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万能聖女がチートすぎる!  作者: 空木るが
1部 追放聖女と邪毒竜の森
11/105

1章11 万能聖女、デンジャラスな魔物たちの洗礼を受ける6

 


 カァァンッ――と。木と木のぶつかる、特有の乾いた音が森の中に響く。

 魔物の振り下ろした棍棒を、乃詠が頭上にかざした木の棒――棍棒が受け止めたのだ。


「ギャギャッ!?」


 くすんだ琥珀の双眸が、驚愕に見開かれる。受け止められるとは思いもしなかったのだろう。

 けれども――それを成した乃詠の心中も、驚きでいっぱいだった。


(たまたま転んだ先にちょうどいい感じの木の棒が落ちているなんて、自分の強運っぷりが怖くなるわ)


 とはいえ、こんな魔物が跋扈するダンジョンにいること自体が不運以外の何ものでもないので、運が良いのか悪いのかは微妙なところなのだが。


(でもまさか、某RPGよろしく木の棒を装備してモンスターと戦う羽目になるなんて、想像だにしなかったわ)


 などと詮無いことを考えつつも、乃詠はこの幸運に心から感謝する。


 あらためて手元の棍棒を見れば、魔物が持つ手作り感あふれる原始的なものとは違い、棒の太さは均等で、表面は丁寧に磨き上げられている。

 魔物のそれが純粋な棍棒なら、こちらは『棍』と言うのが正確だろう。

 握りやすく、強度もそれなりにありそうだ。武器として申し分ない。


(こんな、職人が加工したような棍棒が、なぜこんなところに無造作に落ちているのかは疑問だけれど――今はどうでもいいことね)


 チンピラ相手なら常に無手だったが、怪物相手では、拳を守る防具もない以上、武器は必須。だから、ここで武器を入手できたのは本当に幸運だったし、相手の武器がただの棍棒だったことも幸いだ。

 これがもし、ナイフよりも刃長のある武器――長剣とかだったなら、応戦は困難を極めただろうから。



 ――スキル〈棍棒術Lv5〉を獲得しました。



(なんかまたスキルが生えたわ)


 本当にご都合がすぎるが、今はそのご都合がただただありがたい。


 そうしてスキルを獲得した直後――棍棒術なんて習ったこともないのに、棍棒の扱いと取り回しを自然と頭が、そして体が理解する。


(これがスキルの効果なのかしら……不思議な感覚ね)


 例えるなら、スキルに付随する知識を脳に直接インストールされた、といった感じだろうか。

 頭が理解し明確なイメージを描ければ、信号を介して体も動く。


(でも、ナビィが言ってたわよね。スキルは、相応の修練や経験の果てに獲得するものだって。私の場合は称号の効果があって、まともな知識もなしに、獲得した瞬間からレベル5。――これはおそらく、その部分を埋めるための救済的な措置なのでしょう)


 どうにもズルをしている気分になってしまうが……でも、と。


(これは、私がこの世界でもらった力。元の世界とは比べものにならないくらいに物騒で危険な――それこそ、これから何らかの災いが降りかかるこの世界を私が生き抜くための力なのだから、ズルだろうと何だろうとありがたく使い倒させてもらうわ)


 唇をかすかに笑ませ、乃詠は棍棒を持つ手に力を込める。


 上からと下からでは、前者が圧倒的に有利なはずだが――乃詠のほうが筋力値が高いのだろう。徐々に押し込んでいって、敵がわずかに怯んだ隙を逃さず一気にはねのける。


 思いのほか勢いがついたらしく、魔物が仰け反ってよろめくが、敵は一体だけではない。

 もう一体が攻撃を仕掛けてくるのを、転がって回避――その反動を利用して立ち上がり、わずかに片足を引いた半身の構えを取る。


「グゲグゲ……」

「ゲゲギャギ……」


 そのときには、相手も体勢を立て直している。

 警戒した様子でこちらの出方をうかがっている魔物たちの双眸からは、すでに侮りの色が消えていた。


 相手を、一方的に嬲れる弱者ではなく対等な敵として、認識を改めたのだ。魔物とはいえ、その程度の知能はあるらしい。


 対する乃詠も、体格差や腕力の優位、スキルによる補正を過信して油断したりはしない。


(今は棍棒しか使ってないけど、もしかしたら特殊なスキルを持っているかもしれないのだから、油断なんてできるわけがない)



 ――スキル〈鑑定Lv5〉を獲得しました。



(【万能聖女】が絶好調だわ)


 ともあれ、さっそく使ってみた。



=========================

種族 :カオスゴブリン

性別 :♂

ランク:D

レベル:1

HP  :227/227

MP   :85/85

筋力 :51

耐久 :49

敏捷 :47

魔力 :7

抵抗 :21

幸運 :11 

固有スキル:〈混沌Lv1〉

通常スキル:〈殴打Lv1〉

=========================


=========================

種族 :カオスゴブリン

性別 :♂

ランク:D

レベル:2

HP  :232/232

MP  :88/88

筋力 :54

耐久 :50

敏捷 :49

魔力 :9

抵抗 :23

幸運 :12 

固有スキル:〈混沌Lv1〉

通常スキル:〈殴打Lv2〉

=========================



(見た目からしてそうじゃないかと思ってたけど、ゴブリンのお仲間かしら)

