59北の神殿に転移
ネイト様が辺境領から戻って来て神殿の転移陣に移動した。
私から行こうとしたがシュナウト殿下に止められた。
えっ?どうして。私はきょろきょろ振り返った。
シュナウト殿下の顔はものすごく真面目だ。
ラドール様はそんな殿下に鋭い視線を向けている。ラドール様は今回は行かないと聞いた。転移陣、二人までだもんね。ネイト様は自分で転移できる力を持っているので問題ないとか。あれ?ふたりは兄弟なのにずいぶんと魔力の差があるんだなどと考えていたら。
「俺が先に行く。何かあったらいけないからな」
「そう?」
前回はそうではなかった。考えを読み取ると本気で私を心配しているみたいだ。
「ああ、それがいい。リンローズの心配は無用だ。さあ、先に行っていいぞ!」
ネイト様が私の腰を引き寄せる。シュナウト殿下の顔がむぅとなりかけたが彼はそんな気持ちを抑えて冷静さを取り戻し「ああ、ラセッタ辺境伯よろしく頼む」とそんな殊勝な言葉を言った。
驚き。
シュナウト殿下が転移陣に立ちセダ神官が手をかざす。彼の身体が光に包まれて消えた。
その間にネイト様が「やけに荷物が多いな」と言った。
「まあ、失礼な。薬や薬草を詰め込んでいるんです」と説明した。
「まったく、リンローズにはかなわないな。ドレスを詰め込んでいるとでも言うかと思ったが‥そんなところ好きだな」
【なんなんだ?可愛すぎるだろ。ったく、たまらないな‥】
彼の考えていることが脳内に流れ込んで来て一気に恥ずかしさが込み上げる。
「もぉ、ネイト様。私達は仕事で行くんですから」
「ああ、でも、これが終わったら婚約解消して欲しい」
じっと彼の顔をまじまじと見てしまう。
【俺がどんなにっリンローズが好きかわかってるのか。あいつと一緒にいるところを見るたびに胸が引きちぎれそうなんだ。だから少しでも早く一緒になりたいんだ】
ネイト様ったらそんなに私の事を‥彼の一途さに胸がぎゅっとなった。
「リンローズ?」
「はい」
「大丈夫か」ぼぉ~としていたらしい。すかさずネイト様の顔が近付いて来て額と額がくっついた。
「ふぅん。熱はなさそうだ」すっと彼の手が髪の毛を梳いて顔を上向かされる。
「‥‥すまん。これ以上触れると我慢がきかなくなる」
ネイト様は自分でやっておきながらさっと私と距離を取った。
「ネイト様。私も早く一緒にいれるようになりたいです」
「り、りんろーず‥まっ!かわいすぎるから」ネイト様はあたふたとする。
そうこうしていると私の番が来た。
彼は私の腕を取って転移陣まで連れて行ってくれる。
そしてじっと私を見つめて「心配するな。すぐに後を追うからな」そう言うと私に近づき髪の毛にキスをされ、ふわっとした気持ちのまま転移していた。
北の神殿の転移陣に移動した。
シュナウト殿下はすでに転移から落ち着いていたらしい。
転移陣から出て来たばかりでふらついた私をそっと支えてくれる。
「すまない。何もしないから、転ばないように支えるだけだから」
この人にどんな心境の変化があったのだろう?もしかしてラドール様が帰って来てこっぴどく怒られたとか?
そんな事を思いながらふわふわする身体が楽になって行く感じ。
あれ?これって回復魔法じゃ?
「なぜか俺も回復魔法が使えるみたいなんだ。昨日気づいた」
「はっ?どういう事?攻撃魔法のシュナウト殿下に回復魔法が使えるなんて‥あなたの魔力は進化してるって事?」
「進化なんて大げさだな。今までさぼってて気づかなかっただけかも、きちんと魔力調整が出来るようになったらもっと他の魔法も使えるかもな」
これってすごい事だと思うけど、そんなところこだわらない性格だよね。
「でも、あなたがそうなれば国の為になるんだしいいと思うわ。頑張って!」
あれ?私どうして応援してるのよ。
変に素直になられると‥調子狂うな。
「リンローズ応援してくれるのか?」
「か、勘違いしないで国の為だからよ!」やっぱり嫌な奴だ。
そうだ。さっきだって私の魔力制御なんて必要なかったんじゃないの?
私はシュナウト殿下を二度見するが彼はさっと私から離れて行く。
やっぱり調子狂う。
そこにネイト様が現れた。
彼は転移が終わると何もなかったかのように私に近づいた。
腰を抱き寄せたりはしなかったが「お待たせリンローズ。身体はどうだ?ふらついていないか?」と心配そうに顔を覗き込まれた。
すぐ目の前に彼の形のいい唇や長いまつ毛がはっきり見えた。
「ええ、もう大丈夫みたい。ありがとうネイト様」
ネイト様近すぎです。転移前に言った事を思い出しぶわぁと羞恥で頬が染まった。
「リンローズ。頬染めるなんて‥かわいい」
ネイト様から熱い熱を感じた。
もう、ネイト様不謹慎ですよ。ここは神殿です。と心の中でつぶやいた。
「お待ちしておりました。北の神殿長のシバと申します。お身体はいかがです?とにかくカルキース辺境伯がお待ちですのでご案内します」
50代だろうか淡い金色の髪に薄紫色の神官長が穏やかな笑みを浮かべて挨拶をした。
「「「はい、よろしくお願いします!」」」
私達は慌てて姿勢を正した。




