61北の神宿石で神の声を聞く
カルキース辺境伯が声をかけた。
みんなで一斉に振り向く。今の話聞かれてた?もう、恥ずかしい。
でもカルキース辺境伯は何も気づかないふりで神宿石の前に立った。
「これが北の神宿石です。かなり古いもので恥ずかしながら魔力を保てるのもやっとでして」
確かにカルキース辺境伯が言うように神宿石はかなり古くあちこちが痛んでいる。それに薄っすらと輝いてはいるが魔力の保有量は少なそうに見えた。
「リンローズ行けるか?」シュナウト殿下が聞いた。
「ええ、やって見ましょう」私もそのつもりだった。
ふたりで西の辺境伯領の時のように神宿石に手を当てる。
シュナウト殿下が「いち、にぃの、さんで行くぞ!」
「わかった」
ネイト様は手を振れずまずは私たちに任せるつもりらしい。
「いち、にぃの、さん!」
ふたりからピンク色の光と白金色のような光が広がって行く。
やっぱりシュナウト殿下の魔力は進化してるみたい。
あの時と同じように大きく広げるように‥でも、あの時は倒れたわ。今回は神宿石に魔力を注ぐつもりでやってみよう。
どんどん魔力が吸い上げられていく感じがして脳内に白い靄がかかりそうになった時。
突然、声が聞こえはじめた。
【会いたかったポトス。わたしよセレネーンよ】
【セレネーン?ほんとにセレネーンなのか?どうしてここへ?】
【ガイアン様から言われて私はこの国の真意を守ろうとして来たのよ。でも、人間は愚かで嘘をつき騙しあい憎みあう事ばかり、私はもう疲れたの。こんな人間の為にどうして私達が頑張らないといけないのって。あなたと別れてまで。今まであなたも私がこうする事を望んでいると思っていた。でも、もう疲れたの‥だからこの聖女に私の力を少し分け与えたの。あなたの元に私の声を届けたいと思ったから】
【ああ、可愛そうに。セレネーンはこんなに人間の為に尽くして来たのに。それは私も同じだ。この石を見てみろ。こんなにボロボロになってそれでも頑張って来た。私ももうへとへとだ。人間も神宿石に加護を与えるのも限界があるって知っているはずなのに、昔はきちんと神宿石の寿命を見極めて新しい神宿石を奉納したものだ。だが、今の人間は己の欲ばかりに走っている。セレネーンお前が天に帰りたいなら俺も行く】
【ほんとに?うれしい。でも、そうなると東のペリオスと南のウレリオンにも聞いてみないと‥聖女が東と南に行くように仕向けなきゃ】
【そんな心配はいらない。知らなかったのか?ふたりともすっかり機嫌を悪くしてるんだ。私は源の神だ。東にも南にも川は流れているからふたりの小言は聞こえていた。でも、セレネーンはちっとも弱音を吐いていなかったから気づかなかった。すまない】
【ううん、私ずっと我慢していたの。あなたのせいじゃない】
【じゃあ、私達の加護を与えることをやめてしまおう。東と南には私が知らせる。セレネーンは待っていてくれればいい】
【わかったわ。ありがとう】
そこで話声はぷつりと切れた。
私は信じれなかった。もしかして今のは西の神セレネーンと北の神ポトス様の会話?
それが本当だったら?大変なことになる。
魔力が底をついたみたいに身体中の力が抜けた。
「リンローズ?おい、しっかりしろ」
私は意識を失った。




