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万能聖女がチートすぎる!  作者: 空木るが
2部 愛の騎士と星に巣食うモノ
84/105

4章29 万能聖女、宿星のダンジョンへ潜る1

 


 宿星ダンジョンの入口は、東門の外――元『邪毒竜の森』方面の草原の中にぽつんと存在した。

 大きな岩の柱が頂点を交差させた、非常に簡素なものだ。一方が開けていて、内部は不自然に真っ暗で見通せない。


 その入口を中心にした一定の範囲には立入を禁じるロープが張られ、多くの騎士や兵士が見張りに立っている。


 そこへリシェル救出部隊の面々が結集し、最終確認を行なっていた。


 乃詠ファミリー以外でダンジョンに入るメンバーは、『邪毒竜の森』の攻略を目的として結成された攻略部隊の面々――リシェルを除く総勢二十三名。

 ルーデンドルフ辺境伯に仕える騎士の中で唯一無二、ダンジョン攻略のスペシャリストたちだ。


 一口に騎士といっても、その役割によって、大まかに『騎士』『魔導騎士』『神官騎士』と三種に分けられる。

 ただの騎士といえば、主に武器を用いて前衛を担う者を指す。ここには、斥候や盾役、また射撃による中衛ポジションも含まれる。

 魔導騎士は、その名のとおり、基本的な属性魔法による攻撃や防御に特化した後衛だ。

 そして〈白魔法〉に特化した神官騎士は支援担当。稀だが、中には対象を弱体化させる〈黒魔法〉を扱える者もいる。

 一般的に、神官職は神殿にて修行を積んでいるそうだ。


 ここへ来る前に、乃詠と騎士たちの顔合わせは済んでいる。

 窮地に陥っていた彼らを救ったのが乃詠だという話は周知されているため、口々に礼を言われて、とても居心地の悪い時間を味わった。


 そのときに、従魔たちも全員『従魔空間』から出して紹介していた。

 ダンジョンに潜ると聞いてじっとしていられる彼らではないのだ。


 そして、行動をともにする以上、隠しておくのも難しいので、言葉を話すことも明かしている。

 ずっと念話というのも彼らが窮屈だろうし、うっかり発声してしまうこともないとは言い切れない。ならば先に説明しておくべきだろうと。


 騎士たちは最初こそ驚き、戸惑っていたが、コウガとファルはともかく、他はみんな気さくだし、元が人だけあって接するのに違和感がないからだろう。すぐに受け入れられ――どころか即なじんでいた。従魔たちのコミュ力が高い。


