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万能聖女がチートすぎる!  作者: 空木るが
1部 追放聖女と邪毒竜の森
22/105

2章22 万能聖女、協力要請を受ける7

 


『……ねぇ、ナビィ。彼らは、もしかして』

『はい、お察しのとおりかと。彼らの魂は、元は人間だったものなのでしょう。このダンジョンへ挑み、そして散っていった人の』

『やっぱり』


 得心すると同時に、複雑な気分になった。


『しかしながら、ワタクシの保有する知識の中に、ダンジョンで死んだ人間の魂をも再利用するという例は存在しません。このダンジョンが対象とするのは、あくまで魔物の魂だけです』

『じゃあ、彼らはなぜ……』

『これはあくまでワタクシの推測ですが――』


 このダンジョンの機構を創ったのは神々だが、その力は決して万能ではない。

 世界における超越存在であることは間違いなくとも、神の力はこの世の理を――森羅万象を支配しているわけではないのだ。


 ゆえに、災魔に施した封印も絶対のものというわけではなく、封じた災魔の力の強さによっては、封印が解ける可能性もないとは言いきれない。


『封印こそ解けていないものの、邪毒竜の力が強大すぎるゆえにダンジョンのシステムに歪みが生じ、人の魂も再利用の対象となってしまったのかもしれません』


 彼らが外の知識を――元の魂の情報を持っているのもそのせいだろう、と。


 実際、目に見えるかたちで影響は出ている。それが、この森に満ちる瘴気だ。

 これは神々がダンジョンに組み込んだ環境オプションなどではなく、邪毒竜ファフニールの力が漏れ出たものである。


『彼らに人だったときの記憶はあるのかしら?』

『どうでしょうね。死んだ魔物の魂が再利用される際には、必ず蓄積された情報や記憶はリセットされますが……少なくとも彼らに関しては、人だったときに得た知識情報が消去されていないのは確かなようですし』


「――あの、姐さん? どうかしやしたか?」


 内ではなく外部――耳から入ってきたリオンの声を受け、ナビィとの会話に没入していた意識が引き戻される。

 彼らの顔を見回せば、みな心配そうにこちらを見ていて申し訳なくなった。


「少し考え事をしていたの。ごめんなさい」

「それならいいんですが」

「ねぇリオン。あなたは、なんで自分が人の言葉を話せるのかわかる?」

「――いえ。生まれたときから当たり前のように話していやしたから。こいつらも似たようなもんでさぁ」


 水を向けられた他の面々が、頷きをもって肯定を示す。


(そっか、だから……彼らは、魔物の社会に溶け込むことができなかったのね)


 人として生きた記憶はないのに、人だったころの知識があり、言語も扱えて。

 それは、彼らにとっては当たり前のことだったけれど、周りにとっては異質以外の何ものでもなかったから。


「ただ、それがおかしいことだってのも理解していやした。魔物というのがどういう存在なのかは、本能でも、知識としても知っていやしたから。それと、明らかに魔物では知り得ない知識も、あっしらは持っていやす」


 もしかしたら、彼らも薄々は気づいているのかもしれない。自分たちが純粋な魔物ではないことを――元が人だったことを。


 であるならば、告げない理由もないだろう。むしろ乃詠には、そのことを彼らが知りたがっているように見えたから。


「私には、姿のない相棒がいるのだけど」

「姿のない相棒、ですかぃ? スキルか何かで?」

「えぇ、そんなところよ。その相棒がね、すごく博識なの。そんな彼女の持つ知識をもとにして、私たちは一つの結論に至りました」


 なんとなく姿勢を正し、あらたまって先を告げる。


「あなたたちは、元は人だったのだと思う。このダンジョンに挑んで、魔物にやられて、不具合を起こしたダンジョンの魂リサイクルシステムに取り込まれてしまった。だから、あなたたちには人としての知性や理性があって、人だったときに蓄積された知識があって、人の言葉を当然のように話せるの」


