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万能聖女がチートすぎる!  作者: 空木るが
1部 追放聖女と邪毒竜の森
52/105

終章52 万能聖女、自由な異世界ライフを宣言する3

 


「でも、本当にいいんですかぃ、姐さん?」

「何がかしら、リオン? 何がかしら?」


 しつこくじとーっと注がれるファルの視線から逃れるように、ぐりんっとリオンのほうへ首を回す。

 それが若干ホラーじみていて、リオンは微妙に顔を引きつらせながらも、言葉を続けた。


「聖女様には王侯貴族並みの生活が約束されてるらしいじゃねぇですか。特別な召喚聖女となればそれ以上――聖女様のお勤めを差し引いても、何不自由ない優雅でセレブな暮らしができるんですぜぃ? ファライエ聖皇国に戻るって選択肢はないにしても、どこの国だって、事情を話せば必ず保護してくれるはずでさぁ。わざわざ冒険者なんて危険で泥くせぇ仕事をしなくてもいいんじゃねぇかって話です」

「まぁ……そうね。私に戦闘力が皆無だったなら、そうしたかもしれないわ」


 その場合、今ここに乃詠はいなかっただろうが――それを抜きに考えるなら、国に保護を求めるのがベストだろう。

 別に優雅でセレブな生活がしたいわけではないけれど、少なくとも命の危険はなくなるはずだ。


「でも、私にはもう、戦う力があるもの。あなたたちと一緒なら、封印と試練のダンジョンさえも攻略してしまえるだけの力が。ただでさえ何かに縛られて生きるのは苦手だし、この世界の都合で身勝手に召喚されたのだから、私はやっぱり、自分の好きなように、自由に生きていきたいわ」


 もしあのとき――悪魔と誤解されず、あのままファライエ聖皇国にいたなら、乃詠は聖女としての生活に甘んじていただろう。お役目を放棄して国を出るなんて選択肢はなかったはずだ。

 

 けれども、それはなかった過去。悪魔と誤解されて追放された今の乃詠には、選択の自由がある。

 自分で好きに選べるのなら――行動制限付きの安全でセレブな生活より、危険があっても自由きままな生活を、乃詠は選ぶ。それが自分には向いている。


(それに――)


 仮にどこかの国へ保護を求めた場合、事情を話すにしろ話さないにしろ、ファライエ聖皇国に対する疑念は出るだろう。少なからず、かの国への、他国からの信用は揺らぐことになる。


 それは避けたかった。いろいろと思うところはあっても――あの国には、乃詠の世界一大切な可愛い妹がいるのだ。だから、ファライエ聖皇国に悪い影響を与えるようなことはしたくない。


「あなたたちのこともあるしね。いくらテイマーという職業が世間一般に認知されているといっても、魔物は魔物。魔物を使役しているのをよく思わない人や、受け入れられない人だっているでしょう」

『そうですね。場所によっては、テイマーという存在そのものを忌み嫌い、排斥するところもあるようですから』


 仕方のないことだろう。いくらスキルによって従属させられているとしても、魔物とは本来、人類の敵なのだ。

 身内や知人が魔物に殺された、なんて話は枚挙にいとまがないだろう。乃詠が知っている限りでも、災魔となったファルが多くの生物の命を奪っている。


 そんな恐ろしい存在に好意を持てというほうが無理がある。

 特に、戦う力のない一般市民であればなおのこと。


「偏見がないとは言わないけれど、客観的に考えて、聖女が魔物を連れているというのは、きっとよく思われないと思うのよね。仮にも聖職にあたるわけだし。それであなたたちと引き離されるのは、絶対に嫌だから」

 

 彼らは仲間だ。戦友だ。もう、家族のようなものだとも思っている。

 主人になることを受け入れた責任はもちろんあるけれど、乃詠自身、本心から彼らと一緒にいたい。離れたくない。彼らと離れるなんて――考えたくもない。


「ですが、姐さんが聖女だとわかったら、国が保護を申し出てくるはずです」

「でしょうね」


 ギウスの指摘には、乃詠も同意する。


「ハッ。んなもん無視すりゃいいだけの話だろ。仮に強引な手を使って引き込もうとしたところで、そこらの有象無象にどうこうできるはずもねーし。……オレもさせるつもりはねーしな」


 最後の、ボソッと付け足された言葉は、口の中で呟かれた、ほとんど音になっていない独り言だったが――この世界にきて、身体能力とともに強化された乃詠の聴覚で拾えないはずもなく。

 安定のツンデレぶりに、やっぱり笑みこぼれてしまうのだ。


「気持ちはありがたいけれど、王侯貴族を相手に、面倒事は極力起こしたくはないわ。だから、私が聖女だってことは隠す方向でいくつもりよ。あなたたちも、くれぐれも内密にお願いね?」


 即座に、揃って首肯を返してくれる従魔たち。

 それに満足げに頷いて、乃詠は言葉を続けた。

 

