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万能聖女がチートすぎる!  作者: 空木るが
2部 愛の騎士と星に巣食うモノ
57/105

序章2 万能聖女、デジャヴる2

 


 ――頭と体が十分な休息を取ったと判断すれば、自然と意識は覚醒する。

 眠りから意識が目覚め、周囲の情報を取り込み始めるまでもなく、なぜか体に妙な重さを感じた。


(んん……?)


 疲労が回復しきっていなかったり、体調不良なんかの怠さとは違う、わずかに圧迫感を伴う重さだ。これは俗に言う金縛り――じゃない。


 まだ覚醒しきっていない頭でも、直近の酷似した記憶が思い起こされる。

 目を開けて左を見れば――予想どおりの寝顔がそこにあった。


(……やっぱり)


 寝起き早々、重々しいため息がこぼれた。


 やや不健康にも思える白い肌に、さらりと流れる青紫色の髪。普段はどこか厭世的な雰囲気を漂わせる表情は、眠っているときはひどくあどけない。


 乃詠の従魔となり、スキルにて人化した邪毒竜のファルである。


 昨日の今日だ。当初は全裸だったこともありひどく取り乱してしまったが、適応力の高い乃詠のこと、二度目となればもう取り乱しはしない。今回はちゃんと服を着ているし。

 とはいえ、起きたらイケメンに抱きつかれていた、というシチュエーションは心臓に悪いのでやめてほしい。


(いや、寝起きじゃなくてもやめてほしいのだけど)


 実に気持ちよさそうに眠っているのが、憎たらしくも微笑ましい。


 ともあれ――左側はわかった。問題は、逆側。今朝は右側にも気配があるのだ。

 ファルのように抱きついてるといった圧迫感はない。しかし確実に、右側にも何かがいる。明確な気配がある。


 今度こそベガだろうか。昨日、全裸のファルが隣で寝ていたことに対しとても怒っていたし、とても悔しがっていたようだから。


 それとも、今度こそ他の従魔たちだろうか――なさそうだった。

 リオンとギウスはそういうタイプではないし、アークならもふもふ天国であるはず。彼の毛は長めなので、この距離でもふもふしていないはずがない。


(まぁ、さっさと確認すればいい話よね)


 そうして右側へと首を向けると――健康的な色をした肌が目に入った。

 少し視線を持ち上げれば、そこには別タイプのイケメンの横顔がある。


 髪は燃えるような赤色で、襟足はとても長く、額にかかる前髪の間に二本の黒い角が生えている。

 彫刻のように恐ろしく整った、どこか野性的にも思える精悍な顔立ちは、乃詠より少し年上だろう青年のものだ。


 そしてそんな彼の腕は、乃詠の頭の下へと差し入れられている。

 それは俗にいう〝腕枕〟というやつだった。


「――って誰よ!?」


 まるきりデジャヴである。


 今度はのっけからファルの腕も強引に振り払って、乃詠は飛び起きた。

 すると赤髪イケメンの瞼が薄く開き――しばし茫洋としていた太陽色の瞳が焦点を結んで、乃詠の姿を捉える。


 彼は億劫そうに上半身を起こすと、首に手をやってコリをほぐすような仕草をしたあとで、気怠げに口を開いた。


「……んだよ、朝っぱらから騒々しい奴だな」

「知らない男の人が横で寝てたら、そりゃ騒々しくもなるわよ! しかもいつの間にか枕が毛皮から腕に変わってるし!」

「はぁ……? おまえ、寝ぼけてんのか?」

「おかげさまで、眠気なんてすぐに吹き飛んだわ。で、あなたは何者?」


 そこで――もぞりと。はねのけられても無反応だったファルが起き出す。

 まだ眠そうに目をしょぼしょぼさせながら、のそりと首を動かし、乃詠と赤髪の青年を順に見て、再び乃詠へと視線を戻す。


「……ノエ、おはよ」

「あ、うん、おはようファル」

「……んで、そっちの……バカ鬼か」

「は? バカ鬼、って、コウガ? コウガなの、あなた?」

「他に誰がいるってんだよ。やっぱ寝ぼけてんじゃねーの?」

「あなたにもビフォーアフターを並べて見せてあげたいわ」


 なんと、その赤髪イケメンは、人化したコウガなのだった。


「でも、なんで? あなたは〈人化〉スキルなんて持ってなかったわよね?」


 コウガのステータスを確認したのはファルと戦う前。それから取得したという可能性もなくはないが、〈人化〉含め特殊系に分類されるスキルを後天的に獲得するのは至難だと、ナビィが言っていた。

