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万能聖女がチートすぎる!  作者: 空木るが
1部 追放聖女と邪毒竜の森
7/105

1章7 万能聖女、デンジャラスな魔物たちの洗礼を受ける2



 死を覚悟した苦痛が、まるで夢幻かのごとく消え去り、意識がはっきりと鮮明化していく。

 そうして明瞭に像を結んだ灰色の瞳を何度か瞬きながら、乃詠は半ば呆然としつつ体を起こした。


「……もう、痛くも、苦しくもない……私、ちゃんと生きてる、わよね……?」


 持ち上げた両手を握って、開く。何度かそれを繰り返してから全身の隅々まで意識を向ければ、不調な箇所は一切見受けられない。視覚はもとより、聴覚や触覚などの感覚機能も至って正常だ。


 血と土で汚れた顔を手の甲でざっと拭い、周囲を見回す。

 見える景色に変化はなく、毒らしき紫の霧も健在。それは、死んで楽になったわけではないことの紛うことなき証左だった。



 ――熟練度が一定に達しました。スキル〈浄化Lv5〉が〈浄化Lv6〉にレベルアップしました。


 ――熟練度が一定に達しました。スキル〈聖治癒Lv5〉が〈聖治癒Lv6〉にレベルアップしました。



「なんかレベルアップしたわ。……そういえば、さっきも同じような内容の声がいっぱい聞こえたような」


 かなり意識が混濁していたし、苦痛に耐えるのに必死で、内容を理解するだけの余裕も思考力もなかったが、思い返せば、いくつかスキルを獲得したりレベルが上がっていたりした気がする。


「ステータスを見るには、念じればいいのよね」


 あの場で映し出されたステータスを見たときは、全部の項目が文字化けしてしまい読み取ることができなかったが――


「あ、ちゃんと読めるようになってる。あの気味の悪い文字化けは、いったいなんだったのかしら?」


 首を傾げつつ、ステータスに目を通していく。



=========================

名前:一色乃詠 

性別:女

年齢:17歳 

種族:人間(異世界人)

称号:【万能聖女】

レベル:1

HP  :150/150 

MP  :60/100

筋力 :35(+100)

耐久 :32(+100)

敏捷 :41(+100)

魔力 :29

抵抗 :35

幸運 :50

固有スキル:〈救済〉〈聖結界Lv5〉〈聖治癒Lv6〉〈浄化Lv6〉〈豊穣Lv5〉

      〈祝福Lv5〉〈聖別Lv5〉

耐性スキル:〈瘴気無効〉〈精神耐性Lv8〉〈苦痛耐性Lv8〉

通常スキル:〈製薬Lv5〉〈身体強化Lv5〉〈自動発動〉

 =========================



「ステータスってけっこう細かいのね。本当にゲームみたい」


 魔導具によって公開された歌恋のステータスは、称号欄までしか表示されていなかった。文字化けはしていたが、行数からして乃詠のもそうだ。

 目的が称号の確認だったからあえて項目を絞ったのか、もしくは魔道具自体に制限があるのかもしれない。


「私もちゃんと聖女だったのね。よかった、悪魔じゃなくて」


 もちろん乃詠自身、悪魔になった記憶などないが、これでもし種族欄に『悪魔』と記載されでもしていたら、さすがに自信が持てなくなっていたところだ。


「でも、万能? 聖女の称号って、確か四種類だったはずだけど……それに、なんか固有スキル四種コンプリートしちゃってるし」


 称号の表記が他と違うのもやや引っかかりを覚えるが、些事だろう。

 そんなことよりも、聖女スキル全コンプリートのほうが重大事項だ。


 聖女は固有スキル〈聖治癒〉〈聖結界〉〈浄化〉〈豊穣〉のどれか一つに特化しているというのが普通で、二つの固有スキルを持った古の大聖女と歌恋の例ですら稀有なこと。

 だというのに、乃詠の固有スキル欄にはその四つすべてが並んでいる――これがとんでもないことだというのは、嫌でも察せられる。


「……うん。気にしないことにしましょう。コンプリートしてて困ることもないのだし。ラッキーだと思っておけばいいわ」


 どこか悟ったような表情をした乃詠は、さくりと切り替えた意識を通常スキル欄へと向ける。


「さっきぽんぽん獲得したのが、この三つの耐性スキルと、通常スキルの〈自動発動〉よね。一つは耐性ではなく無効になったけれど」


 そのときには死にかけていたこともあって流していても、記憶にはちゃんと残っている。

 それらをひとつひとつ掘り返して、現状とすり合わせていく。


「この薄紫の霧が瘴気で、人体には有害の毒。だから私は死にかけて、でも直前で獲得した耐性スキルが、苦痛をやわらげて意識をつなぎ止めた。そのあとで〈自動発動〉によって発動した〈浄化〉が体内の瘴気を浄化、おそらくは大変なことになっていた臓器とかを〈聖治癒〉が癒して、どうにか生き延びることができた。そして今、瘴気の中で私が平然としていられるのは〈瘴気無効〉のおかげ、と。そんなところかしらね。ほんと、スキルさまさまだわ」


