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追放物理学者の快適辺境ライフ 〜辺境の暮らしを快適化していただけなのに、なぜか聖女と賢者が弟子入り志願してきた〜  作者: しいたけ
第7章 基礎と秩序

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第111話 防犯と再編

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

昼下がり。新街区として整備された集会棟前の広場は、連日開かれる仮設市場の活気に満ちていた。

値札の掲示と登録制が機能し始め、以前のような大きな暴動や暴力的な略奪は影を潜めている。物資は少しずつ循環し、避難民たちの顔にもわずかながら生活の余裕が見え始めていた。


だが、人が集まり、街としての機能が膨らむほど、当然のように新たな火種も生まれる。


「おい、ちょっと待て! これ、さっき俺が見たのと違う品物にすり替わってないか!?」


「いいがかりをつけるな! 買う気がないならさっさとどきな!」


市場のあちこちで、怒鳴り声が上がる。品物のすり替え。釣り銭代わりの物資のごまかし。目を離した隙の荷の持ち逃げ未遂。指定された市場の枠外で、通りがかる者をしつこく勧誘する無許可の客引き。さらには、女子供や老人のみを狙った、脅しに近い強引な値切り交渉。

どれも一つなら小さな揉め事だ。だが、それがあちこちで同時に起きていた。


ハンスや自警団の若者たちが駆け回り、その都度対処に当たっているが、彼らの顔には色濃い疲労が滲んでいる。


広場の端で腕組みをしていた避難民の男たちが、その様子を見て呆れたようにこぼした。


「前よりはずっとマシだが……どうにも見張る目が足りねえな」


「そりゃそうだ。売る方も買う方もこれだけ増えたら、前の見張りの人数じゃ到底足りんわな」


制度の穴はある程度塞がった。だが今度は、それを現場で回すための人手そのものが圧倒的に足りない段階へと、村の課題は移っていた。



市場の片隅で、またしても声が上がった。


「だから、俺は昨日もここで買ったんだ! 少し負けろよ!」


怒鳴り散らす男と、困惑する売り手の間に、素早くロイルが入り込んだ。


「どうした! 揉め事か?」


男がロイルに向かってまくし立てようとするが、ロイルは手をスッと前に出してそれを制した。


「まずは値札だ。値札を見せろ。話はその後だ」


以前の彼なら、勢いのまま双方の言い分を聞き、話を長引かせていたかもしれない。だが今は、まず基準を示して水掛け論を止めていた。


少し離れた場所では、ロッテが言い争う二人の間に静かに立っていた。


「私が先に声をかけたんです!」


「いや、俺が先だ!」


ロッテは手元の記録板に視線を落とすことなく、しっかりと二人の顔を交互に見つめて、落ち着いた声で促した。


「何が足りなかったのか、順番に話してください。それから判断します」


いきなり結論を告げるのではなく、まず何に腹を立てているのかを聞いた。その一言で、二人の険悪な空気はわずかに和らいだ。


ロイルもロッテも、まだ借り物の言葉のようにどこかぎこちない。だが、確かに互いのやり方を自分の中に取り入れようと試行錯誤している。

少し離れた場所からその様子を見ていたハンスは、腰の剣に手を置いたまま、短く鼻を鳴らした。


(……少しは形になってきたか)



夕方。市場が引け、配給の列もようやく落ち着き始めた頃。

村の巡回から戻ってきたハンスとロイルは、裏路地の木箱に腰を下ろし、深い溜息を吐いた。


「今日も一日、走り回ったな」


「ああ……だが、問題は市場だけじゃない」


ハンスが忌々しそうに頭を掻く。


「長屋の方でも、夜間に騒音や物の貸し借りで揉め事が起きてる。配給所の列の整理もあるし、村の外周警戒だって手を抜けない。それに、建設現場の資材置き場も狙われ始めている」


ロイルも疲れた顔で頷いた。


「俺たちだけじゃ、もう回しきれませんよ。あっちを止めればこっちで火が吹くし……」


「中も外も見るには、明らかに人が足りねえ」


ハンスは暮れゆく村の景色を見渡した。


「昔の『村の見張り』の延長じゃ、もうどうにもならねぇ。外からの脅威に対する防御と、内側の治安維持……完全にやり方を変える時だ」



夜。迎賓館の三階にある会議室。


俺、ギード、ハンス、ロイル、カイン、そして建設現場を取り仕切るヘイムが集まり、重苦しい空気の中で会議が開かれていた。


「単刀直入に言う。今の自警団では、明らかに人手が足りねえ」


ハンスが切り出した。


「市場の監視に一隊、長屋の夜間巡回に一隊、そして村の外周警戒に最低でも一隊は欲しい。これ以上負担をかければ、今の団員たちが倒れちまう」


ロイルがそれに補足する。


「揉め事が起きてから走り回って埋め合わせる段階は、もう終わりました。人が増えすぎて、後手では防ぎきれません」


「建設現場の資材置き場も、夜は誰かが見張ってないと、釘一本、板一枚でも何を持っていかれるか分からんからな」


ヘイムも腕組みをして唸った。


カインが眼鏡を押し上げ、手元の羊皮紙に素早く図を書き込みながら整理した。


「役割分担の明確化が必要ですね。外周警戒班、市場および配給所の巡回班、夜間の長屋巡回班、そして登録や掲示の補助、伝令を行う班。これらの人員を確保し、システムとして稼働させるべきでしょうね」


