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万能聖女がチートすぎる!  作者: 空木るが
1部 追放聖女と邪毒竜の森
19/105

2章19 万能聖女、協力要請を受ける4

 


(……限界ね)


 乃詠自身の力は増したが、それに武器のほうがついてこれない。

 そして次に攻撃を仕掛けたとき、ついにバキリと折れてしまった。


 木製であることに加え、武器としての格も低い。耐久度はたかが知れていた。予想できていたことだから、驚きもなければ動揺もない。


 ほんの短い間ではあるが自分を助けてくれた棍棒に心の中で感謝を告げ、潔く手放した乃詠は、両手を握りしめて拳を作り、堂に入った構えを取る。



 ――スキル〈格闘術Lv5〉を獲得しました。


 ――スキル〈魔纏Lv5〉を獲得しました。



 もともと乃詠が得意とするのは無手での格闘だ。というより、元の世界では無手でしかチンピラを相手にしたことがない。


 ただし、ここでの相手は人ではなく、怪物――まずもって、人とは肉体の強靭さが違う。この世界特有のシステムがあっても、生の拳では心許ない。


 そこを補助してくれるのが、新たに獲得したスキル〈魔纏〉だ。

 発動に際して消費した魔力(MP)を、鎧のように肉体へと纏わせることができる。

 レベルが上がれば持続時間が伸び、硬度も増していく。また、纏わせる箇所を局部に限定することも可能で、その分の密度が鎧の硬さとなる。


(これならいける!)


 その後の戦闘は、ほとんど乃詠が攻勢の一方的な展開になった。


 格闘術に関してはインストールされるまでもなく体に染みついていたし、速度も圧倒的。身軽で小回りが利くのにパワーも上がっているのだから、それも当然の流れである。


 途中でジェノサイドベアが固有スキル〈虐殺〉を発動させたが、効果はステータスの大幅強化で、対象となるのはHP総量に筋力、敏捷。あと、ステータスによる可視化はされていないが、スタミナ。

 レベル2の強化率はおおよそ1.3倍。HP総量は+100。


 恩恵だけ見ればクレイジーエイプの〈狂化〉の劣化版みたいなスキルだが、こちらには特にリスクも反動もない。クールタイムはあるようだが、実質、MPが尽きない限り強化し続けられる。


 だがそれでも、筋力はともかく敏捷は乃詠より下だ。高い筋力とて、攻撃が当てられなければ意味がない。


 多少時間はかかってしまったものの、大して苦戦らしい苦戦はなく、乃詠はジェノサイドベアを打倒したのだった。


「ふぅ……なんとか勝てたわね。固有スキルを使われた直後は、少しだけヒヤリとしたけれど」


 一息吐きながら意識を周囲に向けると、ちょうどカオスチームがキラーウルフの三体目を倒したところだった。

 彼らは乃詠がジェノサイドベアとの戦いに集中できるよう、キラーウルフたちのタゲを取ってくれていたのだ。


 残りは一体。そこまで消耗している風には見えず、連携にも危なげはない。

 手助けは必要ないだろうと判断し、乃詠は再び絶命したジェノサイドベアへと視線を戻す。


 巨熊の死体が黒い靄となって消えれば、あとにはドロップアイテムが残る。

 魔石と赤の斑模様が入った黒い毛皮、ナイフのような爪が一本。そして緑色をした謎の直方体の塊。

 近くで見ると、緑色のそれは葉っぱのようで、何かが葉っぱに包まれ紐でくくられているらしかった。


『何かしら、これ』

『ドロップ食材の、肉ですね』

『お肉! 貴重なタンパク源だわ!』


 しかし、ご丁寧に葉っぱに包まれたブロック肉がドロップされるというのは、あまりにもゲーム的すぎてうっかりリアルを忘れてしまいそうになる。


 気になったので、紐を解いて中を見てみる。

 生々しい質感のそれは、間違いなく肉の塊だった。


(でもなんか……色がちょっとおかしくない?)


 ゲームみたいなファンタジー世界だし、ちょっと紫がかった色の肉があっても不思議ではないのだが、一応〈鑑定〉で確認してみた。



=========================

◇ジェノサイドベアの肉(汚染)

素材ランク:B(―)

=========================



「汚染されちゃってるじゃない!」


 思わず肉声でツッコミを迸らせてしまう乃詠だった。


 ちなみに元の素材ランクはBだが、汚染されているのでランク外となっている。無駄に細かい。


『こんなの食べたら絶対にお腹壊すわよ』

『耐性スキルのない者が食べたら確実に死にますね』

『ダメじゃない。まぁ、私はいけそうだけれど』

『いけますね。でも、スキルで浄化すれば普通に食べられますよ』

『あぁ……そうだったわ。私って、浄化の使える聖女なんだった。うっかり忘却しかけてたわ』


 自分の性質があまりにも聖女らしくないので。


 それはともかく、乃詠としては、たとえ死にはしなくとも、どうせ食べるなら真っ当なものが食べたいところ。素直に浄化することにした。


 といっても、今すぐ食べるわけではない。葉っぱで包み直し、他のドロップアイテムと併せ、ひとまず〈アイテムボックス〉に収納しておく。


(あとで各々の取り分を話し合わないとね)


