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万能聖女がチートすぎる!  作者: 空木るが
1部 追放聖女と邪毒竜の森
4/105

序章4 万能聖女、悪魔認定で追放される4

 


「世界全土で不作による大飢饉が起こったり、謎の疫病が蔓延したり、局所的な瘴気の大量発生が国や地域を呑み込んだり――これは今も何か所か残ってますね。浄化したくとも、範囲が広すぎたり濃度が高すぎたりと、容易に手を出すことができないのです」

「…………」

「あとは魔物の異常発生、および狂暴化によるスタンピードが起こったり、魔王が生まれ魔物の大軍勢を率いて世界征服を目論んだり、天災にも等しい魔物が出現し暴れ回ったり――といった具合ですね」

「……なるほど」


 世界が滅びかけたことも一度や二度ではなく、首の皮一枚つながった状態からの復興もザラだそう。

 それでもいまだ世界は存続しているのだから、この世界の住人が異常にたくましいのか、過去の召喚者がものすごく頑張ったのか。まぁその両方だろうが――なんにせよ、だ。


(一介の女子高生になんて無茶ぶりをしてくれるのかしら)


 しかも、なんの不自由もない平和な国の、ゆとりの時代に生きていた成人もしていない子供に。

 ……乃詠を一介の、とすると単語の定義がずいぶんと変わってしまうのだが、そのあたりは自己の評価の低さによる。


(女神が選んだというのだから、まぁ、きっと、私にも歌恋にも、この世界では特別な力があるのかもしれないけれど……)


 国さえ滅ぶような厄災の降り注ぐ災乱期とやらを迎える世界に、勝手に選んで勝手に送り込んで、要するに滅亡から世界を救えと言っているのだ。

 とんだ〝慈愛と整合の女神〟もいたものである。


(暴虐と理不尽の女神の間違いじゃないかしら)


 もちろん胸中でではあるが、そんな神への冒涜もすぎる悪態を吐いてしまうのも無理からぬことだろう。


「見知らぬ地で不安もおありでしょうが、聖女様の身柄は国が、ひいては神殿が丁重に保護することになっています。決してあなた方に不自由な思いをさせることはございません。無論、聖女様としてのお役目がある以上、まったく負担がないとは言えませんが、我々も全力で支援いたしますので」

「その聖女のお役目に、勇者の同行者――仲間として戦闘に駆り出されることはありますか? 対魔王戦とか」

「まさか! 直接戦闘に聖女様を参加させるなんて、そのようなことは絶対にありえません。あるとしても、安全な後方で治癒や浄化をしていただく程度です」


 そう強く断言したうえで――ただ、と。ロレンス皇子は続ける。


「スキルのレベル上げや習熟のために魔物と相対することはあります。ですがそれも、聖騎士の一団をつけ、危険のない万全の状態を整えたうえで、弱らせて動けなくさせた魔物にとどめを刺すくらいのもの。決してあなた方を危険にさらすことはいたしません。あなた方の御身は、身命を賭して我々が守ります」


 表情や声音からして、その言葉に偽りはなさそうだった。


「この世界に生きる人々を――この世界を守るためには、あなた方のお力が必要なのです。女神アフィリアンテ様によって選ばれた、特別な存在であるあなた方の力が。どうか、我々にあなた方のお力をお貸しいただけないでしょうか?」


 特別な存在、という部分に妙に力が込められていたように聞こえたのは、きっと乃詠の気のせいではないだろう。


(私たちをその気にさせよう、という意図かしらね)


 確かに〝能力の高い異世界人にして女神に選ばれし特別な聖女〟というパワーワードには甘美な響きがあり、人によっては酔いしれそうなものだ。酔いしれた当人は気持ちよくお役目がこなせるし、彼らとてそのほうが楽だろう。


 けれども、残念ながら乃詠はそこまで思考停止にはなれない。お花畑脳にも、ゲーム脳にも、物語脳にもなれやしない――のだが、


「……特別な、存在……わたしが、女神さまに選ばれた……特別な力を持つ、異世界から召喚された聖女と、かっこよくて素敵な皇子さま……」

 

