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8もう、こんなの家族じゃない


 そして夕食の時父に話があると伝えた。

 いつものように私の前には具のないスープとみすぼらしい魚の切れ端としなった野菜。それと小さな昨日の食べ残しのようなパンがひとつ。

 こんな量で大人が満足できるとでも?それもこんな粗末なご飯。

 ミシェルに言わされば私が太ることを気にしてあまり食べないからだそうだ。

 (はっ!まったく)

 まあそんな事は置いといて私は思い切って口を開いた。

 「お父様後で大切なお話があります。あの手紙は?」

 「はっ?疲れてるんだ。ここで言え!」

 手紙を書いたがそれさえも読んではいないらしい。

 まあ、義理母もアシュリーもいるのでここで言う方がいいかも知れない。


 「食事中ですがよろしいでしょうか」

 まずはそう尋ねる。いつも口を開くと食事中だと叱られるからだ。習慣とは恐ろしいものだ。

 「さっさと話せ!」

 今まではこんな高飛車な言い方をされて委縮して来た。

 でも今はちっとも怖いとは思わない。寧ろあんたの顔なんか見るのも嫌なんだけど、仕方がないのよ。婚約解消のためには保護者の許可がいるんだから。


 私はわざと声を震わせるように小さな声で話す。

 「では…私はシュナウト殿下と婚約を解消したいのです。殿下にも今日伺ったのですがあまりいいお返事でなくて…」

 「えっ?義理姉様いいの?あんなにシュナウトにしがみ付いてたのに?」

 食いついたのはアシュリーだった。

 「はい、もう殿下に思いはありません。殿下にはあなたがふさわしいとどうか仲良くお過ごしください」

 「あっ、でも魔力制御はどうするつもり?彼に何かあったらあんたのせいよ」

 「いずれは聖女にお願いするつもりです」

 「そう、あっ、でも聖女って若い子なのよね。それも嫌だな…シュナウトもてるんだから…」

 (そんなこと知るかよ!と言いたい。それはあなたがしっかり殿下を縛っておけばいいんじゃない?私はさっさといなくなりますから)

 「聖女は不謹慎な考えは持たないはずです。ご安心ください。それにアシュリーさん。あなたが媚薬を使っていることはわかっていますよ。だから殿下をひとり占め出来るはずですよね?」

 「はっ?媚薬?わたしそんなもの使ってなんかないわ」

 (いいんですよ嘘つかなくても。ええ私だって知りませんでしたよ。死に戻るまで一切‥まあ、そんな事どうでもいいんです)


 「違ってました?それは失礼しました」って嘘だけど。

 「何よ。それ。お父様ぁ~」

 「リンローズどういうつもりだ?アシュリーに言いがかりをつける気か?」

 父の顔が強張り冷たい声がダイニングに響く。

 「お父様。義理母様。アシュリーさん。私は全くそんなつもりはありません。アシュリーと殿下の事応援しています。どうか殿下と幸せになって下さい。私は潔く身を引きますので、では、ごちそうさまでした。そうだお父様。明日中に婚約解消の手続きをお願いします。私は明日からは殿下に執務の引継ぎがあるので、皆様おやすみなさい」

 私は弾丸トークで言いたいことを言った。

 (やったぞ私。よく言った。褒めてあげる)

 

 「リンローズ本当にいいんだな?後で気が変わったなどと言う事は?」

 さっさと部屋に引き上げようと思っているのにしつこく父が聞いて来た。

 「ありません」

 「そうか、では私からロンドスキーに話をしてみる。だが、あいつは殿下とお前の結婚を望んでいる。だから問題なんだ。あいつは言わば借りの代理の王。それなのに自分の血を引いたお前を王家に嫁がせる気なんだ。クッソ!あいつのせいで王家は…」

 父は怒りを抑えきれないらしくテーブルを拳でバーン!と叩く。

 私もアシュリーもその音にビクッとなる。

 「アシュリーすまん。つい興奮した。だがアシュリーお前は違う。お前は純粋な王家の血を引くものだ。そこにいる誰かと違ってな」

 父は私を射抜くような恐い目で見た。

 「でも、異母姉様だってお父様の「あれは王命で仕方がなかったんだ」そうなんだ」

 アシュリーがふわりと微笑んだ。

 淡いブロンドの髪が揺れて父譲りの紺碧色の瞳が私を見た。

 「異母姉様可哀想。お父様からも嫌われて今度は‥そうだ。お父様婚約解消なんて生ぬるいわ。殿下から婚約破棄にしてもらえばいいんじゃない?」

 楽しそうに話すアシュリー。義理母も同じようにほほ笑んでいる。

 「そうだな。リンローズはアシュリーを散々いたぶったらしいからな。婚約破棄が妥当だな」

 3人が揃って私を見て笑った。

 前ならニヤリと口角を上げた父の顔が悲しくてたまらないと思っただろう。でも、今の私はもう父などとは思っていない。

 それによく考えればあの毒入りワインは私に飲ませるつもりだったのではと思った。

 私を殺すつもり…だったの?それに気づくと私の感情は一気に冷めて行った。

 お父様,もう、あなたを父とは思いません。そしてミシェル、アシュリーもう、あなた達にも遠慮はしないから。

 ぷっつり切れた。


 「ねぇ、あんたたち。どうでもいいけど、そこの。ほら名前だけのコリー侯爵。婚約はきっちりなかった事にして下さいね。では」

 「なんだ?その口の利き方は!」

 「はぁ?私はあなたの娘でもありません。でも婚約の件は名前だけ父のあなたにやってもらうしかないでしょ。それにあなた方もそれを望んでいるんだからやるのが当然じゃない。私が頼むべきことでもなかったわね。じゃあ、頑張って!」

 「まぁ、リンローズ。なによ。その口の利き方は御父様に失礼でしょ!」ミシェルが声を荒げる。

 「あなたに言われる筋合いはないわよ。大体ここは私の家なのよ。大きな顔をしないで。それからアシュリーあなたもよ。あんたたち元平民のくせに大きな顔をするんじゃないわよ」

 「ひどい異母姉様。お父様聞いたでしょ。こんな仕打ちとても耐えられないわ」

 「ああ、リンローズの婚約がなくなったらあいつは追い出すから安心しろ!」

 「何を寝ぼけたことを…ここの権利はあと数か月で私のものになるのよ。お母様は遺言として私が20歳になったら侯爵家の財産は私のものになるって遺言に書いてあると教えてくれたもの…あっ!」

 私はそう言って初めて気づいた。それで父は私を殺そうとしたのだと。

 「追い出されるのはどっちかしら?あぁ、楽しみ。アシュリー早く殿下と婚約した方がいいわよ。それに婚約破棄に出来るものならやってごらんなさいよ。殿下にいつもまとわりついていたのは誰なの?国王代理だってそのことは知ってるのよ。うふっ」


 それにしても私の誕生日まであと半年ほど。父が無理なら私の判断で婚約は解消できる。

 それにこうなったら侯爵家の財産を引き継いであの人たちには出て行ってもらう。

 そう思うと気分は最高だった。






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