 あくまで推測ではあるけれど、と最後に付け加えて。


 すると、魔物たちは互いに顔を見合わせて、どこかスッキリしたような、清々しい笑みを浮かべて見せた。


「やっぱりそうだったんですねぃ。なんとなくですが、そうじゃないかと思っていやした。いかんせん、知識はあっても記憶らしい記憶はありやせんでしたから、確信は持てなかったんでさぁ」

「あなたたちのその、ダンジョンを攻略して解放されたい、自由になりたいという発想も、そのあたりが大いに影響しているのだと思うわ」

「そのようで」


 ダンジョン攻略を目指す者への試練、または経験値としての役目を与えられた魔物に、そもそもそんな発想はできない。

 元が攻略に挑んだ人間の、冒険者か何かだったからこそ、その意識が残っているのもあるのだろう。


 そこでふと、乃詠の頭の中に一つの疑問がもたげる。


『ねぇ、ナビィ。そもそもの話、舞台装置的なダンジョンの魔物が、ボスに挑むなんてことが可能なの? 普通はそんな発想すらできないとしても』

『どうやら挑めるようですよ。まぁ極論、災魔を倒してくれるのなら、それが人だろうと魔物だろうとどちらでも構わない、ということでしょう』

『あぁ……確かに、それもそうね』


 とはいえ、繰り返しにはなるが、ダンジョン機構の一部として生まれた魔物が、そのダンジョンを攻略しようなんて発想には至らない。

 目の前にいる彼らこそが、例外イレギュラーなだけなのだ。


「それで、どうでしょう。ご助力、いただけやせんでしょうか? 姐さんの強さには、底知れぬ何かがあるような気がしやす。姐さんの協力があれば、ダンジョンの攻略も決して夢物語などではないと、あっしはそう確信していやす」

(鋭いわね)


 先の戦闘だけで、彼はなんとなくでも見抜いたのだ――乃詠の強さの根本を。

 そのことに内心で感嘆をこぼしつつ、


「もちろん、協力するわよ」


 と、さも協力する以外の選択肢などないといった調子で請け負う乃詠に、お願いした魔物たちのほうが狼狽えてしまう。


「あの……姐さん。協力を願い出たのはあっしらのほうですし、姐さんならと思ったのも事実ではありやすが……本当にいいんですかぃ? 死ぬ可能性だってあるんですぜぃ?」

「女に二言はないわ。死ぬつもりなんて毛頭ないし」

「姐さんが男前すぎる」


 慄くリオン。そして今度はギウスが口を開く。


「姐さんは、怖くはないのですか?」

「そんなことないわよ。私にだって多少の恐怖心はあるわ」

「多少なんスか……姐さんッパねぇっス」

「でも、事情を聞いちゃったら、見て見ぬふりなんてできないもの。そういう性分なのだから仕方ないわ」


 頼られればなんとかしてあげたくなる。期待されれば応えたくなる。

 自分でも難儀な性分だとは思うが、人の性分というのは、変えたくてもそう簡単に変えられるものではないのだ。


「なら、何がなんでもやるしかないじゃない?」


 もちろん、自分にダンジョンの攻略などできるのかという不安はある。

 確かに、称号【万能聖女】のおかげで現時点でも乃詠のステータスは高く、多くのスキルを獲得し、C+ランクの魔物を単独で撃破したという実績もある。

 まだこの世界に来てから一日と経っていないが、こんなデンジャラスなダンジョンに放り込まれてしまったから、魔物と戦うことにももう慣れた。


 だが、元は平和な世界で安穏と暮らしていた学生である。暴力と無縁とは口が裂けても言えないけれど、暴力に怯える必要のない世界で生きていたのだ。

 度胸はあると自負しているが、事実、恐怖心がまったくないわけではない。リアルな魔物に比べ、チンピラやヤクザのなんと可愛らしいことか。


 正直、魔物と戦わなくて済むのなら、戦いたくはない。積極的にレベル上げはするつもりでも、それはダンジョンを攻略するためではなく己の身を守るため。今すぐこんな魔物の巣窟からおさらばしたい、というのが偽りなき本音である。


 けれど、見て見ぬふりができない以上、やるしかないのだ。不安も恐怖も蹴散らせるくらいに強くなって、自分が彼らをここから解放してあげるのだ!