 妹がすっかり酔いしれていた。

 

(まさか歌恋にそんな憧れがあったなんて……)

 

 知らなかった。けれどもそれは、別に不思議なことでもなんでもない。

 シスコンではあってもストーカーではない――今は違う乃詠は、ほとんど会う機会のない妹の趣味嗜好を把握してはいないのだから。

 

 召喚聖女のシンデレラストーリーも定番といえば定番。歌恋がヒロイン、ロレンス皇子がヒーローの物語――なくはない。

 

 それで彼女が幸せになれるのなら、彼が妹を幸せにしてくれるのなら、乃詠も心からの祝福を贈る所存だ。誰よりも妹の幸せを願う姉として。

 ……心の底では『妹が欲しければ私を倒してみせなさい!』などと思っていたとしても。そんなことを言えば確実に絶縁される。


(にしても――力を貸してくれなんて白々しいにもほどがあるわよね。私たちに選択肢なんてないでしょうに)


 ここまで一切触れられなかったし、端から期待なんて微塵もしていないけれど、一応確認だけはしておかなければならない。


「仮に拒否したとして、私たちは元の世界に返してもらえるのですか?」

「…………」


 途端、沈痛に歪んだロレンス皇子の顔を見て――彼に真っ当な感性と良識が備わっていたことに、乃詠は小さな安堵を覚えた。

 ここでもし、そんな心配をする意味がわからないという顔をされていたら、問答無用でその綺麗なご尊顔を殴り飛ばしていたかもしれない。


 ロレンス皇子は一度短く息を吐き出すと、苦悶のにじむ面持ちで告げた。


「異世界からの聖女様の召喚は、守巫女様の祈りの力と神官による儀式によって行われますが――我々はあくまで代行にすぎません。聖女召喚の根底をなしているのは、女神アフィリアンテ様のご意思なのです」

「要するに、あなたたちは送還の方法を知らないということですね?」

「……そのとおりです」

「過去の召喚者、あるいは転移者は?」

「元の世界に戻られたという記録は、少なくとも我が国にはありません」

「そうですか」


 思うところはたくさんあるけれど、すべてが女神の――超越存在の意思による所業であるならば、ロレンス皇子らを責めるのはお門違いというものだろう。

 だから、胸に湧いた情動は小さな嘆息とともに吐き出すにとどめる。


「……そういうことなら仕方ありませんね。相応の待遇をもって保護していただけるようですし、元の世界に帰れない以上、ここはもう私たちの生きる世界――できる限りのことはさせていただきたいと思います」

「ありがとうございます」


 ロレンス皇子が心底ほっとしたような様子を見せる。

 そういった機微を正確に見抜く能力はないが、少なくとも乃詠の目から見て、彼のそれが演技だとはとても思えなかった。


 皇子も皇子で、いかに女神アフィリアンテを信奉し、自分たちの世界を守るためだとしても、この世界の都合で身勝手に故郷から引き離された召喚者に対して罪悪感を抱いていたのだろう――と思う。


「受け入れの準備はすでに整っています。このあとすぐにお部屋へとご案内いたしますが、その前に称号を確認したいので、あなた方のステータスを見させていただいてもよろしいでしょうか?」


 問いのかたちを取ってはいるが、当然、乃詠たちに拒否権などない。

 まぁ、別に拒否する必要もなければ、そのつもりもないのだが。


 ステータスに関する説明も、最初に受けている。

 名前やレベル、各種身体能力値にスキル、称号などの個人の情報が記載されたもので、基本的には本人しか見ることはできないが、スキルや魔道具を使えば他者が見ることも可能だという。