 自分を生かしてくれたスキルの存在を心底ありがたく思うと同時に、本当に異世界に来てしまったのだと実感させられる。


 あのときのすさまじい苦痛を思えば、乃詠の体は内蔵から何から相当ボロボロだったに違いない。

 通常の医療であれば治療不可、もしくは治すのにかなりの時間がかかるだろうそれを瞬時に、完全に癒してのけ、一度は心身を壊した瘴気の立ち込める中で、今は何の不調も感じずにいられる。


 それを成しているのがスキルで、乃詠にとってはゲームなどにのみ存在しているそれが世界の一部として在り、乃詠にとっての超常をもたらしているのだ。


 ゆえに、実感せずにはいられない。現実だと認めるしかない。先ほど味わった苦痛も含め、夢や幻などでは決してありえない。


「……にしても、いきなり別の世界に拉致されたと思えば、悪魔に間違われた挙句にこんな殺意しかない森に飛ばされるなんて……もし運命の女神なんてものがいるのなら、きっと私に並ならぬ恨みがあるのだわ。覚えなんてないけれど」


 ついこぼれてしまったボヤきとともに、胸中にあるわだかまりを絞り尽くすようにして深く長く息を吐き出す乃詠。

 そうして再び、新鮮ではまったくないけれど新しい空気を体内へと取り込んで、意識を切り替える。


「とにかく、こんな森からはさっさと抜け出したいわ。スキルのおかげで身体的に問題はなくても、瘴気なんてずっと吸っていたくないし。何より、こんな不気味な森に長居なんてしたくないもの」


 そうして再び歩き出した足は、しかしすぐに止まる。

 ぐるりと首を巡らせたあとで、困ったように眉を下げた。


「……今更だけど、これ、どの方角に向かえばいいのかしら」


 自分の足で入ってきたのならまだしも、強制的に森の中へと飛ばされてしまったのだ。外へ出る道どころか、方角さえもわからない。


 背の高い木々と、重なる枝葉が邪魔をして太陽は見えず、植生も元の世界とは違うようなので、乃詠の持ち得る知識では調べるのも難しそうだ。


「まぁわからないものはどうしようもないし、勘頼みでいくしかないわね。棒でも倒そうかしら」


 と本気で手ごろな枝を探し始めたところで、ふと思い出した。


「そうだ、ナビ!」


 今の今まですっかり忘れていた――唯一元の世界から持ち込んだ虎の子のスマホをスカートのポケットから取り出して、高々と掲げる。

 テレレッテレー、と某有名な効果音が聞こえてきそうなノリだ。


 ついさっき死にかけたばかりで、現在進行形でおそらく危機的状況にある女子高生のテンションとは思えないのだが、しかし、これこそが一色乃詠という少女の特異性なのだった。


 指紋認証でロックを解除。ホーム画面に整然と並んだアプリの中から、昨今のスマホには標準搭載されている『地図アプリ』のアイコンを、ほっそりとした指先が軽やかにタップする。――が、


「ま、そりゃそうよねぇ。ここ、異世界だし」


 端からダメ元だったのだが、案の定、アプリの起動自体はできても、肝心のマップは開いてすぐにバグり、どこかの地図がブロックノイズを起こしたまま完全にフリーズしている。


「むしろ、ここで当たり前のように異世界のマップが表示されたら、それこそ驚くなんてレベルの話じゃないもの」


 そのときは、異世界対応までしてのけたアプリ開発者らを、それこそ真の神として全力で崇め奉っていたことだろう。


 念のため他のアプリも確認してみたが、ことごとく使用不能となっていた。

 当然のように電波は圏外で、ネットも使えない。とはいえこちらも、仮にネットに繋がったところで、異世界の情報になど対応してはいないだろうが。


「時計は動いてるけど、これも正確かどうかはわからないわね」


 この小さな端末一つで何でもできると言っても過言ではない、現代には必須のアイテムだが、この異世界の地では無用の長物だ。

 小さく息を吐きつつ端末をポケットに戻した、そのとき。



 ――ザッ、ザザッ――



 ふいに、頭の中にノイズ音が走った。


「え、なにごと?」


 頭の中に流れるノイズなんて、これほど奇妙なこともない。



 ――世――意思――続――成功――



 ノイズ音の中に、おそらくスキル獲得などで聞いたものと同じ音声が混じっていたが、雑音がひどいうえにぶつ切れで、内容は把握できなかった。



 ――スキル〈マップ〉を獲得しました。


 ――スキル〈ナビゲーション〉を獲得しました。



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