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万能聖女がチートすぎる!  作者: 空木るが
1部 追放聖女と邪毒竜の森
30/105

3章30 万能聖女、ダンジョン攻略に乗り出す5

 


「ハッ! まだ笑ってられる余裕があんのかよ! 最高じゃねーか!」

「え、嘘!? 私、笑ってる!?」

「そりゃもうムカつくほど楽しそうにな!」

「やだ、それじゃあなたと同類みたいじゃない!」

「いいじゃねーの! 歓迎するぜ、同類さんよぉ!」

「本気でやめてくれない!?」


 冗談じゃない。私は戦闘狂なんかじゃないわ――そう否定したくとも、隠しきれない高揚感が如実に語ってしまっている。


(不本意も甚だしいけれど……まぁいいわ! 実際、ちょっと楽しいし!)


 謡としていた組手も確かに楽しかったが、いま感じている楽しさとは違う。親友とのそれは、本気であっても所詮は遊び。仕合ですらない。


 一方、アシュラオーガとしているのは、紛うことなき死合だ。互いに己の命を賭け、互いの命を削り合っている。敗者に待っているのは、ただただ死のみ。


 にわかなのは重々承知だが、それでも乃詠は、同じ武闘家としてアシュラオーガに勝ちたい。極力魔法の力は借りず、堂々と格闘だけで。

 その想いが、確かに今の乃詠の根底にあって、むしろ彼女自身はそれに尽きると思っている。――あくまで、本人の自覚内では。


 本人の自覚が届きえない領域で、本人は知らずとも紛うことなく、乃詠は命を取り合う緊張感すら楽しんでいた。要するに――本人が自覚していない本性は、否定の余地なき同類だということだ。



 ――熟練度が一定に達しました。スキル〈身体強化Lv7〉が〈身体強化Lv8〉にレベルアップしました。


 ――熟練度が一定に達しました。スキル〈格闘術Lv7〉が〈格闘術Lv8〉にレベルアップしました。



 攻防の中で、主用となっている二つのスキルが立て続けにレベルアップ。

 同時に乃詠の繰り出す技のキレが増し、振るわれる拳や脚の速度と一撃の重さも増す。


「なっ――チィッ!」


 さしものアシュラオーガも、これには舌打ちを禁じえない。

 そして直後――彼の腕と脚が真っ赤な炎を噴き上げた。


「わっ!?」


 突然の発火に驚いて飛び退くが、不思議と肌は熱さを感じていなかった。


『スキル〈魔纏・紅炎〉です。これは〈魔纏〉に属性を付与した上位スキルで、発動中は筋力が底上げされますが、覆っている炎自体に攻撃力はありません』


 自発的にスキルを解析してくれる相棒の頼もしさよ。



 ――スキル〈魔纏・紅炎〉を獲得しました。



 そして直後に当然のごとく同スキルを獲得する【万能聖女】のイージーさよ。


 もちろん使わないという選択肢はない。即行で発動。乃詠の腕と脚からも、やや黄色味の強い炎が噴き出す。


「ッ、てめぇも持ってやがったのか! 出し惜しむなんざずいぶんと余裕じゃねーか、あぁ!?」

「まさか! あなたみたいなのを相手に出し惜しみする余裕なんてあるわけないじゃない! いま獲得したの! あなたが使ってくれたから! ありがとう!」

「はぁ!? んだそりゃ!? ふざけてんじゃねーぞ!?」

「ほんとふざけてるわよね! その気持ちすごくわかるわ!」

「オレはてめぇがわかんねーよ!?」


 正真正銘の死合を繰り広げながら、魔物と軽口めいた掛け合いをしているという現状に今更の奇妙な心地を味わいつつ――スキルの恩恵を全力で活用し、乃詠は懸命に相手の動きに食らいつく。


「――『陽天脚スコル』!」

「――『陽天脚スコル』!」


 鋭く突き出された炎を纏う脚を、数瞬、遅れつつも、乃詠は同じく突き出した炎を纏う脚で受け止める。


「クソが! マネしてんじゃねぇ!」

「だってマネしないと防げないもの!」

「つーかなんで一瞬で習得してんだよ!? オレがこいつを習得すんのにどんだけの時間を費やしたと思ってんだ! ちったぁひとの苦労を考えやがれ!!」

「ほんとごめんなさい! でもやっぱりありがとう! 文句は称号さんに言ってくれる!?」

「ほんとわけわかんねーなおまえ!!」


 傍目には目で追うのもやっとな達人同士の熾烈な応酬をしながら、口では緊張感の欠片もない軽口を叩き合う――そんな二者の戦いを外野で眺めていたリオンが、若干の呆れを含んだ苦笑をこぼす。


