第一話 瞳に映る顔
石が当たると、音がする。
小さな音。木の幹に当たったような、干からびた果実を叩いたような、乾いた、鈍い音。
それが自分の体から鳴っていると気づくまでに、少し時間がかかった。
「おい、見ろよ、また動かねえぞ!」
「化け物、化け物! アザの呪いだ!」
僕はうずくまって奴らに背を向け、そのまま声を出さなかった。
痛みはもう慣れていた。石の重みも、泥の冷たさも、笑い声の煩わしさも、慣れっこだった。
目を閉じて、心を遠くに飛ばす。ここじゃない、どこか。
誰も知らない、静かな場所へ。あるいは、どこかにあるかもしれない、僕の居場所へ。
そうやっていれば、いつの間にか奴らは消えている。日は暮れている。そうやって僕は、やり過ごす。
だけど、今日は——違った。
「やめろ」
その声は、唐突に降ってきた。
高くも低くもない声。命令でも怒りでもない、落ち着いた声。それは強さだった。強さそのものだった。
笑い声が止まり、背中に受けていた石の矢が止む。
しばらくの沈黙のあと、奴らは逃げるように散っていった。
「平気か?」
その人影は、泥だらけの僕にしゃがみこんで、ためらわずに手を伸ばした。
白い手だった。太陽の下でもなお、きらきらと光るような、透き通るような手。
僕は何も言えなかった。何も返せなかった。
それでも、その手は、僕の肩にそっと触れて、もう一度言った。
「大丈夫だ。ひとりじゃない」
それは、嘘に違いなかった。だけど、僕には必要な、優しい嘘だった。
顔を上げると、とても美しい顔をした少年だった。特にその青い瞳には、まるで吸い込まれそうな強さがあった。
そこに映る僕の顔は、いつもより綺麗に見えた。
その時、僕の世界に一筋の光が射した。
それが、クリウスとの出会いだった。