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万能聖女がチートすぎる!  作者: 空木るが
2部 愛の騎士と星に巣食うモノ
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終章46 万能聖女、はっちゃける3



「あっ――」


 ふいに、乃詠の体がふらりと傾ぐ。そのまま倒れそうになるも、とっさに滑り込んだハクが、背中でもふりと受け止めてくれた。


「ごめんなさい、ハク。ありがとう」

「くぅ~ん」

「お姉さま、大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫よ」


 駆け寄ってきたベガにひらひらと手を振り、ややおぼつかない足取りでステージを下りた乃詠は、片手でアイスフェンリルズをなでながら、さんざん踊って渇いた喉を潤す。

 それを見て、心配そうな顔をしたアークが声をかけた。


「あの、姐さん。そろそろ呑むのやめたほうがいいんじゃないっスか?」


 本人に自覚はないようだが、だいぶ酔いが回っているのだ。

 ずっと踊り通しだったので、そのせいもあるのだろう。


「ぅん? もしかしてアーク、妬いてるの?」

「へっ……?」


 心配して声をかけたのだが、なんだかまったく噛み合っていない。


「安心して。私はアークのもふもふも大好きだから」

「へっ!?」


 乃詠はアイスフェンリルズから手を放すや、大好き発言に仰け反っているアークの毛皮をダイレクトにもふり始めるのだ。


「ちょおっ、姐さんんんんっ!?」

「あなた、いつも全然もふらせてくれないけれど……私、けっこうもふるの上手いのよ? 道行くワンちゃんネコちゃんには好評だったんだから」

「ねねね、姐さん、やや、やめっ……!?」

「でも、コボルト種は普通の犬猫とは違うのよねぇ……うーん、ここかな? こことか、どう? 気持ちいい?」

「あっ、ちょ、ね、姐さんっ……! そ、そんなとこ、触っちゃ……!」

「硬そうに見えて、触ると意外に手触りがいいのよねぇ。んー、手触りもだけど、とってもいい匂い……癒されるわぁ……もふもふもふ」

「ちょ、姐さんそこはほんとにダメ! アッ――――!」

「いい加減にしろ」


 苛立った様子のコウガが、アークから乃詠を引き剥がす。

 支えをなくしたアークは、そのまま背中からバターンと床に倒れた。

 どういう原理か黒い毛皮を真っ赤にし、目をぐるぐるさせてすっかり気を失っている。だが口元はとっても幸せそうだ。


「もう、コウガまでやきもち? 大丈夫よ。私はみんなが大好きだから」


 ぎゅっと正面からコウガに抱きつく。


「っ!? お、おい! なにすんだ! 放しやがれ!」


 動揺するコウガは乃詠の腕を引き剥がそうとするが、ステータスは乃詠のほうが高いのだ。

 酔っぱらっていても、いや、酔っぱらっているからこそ、そのあたりのタガが外れてしまっている。


 そうしてしばらく格闘していたら……すぅ、と寝息が聞こえてきた。


「……嘘だろ。この状態で寝てやがる」

「ははっ、さすが姐さん。器用なこった」

「裏にソファーがあるから寝かせてやんな」


 店のマスターが気を利かせてくれた。


「はぁ……仕方ねぇ」


 完全に寝入ったからか、わずかに力の抜けた腕をなんとか解く。

 寝ていても、これだけの力を込めなければならないのが恐ろしい。

 そうして一瞬、躊躇しつつも乃詠を横抱きにしたのだが、


「……バカ鬼、どさくさに紛れて抜け駆けするな。ノエは、おれが運ぶ」

「うるせーよクソ蜥蜴。なにすっかわかんねー色ボケは引っ込んでろ」

「……その言葉、そっくりそのまま返してやる」


 やいのやいのと言いながら、二人が店の奥へと消えていく。


 乃詠とアーク、そして騎士の中からも数人の脱落者を出しつつも、にぎやかな宴は夜中まで続いたのだった。



 ◇◇◇



「お姉さま、こちらは終わりました」

「ありがとう。じゃあ、次はこれをお願いできるかしら?」

「お任せください!」


 乃詠とベガは現在、宿の部屋でせっせと手を動かしていた。

 彼女たちの手にあるのは――縫いかけの服。領主の城で行われる宴のために、全員分の礼服を作っているのだ。


『……あの、姐さん。やっぱりオイラも参加しなきゃダメっスか?』

『えぇ。領主様からの、せっかくのご厚意だもの、無碍にするなんて失礼でしょう? ――あなたたちだけ逃げるなんて許されないの。道連れよ』

『後半が本音っスよね……』


 そう、領主からは、従魔たちもぜひ、と言われているのだ。ならば同伴しないわけにはいくまい。……逃がさない。

 彼の気持ちもわかるのだが、乃詠とてできることなら城の宴――パーティーになんて出席したくはないのだ。


 服装に関しては普段着でかまわないと言われているのだが、そうは言っても上級貴族の城でのパーティーである。最低限のドレスコードは必要だろうし、何より場違いな格好というのも逆に目立って恥ずかしいものだ。