『はい。ゴブリンの上位種です。このダンジョンでは最弱の魔物ですが』


 警告を発して以来、静かだったナビィから思考への返答があって、ちょっぴり驚いてしまった。

 自分の中にもう一つの存在がいることに馴れるには、今しばらく時間がかかりそうだ。


『そういえば、いたのだったわね、ナビィ』

『たったの数分でお忘れですか。傷つきます』

『だから、傷つく心を持ってから言ってくれる?』


 このやり取り気に入ったのかしら、とやや呆れつつ話を戻す。


『カオスゴブリンが最弱ってことは、このダンジョンにポップする魔物の最低ランクがDってことよね?』

『そのとおりです』


 問えば、打てば響くとばかりに答えが返ってくるのが素晴らしい。


 ちなみに、ただの『ゴブリン』のランクはEランク。

 魔物の種族ランクの最低はFで、F+、E、E+、D~と上がっていく。

 カオスゴブリンはゴブリンの二ランク上位の魔物ということだ。


(全体的なパラメータは私より高いけれど、〈身体強化〉のプラス分があるから、筋力・耐久・敏捷に関してはこっちが圧倒的に上回ってる。保有スキルも少ない。でも、固有スキルの〈混沌〉って、字面からじゃどんなスキルかわからないわね)



 ――スキル〈解析Lv5〉を獲得しました。



 こちらの意を汲んだご都合スキル獲得も、また大変に素晴らしい。


(この流れなら、スキルの詳細がわかるとかそんなところでしょう)


 そう当たりをつけ、いざスキルを発動させようとした、その刹那――頭の中が混沌に呑まれ、思考が千々と砕けて、結果として〝空白〟を生んだ。


「――??」


 それこそ頭の中が〝無〟となって、カオスゴブリンが接近しているというのに乃詠は動かない。――動けない。


 何も考えられず、何もわからないから、何もできない。

 跳び上がり、頭部めがけて棍棒が振り下ろされるが、それを脳が認識しない。

 見えているはずなのに脳が認識しないから、信号が送られない。


 わからない。何がわからないのかさえわからない。わからないがわからなくて、わかるもわからなくて――



『――ノエ様っ!!』



 脳に叩きつけるようなナビィの声。

 直後、白くなった思考に色が戻る。


 それは、ほんの瞬きの間。一気に流れ込んでくる五感情報。それを正常化した脳が認識するよりも早く、反射の域で乃詠は首を倒していた。


 ほとんど肌を掠めるようにして、敵の棍棒が通り過ぎていく。


 そのまま身を投げ出すかたちで横倒しになった乃詠は、さらなる追撃を強引な蹴りでもって辛くもいなし、反動と腕の力で跳び起きると、即座にステップを踏んで大きく距離を取った。


『あ、危なかった……もしかして、今のがスキルの効果?』

『そのようです』


 背筋をヒヤリとさせながら、あらためて〈解析〉を使用する。



=========================

◇固有スキル〈混沌〉

対象の思考に空白を生み、行動や詠唱を阻害する。

スキルの発動には、対象を三秒間、視認し続ける必要がある。

効果時間はスキルレベルと魔力値、また対象の抵抗値によって変動し、意識や肉体に一定の衝撃を受けると解けることもある。

=========================



 解析の結果にさっと目を通すと、すぐさま地面を蹴って、カオスゴブリンたちの背後へ回り込むように走り出す。

 突っ立っていれば、またスキルをかけられてしまうからだ。


『ナビィが声をかけてくれたから効果が解けたのね。ありがとう、助かったわ』

『いえ。確かにワタクシのファインプレーもありますが、ノエ様の抵抗値が高かったことに加え、敵のスキルレベルと魔力値が低かったことも幸いしました』


 固有スキル〈混沌〉のもたらす『空白』の効果は、一種の状態異常だ。

 ステータスの『抵抗』は、魔法攻撃に対する防御力、および状態異常へのレジスト率と回復までの時間に影響する。


(スキル発動の条件である〝三秒間の視認〟は、ただ視界に入ってればいいというわけじゃなく、ある程度しっかりと注視する必要があるんじゃないかって思ったのだけど――)


 円を描くようにして走り続ければ、カオスゴブリンたちは乃詠の姿を視界へおさめようと躍起になって、その場でくるくる回っている。


(どうやら当たりだったみたい)


 人体と同じところに目がついているのだから、視野の広さも同じだろう。少なくとも視界の端には捉えているはずだが、乃詠の思考に空白は生じない。


(とはいえ、このままくるくるやってても敵は倒せないものね)



 ――スキル〈空白耐性Lv5〉を獲得しました。



 ここでまた対抗するためのスキルをゲットしたが、あくまで耐性。たとえスキルレベルはこちらが上でも、無効でない以上絶対にかからないというわけではない。


 速度を緩めず走りながら、乃詠は少しずつ円を狭めていく。

 そうして間合いへと入った瞬間、即座に踏み込み、三秒が経つ前に――相手の棍棒が振り下ろされるよりも早く、胸への一突き――ずぶり、と。


「えっ?」


 言っても、先端が平らになった棒だ。確かに渾身の力を込めて突いたが、それがまさか――皮膚を突き破り、深々と肉に食い込むなんて想定外も想定外。


 驚きと本能的な嫌悪から手を引っ込めてしまいそうになるも、なんとか堪えてそのまま突き込めば、背後にいた仲間を巻き込みながら数メートルほど吹っ飛んだカオスゴブリンが、しばらく痙攣したあとで動かなくなる。


 下敷きになったもう一体が相方の骸の下から這い出てくるが――しかし。

 立ち上がるよりも先に接近した乃詠の棍棒による殴打により、頭蓋骨を盛大にひしゃげさせて、無残な動かぬ屍となった。



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[一言] 投稿ありがとうございます! おかげさまでスッキリしました(笑) 今回は、スッキリ収まる内容でしたが、たまーには寸止めの終わり方もアリかと…(笑) 引き続き思いのまま、書きたいようにお書きくだ…
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