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万能聖女がチートすぎる!  作者: 空木るが
1部 追放聖女と邪毒竜の森
49/105

4章49 万能聖女、邪毒竜ファフニールに挑む13

 


「じゃあ契約を――」


 とそこで、背中に軽い衝撃。つんのめるほどではないが、何事かと思って振り向くと、そこにはファフニールの鼻先があった。


 こちらを見るファフニールの眼差しには、不服さと批難がありありと込められている。


「……おれが、先。先に従魔になるって言ったの、おれ」

「あぁ? なに言ってやがんだクソ蜥蜴。オレが先に決まってんだろ。オレはあいつらの次にノエの仲間になったんだからな。んな簡単なこともわかんねーのか」

「……わかってないのは、おまえのほうだ、バカ鬼。今のやり取りを聞けば、おまえが従魔になるって言ったのは、さっき。なら、おまえは、おれのあとだ。……いくらおまえがバカでも、今ので理解できただろ」

「オレは最初からノエについてくって決めてたんだよ。口にしたかどうかなんて関係ねぇ。決めたのはオレが先だ」

「……子供みたいなへりくつこねんな、バカ鬼」

「てめぇこそ、ガキみてーなワガママ言ってんじゃねぇ、クソ蜥蜴」


 互いに詰め寄り、メンチを切り合う修羅鬼と邪毒竜。

 この二人、どうやら相性がすこぶる悪いらしい。


 コウガは試練ボスとして縛りつけられたことを根に持っているのだろうが、ファフニールのほうもいきなり喧嘩腰なのだ。根本的に馬が合わないのは、それだけで十分に察せられる。


(どっちが先だっていいじゃないの……)


 内心ではうんざりしつつも、どうしたものかと乃詠は悩む。


(話し合いはそもそも無理だし、かといって私が決めるのも違うわよね)


 となればもう――アレに頼るしかないだろう。


「よし。ここは公平に〝じゃんけん〟で決めましょう」

「「じゃんけん?」」


 どちらが先かを決めるのに、これほど公平で簡便な手段もない。

 二人の反応を見るに、この世界にじゃんけんは存在しないようだが、とても単純な遊戯だ。ルールの説明はすぐに済み、それならばと二人も納得してくれる。


 しかしよくよく考えれば、竜の指でチョキはちょっと難しい。あくまで公平性を図るために、口頭でのじゃんけんとした。


 結果は――


「……おれの勝ちだ」

「チッ」


 舌打ちしつつも、厳正なる勝負の結果にケチをつけるコウガではない。渋々とだが素直に引き下がった。


「じゃあ、ファフニール。テイムするわね」

「……ん。名前も、おまえに付けてもらいたい」

「名前持ちでも、新しく名前って付けられるの?」


 その疑問に答えてくれたのは、頼もしき相棒ナビィだ。


『付けられますよ。彼の固有名は、あくまで世界が定めたもの。従魔の命名とは性質が異なります。従魔でいるうちは、主人が付けた名前が適用されます』

「そうなのね。わかったわ。じゃあ……あなたは、今日から〝ファル〟よ」


 そうして、乃詠とファフニールあらためファルの従魔契約は成った。

 ちなみに、名前に関してナビィからのダメ出しは入らなかった。


『ファルはいいのね』

『まぁ、安直ではありますが、ちゃんと名前として成立していますからね』

『あなたの、そのあたりの基準がよくわからないわ』

『明確ではないですか』


 そして引き続き、コウガとも契約を結ぶ。その直後のことだった。



 ――条件を満たしました。称号【従魔女王】を獲得しました。



 何やら称号を獲得してしまった。

 ナビィいわく、称号の獲得条件というのは明確ではないそうだが、おそらくB+ランク以上の上位魔物を複数体に加え、現存する魔物では実質最上位にあたるSランクの魔物をテイムしたからではないか、とのことだ。


「称号って、一人一つじゃないのね」

『特に制限はありませんよ。ですが、そうそう獲得できるものでもありません。称号というのは、大抵が大きな恩恵をもたらしますからね』



=========================

◆称号【従魔女王】

◇称号効果

①『寵愛』:従魔のステータス強化一律+50、従魔の成長率1.5倍

②『主従の絆』:経験値共有、MP譲渡

=========================



 確かに、この恩恵も相当なものだ。


 ステータス強化は、そのまま各身体能力値にプラス50。

 成長率1.5倍も、そのままもとの成長率が1.5倍アップする。なお、もともとある成長率の恩恵とは重複しない。

 経験値共有は、主人と従魔全員が、各々で獲得した経験値を同じだけ得られるというもの。誰かが魔物を倒せば、戦闘に参加していなくても自動的にその経験値が入ってくるということだ。

 MP譲渡は、その名のとおり主人と従魔間で自由にMP譲渡が可能となる。MPの回復手段は主にポーションのみなので、余裕のある者が必要な者へ譲渡できるというのは地味にありがたい。


 その内容を聞かされた従魔たちは、一様に歓喜していた。これでもっと強くなれると。目的を達成してもなお、向上心の高い従魔たちである。


 ともあれ――晴れて全員が従魔になった今、なんだか感慨深いものがあった。


(これからずっと、彼らが私の傍にいてくれるのね)


