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残像少女  作者: 網笠せい
3 女帝 「鎖とその切断」
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第一話

 社務所の座卓で緑茶を出された僕は、あずささんの顔をまともに見ることができずに視線を落とした。


「では、この術の仕組みを説明するね」


 彼女は淡々とお構いなしに話を進める。


「このタロットカードは人間の記憶を吸い取っていくものだ。吸い取られるとその記憶を、元の持ち主は忘れてしまう」


 先ほどの光景を思い出して、忘れてしまえるのならその方がいい記憶もあるのだろう、と僕はようやくあずささんを見た。

 窓の外で風が鳴って、木の葉が揺れる音がした。


「このカードを作った人はつらい記憶を忘れるための装置として、この術を組み上げたのだと思うよ」

「じゃあ、あずの記憶を吸わせてやればいいじゃん」


 柾人さんは機嫌が悪そうにそう言うと、お茶を飲んだ。僕ならわざと音でもたててお茶を飲んでしまうところだけれど、彼は静かにお茶を飲む。


「うん。私は別に構わないよ。要らない記憶というのもあるからね。今回は柾人が干渉したから、記憶の吸い出しが中途半端になったけど。無茶するね」

「だって心配だったし」

「心配してくれてありがとう。記憶はうっすらと残っているけれど、特段感情はわかない。別人の記憶を見ているような感覚になった」


 いいんだか悪いんだか、と彼は日に焼けた畳の目を指でなぞった。

 それでね、と言葉を切って、あずささんはつづける。畳敷きの部屋はひんやりとしている。冬が来たら寒いかもしれないな、と僕は初詣の光景を思い出した。厄払いを待つ人たちが、ストーブの前で手をかざす様子だ。


「あなたはこのカードをどうしたい? 封印してしまってもいいだろうし、残り十九個の記憶を吸い取らせて完成させてしまってもいいと、私は思うのだけど」

「どっちにしろ、俺はこんな危なっかしいもの、とっとと片づけてしまった方がいいと思う。せっかくあずの親父が死んで、穏やかに暮らせるようになったのに、なんでまた掘り返すようなこと」

「柾人、人の死をそんなふうに言うものではないよ。死ねば皆仏だろう」

「ここ神社だし」

「それならなおのこと、拝んで穏やかな神様になってもらおうじゃないか」

「俺は拝みたくない」


 お前は昔からそういうところがあるね、私が拝むからいいよ、とあずささんが苦笑する横で、僕はタロットカードをどうすればいいのか考えつづけている。視界の隅にはいつものように、ひらひらとしたレースのついたスカートをはいた女の子がいる。


「ゴスロリの女の子が出てくるんです。僕が見ている景色の中にいつも出てくる。でもその子は現実にいるわけじゃない。僕を直接見てはいないし、話しかけたり触れたりしようとすると消えてしまって、別のところに現れる。不思議だと思ってた」


 出してもらったお茶の湯気が細くなって宙に消えていくのを、僕はながめている。社務所の柱に手を添えて、拝殿の様子をうかがうサナが見えた。


「少し前、同じ女の子に、現実で僕は会った。サナって名前だそうです。話ができたから、いつも幻で見てる女の子じゃない。多分、幻の元になった子なんだと思います。僕は《THE FOOL》のカードに選ばれてしまったから、これからいくつかの記憶を見なくてはいけない、って言ってました」

「タロットカードは《THE FOOL》の人物が世界を旅する様子を表現しているから、それを模しているのだろうね」


 程よい熱さになったお茶を飲んで、僕は一息ついた。


「覚えてないけど、サナには前にも一度会ってるみたいです」

「そう。最初にあなたの記憶を吸い取ったから、あなたが《THE FOOL》になったのだろう。そうしてあなたは記憶をなくした」


 横で柾人さんがタロットカードに手をのばす。バシッとガラスに亀裂の走るような音がして、彼は「あ」と言った。

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