66ネイト様に心を鷲づかみにされる
私は牢に連れて行かれて恐くて恐くて震えが止まらなかった。
どんなに違うと言っても信じてもらえなかった。
あの時と同じだ。
うそ!これって二度目の断罪?いやだ。いやだ。こんなの絶対嫌だから!
護衛兵は私を牢に入れるとしばらく見張っていた。
このままではと私は何度も無実を訴える。
「信じて下さい。私は毒なんか入れていません。あれは国王代理からあずかったんです。私は無実です。ここから出してください。お願いします」
「うるさい!黙れ」
何度かこの会話を繰り返したが護衛兵は聞く耳もたず
「これ以上言うなら痛い目に合わせるぞ!いいから黙れ。わが主人を殺めるような女の言う事を聞くと思うか?」逆に怒りを煽ってしまい護衛兵が怒りで剣に手を掛けた。
「‥‥‥」
私は恐くて何も言えなくなり牢の隅に座り込んだ。
そのうち別の護衛兵が呼びに来てひとりになった。
牢の壁にランタンがひとつその小さな灯りが揺れる。まるで私の命の残り火みたいに思えた。
一度目は父に貰ったワインをシュナウト殿下に飲ませて殿下が死んで断罪。
二度目もおじいちゃんから預かったワインを辺境伯に飲ませて‥そんな‥
きっとカルキース辺境伯は今頃‥さっき護衛兵が呼びに来たのは彼が亡くなったからだろうか‥
もし、そうだとしたら私はもう助からない。
身体の上に重い鉄板でものしかかるみたいに身体が重くなって座っているのも辛くなりその場に寝転んだ。
牢の地面は石で出来ていて冷たい。
身体からはどんどん熱が奪われて震えが始まる。でも、それをどうにかしようとすら思えない。いっそこのまま死んでしまいたいとさえ思う。
涙は枯れて濡れていた頬がかさつくと心は死んだように何も感じなくなった。
ぐったりして意識がなくなりかけた時、微かに明かりが見えた。
誰か来た。
もしかして処刑される?
ドクンと心臓が脈打ちぎゅっと唇を噛みしめる。乾いた唇が痛い。死にたくない。
身体を丸めて芋虫みたいに丸くなっても恐怖心は膨れ上がって行く。
ああ、もうだめ。
そう思った瞬間「リンローズ?」と声が聞こえた。
最初は気のせいかと思った。でも、それがほんとうにネイト様だと分かって私は脚をもつらせながら鉄格子に近づいた。
ああ…ねいとさまだ。声が出たのかもわからなかった。
髪はぐしゃぐしゃできっと瞼は腫れている。でも、そんな事構っていられなかった。
「私、毒なんか入れてません」とにかく彼に信じて欲しかった。
「安心しろ。俺も君が毒を入れたなんて思っていない‥」そう言われてもうすごくうれしかった。
誰かが信じてくれる。そう思っただけで頽れた心が立て直された。
カルキース辺境伯に私が持って来た毒消しを飲ませたことも教えてくれた。それで助かった事も。
それだけでもうれしいのに彼は一晩中私のそばにいてくれた。
私はもうネイト様に心を鷲づかみされた。
この人について行きたい。これからずっと一緒に生きて行きたいと願った。
翌朝夜が明ける前にネイト様は牢を後にした。
「大丈夫。リンローズがそんな事をしていないと分かるはずだから。安心して待ってるんだぞ。いいな。もう少しの辛抱だからな」
ネイト様は私の額にそっと優しい口付けをして去って行った。
夜は開けたのだろうか。地下牢ではそれさえもわからない。ネイト様の言うことを信じていればいい。絶対に彼が私を助けてくれる。だって約束したんだから。
暗い牢にいるとすぐに心が折れそうになって何度もネイト様が言った事を思い出しては‥大丈夫。大丈夫。大丈夫。そう心で繰り返す。
どれくらい時間が経ったのだろう。
いきなり二人の護衛兵がやって来て私は牢から出された。
「あの、カルキース辺境伯はご無事なんですよね?」
がたいのいい護衛兵の一人がボソッと話す。
「ああ、あなたの薬で助かったと聞きました。礼を言いいます。毒はあなたのせいではないと分かりました。すぐに部屋にお連れします。遅くなってすみませんでした。支度が出来たら奥様が朝食をとおしゃっていますので」
「わかりました。誤解がとけてほっとしました」
「昨晩のあの状態ではあなたをこうするしかなかったんです。許して下さい」
もうひとりの護衛兵もそう言って謝った。
「いえ、お気持ちはわかりますので、でも、すごく心細かったです」
これくらいは言ってもいいだろう。本当はネイト様がいてくれて心細くはなかったけど。彼が来るまではほんとに死ぬほど恐かったんだもの。
「「申し訳ありませんでした!」」二人が敬礼をして謝った。
「わかって頂ければいいんです」
私はやっと自分の部屋に戻って来た。