俺は机の上で両手を組み、一同を見渡した。


「ああ。もう『村の人間だけ』で守る段階ではないな。避難民の中からも人員を選抜し、自警団を再編するべきだと思うが……村長」


ギードが村長として深く頷く。


「その通りじゃ。村の者か、よそ者か、などとこだわっている場合ではない。この地を守る側に立てる者を使うべきじゃな」


俺は議題ボードに向かい、白墨を走らせた。


「ただ『募集する』だけでは、ごろつきが集まるだけだ。明確な基準を示す。健康で継続して動けること。村の規律に従えること。身元確認が済んでいること」


「武器の扱いや集団行動の経験がある者を優先したいところですが……」


カインが言いかけた時、会議室の隅で記録を取っていたロッテが、スッと手を挙げた。


「お待ちください。腕力に自信があるだけの強い人ではなく、勝手に振る舞わない、規律を守れる人を選ぶべきだと思います」


ロッテの言葉は静かだったが、現場の空気を肌で感じてきたからこその強い確信があった。


「ただ強いだけの人が私的な権力を持ったと勘違いすれば、それは新たな揉め事と搾取の種になります」


「その通りだ。ロッテの嬢ちゃん」


ハンスが深く頷いた。


「戦いの腕っぷしよりも、指示に従って動ける奴が要るな。勝手な判断で暴力を振るうような輩は一番厄介だからな。それを募集の条件に明記したらどうだ?」


「報酬は、見習い期間を設けた上で、任務に応じて配給や寝床の割当を優先する形から始めよう。将来的には手当も検討しよう」



俺の言葉で、新しい自警団の骨子が固まった。



翌朝。

新街区の集会棟前にある掲示板に、新しい紙が張り出された。

掲示された文面は、簡潔で、必要なことだけが整然と並んでいた。


---------------------------------


【自警団募集】

新街区の拡張に伴い、見回りと秩序維持のため、自警団員を募集します。


【任務】

・外周の見回り

・市場、配給所周辺の巡回

・長屋周辺の夜間見回り

・揉め事発生時の初動対応

・登録所、掲示板まわりの補助

・緊急時の伝令


【応募条件】

・健康で継続して動けること

・村の規律に従えること

・身元確認が済んでいること

・集団行動ができること

※ 武器の扱い、見張り、護衛、軍務等の経験がある者は優先します。

※ 腕力のみではなく、指示に従って行動できることを重視します。


【処遇】

・見習い期間あり

・任務に応じて配給順、寝床割当を優先

・必要に応じて装備を貸与

※ 詳細は登録時に説明


【注意事項】

・自警団に私的な権限はありません

・取り立て、私怨による介入、無断の処罰は禁止します

・違反があった場合は除名し、治安案件として扱います


【受付】

・登録所で受け付けます。

・氏名、区画、これまでの経験を申告してください。


---------------------------------


掲示板の前には、次第に多くの避難民たちが足を止め始めた。


「配給や寝床が優先されるのか。よし、飯のためにやってみるか」


「いや、ただの飯じゃねえ。長屋の夜間見回りがあるなら、俺は自分の家族を守るためにやるぞ」


「軍務経験あり、か……元兵士の俺が、ようやく役に立てる時が来たな」


「あんな面倒ごと、ごめんだね。俺は市場で稼ぐよ」


様々な声が交錯する中、登録所へ向かって迷いなく歩き出す者たちの姿があった。

泥まみれの元兵士。主を失った騎士の従者。腕っぷしの強い職人。さらに、一見すると戦いとは縁のなさそうな意外な顔ぶれまで混じっている。


だが、その中にいるのは、この街を守ろうとする者ばかりではない。

食うために来た者。居場所を得るために来た者。力を手に入れる機会だと見た者。

守る側に立つということは、同時に、権限と秩序の側に立つということでもある。


新しい自警団の創設は、また一つ、この地の形を変えていく。

市場と配給の仕組みが整った今、次に問われるのは、この街の輪郭を誰が守り、その規律を誰が支えるのかだった。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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