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5何か目に見える結果が欲しい


 準備が出来たので声をかける。

 「では、制御を行いますので上着とシャツを…」

 今までは彼に近づき彼の服をかいがいしく脱がせていた。べたべた肌に触れて少しでも彼と触れ合いたいと言わんばかりにすり寄り…

 思い出すだけでも恥ずかしい。


 シュナウトは信じれないとばかりに不思議そうにひとりで上着をはぎ取ってシャツのボタンを外す。

 疑り深い眼差しでこちらを見てほんとに?まじなのか?って顔で牽制される。

 「なんだ?今日は触れて来ないのか…」

 彼の口角が上がる。

 そんなに嫌だったのかとまた落ち込む。

 前世の久保鈴子には何でもない事だがリンローズに取ったら辛い事だろう。

 でも、今の私の中身は久保鈴子。ちっともへこたれることはない。寧ろこんな嫌な男と別れられるなら良かったとさえ思っていた。

 「も、もちろんですわ。今までのご無礼申し訳ございませんでした」

 私はがばりと頭を下げる。


 彼がソファーに座って準備が出来た。

 私はそっと彼の横に座るが彼には触れない。

 「では、失礼します」

 そっと手をかざして魔力の淀みを調べる。

 緊張して今までの失態を思い出し嫌でも呼吸が乱れ思わず深呼吸をして息を整える。

 手のひらがプルプル震えるが何とか集中して魔力の乱れを治して行く。

 本当は振れた方が効率はいいがここまで来たらもうそれは無理だろう。

 額に汗がにじむし喉がカラカラになって行く。それでも必死で施術を施した。


 「殿下。かなり体調は改善されたと思われます」

 「ああ、触れなくても出来たんだな。お前今までは散々触れてたよな」

 なぜかシュナウトの機嫌は良さそうで。

 「申し訳ございません。もう二度とそのようなことはしませんので」

 「はっ?誰がそんな事を言った」

 シュナウトは眉を上げて信じられないとばかりに目を見張る。

 「はい、私は殿下がアシュリーを愛されている事をはっきりと悟りましたので殿下とは婚約を解消すると決めたのですから」

 「そ、そうだよなぁ」

 返事は何だかとぼけていて肩透かしを食らったようなおかしな気分だ。

 シュナウト殿下の視線はすぐに反らされ私を見ることはなかった。

 彼はすぐにシャツを取り上げ袖を通している。

 きっと私の気をそがないようにと黙っているのだろう。


 「では、次回は1週間後です。もう一度聞きますが本当にこのまま私で?」

 「しつこいぞ。お前でいいと言っているだろ」

 怒気を含んだ声に尻込みする。

 「わかりました」と言うしかなかった。

 ズキッ!

 彼は私を苦しめて喜んでいるのかもしれない。そう思うと何故か胸が苦しくなった。

 前世を思い出し心は久保鈴子かと思ったが中身はリンローズなのだと知った。

 彼が好きだった。幼いころからずっと。でも、もうそんな気持ちとは決別するべき。


 扉に手を掛けたまま私は顔をぐっと上げてシュナウト殿下を見た。

 私は苛立ち何か一つでも結果が欲しいと思った。

 「あの…婚約解消が望めないのでしたら私は殿下の執務はもう致しません。殿下のやるべきことはご自分でされるべきかと」

 シュナウト殿下がこちらに振り返った。一瞬何を言ったみたいな顔をするとすぐに返事が返って来た。

 「ああ、そう言われればそうだよな。わかった。執務は自分でやる。あっ、でもしばらく‥その付き合ってくれないか。その仕事の引継ぎなんか必要だろ?」


 「えっ?」

 しばらく何を言ったのか理解する時間が必要だった。

 「ああ…言われてみればそうかもしれません。では、また明日」

 「ああ、迎えに行く」

 「はい?今なんて言いました殿下」

 「いや、迎えの馬車を行かせる」

 「…あの執務にはアシュリーを同行されないようお願いします」

 「当たり前だ。仕事の時女を侍らせたりしない。安心しろ」

 「わかりました…では失礼します」

 私は何だか期待が外れたような肩透かしを食らったようなおかしな気分になった。

 アシュリーを遠ざけるなんて…どうかしてる。

 でも、こんな事で気持ちは変わらないけど。

 目指せ婚約解消だから。





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