53国王代理(おじいちゃん)に呼ばれる
国王代理から呼び出しが来た。
私はネイト様に付き添われておじいちゃんの執務室に出向いた。
側近が中に案内してくれる。今日はベナンではなかった。
「リンローズよく来てくれた。ラセッタ辺境伯。君は呼んでいないが」
おじいちゃんは私を笑顔で出迎えたと思ったらネイト様を見て眉を上げた。
「私は彼女の後見人になっています。お話を一緒に聞く権利があると思いますが。国王代理」
「わかった。わかった。シュナウトはまだか?」
これ以上何か言われるのは面倒だとでも言いたげに散雑な言い方だ。
えっ?シュナウト殿下も呼んでるの?
私は一瞬で身体が緊張した。そんな私の変化に気づいたのか少し離れて立っていたネイト様がそっと腰に手を掛けた。
彼は「大丈夫か?」と私にだけ届くほどの声で尋ねる。
私はこくんとうなずく。
あれから彼とは会っていない。何度か神殿に来たらしいが私は会いたくないと言って拒否したからだ。
でも、いずれは話をする時が来ることはわかっている事だ。ネイト様だって着いていてくれる。
それにここはおじいちゃんの執務室。話をするにはちょうどいいと決心するが。
「はい、まだお見えになっていません」側近が答えるのとほぼ同時に扉が開く。
あんなに決心したのに思わず身構える。
「失礼します。国王代理ご依頼の件の報告に参りました。直接こちらにお知らせするようにと伺っていましたので‥あっ、失礼。ご歓談中でしたか。では、また後程‥」
入って来たのは薬物研修室の所長のリンハル・トマーソン様だった。
「いや、トマーソン。ちょうど良かった。リンローズもいるからちょうどいい。アシュリーが持っていた薬物の事だ」
「ドーナン殿下の一件の?」食いついたのはネイト様だった。
「そうだ。トマーソン。報告を頼む」
トマーソン所長は淡々と結果を報告した。
「持ち込まれた疲労回復と言われた薬には媚薬の成分が大量に確認されました。間違いなくこれを飲めば相手の女性を激しく求める状態に陥るでしょう。但し薬が切れれば元の状態に戻しますが薬を飲んで起こした事ははっきりと覚えていないと思います。ですがこの薬を毎日常用されると相手の女性への依存が激しくなると思われます」
「それはその女の言いなりになると言う事か?」おじいちゃんが問う。
「はい多分。何とも恐ろしい薬です」
「そうか。ご苦労だったトマーソン」
「では、失礼します。これでも忙しいもので」
トマーソン様はあの時会った時そのままの素っ気ない態度で出て行った。
「リンローズ聞いただろう。アシュリーには失望した。それにレトリスにもだ。親子で王族を貶めるとは‥聞けばシュナウトもあの女の毒牙にかかっていたそうじゃないか。そうとなればリンローズ。シュナウトを許してやってはもらえないか」
私はそう来たかと思うがそれより聞きたいことがある。
「それよりアシュリーと父はどうなるのです?」
「ああ、アシュリーは修道院に行く事になった。お前の父。レトリスは爵位剥奪の上、王領の採掘場で強制労働をする事になった。リンローズも辛いだろうが許せ。王族を眇めようとした罪は大きい。それも王子ふたりとなればもはや救いようがない」
私はそれを聞いて胸がすっとした。ずっと私を苦しめて来た人があるべきところに落ち着いたんだと思えた。
だけど‥アシュリーには失望した。もう、何やってるのよ。私はそんな事をせずにシュナウトを手に入れろって言う意味で言ったのに!はぁぁぁ、同じ血を半分分けた?あっ、そうか同じ血もどうしようもない人のだったわ‥‥
それにあの獰猛な野獣には手慣れたペットが必要だって言うのにどうすればいのよ。
シュナウト殿下が無理ならドーナン殿下だなんて、どこまでもばかな人たち。
それにしてもミシェルはどうなったのかしら?屋敷に帰ってあの人がいると思うと憂鬱。
「そう言えばミシェル。いえ、義理母はどうなるのです?」
「ああ、レトリスが一度屋敷に帰って妻に話がしたいと言うのでな、願いをかなえた。妻のミシェルは庭師とお楽しみだったらしい。ハハ、レトリスはその場でミシェルに離縁を言い渡し彼女を追い出したそうだ。今、コリー侯爵家のタウンハウスには執事と使用人しかいない。リンローズが王命で北の辺境伯領に出向くことは連絡済みだから安心してくれ。ああ、そうだ。そう言うことでリンローズコリー侯爵家の爵位はお前が引き継ぐことになるからな」
私はきっと目を見開き驚きで息を止めていた。
おじいちゃんがそんないい人だったなんて?信じていいの?でも、こんなの絶対何かがあるに決まってる。
でも、それは私がずっと望んで来たことでうれしい。
「おじい様。もしかしてすべて私の為に?」思わず言葉がこぼれたけれども。
「もちろんだ。リンローズ、お前は私の可愛い孫なんだからな。お前が辛い目にあっていた事に気づいてやれなかった私を許してくれるか?」
おじいちゃんの目にはうるうる涙が光る。
私は思わすこくこく首を上下させた。
おじいちゃんの口角が上がった。
「良かった。では、リンローズ。シュナウトとの婚約はこのままにしてくれるな?あいつもアシュリーにいいように騙されていたんだ。先日の事は言わばお前が好きすぎて起こした不始末だろう。許してやれ。それに北の辺境伯領の事頼むぞ」
あっ、そういう事か。シュナウト殿下との婚約を続けろと言う算段か。しまった。やられた。どうすればいいの?
「‥‥‥」
ネイト様の顔を見た。彼は悔しそうに唇を噛んでいる。
もう手詰まりか?
そうだ。私は普通の令嬢とは違う。
死に戻り前世の記憶も持っている。何度も締め切りの終われもうダメだと思ったのはいく度。そんな生き地獄を味わって来た久保鈴子。
このままおじいちゃんの思うようにされてたまるか!