(やってやるわ! 称号さん、頼むわよ!)


 内心で気合を入れるとともに言うと――任せておけ、みたいな意思が返ってきた気がした。いやまぁ気のせいだろうが。……気のせいだろうか?


(まぁ、称号さんに意思があっても、別におかしくはないのだけど)


 だって、【万能聖女】に意思のようなものがなければ、乃詠の望みを察してスキルを生やすことはできないだろうから。


「姐さん、本当にありがとうございやす。よろしくお願いしやす」


 魔物たちが丁寧に頭を下げてくる。

 そうして再び顔を上げると、彼らはまたもや決意のこもった眼差しでこちらを見据え、言うのだ。


「ダンジョンを攻略し解放されたあかつきには、あっしら一同、姐さんにこの身を捧げ、絶対の忠誠を誓うことをお約束いたしやす」


 総意とばかり、全員がまっすぐな視線を注いでくる。


「え、忠誠? 身命を捧げる?」

『彼らは、精神はともかく肉体的には魔物ですから、この場合、ノエ様の従魔になるということでしょうね』

「従魔」

『魔物を調伏し己の戦力とする〝テイマー〟というクラスがあります。数はさして多くはないようですが、一般的に認知された存在です』



 ――スキル〈テイムLv5〉を獲得しました。



 先の発言があったからか、いつもより心なし張りきった感じで称号さんがスキルを生やすが……そもそも、彼らが従魔になる必要なんてないのだ。


「対価とかそういうつもりなのでしょうけど、別にそんなのがなくてもちゃんと協力するから、心配しなくていいわよ」

「いえ、協力してもらう以上、対価は必要でさぁ。ただでさえ、関係のない姐さんを危険に巻き込むんです。どころか、情けねぇ話ですが、間違いなくほとんど姐さんに頼るかたちになっちまうでしょう。だというのに、対価の一つも払わないじゃあ筋が通りやせんからねぃ」


 断固とした口調で言うリオンに、他の面々もそのとおりだと強く頷く。


「魔物であるあっしらが対価として支払えるのは、この身以外にはありやせん。なので――いえ、どうか、解放されたおりには、あっしらの忠誠を受け取っていただきたく」

「……そんなに重く考えなくてもいいのに」


 そう乃詠は思うのだが、彼らはかたくなに譲らない。


『ノエ様こそ、そんなに重く捉える必要なはいのでは? 対価というより、仲間ができるのだと考えればいいと思いますよ。それに、おそらく強者であるノエ様の庇護下に入りたいという下心もあるのでしょう。自由になりたいとはいえ、彼らはイレギュラーな存在ですからね』

『あぁ……なるほど』


 そう考えると、むしろ断りにくい。仲間ができるのも大歓迎だ。


 そもそも、乃詠が彼らの申し出をすんなりと受け入れられないのは、ほぼ間違いなく、彼らが元人間だからだ。そのうえで諾と答えれば、実質、人を使役するということになってしまう。


 だがしかし――中身はともかく、外見が完全に魔物である彼らだけでは人の町に入ることはできないが、乃詠の従魔となれば問題なく入れる。もしかしたら、そういった思惑もあるのかもしれない、と思い直した。


(心情的に複雑だというだけで、彼ら自身が望んでいるのだものね)


 そうであるなら、乃詠のほうに断固拒否する理由などありはしない。

 というわけで、乃詠は彼らの差し出す対価を受け取ることにしたのだった。



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