 ジェノサイドベアを最終的に仕留めたのは乃詠だが、それまで戦っていたのは魔物たちである。

 とどめを刺したからといって戦利品を全取りするほど、乃詠は図々しくはないのだ。


 そうしてドロップ品の回収を終え、腰を上げたとき。


「――ご助力、ありがとうございました」


 振り向くと、カオスホブゴブリンが頭を下げている。いつの間にか戦闘は終わっていたようだ。

 姿勢を戻し、少し低い位置からまっすぐ見上げてくる琥珀の双眸には、確かな知性の輝きが宿っていた。


(予想はしていたけれど――)


 カオスゴブリンソードマンと同じく、彼も言葉が話せるらしい。所作も驚くほど綺麗だし、敬語も自然そのもの。これで魔物だなんて嘘のようだ。


「もしかして、全員が言葉を話せるの?」

「えぇ。話せます」

「しゃべれるっスよー」

「わたしもしゃべれますっ」


 キラーウルフのドロップを集めていたらしいカオスコボルトとカラミティヴィーヴルが駆け寄ってきて、会話に加わる。


 見上げてくるカラミティヴィーヴルをあらためて間近に見れば、本当に魔物とは思えない可憐さだ。

 肌の青さが気にならないくらいに整った顔立ち。キラキラと輝く赤い瞳はまるでルビーのよう。鈴を転がしたような澄んだ音色の声は、うっかり聞き惚れてしまいそうになる。


 カオスコボルトのほうも、毛皮に覆われた顔面でありながら、少年みたいな無邪気な笑顔がはっきりと見て取れた。


『ナビィ。この世界の魔物って、実はしゃべるタイプなの?』


 これまでに会敵した、彼ら以外の魔物は――カオスゴブリンはギィギィグギャグギャ言ってるだけだったし、クレイジーエイプやデスハーピーからもキエァとかキョアァとか奇声じみた鳴き声しか聞いていないのだ。

 いずれも、人語を話す素振りなんて一切なかった。


『いえ、基本的にはしゃべりませんよ。Aランク以上の高い知能を持つ個体であればその限りではありませんが――彼らのランクで人の言葉を繰るなど、本来ならありえないことです。ただし、彼らが純粋な魔物であるなら、ですが』


 ――〝魔族〟という存在がいる。

 人と魔物の合の子で、中身はほとんど人と変わらないが、外身は完全に魔物。区別するために魔族と呼称されているが、人々の中では一般的に魔物扱いらしい。


『じゃあ、彼らは魔族なの?』

『わかりません。ただのイレギュラー個体という可能性もあります。イレギュラーというものは往々にして発生しますからね』


 ノエ様がいい例ですよ、と淡々と言われてしまっては、さすがに自覚の出てきた乃詠は押し黙るしかない。


「まさか人が、魔物である僕らを助けてくれるなんて思いませんでした。あなたの加勢がなければ、おそらく僕らは死んでいたでしょう。本当にありがとうございました」

「いいえ。それを言うなら、最初に助けてもらったのは私のほうだもの。そっちのカオスゴブリンソードマンさんから受けた恩を返しただけよ」


 そういえばそのカオスゴブリンソードマンは、と視線で探せば――彼も傍まで来ていたようだが、何やら顎に手をあてて難しい顔をしている。

 考え事だろうかと首を傾げたとき、ふと顔を上げた彼と目が合った。


 すると、何やら覚悟を決めたような面持ちをしたカオスゴブリンソードマンが、無言で歩み寄ってきて乃詠の前に立つ。

 じっとこちらを見据える視線には妙な気迫が込められていて、乃詠は思わずと息を呑んだ。

 そして彼は、おもむろにその場で両膝を折り――つまりは正座をして、右の拳を地面についた格好で、再び顔を上げる。


 一瞬、もう一生会えることはないのだろう家族――組員の姿とダブった。

 見慣れたそれに違和感はまったくないけれど、なぜ魔物の所作がちょっと任侠っぽいのだろうか。口調もだが。


「このたびのご助力、感謝いたしやす」

「――あ、うん。こちらこそ、庇ってくれてありがとう」

「お嬢さんの先の戦いぶり、実に見事でございやした」

「あ、うん、それはどうも」

「C+ランクの魔物を相手に一切怯むことなく立ち向かい、打倒してのけたその度胸と胆力、そして圧倒的な強さに、あっしは感服すると同時に心底惚れやした」

「あ、そう。うん、ありがとう」


 なんかもう別の意味で圧倒されてしまい、乃詠は決められた言語しか発せないロボットのように返すしかない。


「命を助けられた身の上で厚かましいことは重々承知しておりやすが、その強さを見込んで一つ、お頼みしたいことがございやす」

「あ、うん。何かしら?」

「あっしらの〝解放〟に、ご助力いただけやせんでしょうか」

「あ、うん……うん?」


 半ば反射的に返していた乃詠だが、すんなりと吞み込めない単語が出てきてきょとりと目を瞬く。

 真意はさっぱりだが――なんだか妙なことになってしまったかもしれないということだけは、なんとなく理解できた。



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