第二話
【理不尽に慣れるための校則】
私の髪の毛は、生まれつきちょっと色が薄い。
暗い部屋だと黒く見えるけれど、明るい場所だと光の加減で色が変わって見える。赤毛に見えるときもあるし、茶色に見えるときもある。クラスメイトには、この髪の色をうらやましいと言う子もいる。私もちょっとだけ、気に入っている。
だからたまに自分の髪の毛を一束手に取って、光に透かしてながめている。角度によって色や模様が変わる鉱石があるけれど、あんな感じで、見ていて飽きないのだ。
そんなある日、校庭で生活指導をしていた先生が、私の前で大きくため息をついた。
「自己申告しなさいって、言ってるでしょ!」
突然叱られた私は、きょとんと目を丸くした。自己申告って、いったい何を?
そうして次に、ほんのりと腹を立てた。多分私の髪の色のことを言っているのだろう。染めているんじゃないかって。
正直、間違われてしまうことはあるだろう。でもこんなふうに、いきなり話も聞かずに叱られるような言われはない。
「地毛で癖毛で赤毛です」
腹を立てた私は、先生の言う通りに自己申告をした。先生はいらだちを隠さずに大きなため息をつくと、「行ってよし」と言った。
風紀検査でどんなチェックをつけられたんだか、わかったもんじゃない。そのチェックした内容を、私たち生徒は見ることができないのだ。
帰宅した私は、母に向かって生徒手帳を出した。
「お母さん、あのね、今日風紀検査で、髪の毛染めてるんじゃないかって疑われた!」
「あんた髪の毛赤いからねぇ」
「染めてないのに、染めたことにされたらたまったもんじゃないよ! 風紀検査って内申点にも影響あるじゃん! だから書いてよ」
「なんて?」
「この子の髪の毛は地毛ですって」
ヒートアップする私に、母は吹き出して、「言わなくてもわかるでしょ」と応えた。
「いいや、困るね! 染めた染めたって、めちゃくちゃ言われるんだから!」
「めんどくさいから嫌だ」
私は頭を抱えて、なんでよぉ! と悶えた。お母さんだって、地毛が赤かったはずなのに。
そうして、きっとお母さんの時代は髪の毛を染める人なんてほとんどいなかったんだろうなということに気がついた。
もしも私に子供が生まれて、髪の色が遺伝で明るかったら、絶対生徒手帳に「この子の髪の色は地毛です」と証明書を書こう。風紀検査で割を食うことがないように、地毛証明をしよう。
校則というものは、ときどき不公平だ。一律で全部同じルールにして、個人の事情をあまり見ない。
そうして、自身の潔白を伝えるために、私が親に説明して、対応してもらって、地毛証明書を学校に提出しなくてはいけないのだ。
なんという理不尽だろう! 無実だと証明するために、多大な労力が発生してしまう。
それってネットで見かけた、≪悪魔の証明≫ってやつなんじゃないだろうか。
私は全力でヘソを曲げた。校則には従うけれど、それを唯々諾々と受け入れる真似はするまい。
こうして私の胸には、大いなる反骨心が宿ったのだった。
そんなに染めてる染めてると言いがかりをつけるなら、卒業した暁には、本当に髪の毛を染めてやる。
そうして、本当に染めるとこうなりますという違いを見せつけてやるのだ。
***
校則には、何故そんな決まりがあるのかわからないものがいくつかある。
たとえば、靴下の色は白か黒か紺色というものだ。靴下がピンクでも紫でも構わないじゃん。私は持っていないけれど、薄い水色の靴下なんて可愛いと思う。
私の時代にはもうなかったけれど、昔は下着の色まで決まっていたことがあったらしい。風紀検査で見せるところを想像するだけで気持ち悪い。
校則を決めた奴の「女子高生とはこうあるべき」という理想像を押し付けられているようなものだ。
さらに面倒くさいのは、校則以外にも暗黙の了解が存在することだ。
たとえば私が所属する部活では、靴下の長さが学年によってある程度決まっている。一年生なら短い靴下、三年生なら長い靴下というふうに。
校則に染まりきって受け入れた連中が、さらに暗黙の了解を生み出していることに、私はめまいを覚える。
部活が同じ友達は、私の怒りを聞くと、困ったように笑った。
「校則って、そういう理不尽に慣れるためにあるのかもね」
理不尽なら理不尽と訴えていいと、私はさらに鼻息を荒くした。
「人生って意外と短いから、戦ってるうちに、あっという間に時間が過ぎていくよ」
「でも、放置しっぱなしなのもどうなの!?」
SNSを見ると、今日もニュースが流れてくる。
学校がいじめを放置して、被害者が動画をSNSに公開したニュース。
先生が盗撮をして捕まったニュースや、生徒の私物に体液を塗っていたとかいうニュース。
風紀指導や校則が必要なのは、むしろそっちなんじゃないの?
私は肩を怒らせながら、テニスのラケットを振る。ボールがコートの外まで飛んでいった。
「ホームランじゃん」
笑う部活仲間をよそに、私は「うまくならないなぁ」とちょっとだけ落ち込んだ。