 特定のダンジョンでごく稀にドロップする『スキルオーブ』や『スキルの書』などで得るならまだしも、自力獲得はほぼ不可能だという話だ。


「あぁ――『神珠』を使った」


 封印と試練のダンジョンを攻略した報酬として、ファル以外の全員に与えられた『神珠』は、使用者の願いを叶える。

 制限付きでも死者を蘇らせることすらできるのだから、スキルの一つや二つ生やせても、なんらおかしくはない。

 彼は『神珠』を使って〈人化〉スキルを獲得したのだ。


「他に使い道はねーし。……クソ蜥蜴だけに任せちゃおけねーからな」

「どういうこと?」


 ぼそりと付け加えられたそれに乃詠は首を傾げるが、コウガはふいとそっぽを向いてしまう。

 少し待ってみても回答は得られなかったので、追及は断念し、自分なりに思考を巡らせた。


(……そっか。コウガも、もとは人間だものね)


 それも、彼は人だったころの記憶を残している。意識としても人のほうが強いのだろう。だから彼は、人として町を歩きたいのだ。


 コウガはけっこうなバトルジャンキーで、魔物になる前も武者修行とかしていたそうだから、戦闘以外のものには興味がないものと思っていたが、意外と人の世に未練があったのかもしれない。


 ――この森を出たら、人化できるファルと一人以外は、〈テイム〉スキルに付属する技能『従魔空間』にいることになっていた。


 魔物は普通、町に入れない。だが、スキルでテイムされている魔物――従魔は例外として町に入れるし、連れ歩くこともできる。

 といっても、従魔の扱いはその町によりけりで、完全に禁止している場所もあるという。

 ナビィによれば、彼女が設定したルートの先、一行が目指している町では禁じられていないそうだ。


 ただしそこにもルールがあって、往来の邪魔になったり、存在するだけで器物を損壊するような大型の魔物は当然NG。

 テイマー当人は戦えない者も多いので、自衛として一体二体の同行は問題ない。が、ぞろぞろと複数、連れ歩くのは推奨されていない。

 そもそも、技能に従魔を入れて置ける空間があるのだから、そんなに出しておく必要もないのだ。


『ま、六人くらいなら問題ないわよね』

『いえ、十分な大所帯だと思いますが』

『禁止されてるってわけじゃないもの。ファルは人型になれるし、あなたたちもサイズは人とそう変わらないしね。問題さえ起こさなければ大丈夫よ』

『――姐さん』


 見れば、そこにはとても真剣な顔をしたリオンがいた。


『目立ちやすぜぃ、絶対に。あっしら全員をぞろぞろ引き連れてたら、確実に。間違いなく、悪目立ちでさぁ。それは避けてぇのでは?』

『!』


 極力目立たず騒がずひっそりと自由気ままな異世界ライフを――と、従魔たちからしたら無駄な足掻きをせんとしている乃詠のことである。

 その諭すようなリオンの言葉に尻込みした。


(で、でも――!)


 彼らは人の魂を持ちながら、長い間あんな陰気かつデンジャラスなダンジョンに囚われ、ようやく解放されて自由になったのだ。

 だというのに、また『従魔空間』なんて閉所に押し込めておくことなんてできやしない。したくない。だから――


『それが、意外と快適なんスよねー『従魔空間』!』


 と、アークが目をキラキラさせながら興奮ぎみに言った。

 なんでも、もともとある程度の空間カスタマイズ機能があったそうだが、それにチートナビィさんが干渉することでいっそう自由度が上がり、まったく閉塞空間らしくなくなったそうだ。


 知らない間にカスタマイズされていた『従魔空間』の様子を、ナビィが乃詠の頭の中にどうやってか映し出してくれたのだが……なんか、すごかった。


 疑似的なものではあるが、空があって、太陽があって、草原があって、その中に大きな庭付きの、素朴だが立派なログハウスが建っていた。


 ログハウスの中には、当然というべきかちゃんと従魔全員分の部屋があり、一部屋が軽く二十畳はある。家具や調度も何不自由することなく揃っていて、正直、軽くセレブの別荘みたいだった。


『……ねぇ、私もここに住みたいのだけど』

『残念ですが、ノエ様が入ることはできません』


 残酷な現実だった。


 とはいえ、それはそれ。彼らだって人の町を歩きたいだろう、だから本当に気にしなくていい――という乃詠の気づかいを無碍にしたくなかった従魔たちは、最終的に一人ずつ、日替わりで同行するという折衷案を取ったのだった。


 ――と、そうは言っても。乃詠に心酔している彼らであるからして。本音を曝け出すのなら、常に乃詠の横に侍っていたいのだ。


 なので、最初は誰が、と順番の件になったとき、誰もが一番手を譲らず、バチバチと火花を散らしていた。あの、武装時以外は温厚なギウスでさえもだ。


 そうして、その一番手を決めるための、公正かつ厳正なる〝じゃんけん〟の結果――リオンが勝利をもぎ取ったのであった。


『くそぅ……なんでオイラは、チョキを出しちゃったんスか……最初はパーを出すつもりだったのに……そのままパーを出してたら、勝てたのに……』

『……僕も、まだまだ鍛え方が足りませんね……精進しなければ……はっ! 武装状態なら、もしかしたら勝てていたのでは? いや……しかし、アレは……』


 と敗者二人が、ぶつぶつと独り言を言いながらそれぞれ嘆いていたのを、乃詠は逆に、少しばかり呆れた様子で見ていた。



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