 そのことが、異世界の地にひとり放り出された乃詠に、絶大なる安心感と充足感を与えてくれた。


 そうして穏やかに目を細めながら従魔たちを見回していた乃詠は、ファルへと視線を止め――おもむろに眉を寄せる。


「……なに?」

「いえ……あなたが人の町に入るのは難しそうだな、と思って」


 ファルの全長は、尻尾を含めて二十メートルはある。体高も五メートルはあるだろうか。端的に言って――デカい。デカすぎる。


 ずっと森で生活するなら問題にはならないだろうが、乃詠としては、できれば普通の暮らしがしたい。

 しかし、これほど巨大な竜を町の中で連れ歩くのは、さすがに無理がすぎるだろう。人や建物を薙ぎ払い、踏み潰しながら歩くことになってしまう。

 まぁ、そもそも町に入れてさえもらえないだろうが。


『そのことでしたら問題ありませんよ。〈テイム〉スキルは、レベル3で『従魔空間』という技能を獲得できます。テイムした魔物は、この『従魔空間』へ入れておくのが普通です』


 レベル3でテイムできる魔物は、せいぜいD+ランクまで。下位の魔物に、町中で連れ歩くのが困難なほど大きな種は存在しない。ゆえに『従魔空間』がなくともさして困ることはないが、Cランク以上となれば別。


 職業テイマーにとっては従魔こそが戦力だ。より高ランクの強い魔物をテイムすべく励む。『従魔空間』はそのための補助能力である。


『スキルレベルが上がれば、空間の広さやカスタマイズ性も上がります。ノエ様の〈テイム〉スキルのレベルは6。現時点でも、ファル様が入れるだけの十分な広さがありますよ』

「なら、なんの問題もないわね」

『ですが、確かファル様は〈人化〉スキルをお持ちのはず』

「あぁ……そういえば」


 戦闘に直接関係のないスキルなのでまったく気にとめていなかったが、あらためてステータスのスキル欄を視てみると――確かに〈人化〉はあった。


 スキル名そのまま、人の姿になれるスキルだ。

 人化できるのなら、普通に町の中も歩ける。


「ファル、それ使える?」

「……やってみる」


 直後、スキルを行使したらしいファルの全身が光に包まれる。が――光がおさまっても、彼の身には何の変化もなかった。


「……む。……なんか、うまくいかない」

「スキルが発動しないってこと? そんなことあるの?」

『ノエ様にわかりやすいように言うなら、スキルはゲームのようにシステム的なものですが、それを行使するのも作用するのも、プログラミングされたゲームオブジェクトではなく、正真正銘、生身の生物ですからね。肉体機能や精神に何かしら問題があった場合、スキルが発動できなかったり、逆に暴発してしまったりなど、十分に起こりえます』


 過去にベガが、固有スキル〈災禍〉を暴発させた例もある。

 あれもまた、彼女が意識的に発動させたものではなく、生命の危機に直面した生物の、元来備えている生存本能が、無意識に発動させたものなのだ。


『ワタクシも詳しい原因まではわかりませんが、ファル様の場合、厄災の因子が抜けたばかりで、自覚はなくとも心身ともに不安定なのかもしれません。もしくは、過去の件で人間そのものに苦手意識やトラウマがある、というのも考えられなくはないかと』

「……むぅ」

「まぁ、そのままでも一緒には行けるのだし、無理して人化しなくてもいいんじゃないかしら」

『それに、因子の影響であれば、因子自体はすでに抜けていますから、そのうち安定すると思いますよ』

「……ん」


 そうして従魔契約が終わり、ファルのサイズ問題も解決したところで――知れずずっと張り詰めていたものが切れたのか、猛烈な疲労感が乃詠を襲った。

 思わず、その場にへたり込んでしまう。


「大丈夫ですか、お姉さま!?」


 ベガが即座に駆け寄ってきて、乃詠の体を支えるように抱きとめる。


「……えぇ、大丈夫よ。ごめんなさいね。終わったんだなぁと思ったら、なんだか力が抜けちゃって」

「お姉さまの戦いぶりはすごかったですもんね! とってもとってもかっこよかったですよ! ファルさんまで解放してしまいましたし!」

「ふふっ、ありがとう。ベガもすごかったわよ。頑張ったものね、あなたも疲れたでしょう?」

「お姉さまに比べたら全然なんともないですよ」


 とは言うが、ベガの顔にも疲労の色が濃い。彼女の場合、どちらかというと心的なものだろう。

 そしてそれは、二人だけではない。全員に、大なり小なり疲労が見て取れる。


 乃詠も、口で言うほど大丈夫ではなかった。身体的にはまったく動けないわけではないのだが、心情的に今はもう動きたくない。

 いい加減サバイバルもうんざりなので、すぐにでもこの森から出るために行動したいところなのだが……今はもう、無理そうだった。


「時間的にはまだ早いけれど、今日はここで休みましょうか。ここなら魔物も入ってこないみたいだし」

「それがよさそうです」


 他の面々もそれに同意したので、みんなで協力して簡単な食事を作る。


 そうして賑やかに談笑しつつも手早く食事を終えた一行は、早々に毛皮の上に転がるや、誰もが一分と経たずに寝息を立て始め、泥のように眠るのだった。

 ――ただひとりを除いて。


「…………」


 皆が深く寝入る中、むくりと体を起こした彼は、密かに行動する。



お読みいただきありがとうございます。

これで1部4章は終わり、次話より終章『万能聖女、自由な異世界ライフを宣言する』開始です。


少しでも面白い、続きが読みたいと思ってもらえましたら、★★★★★やブクマ、いいねで応援いただけると、とても励みになります。

すでにいただいている方は、ありがとうございます!


引き続き、拙作をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] お忙しいにも関わらず、いつもご丁寧な返信をしていただき、ありがとうございます。毎回恐縮しています…(汗) また、リオンさん達の過去話の構想がある事を教えていただき、重ねて感謝いたします。 …
[一言] 毎日楽しい物語をありがとうございます! 1部4章の脱稿、大変おつかれさまでした。 戦闘シーンは、不足感や違和感が全くなく読むことができましたよ! 何よりも、期待していたベガちゃんの…
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