め、スライムに処理させる下水道の建設だ。


上水道チームは、まず貯水池の隣に、この計画の心臓部である「緩速ろ過装置」を建設する。 石と土を突き固める工法で頑丈に作られた巨大な水槽。 そこへ、川原から集めて洗浄した粗い砂利、細かい砂利、そして木炭を層状に敷き詰めていく。


「ここがポイントだ」


俺は、一番上の層に、特殊な処理をした砂を敷き詰めた。 この砂の表面には、時間をかけて培養した微生物の膜が形成される予定だ。これこそが、病原菌や微細な汚れを捕食・分解する天然のフィルターとなる。 一時はここにスライムを使う事も考えたのだが、それだとどうしても詰まりがでるため、ここでは微生物の力を借りることにした。


一方、下水道チームは、俺の指示で村の地下に土管を埋設していく作業に追われていた。

土管といっても、登り窯で焼いた丈夫な陶管だ。瓦作りの技術がここでも活きている。


「勾配に気をつけろ! 水は低い方へしか流れないぞ!」


ヘイムが水平器を片手に、職人たちに檄を飛ばす。

各家庭の台所やトイレから繋がれたパイプは、全て村の下手にある巨大な「浄化槽」へと繋がっている。


そこでは、俺が培養しておいた「浄化スライム」たちが待ち構えている。 鋼鉄猪(アイアン・ボア)捕獲作戦のために大量に集め、その後も餌である生ゴミを与えて増やしておいた彼らだ。 巨大な石造りの槽にスライムたちを放つと、彼らは居心地よさそうに底へと沈んでいった。


「頼んだぞ。お前たちの食欲が、この村を救うんだ」


俺は槽の中に向かって声をかけた。

スライムが答えることはないが、心なしかプルプルと嬉しそうに震えたように見えた。


そして、計画を開始してからわずか一月半後。

本格的な冬の到来を前に、村の新たなインフラは完成した。



完成お披露目の日。 村人たちが、完成したろ過装置の出口――村の広場に設置された水飲み場に集まっていた。 そこには、俺が設計し、ドルガンが精巧に作り上げた、真鍮製の「蛇口」が取り付けられていた。


「これが……アシュランの発明した『ジャグチ』か」


「ひねるだけで水が出るって本当かよ?」


ざわつく村人たちが見守る中、俺はゆっくりとその蛇口のハンドルを回した。


キュッ。


一瞬の静寂の後。

ゴボッ、という音がして、蛇口の先から水が迸った。


ちょろちょろ、と細く流れ出した水は、やがて勢いを増し、透き通った清らかな水となって水受けを満たし始めた。

それは、貯水池の泥混じりの水が、幾層もの砂と炭のフィルターを通り抜け、時間をかけて磨き上げられた、正真正銘の「純水」に近い水だった。


「「「おおおおおっ!!」」」


割れんばかりの歓声が、冬の空に響き渡った。

子供たちが、生まれて初めて見る「魔法の道具」から流れ出る水に駆け寄り、その冷たさにはしゃいでいる。


「さあ、飲んでみてくれ」


俺が促すと、ギードがおずおずと進み出て、両手で水を掬った。

そして、一口。


「……!」


ギードが目を見開いた。


「……うまい。なんだこれは? 川の水とは、味が全然違うぞ」


「甘い……のか? 嫌な臭いが全くしない!」


次々と村人たちが水を口にし、その味に驚愕する。 泥臭さも、生臭さも一切ない。喉に染み渡るような、清冽な味。 そう、それはただの水ではなかった。技術と知識によって「安全」が保証された水なのだ。


その日、村中の全ての家で、蛇口から安全な飲み水が出るようになった。

わざわざ遠くの水場まで行かずとも、家の中で水が使える。

重い水瓶を運ぶ必要もない。

それは、村の女性たちにとって、まさに「魔法」のような出来事だった。


そして同時に、村の下手にある浄化槽では、各家庭から流れてきた汚水が、浄化スライムたちの旺盛な食欲によって分解され、無害な水となって大地へと還っていくシステムが稼働し始めた。 排水口から出る水は驚くほど澄んでおり、これなら川を汚す心配もないだろう。


俺は、活気に満ちた村の様子を見ながら、小さく笑った。

蛇口から水を飲む子供たちの笑顔。

洗い場で「これで冬の水仕事も楽になるわね」と笑い合う女性たち。


水、食、住。そして、衛生。 人が人として、快適で文化的に生きるための最低限のインフラが、この村には整った。 王都ですら、下水は道端に垂れ流しだというのに、この辺境の村は、衛生面においてこの世界最先端の都市になったのだ。


「……ま、全ては俺が腹を壊したくないからなんだがな」


照れ隠しのように呟き、俺も蛇口の水を一口飲んだ。


「うん。冷たくて、うまい。」


これで、生活の基盤は完璧だ。

俺は空を見上げた。

俺の頭の中には、すでにこの村の産業を爆発的に発展させるための、次なる一手が浮かんでいた。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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