 ただ、乃詠たちは必要以上に手を出さないことになっている。

 ヴィンスからお願いされたのだ。騎士全員の総意として。


 確かに、乃詠たちが無双すれば、さしたる苦労もなく最下層まで行けるだろう。

 なにせ、あの『邪毒竜の森』を攻略し、Sランク魔物たる災魔を打倒してのけたのだ。大抵のダンジョンは、もはや彼女たちにとって難関たりえない。


 だが――しかし。これはヴィンスが、そして騎士たちが、愛するリシェル嬢を救うためのダンジョン攻略。

 彼らにも彼らの矜持がある。『神珠』は入手できず、あまつさえ乃詠たちに命を救われている。だから――今度こそは、と。今度こそは自分たちの手で、と。


 そう強い意志のこもった面持ちで言われて、それでも出しゃばるほど、乃詠も野暮ではないのだ。


 幸いにも、宿星の宿主になっている以上、命の保証はされている。

 もちろん救出は急ぐに越したことはないが、少なくとも現時点でタイムリミットは設けられていない。多少時間がかかっても問題ない。


 ゆえに乃詠たちがするのは基本、彼らの支援と援護だ。

 ただし、攻略部隊――騎士隊がピンチに陥ったときや、彼らではどうにもならないと判断したときには、問答無用で前に出ると伝えてある。

 そこまで譲ってしまったら、乃詠たちがついていく意味がないので。


「では、行ってまいります」

「リシェルを頼む」

「はい!」


 確認を終え、準備が万端整ったリシェル救出部隊は、副長ヴィンスの号令でダンジョンへと突入する。



 ◇◇◇



 岩柱を組んだ簡易な門をくぐり、下部へとのびる階段を下った先は、およそ十メートル四方の空間になっていた。対面にもう一つ入口がある。


 空間内にあるのは、カウンターのようなものが一つだけ。当然のように無人で、シンプルにこの世界の文字で『メダル交換所』と書かれている。


「ここで集めたメダルをアイテムに交換するのか」


 上にはスクリーンが浮かんでいて、交換できるアイテムの一覧と、その横に必要なメダルの枚数が記載してあった。


「おー、すごいにゃん。副長、見るにゃん。一番上、A級の武器にゃん。しかもレプリカとはいえ、伝説の剣にゃん」


 そう、やや興奮ぎみに副長ヴィンスに話しかけたのは、斥候職の騎士アビー・シャムシャ。猫人だ。そして語尾が〝にゃん〟だ。


 男の語尾にゃんとか誰得となりそうだが、少なくとも初めて彼とあいさつを交わしたとき、乃詠はとても興奮していた。

 女だろうが男だろうが、可愛いものは可愛い。アビーは比較的、小柄かつ顔が中性的なうえ、造作も猫っぽいので、あまり違和感もないのだ。

 まぁ乃詠の場合、これがいかついおっさんでも萌えるのだろうが。


 ちなみに、彼は狙って語尾にゃんにしているわけではない。いわく、猫人の方言のようなものらしい。猫人の村で生まれた者の特徴であり、直そうとしてもなかなか直るものではないそうだ。


「〝その炎が周囲を焼き尽くし、また高熱の刃がどんなものでも断ち切る〟とされる『神炎剣レーヴァテイン』のレプリカか。確かに破格の品だ」

「まぁ、メダルの枚数はえげつないけどにゃん」

「それでも、そうそうお目にかかることのできない代物だ。確実に手に入るとなれば、死にもの狂いでメダルを集めようとする者もいるだろう」

「それが狙いなのかにゃん。いい性格してるにゃん」


 皮肉げに言って肩をすくめるアビー。


『このアミューズメント性も、より効率よく多くの探索者を集める工夫なのでしょうね。アイテムが貴重なのもそうですが、そういうシステムがあるとわかれば、集めようとするのも人の性。競争意識も生まれるでしょうし』

「上手くできているのね」

「ナビィ殿の推測どおりなら、宿星も生きるために必死なのだろう。だが、リシェルを渡すわけにはいかない。絶対に取り戻す」


 ヴィンスが力強く宣言し、アビーがふんと不敵に鼻を鳴らす。


「当然にゃん。リシェルお嬢様は、ニャーたちの隊長なのにゃん」

「俺の婚約者だが」

「いや知ってるにゃん。そこで嫉妬心持ち出すのやめてくれにゃん」


 かすかな笑い声をこぼし、適度に肩の力を抜きつつも、リシェル隊長奪還に燃える騎士隊は奥へと向かって歩き出す。


 穴が空いているだけの入口をくぐり抜けると、天然洞窟といった様相の通路がまっすぐ伸びていた。

 特に光源があるわけではないが、視界に困ることはない。まさにダンジョンの不思議である。


「なんというか、これぞダンジョンって感じね。何かしら、この安心感のようなものは」


 騎士隊の後ろをついて歩きながら、乃詠は思わずとそんな呟きをこぼす。


 リアルダンジョン体験しょっぱなが殺意しかないデンジャラスなダンジョンだったので、ダンジョンとしては定番の、いかにもダンジョンらしいダンジョンにほっとしてしまうのも無理はないだろう。


「どんな魔物が出てくるのでしょうねっ」


 とは、ここぞとばかりにコウガから乃詠の左ポジションを奪ったベガ。その弾んだ声音からは、これでもかとわくわくが伝わってくる。

 すっかりトラウマを克服した首狩り姫は、順調にバトルジャンキーへと変貌しつつあるのだった。


「さっそくお出ましみてぇだぜぃ」


 前を行く騎士隊が魔物と会敵したようだ。


『Fランクの『ケイブラット』ですね』


 その名が冠するように、洞窟に生息している鼠型の魔物だ。

 大きさは中型犬ほどあるが、攻撃は噛みつきくらいのもの。ただし、歯が異常に発達しているのでかなり凶悪である。


「ハッ。雑魚も雑魚だな」

「まぁ、Fランクですしね」


 仮にも『邪毒竜の森』に挑み続け、中層まで行きついた部隊だ。Fランクの魔物ごときに後れを取るはずもなく、前衛の騎士に瞬殺されていた。


 ほとんど足を止めることもなく、騎士たちは次から次に襲いくるケイブラットを倒していく。

 死体は黒い靄と化し、あとにはドロップアイテムの『齧歯』と、たまに魔法石を落とすが、ほとんどスルーだ。


 彼らの目的は稼ぎを得ることではない。一にも二にもリシェルの救出だ。

 魔物がドロップアイテムに変わるまで微妙に時間がかかるし、足を止めて拾っている時間が惜しい。

 そんなわけで、ドロップアイテムの類いは基本、捨て置く方針なのだった。


(でも、やっぱりもったいないわよね)


 守銭奴というわけではないけれど、お金になるものを捨てていくのは惜しい。

 だから、代わりに拾っていくことにした。


 とはいえ、乃詠たちでも、普通に拾得しようと思えば足が遅れてしまう。

 だが、こういう場面でこそ活躍する魔法を、乃詠は習得しているのだった。



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