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万能聖女がチートすぎる!  作者: 空木るが
2部 愛の騎士と星に巣食うモノ
74/105

2章19 万能聖女、城塞都市に入る9

 


「うっ、やっぱり強烈ねこれっ……――『デオドラント』っ」


 再び女性の声――苦悶の呻きのあとのそれは、魔法の発動ワードだ。

 〈白魔法〉のそれが、ギルド内を満たしていた臭気を、わずか数秒ほどで完全に消し去ったのだった。


「あの、大丈夫ですか?」

「あ、はい……大丈夫、です」

「ごめんなさい、うちの従魔たちが」

「……え、従魔……?」

「それと、さっきの話も、ごめんなさい。あなたとパーティーを組むことはできません。というか、必要ありません。私にはもう、これ以上なく頼もしい従魔たちがいるので」

「そ、そう、ですか……わかり、ました」


 そんな会話のあと、人垣が綺麗に割れて、女性――少女が、美しい銀の髪を揺らしながら、パウラのいるカウンターへと向かって歩いてくる。

 背後に、燃えるように真っ赤な髪をした精悍な顔立ちの青年と、上着のフードをかぶって眠たげな表情をした青年、そしてフーデッドローブで全身をすっぽりと覆った小柄な人物を付き従えて。


 そう――〝付き従えて〟という表現こそが相応しく、それ以上でも以下でもない様相なのだ。

 まるで女王と臣下、もしくは女神と従僕のようだった。


(本当に、綺麗な人……)


 うっとりと見惚れてしまってから、パウラははたと気づく。


(銀髪の少女に、赤髪の青年、青紫髪の青年……)


 その特徴的な組み合わせは、確か――。



 ◇◇◇



 すっかり怯え切った顔でへたり込んだままの青年に誘いへの断りを告げ、逃げるようにしてその横を通り過ぎる。

 すると――進路上にいる冒険者たちがサーッと左右に割れ、まるでモーセのそれのごとくカウンターまでの一本道を作り出した。


 しん、と静まり返る中で彼らがこちらへ向ける眼差しは、まるで珍獣か猛獣でも見ているかのようなそれで……


(もう、帰ってもいいかしら)

『帰るって、どこへです?』


 さっきまでの視線も居心地は悪かったが、今はとにかく居たたまれない。完全に悪目立ちしてしまっている。今すぐ回れ右して逃げ出してしまいたい。


『本当にもう、なんてことしてくれたのよ、あなたたち』


 思念で苦言を呈しつつ、じっとりとした眼差しを従魔たちへ送る。


『……ノエだって、けっこうやらかしてる』

『面白れぇくらいパンパンになってたしな。いい気味だ』

『あの気付の発想は、ちょいといただけやせんでしたが』

『! あ、あれは違うもの! ただ彼を起こそうとしたら力加減を間違えちゃっただけで……! 気付のほうも、よかれと思って……!』


 結果だけを見たやらかし度合で言えば、実は乃詠が一番である。


『まぁそれはともかくとしても、オレは謝るつもりはねーぞ。言い訳もしねぇ。オレは何も悪くねーからな。悪いのは無防備すぎるおまえだ』

『……おれも、すべきことをしようとしただけだ。後悔も反省も、してない』

『すいやせん、姐さん。ですが、あっしも反省はしていやせん。姐さんの美しい御手を汚されて、黙ってられるわけがありやせんから』


 きょとん、と。


『もしかして、あなたたちがあの人を攻撃したのって、それが理由だったの? でも、あれはただのあいさつみたいなものよね?』


 日本はともかく、海外ではそう珍しい行為ではなかった。

 謡に誘われて出席したパーティーでは、外国人の謡の知人から、ともどもよくされたものだし、旅行先で知り合い親しくなった友人からされることもあった。


 まぁ初対面の男性にされた驚きはあるけれど、そんなただのあいさつで殺されかけたのだから、青年も災難である――というのが乃詠の認識なのだ。


『こっちにはそういう文化がないの?』

『ありますよ。ですが、そういうことではないのですよ』

『じゃあどういうことなのよ』

『強いて言うなら、男のさがというやつでしょうか』

『男の性……?』

『ノエ様って本当に鈍いですよね』

『なんで私は貶されているのかしら』


 意味がわからず乃詠は憮然とするが、ナビィからは仕方がなさそうな思念が返ってきて、さらにむっと唇を尖らせる。


『守ろうとしているのですよ、あなたを』

『私を、守ろうと……守る? 私のほうが強いのに?』

『…………』

『…………』

『…………』

『ノエ様、無自覚に抉るのはやめてあげてください』

『えぇ?』


 乃詠に他意はないのだ。事実を事実として言っているだけで。


 ファルに勝ったのは乃詠ひとりの力ではないが、ステータスだけなら乃詠が最も高く、さらに言えば、称号の成長チートがあるから、この先、従魔たちが彼女のステータスを上回るのは難しいだろう。