「まぁそうはいっても、ファライエ聖皇国の、召喚の場にいた人たちには顔を見られているし、どこから聖女だってバレるとも知れない。――なので! 極力目立たず騒がずひっそりと、自由気ままな異世界ライフを送るわよ!」

 

 拳を握って妙な気合いを入れる乃詠だが、それに対する従魔たちの反応はしらーっとしたものだった。

 温度差がひどい。みな一様に呆れた視線で主人を見ている。


 それに気づいた乃詠が、わずかにたじろいだ。

 

「な、なによ、みんな、その目は」

「……ノエが目立たないのは、ムリ。ひっそりとなんて、不可能」

「ですねぃ。何もしなくても、絶対に目立ちやすから」

「お姉さまが目立たないなんてこと、ありえません。絶対に」

「えぇ、間違いなく。こちらが騒がずとも、周囲が騒ぎますね」

 

 ファルは嘆息ぎみに、リオンとギウスは温い眼差しを向けて。大好きなお姉さま全肯定なベガでさえ、困ったような笑みを浮かべている。

 

「おまえ、やっぱけっこうバカだな」

「そこまで無自覚ってのも、ある意味すごいっスよねぇ」

「なに!? なんなのよみんなして!?」

 

 呆れを隠しもせず馬鹿にしてくるコウガ。アークはどこか面白がっている節が見て取れた。

 そして当の乃詠は、なんでみんながそんな反応をするのかがさっぱりわからないので、ただただ困惑するしかない。

 

『まぁ、なるようにしかならないでしょう』

 

 ナビィまで、声音も言葉もどこか投げやりだ。


 まぁ――要するに、彼らは乃詠の容姿のことを指摘しているのだが、自分がたぐいまれな美少女だという自覚が、残念ながら乃詠にはないのだった。

 

「本当に、なんなのよ……」

 

 みんなの言いたいことがわからず、しかし訊いても苦笑が返ってくるか、やれやれと肩をすくめられるだけで。

 結局、わけがわからないままむくれるしかなく。


「……もういいわ。さっさと行くわよっ」


 やや乱暴な足取りで歩き出す乃詠を、従魔たちはそれぞれ思い思いの表情を浮かべながら追いかける。


 そうして一行は、今度こそ外へ出るための道のりを、わいわいと賑やかに行くのだった。



 ◇◇◇



 ――そこは、無窮に広がる黒色の世界。


 太陽はなく、月も星もない。空も大地もありはしない。

 美しい草花も、力強く根を張る樹木もなく、生命の営みどころか、生や死の概念すらも存在しない――はずの場所。


(……ふふっ。本当に……本当に、面白い)


 その果てなき黒の世界にあるのは、ただ延々と流れる光の河だけ。

 星屑を集めた銀河のような光の帯が、ゆるやかな曲線を描きながらどこまでも続いている。


(こんなにおかしい気持ちになったのは、どれくらいぶりでしょうか)


 金色に瞬く運河に一部、光の粒が密集している箇所がある。

 それは、うっすらとだが人のようなシルエットを形作っていた。

 流れに逆らわず、逆らえず、〝それ〟はただ、光河の中に揺蕩う。


(まさか、あのクソゲス愉快神の最後っ屁たる厄災の因子を祓い、ファフニールを闇の底から引き上げ、あまつさえ神々の施した封印から解放してしまうとは……どれだけ驚かせてくれるのでしょうね)


 〝それ〟は存在しない目を細めるようにして、ぽつりとこぼす。


(ダンジョン機構の――世界のバグによって生まれてしまった、人の魂を持った魔物たちを救い、災魔さえも救ってみせた。あなたは紛れもない聖女ですよ)


 ずっと浅く短い覚醒と深い眠りを繰り返していた意識を維持し、繋がった感覚器でもって世界を見ながら――思わぬ出会いと奇跡に歓喜し、己が『マスター』の所業に驚嘆し、ただひたすら感心する。


 そして――だから。

 期待を抱いてしまう。


(いつか、あなたは――)


 一瞬〝それ〟を構成する光の粒が強く輝き、すぐに収まる。


(ワタクシのことも、救ってくれるのでしょうか?)


 彼女には届かない――届けるつもりのないその思念は、諦念を色濃く帯び、光の運河へと溶けて消えた。







     ―― 1部『追放聖女と邪毒竜の森』 完 ――




これで1部は完結となります。

ここまでお読みいただきありがとうございました!


少しでも面白い、続きが読みたいと思ってもらえましたら、★★★★★やブクマ、いいねで応援いただけると、とても励みになります。

すでにいただいている方は、ありがとうございます!


幕間として、ファライエ聖皇国の歌恋sideの話を2話(長くなったので分割で前後編)とロレンスsideの話を1話、投稿してから、2部を開始する予定です。


引き続き、拙作をよろしくお願いします。

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