4章38 万能聖女、宿星のダンジョンへ潜る10
または『サンドリザード』――砂色をした大トカゲで、前肢に水かきのような膜がついており、砂の浅い部分を移動できる。
そんな魔物たちを相手にしながら、上の砂海より時間をかけつつも抜け――二十三層。
こちらもやはり砂漠だが、砂砂漠と礫砂漠とが半々に存在するフロアだ。
砂砂漠のほうは相変わらずだ。ほとんど平坦で、ときおり緩やかな傾斜がある。
そして新たに追加された環境、礫砂漠のほうは――サボテンだらけだった。
ただのサボテンもたくさん生えているが、魔物もサボテン系ばかりなのだ。
まずは、オーソドックスな形をした歩くサボテン『サボテンマン』――腕と足が生えていて、顔にあたる部分には目と鼻、口を模した空洞がある。
手にはコミカルなボクシンググローブをつけていて、パンチしてくる。ついでにトゲも飛ばしてくる。
そして、その上位種である『サボテンファイター』は、サボテンマンよりも人に近い形状。手にはグローブではなく拳サポーターをつけ、トゲを飛ばしてくることはないが、かなりレベルの高い近接格闘を行ってくる。
こちらもまた全身に短いトゲがびっしり生えているので、普通なら迂闊に近接格闘などできないし、する必要もないのだが――コウガは好んで相手の土俵で戦っていた。
彼は魔力を鎧のように纏える〈魔纏〉スキル持っているから、全身にトゲがあっても関係ないのだ。
「ハッ!! やっぱ雑魚だなっ!!」
とか言いながら、とっても楽しそうだった。
純粋な格闘戦も大好物なコウガである。いかに格下であっても、ちゃんとした武術を使ってくるのがお気に召したのだろう。
また、こんな環境ゆえの能動的トラップもある。
救済的植物『ウォーターサボテン』――地面から生えたまん丸な茎の中に、飲める水が詰まっているのだが、これ自体にはまったく問題がない。むしろ普通の水よりも美味しいくらいだ。
注意が必要なのは、ウォーターサボテンと同じ形状をした『シビレサボテン』の存在である。これも中身は水なのだが、飲むと全身が痺れて動けなくなるという毒の水なのだった。
ただ、ちゃんと見分けはつくようになっている。てっぺん部分に咲いている花の色が違うのだ。
ウォーターは目の覚めるような青色で、シビレは青紫色。やや見間違えやすいものの、ちゃんと知っていれば問題のないレベルである。
ちなみに、シビレはシビレで用途があるらしい。
「のぁっ……!?」
と、さっそくウルグがやらかしていた。
水が入っていることは知っていても、花の色のことは知らなかった、あるいは忘れていたらしい。
全身が痺れてバターンと倒れたが、神官騎士たちが冷静に介抱していた。すごく手慣れている。実際、慣れているのだろう。
「あの人、ちっとおめぇに似てねぇかぃ?」
「オイラ、あそこまでバカじゃないっスよ」
ひどい言われようだが、事実なので仕方ない。
次いで二十四層は、礫砂漠と岩石砂漠のフロアだ。
ここもまたサボテンが多く、丸い胴体に丸い手足をつけた愛らしい姿の『シャボテン』は、近づくと虹色のシャボン玉を飛ばしてくる。
その愛らしさと行動にはついほのぼのしてしまいそうになるが、しかしそのシャボンの中には、ランダムでデバフ効果が詰まっているのだった。
当たらずとも破裂し、中身を浴びると状態異常を食らう。
さらに、無数の小さな球形からなるやや奇形の『スターカクタス』は、全面にウニのような鋭いトゲの生えたそれを、体から切り離して飛ばしてくる。
元の世界にあったジャンピングチョーヤをさらに凶悪にした魔物だ。
ちょっと変わったところでは、『ドロップルーター』――魔物ドロップをかっさらっていく魔物。
ケセランパセランみたいな胴体に、トビウサギみたいな足と細い腕が生えた姿を持ち、とにかく素早くて硬い。逃げの一手で、攻撃はいっさいしてこない。
お腹にあたる部分にポケットがついていて、これが〈アイテムボックス〉や〈収納〉みたいな魔法的空間になっている。
そこにルートしたドロップアイテムを入れていくのだ。
基本はドロップアイテムのルートだが、油断していると手元にあるアイテム類をスティールされることもある。
なお、倒すとポケットの中身が全部ドロップされるので、地味にボーナス的な魔物でもあった。
一度、ドロップアイテムをルートされたので、それにさして執着はないが、試しに仕留めてみた。
