2まじ、嫌なんですけど
とこれまでの私のズタボロの人生を思い出して「くぅぅぅぅ」とうなり声が出た。
あまりにひどい人生だわ‥
まあ、どうして私がこんなに取り乱しているかって。
だって私がシュナウトを殺して処刑されて巻き戻り前世を思い出しそして転生者でもあった事を思い出したからだ。
おまけにこの世界が前世で編集部に持ち込まれた小説<片恋の結末>の中だと気づいた。
笑えるし反吐が出る。
あの小説…くそだった。
私は編集部で働いている久保鈴子くぼすずこ28歳。担当は新人の作家を見いだす事。それ以外にもいろいろな雑用を押し付けられていた。
だから私の所には毎日新作の小説が送られてくる。
ああ、でもこの小説は持ち込みだったので仕方なくパラパラ目を通したんだけど
正直こんな最悪のシナリオを描くなんてお前の根性は相当腐ってるなって思った。
何しろ全員が不幸になって死んでしまう話だったから。
確かに言ったわよ。10年前に少しばかり売れてその後まったく売れていない野々原恵子28歳に。
とにかく売れたいなら今までにない作風にしなきゃとか、斬新なアイディアが必要だとかとか。
思えば、あの小説を読んで気分の悪くなった私は帰りにコンビニでお酒でも飲まなきゃって缶ビールを買ってそれを飲みながら歩いていた。
その日は上司からもこっぴどくこき下ろされて気持ちがかっさかっさにすさんでいた。
そんなに酔いが回っているとは思わなかったが歩道橋で足を滑らせた。
それも階段の一番上の段で転がり落ちて私はきっと死んだのだろう。
気が付けばいきなり私は、あの小説の処刑されたその半年前に巻き戻った世界にいたってわけで。
中学生の時から初恋をこじらせ大学まで一人の男一筋で結局振られて、それからも恋人なんて出来ないし、両親は数年前に事故で亡くなり天涯孤独。
仕事では行き遅れの上司からいびられまくられているひどい人生で。
もう、こんなの最悪じゃない!
この話。リンローズは魔力を制御できる力を持っていてそれは癒しの力あるいは聖女と言われる力を持っている。
魔力暴走を起こしたシュナウトを助けた事とブルト国王代理の孫でもある彼女が彼の婚約者になる。
そうなれば反対派勢力も何も言えなくなる。シュナウト殿下は前国王の子供なのだから。
それにシュナウトは平民だったので操りやすい。不自由のない暮らしや王子として扱えばそれで満足するような男だからだ。
国王の妹でもあった母もそれは喜んでシュナウトを助けるのはリンローズの使命だと言わんばかりに王宮に出入りした。
そしてリンローズには『シュナウトのお嫁さんになって生涯彼を助けなきゃいけないのよ』と何度も言い聞かせたりして。
ほんといい気なもんよ。
でも、そんな事は彼に取ったらひどくプライドを傷つける行為だったみたい。
女の子に施術を施してもらわなければならないなんて嫌だったらしい。
学園でアシュリーと出会うとシュナウトはリンローズを邪魔者のように扱うようになる。
そうでなくても実家ではリンローズは家族にないがしろにされていたのに。
アシュリーを眇めているなんて大噓なのに。寧ろ散々いじめられてきたのはリンローズの方で。
それでも、彼が好きだからどんな時だってリンローズは彼が魔力暴走を起こさないよう魔力制御をする事は怠らなかったし必死で気に入られようと頑張っていた。
けなげよね…
彼は嫌がって嫌な顔をしていたけれどそれでも必要とされていると思っていたのに。
なのに…そんな状況の中アシュリーが妊娠。まあ、それほどアシュリーを愛してたって事なんだろうけど。
そしてリンローズは婚約破棄されて彼を殺した罪で処刑されるの。
まあそれは誤解なんだけど。本当は彼を殺そうとしたのは父のレトリス。
父は王家乗っ取りを恨んでいて母も憎んでいたしリンローズも憎かったんだと思う。
ああ、そうそうリンローズの両親は王命で結婚したんだったわね。
父親はその事をずっと恨んでいるって言うのに、そんな人と現国王の妹を結婚させる方が間違っているって思うけど。
でも、そう言うストーリーなんだから。
まあ、だから父はブルトの孫であるリンローズを王妃にしたくはなかった。
アシュリーが妊娠した事を知って殿下を殺そうと企んだのだろう。
でもリンローズが毒入りのワインをシュナウトに飲ませた事でシュナウトは死んだ。
リンローズはシュナウト殺しで処刑され、その時父親の計画だとリンローズが父親に騙されたことを話して父親も捕まる。
でも、自分が犠牲になるとは思ってもいなかったと父親はアシュリーが媚薬を使ってシュナウトを虜にしていたことをうっかりばらしてアシュリーも断罪対象に。
そう、小説はみんなが悪役だったって事にしたのよね。
アシュリーはそのことがばれて流産してしまって処刑される。
父もシュナウトを殺そうとした事で処刑。
ミシェルも同罪として処刑される。
そうだ。最後はみんな死んでしまう。そんな最悪な内容の話だった。
でも、考えてみればリンローズは被害者で悪くはないのよ。
もぉぉぉぉぉ!どうして私がこの世界に転移するのよ。
こんな事あり得る?
まじいやだから。