45結界はうまくいったが
翌日は朝から皆殺気立っていた。
いよいよ結界を張る日が来た。魔石への魔力補充はすべて終わった。後は結界を張るだけとなった。
ラセッタ辺境伯や騎士たちは朝からせわしなくして準備に余念がない。
聞けばそれぞれ持ち場について結界がきちんと張れるかを確認するらしい。
どうやってするかは結界が張れるときには光の帯がそれぞれの魔石を結んでいく様子が見えるらしい。
私は昨日になって、そもそも結界が薄くなったり穴が開いたことをどうやって確認しているのだろうとヒルダ様に尋ねた。
ヒルダ様は笑ったりしなかった。真面目な顔で魔力を持った人間が魔石に魔力を流し込むと結界の状態が見えるそうだ。
だから東西南北の神殿と辺境伯領には王族の血縁の人がなっているのかと感心した。
それに魔力が使えないと転移も出来ない。それはすごく困ったことになるだろう。
そんな訳で私達は準備が出来るとまず神宿石に前に立った。
もちろんシュナウト殿下も一緒だ。
この数日で何だか彼に対する気持ちが変わった。私に好意を抱いているとは思うが。まあ好きな人とそんな事をしたいと思うのは自然な事ではあるが‥彼の真意は全く未知数だ。
それでもこんな場所で事を荒立てる気もないし、私に人の考えが読める力があるとすればシュナウト殿下の真意もいずれはっきりするはずだろう。
今はとにかく結界を張る事に集中だ。
3人で神宿石に手を振れて魔力を流し込んでいくと光が石に宿った。神々しい橙色の光がネオンのように輝いている。
そしてしばらくするとその光が空中に広がり始めた。
放射線状に伸びた光は何か所もある魔石に向かって伸びて行く。
あちこちで煙が上がり魔石に光が届いた事を知らせる合図がある。
「殿下。ヒルダ、リンローズ。あともう少しだ。まだ頑張れそうか?」
そう言ったのはネイト様だ。
見ると彼もいつのまにか神宿石に手を当てて魔力を注ぎ込んでいた。
「はい、ネイト様大丈夫です」私は彼に返事を返す。
その途端シュナウト殿下が私に声をかける。
「辺境伯。これくらい朝飯前だ。心配するな。リンローズ大丈夫か?」
「はい、シュナウト殿下大丈夫です」
「「よし、もうひと踏ん張りだ無理はするなリンローズ」」そう言ったのは二人一緒だった。
「‥‥‥」
何かの拷問か?何だかいや~な予感がする。
そして無事に結界が全ての魔石を囲った事が知らされた。
「よ~しもう手を離してもいいぞ。いいか、いち、に、の、さんで行くぞ!」
「「「はい!」」」
「いち、に、の、さん!」
3人は同時に手を離した。私は思っていたより魔力を使っていたのか離した瞬間ふらついた。シュナウト殿下は真向かいで右隣がヒルダ様。左隣がネイト様だった。
ネイト様が私の腰を支えて転ばないように支えてくれた。
「あ、ありがとうございます。ネイト様すみません」
「いいんだ。リンローズ疲れただろう。本当に感謝する」
私の顔をしっかり見つめてお礼を言ってくれた。私は真っ赤になって「そんな、当然の事です」と言い返した。
までは良かったが。
「おい!俺のリンローズに触れるな!不敬だぞ。そもそもリンローズは俺の婚約者で、それなのに身体に触れるなどどれだけ不敬だと思っているんだ?いくら辺境伯でも許せることと許せないことがあるぞ!」
シュナウト殿下はすごく怒って私の身体を取り返すように引っ張った。
そのせいで私は脚をもつらせてまた転びそうになる。
それをネイト様がぐっと抱き寄せたから、もう大変で。
シュナウト殿下は怒ってネイト様に殴り掛かり、ネイト様は私をかばって足で蹴りを入れて。
私は腕を振ってふたりから離れた。
「もう、ふたりともいい加減にして下さい。子供じゃないんですから。シュナウト殿下、ネイト様は私が転びそうになったのを助けてくれただけです。それなのに。いいですか、私ははっきり言ったはずです。この仕事が終わったら婚約は解消するって。覚えてますよね?」
「そんな事は認められないと言ったはずだ」
「いいえ、勘違いしないで下さい。この婚約はもともと殿下の魔力が落ち着かないからと決まったもの。でも今回の一件で殿下の魔力は魔力のある人なら誰でも何とかできると分かりました。もう、私の役目は終わりです。いつまでも私を頼らないで下さい。いいですか殿下。私には私の人生があるんです。王都に帰ったら私はもう好きにさせてもらいますので‥」
シュナウト殿下はしゅんとうなだれて反論も出来ないほどだ。ネイト様も啞然として口をポカンと開いたままで。
あっ、やってしまった。