『そういうのは、理屈ではないんですよ』


 とはいえ、戦闘に関してももちろんそうだが、彼らが乃詠を守りたいのは、どちらかといえば彼女に集る悪い虫からだ。無論、比喩のほう。まぁ、乃詠の場合は比喩じゃないほうからも守る必要があるけれど。


 ナビィはそのことをわかっているが、そこまで解説はしない。理由は言うまでもないだろう。


『うぅん……そういうもの?』

『えぇ。そういうものなのです』


 元の世界でも、ダンジョン攻略のときも、乃詠はいつだって守る側だった。

 背中をあずけ合って戦う、というのはあっても、一方的に守られる、なんて経験が乃詠にはないので、正直、あまりピンとこないのだ。


(でも、まぁ……そっか)


 悪い気はしなかった。なんだかこそばゆいというか、嬉しく思う気持ちはあるけれど――しかしそれはそれ、これはこれだ。


 攻撃されたわけでもないのに暴力を振るう、ましてや殺そうとするのは、完全にNGである。

 ナビィの機転がなければ、青年は確実に死んでいたわけで……


『助かったわ、ナビィ。ありがとう。あなたがいてくれて本当によかった』

『ワタクシはノエ様の、唯一無二の頼れる相棒ですから。当然です。とはいえ、本当にギリギリのファインプレーでした。もっともっと褒めてください』

『えぇ。本当にすごいわ! さすが私の頼れる相棒! あなたこそ、相棒の中の相棒だわ!』

『ふふふ』


 やたらめったらヨイショする乃詠である。相棒の中の相棒とか、ちょっと意味がわからないが……ナビィは満足そうだ。


『まぁ、あなたたちの気持ちはわかったわ。でも、安易に暴力に走らないで。攻撃されたのなら自衛の権利はあるけれど、攻撃されたわけでもなく、何の罪もない人を傷つけてしまったら、その瞬間に犯罪者の仲間入りなのよ。気ままな異世界ライフが送れなくなるどころか、指名手配で追われる生活なんて、絶対にいやだから』

『『『善処する(しやす)』』』

『……ナビィ、これからも頼りにしてるわ』

『お任せを』


 万が一のときのことは相棒に任せつつ、もし次、同じようなことがあったらやっぱりスキルで命令しよう、と乃詠は心に誓うのだった。



 ◇◇◇



 創作における冒険者ギルドの受付といえば、おおよそ三パターンに分かれる。


 荒くれ者が多いという点から、いかつくてごつい筋者めいた男性か――ナンパなどのトラブルが起きなそうな、肝っ玉の大きいおばちゃんか――そして、ギルドの窓口ということで、とにかく容姿の優れた女性をそろえるか。


 この町の冒険者ギルドは、三つ目のパターンだった。

 いくつかある窓口には、可愛い系から綺麗系まで、非常に見目の整った女性が並び立っている。


 乃詠たちが赴いた窓口を担当しているのは、栗色のふんわりボブに薄紅色の瞳をした、愛らしい女性だ。

 背丈は女性としては平均的。全体的に丸みがあって童顔だが、まとう雰囲気に落ち着きが感じられる。


「――。ようこそ、冒険者ギルド・デルクリューゲン支部へ。私、パウラ・エッカルトが担当させていただきます。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 受付嬢パウラは、なぜか驚いたように目を丸くしていたが、すぐににこっと完璧な営業スマイルを浮かべる。


「冒険者登録と従魔登録をお願いします」

「かしこまりました。冒険者登録には1000オルカ、従魔登録には一体につき500オルカの登録料をいただくことになりますが、よろしいでしょうか?」

「はい」

「では、先に冒険者登録のほうから行いますね。四人分でよろしいですか?」

「いえ。冒険者登録は私だけで、彼らには従魔登録を」

「――え?」


 衛兵イザークから発行してもらった一時許可証を提示すると、パウラは丸めた目でそれを見てから、乃詠と後ろの三人へ視線を何度か行き来させたあとで――再びにっこりスマイル。

 そして一枚の書類を取り出し、ペンとともに乃詠のほうへと差し出した。


「登録に必要な書類となりますので、こちらのご記入をお願いします」


 紙面には、氏名、年齢、種族、職業の項目と、いくつかの簡単な質問が記載されている。

 どれも特に問題ないもので、ささっと記入。職業クラスは、これから従魔登録をするので無難に『テイマー』としておいた。



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