けれど、このダンジョンはできたばかりで、乃詠たちが最初の入場者である。ドロップしたのはこちらが奪われたものだけだった。残念。
ガラガラヘビならぬ『メロメロヘビ』なんて魔物もいた。
能力は単純に『魅了』――獲物がチャームにかかり、攻撃も抵抗もしなくなったところを襲って食らうのだ。
そんな感じで、サボテン以外でも、いかにも砂漠にいそうな魔物から、まったく関係のないユニークかつ多彩な魔物たちの洗礼を受け――その最中のことだった。
「――お姉さま! やりました! レベル4です!」
嬉しそうなベガの報告に、その意味するところを察して乃詠も破顔する。
「おめでとう、ベガ! 頑張ったわね!」
「はい! さっそく変化してみますね!」
そう――〈変化〉スキルの話である。
かねてより、ベガは〈変化〉のレベル上げに励んでいた。すべては、完全に人の姿となって乃詠の隣を歩くために。
このダンジョンへ入ってからこっち、宿星の妨害工作による思わぬ大量の魔物との戦闘で一気に育ったのだ。
ただ、完全に人の姿を取るにはレベル5は必要だとされていた。
ゆえにスキルを使ったベガのそれは、まだ完璧とはいいがたい。
角はあるし、肌はやや青白いし、一部の肌や、下半身に至ってはすべてが鱗に覆われている――が、念願の二足歩行はできていた。
その際、神創武具も人型に合わせて微妙に変化した。
さすが、装備者の最適な形状になる神の創った武装。袴風のスカートも、以前は短めだったのだが、脚の鱗を隠すようにロングへと変わっている。
他の露出している部分は面積的にも小さく、また鱗自体が白いため、そこまで目立たない。外では、気になるようなら上に何か羽織ればいいだろう。
「素敵よ、ベガ」
「ありがとうございます! ただ――やっぱりいきなり二足歩行は、ちょっと難しいですね。すぐに慣れそうな感じはしますけど」
「きっと元が人だったから、本能というか、魂が二足の状態を覚えているのでしょうね」
言葉どおり、少しだけただ歩いたり跳んだり走ったりの練習をし、少し戦闘をしただけで、ベガは完璧な二足歩行を習得していた。
その後――砂・礫・岩石の全部のせみたいな二十五層フロアも踏破し、一行はフロアボスへと挑む。
ここのフロアボスは、C+ランクの『スフィンクス』――女性の顔と獅子の体、鳥の翼を持つ魔物が単体だった。
謎かけはしてこないが知能は高く、一瞬先を視る〈先見〉のスキルを持つ。加えて能力値がそこそこ高いので、攻撃を当てるのが難しい。
さらには、パーティーの連携の隙をついてきたりもする。
まず後衛を狙う、一番弱い者を狙うなどのセオリーから、ちょっとした綻びを見つけては厭らしく攻めてきたりするのだ。
ただ、HPが普通のC+ランクよりもだいぶ低く、防御も弱いため、攻撃を当てさえすればけっこうなダメージが入る。すなわち、攻撃を与える回数は大して必要がないということで。
少し時間はかかりつつも――撃破。
◇◇◇
二十六層からは、雪原と雪山だ。
今度は一面の銀世界、気温も急降下である。
「気温はマイナス二度ですね」
温度計を確認したルーミーが、今度はマジックバッグの中から、毛皮のマントと『暖熱薬』を取り出し、騎士たちに渡していく。
『暖熱薬』は『冷涼薬』とは逆で、服用すると一定時間、体の内から全身を温めてくれる。
「んにゃっしょんっっ!! ……っ、うぅ、さっぶいにゃん。ニャーはこっちがダメにゃん。布団の中で丸くなってたいにゃん……」
盛大なくしゃみをしたアビーが、ずびっと垂れた鼻水をすすりながら、己の体を抱きしめるようにして震えている。
(この世界、コタツはないのかしら?)
基本的に猫は暑さに強くて寒さに弱く、狼は寒さに強くて暑さに弱いというが、獣人もその特性を持つようだ。
「うおぉぉーっ!! オレっちの中の血がさわぐぜっ!!」
一方。よくわからないことを言いながら、逆に元気いっぱいの様子で雪原を駆けまわるウルグがいた。童謡の犬みたいだ。
「ウルグ、あまり離れ――」
「わぁぁっ――!?」
突如、足元の雪が爆ぜ、ウルグが宙高く吹き飛ばされる。
そのまま落下して、ぼすんっと雪の中に埋まった。
「大丈夫か?」
「んー、へーきへーき!」
ふんわりした雪がクッションになったようで、特にダメージはなさそうだ。
立ち込めていた雪煙が晴れると、それの姿が明らかとなる――。
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