「姐さんも同類だったんだなぁ。まぁ、なんとなく察しちゃあいたが」

「そうですね。姐さん、本当に楽しそうです。あんなに楽しそうな顔、出会ってから初めて見ましたよ」


 それに同意するギウスの顔に浮かぶのも、同じような笑みだった。


 これは仕合ではなく死合だ。互いの命を懸けた戦いなのだ。

 だというのに終始、笑っているアシュラオーガは間違いなくバトルジャンキーだけれど、対する乃詠もまた、見間違えようもなく――笑っている。普通なら笑ってなどいられない場面で、実に活き活きと、実に楽しそうに。

 おまけに、敵である試練ボスと軽口まで叩き合う始末。


 戦闘の苛烈さとは裏腹に、まるでじゃれ合ってでもいるかのような雰囲気で、見ているこちらまでなんだか気が抜けてしまう。

 だが、


「――やっぱすげぇよなぁ、姐さんは」


 ぽつりとこぼされた呟きに、ギウスがチラと視線をやった先――リオンの横顔からは先までの笑みが消えていて、わずかに細められた琥珀の瞳には、無力感や悔しさを塗りつぶすほどの羨望と憧憬があった。


「まぁ、姐さんはとんでもなくチートな称号をお持ちですからね……と言いたいわけではないですよね」

「あぁ。そんなのは単なるオマケみてぇなもんでぃ。姐さんのすごさは――強さの本質はそこにはねぇよぃ」


 確かに、乃詠のステータスの高さは称号の恩恵によるものだ。加え、彼女自身が生まれ持ったセンスや才能もあるのだろう。

 けれど、それらがあるから彼女が強いのかと言えば――答えは『否』だ。

 彼女の強さの本質は、その並外れた精神力にこそある。


 称号の恩恵は戦うことを前提としている。もたらす効果がチート級でも、魔物と戦って経験値を得なければ、単なる称号だ。そして生半可な覚悟と努力では、たった一週間でAランク上位の魔物と対等に戦うことなどできやしない。


「ほんと信じられねぇよなぁ。あれで、魔物のいねぇ平和な世界の出身だってんだぜぃ?」

「とてもそうは思えませんよね」


 見た目には、血や暴力とは無縁の、華奢で美しい少女。その心根は優しく、慈愛にあふれ、義理人情に厚い。まさに聖女の中の聖女――だがそんな彼女が今、目の前でバトルジャンキーの片鱗を見せている。


「道中の戦闘ぶりも、すさまじいものがありましたしね」


 乃詠はとにかく臆さない。同格の魔物が相手でも怯まず、敢然と立ち向かう。

 絶好の好機と見れば躊躇なく相手の懐に飛び込んでいき、多少無茶でも決して引くことはない。


「外見からは想像もつかない獅子奮迅の戦いぶりで、ばったばったと魔物を倒していく。自由に動ける日中はほぼ戦い通し。そしてそれは――僕らのため」

「いくら能力値が高いっつっても、そうそうできることじゃねぇよぃ。不本意だっつぅのに、姐さんは弱音一つこぼさねぇ。それどころか、俺らを元気づけようとしてくれさえする。――憧れるなってほうが無理だろぃ」

「ですね」


 リオンの纏う空気が引き締まったのが、隣にいるギウスはわかった。


「いつまでも情けねぇ姿ばっか見せてらんねぇよな。成長補正のあるなしなんざ関係ねぇ。一体でも多く魔物を倒して、肉体を鍛えて、技を磨いて――次は絶対にあそこに立つ」


 一度も逸らされず、戦闘を見つめたままのリオンの眼差しには、いっそう強さの増した焦がれんばかりの憧憬と、燃え滾るような野心が込められていた。


「えぇ。僕らも次は、あの高みに」


 それにギウスも追従する。彼にしては珍しく、好戦的な笑みを作って。


「そしたら、今度は絶対に取りこぼしたりしねぇ。――あっし自身も、大事な奴らも、誰ひとり」


 リオンの静かに燃ゆる決意の言葉に、ギウスはただ強く頷いた。

 ――と、二人が神妙な様子で真剣な会話を交わしている一方で、


「いけっ! そこっス! 今が攻めどきっスよ!」

「あぁ、とっても格好いいです、お姉さまっ……!」


 すっかり観戦モードで興奮しきりのアークが、前のめりになってひたすら声援を送り、その横ではベガが、頬を上気させながらひたすら瞳を輝かせている。


 早々に己の感情に折り合いをつけ、常の無邪気さを見せる二人を見やって。

 リオンとギウスは顔を見合わせると、再び力の抜けたような苦笑をこぼすのだった。



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