「はい」


 代表して乃詠が答えると、ロレンス皇子は背後に向かって片手を上げた。その合図に応じ、進み出てきた青年が彼の隣に並び立つ。


 紺地に金の刺繍が施されたローブを纏い、藍色の髪と同色の瞳を持つその青年もまた、皇子に引けを取らない綺麗すぎる顔立ちをしていた。


「彼は宮廷魔導師筆頭のカルヴィン・ロイズです。高レベルの〈鑑定〉スキルを所持し、また皇宮に保管された貴重な魔道具の管理も担っています」


 カルヴィンはやはり流麗な所作で軽く礼を取ったあとで、胸に当てたのとは逆の手に持っていた水晶を掲げて見せた。


「これは、鑑定した対象のステータスを他者に見えるようにする魔道具です。では、まずそちらの方から鑑定を行いましょう」


 カルヴィンに手で示された歌恋の肩がぴくりと跳ねる。

 見れば、先ほどまでの期待と喜びに輝いていた瞳が嘘のように翳り、不安そうに揺れていた。


(歌恋がその手の知識にどれだけ明るいかはわからないけど、普通に考えて怖いわよね。ステータスなんて、私たちの世界では現実には存在しない概念だもの)


 よくわからないものを恐れるのは、生物として当然の本能だ。

 それに何より――二人への期待値が高すぎる。初っ端から〝特別な存在〟なんて強調されて、プレッシャーを感じないはずもない。

 落胆されることを恐れるのは、人として当然の本能である。


 もし期待外れだったら、もし聖女ですらなかったら――と。絶対にないと断言できないからこそ、どうしたって頭は悪いほうに考えてしまう。

 ただでさえ二人にはこの世界で寄る辺がないのだし、最悪を考えれば恐れるなというほうが無理な話だ。


「大丈夫よ、歌恋」


 背に触れる優しい手のひらと、穏やかな声音――はっとして姉の顔を見やれば、そこには無条件に安心感を与える微笑があった。


「何があっても、お姉ちゃんがついてる。だから、何の心配もいらないわ」

「っ…………だ、大丈夫も何も、別になんともないわよっ。勝手に勘違いして、勝手に心配なんてしないで。そういうところがムカつくのよ」

「そう。ごめんなさい」

「……ふんっ」


 相変わらずの嫌われぶりに落ち込みはするも、それ以上に安心した。

 手は振り払われてしまったが、いつもの気丈な妹に戻っていたから。


 そうして歌恋の鑑定が行われ――カルヴィンの手元の水晶の上に、どこかSFめいた半透明のスクリーンが浮かび上がる。



=========================

名前:一色歌恋

性別:女

年齢:16歳

種族:人間(異世界人)

称号:【治癒と清浄の聖女】

=========================



 それが表示されたとき、場を満たしたのは水を打ったような静けさだった。

 そしてその異様な沈黙は、やがて控え目ながらも爆発的な歓声に変わる。


「二つの能力に特化……古の大聖女様の再来だ!」

「おぉっ……! 大聖女様! 我らの希望!」

「我々の世界は安泰だ! 治癒と清浄の聖女様、万歳!」


 先の説明にはなかったが、どうやら二つのスキル持ちが過去にもいたらしい。しかしそれも歴史上で一人だけ――〝大聖女〟と呼ばれた存在。その再来に神官たちは興奮を隠せず、ロレンス皇子とカルヴィンもまた驚きをあらわにしていた。


(当然よね。歌恋ほど聖女に相応しい子はいないのだから)


 などとシスコンチョロ姉が我が事のようにドヤっていると、平静を取り戻したロレンス皇子が場を鎮め、魔導師カルヴィンへと鑑定の続きを促す。


「では、あなたのステータスを拝見させていただきます」

「どうぞ」


 内心ご機嫌の乃詠が許可を出せば、スクリーンは浮かんだまま、表面の記述が一度まっさらになり、再び別の記述が表示される。


 それが乃詠のステータスなのだが――



========================

荳*:濶&゛

諤:ァ蛻?

蟷。エ:1*陸

遞ノ:擾%壻(也阜莠コ¥)

К!門:【貂オ°閨И】

========================



 なんか不気味なまでに文字化けしていた。



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