 ゆえに今、ベガと二人で協力し、急いで仕立てているのだった。

 既製品では従魔たちのサイズがいかんともしがたいので。

 素材はいっぱいあるし、森の中と違って染色剤は買えるのがありがたい。


 それからしばらくして、


「よし、完成よ!」


 男性陣はパーティースーツ、女性陣はカクテルドレスだ。


「あなたたち、どこかのホストクラブでナンバー1、2を張ってそうね」


 コウガとファルである。

 ちゃんとした着方は教えたのだが、微妙に着崩しているから、どうにもチャラく見えるのだ。

 なお、どちらがナンバーワンかは知らない。

 タイプがまったく違うので、好みも分かれるだろう。


「お姉さま、とってもお似合いです!」


 乃詠はブルーグレーのドレスだ。ホルターネックタイプで、美しいボディラインを見せつつ、膝丈のドレープ使いがとても上品である。

 男性陣が、見惚れることもできずに目を逸らしていた。


「ありがとう。ベガも、とっても素敵よ」


 ベガのドレスは、ベアトップに繊細なレースを組み合わせたロングタイプ。落ち着いたワインレッドが大人っぽさを演出していた。


「ハクとユキも、すごく可愛いわ」

「「ぉん!」」


 もちろん彼女らはドレスなんて着れないので、それぞれ異なるデザインのリボンを耳につけている。


「ステラにもドレス、着てほしかったのに」

『……キラキラしたパーティーなんて、小生には無理なの』


 乃詠に寄生した宿星ステラは、半霊の生命体だ。普段は霊体として乃詠の中にいて、必要なときに実体化する。


 宿星という生物は、その習性もあって根本的にヒキコモリ体質らしく、パーティーなんてとんでもないと、かたくなに出てこないのだった。

 無理に引っ張り出すこともできないので、彼女の同伴は断念。


 乃詠とベガはその上にショールを羽織り、準備も万端ととのってすぐ、城から迎えの馬車が到着したので乗り込む。


 そうして城館へと向かう道中、


「おまえ、今日は酒飲むなよ」


 コウガに半眼で言われた。その横では、珍しく同調するようにファルもうなずいている。


「わ、わかってるわよ。……飲めないわよ、さすがに」


 先日の失態は、すべて覚えている乃詠である。といっても、コウガたちの認識と当人の認識は、致命的に違うのだが。

 乃詠としては、恥ずかしくはた迷惑な絡み酒をしたくらいにしか思っていない。

 まぁ、確かにそのとおりではあるのだけれど。



 ◇◇◇



「――お待ちしておりましたわ、ノエお姉様」


 城館へ到着すると、リシェルが出迎えてくれた。

 普通に歩けるくらいには筋力も回復したようで一安心である。

 後ろには、護衛騎士のヴィンスもいた。


「お招きいただきありがとうございます。もうお体はよろしいのですか?」

「はい。もう何の問題もございませんわ。普段から鍛えておりますし、体の頑丈さには自信がありますの」


 確かに、彼女の所作には、優雅さと繊細さに加えて力強さがあった。

 ある種の迫力のようなものさえ感じさせる。武人のたたずまいだ。


「それはよかったです。……ところで、リシェル様」

「様だなんて。ノエお姉様はわたくしの命の恩人なのですから、貴族だからとかしこまる必要などございませんわ。わたくしのことは、どうぞリシェルとお呼びくださいまし。敬語も必要ございませんわ」

「いえ、私は一介の冒険者ですので、お貴族様相手には、さすがに……」

「あら、確かヴィンスたちとは気軽な様子で接していたと思うのですけれど」

「それは、ダンジョン内ではということで」

「それに、そのお貴族様がいいと言っているのですから。ね、ノエお姉様?」


 にっこりと、美しくも迫力のある笑顔。

 有無を言わせぬそれは、やはり親子であった。


「……はい。わかりました」

「それで、なんでしょうか、ノエお姉様?」

「その、私の記憶違いでなければ、私とリシェル様は」


 にこーっ。


「んんっ……私と、リシェルは、同い年のはずで……はずよね?」

「えぇ、そうですわね」

「なら〝お姉様〟とつけるのは、おかしいのではないかしら?」


 そもそも血がつながっていないという点については、さして気にはしない。ベガにもお姉さまと呼ばれているので。


 ちなみに、リシェルとはまだそこまで話をしていないのだが、それでも救出後の時点では〝ノエ様〟だった。それがなぜか、次に話した今、いきなりお姉様呼びになっていたのだ。


「あぁ、そのことですか。何もおかしなことなどございませんわ。わたくしは、ノエお姉様に命を救われました。命を救ってくれた大恩人への感謝と敬意と親しみを込めて、そう呼ばせていただきたいと思ったのですけれど……ご迷惑でしたでしょうか?」


 縋るように上目づかいに見られて、乃詠はうっと言葉に詰まる。それはズルい。


「迷惑というわけではないけれど……」

「ちなみに、ノエお姉様は何月生まれですか?」

「七月生まれだけれど」

「でしたら、やはりノエお姉様ですね。わたくしは十月生まれですから」


 ほんの数か月の違いだが、乃詠の生まれのほうが早いのは確かだった。


「それに、わたくしは一人っ子なので。ずっと姉が欲しいと思っていたのですわ」


 はにかむように笑うリシェル。その瞬間、乃詠は陥落した。

 もとより、妹・弟属性に弱いのである。それに、妹分弟分が増えるのは大歓迎なのだ。

 そんな可愛い顔で言われて、それでもなお拒絶するほどの理由などない。


「わかったわ、リシェル。あなたのような、強くて可愛いらしい妹分ができて、私も嬉しい」


 ぱっと顔を輝かせるリシェル。

 本当に嬉しそうで、乃詠の相好も崩れるのだった。



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