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第001話 人類滅亡の日


 ※この作品はフィクションの空想小説です。登場する人物、団体、名称、自然現象などは架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

 ※この作品に記載の内容は全て空想小説の創作物です。危険ですので現実では絶対にマネしないでください。

 ※この作品を映画、アニメーション、漫画、楽曲、動画化などに二次創作していただける方を歓迎いたします。


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第001話 人類滅亡の日


 この作品はフィクションの空想小説です。登場する人物、団体、名称、自然現象などは架空であり、実在のものとは一切関係ありません。


 重い荷物を抱えてかろうじて逃げてきたけれど、自慢の体力も限界に達していた。

 7月の猛暑が、さらに追い打ちをかける。

 ある程度は予想して準備してきたけど、心の中が先に引き裂かれそうな気がした。


 建物が崩れかける直前のタイミングで、私は一気に駆けながら距離を取った。

 「ふぅ。


  あぁもぅ!」


 混乱した頭を整理しながら息を整える。

 何でこんなことになったのだろう、私は何の判断を誤ってきてしまったのだろう。

 泣いて謝ったら許してくれるのだろうか。



 次々と災難が距離を詰めてくる。

 「そりゃそうよね」


 自分も痺れた手を軽く振りながら重い荷物を持ち直す。

 「だぁりゃぁ!」


 自分の気合を入れ直して叫び、私の頭上に次々と襲いかかる物を避ける。

 幸い建物が崩れるのは意外とスピードが鈍い。


 ただし、こんな物をまともに頭に受けたらジ・エンドだ。

 私は読み通りに待っていましたとばかりにサイドステップで左右に避けつつ、危険な建物を迂回しながら高台を目指した。


 前を逃げるおじさんは目の前に迫る危険を察知したようだけれど、重い体が生み出す重力には逆らえず軌道が変えられない。

 「きゃぁ!」


 前のおじさんの頭には生々しい手ごたえがあった。

 頭から鮮血が垂れて崩れ落ちた。

 「ごめんなさい。

  貴方を助けてあげたいけど。

  ここで立ち止まっている時間が無さすぎるの」


 自分自身に言い訳をするようにセリフを吐き、振り返らずに駆け抜ける。



 それにしても、さっきの出来事も、私の人生の中でも最も悲しい出来事の一つになるかもしれない。

 いくら何でも無防備な子供たち三人が母親の前で容赦なく建物に押し潰されていくなんて。

 とても、まともな状況じゃない。

 茫然としながら我が子へ向かって必死で駆け寄る母親も見ていられなかったけれど。

 ただし、そう言う私ですらも、その光景を見て頭がどうにかしてしまったのかもしれない。

 この状況を防げた可能性があったのに防げなかった自分が、結果として殺してしまったのじゃないかと今さら気付いてしまった。


 例えば、さっきの目の前で亡くなったおじさんにも家庭があって、奥さんや子供たちがいるのかもしれない。

 その子供たちにとっては、たった一人しかいない自分たちの父親が亡くなった原因が、私ということになってしまう。


 自分の赤黒い血まみれの服と、赤黒く染まった右手が呪いのようにも感じる。

 自分自身を守るためとはいえ、何十人もの人を見殺しにしても許されるのだろうか。


 つい、この前まで人が一人も亡くなるのを見たことがなかったはずだし。

 それどころか目の前で大ケガをした人すら見たことがなかった平和な市民だったはずだ。

 それにしても目の前で繰り広げられる惨劇は何か別の方法で防ぐことができなかったのだろうか。


 欲望のままに環境破壊を続けて、日々漫然と何もせずに過ごすことの先にこういうことがあることは、うっすらとは分かっていたはずだ。

 海外で起きている深刻な出来事を見ようともせずに、ビジネスマンのおじさんが見るためだけの国際ニュースとして片付けてしまっていた。

 日本の日常だけが平和なら、地球全体が生き地獄のようになっても気にしないなんて、都合が良すぎて自業自得なのは当たり前だ。

 もし、一人一人が少しでもいいから日常生活の中で積極的に行動して、自然に寄り添った行動で生きてきたら、どうなっていたのか。

 私の目の前の地面に横たわる遺体は、どうなっていたのか。


 全員が必死で逃げ回るより、そのささやかな行動を毎日少し選ぶ方が、ずっと簡単なことだったと今さら思う。

 この後で平和な時代に戻ったとしても、果たして普通の生活に戻れるのだろうか。

 この右手にまとわりつく呪いを払う方法を、今はとても想像できる気がしない。



 「ふぅ」


 どうも私は息をするのを忘れていたらしい。

 脈動する心臓を落ち着かせ、次にすべきことを動転しながらも冷静に考える。

 ようやく市街地の景色が見えるような高台に到着した。

 ただし、待っていたのは息を飲むような、想像通りの残念な景色だった。

 眼下では、市街地の中で孤立している人がたくさんいるようだ。

 海側から市街地を東西で分断するように津波が押し寄せている。


 「ひどい・・・」


 津波がどこからきているのか分からない人が、必死で逃げ出しても津波に向かって逃げているような人もいて、無残な悲劇を繰り返している。

 避難訓練の準備や練度も明らかに不足している。

 もう少し真面目に日頃から避難訓練をしておくべきだ。

 ただし、私もいつまでも高みの見物をしている訳にもにもいかない。

 背後から迫る津波をどうにか振り切る必要がある。

 「この高さでも、もうダメみたいね」


 とにかく、はぐれたおじいちゃん、兄や、友人たちを探し出さないといけない。

 緊急事態の時には北の郊外の山頂にある剣道の練習所で落ち合う約束をしていたけれど、こんな状態で冷静な行動などできるものだろうか。

 昼食から、ろくにご飯も食べていなかったせいか思考が明らかに冴えていないし、朦朧としてきているのが分かる。

 ただし、一つ言えるのは、こんな場所で大事な家族や仲間たちと一緒に人生を終えるのだけは絶対に嫌だ。



 その後、数日が経過した。


 水どころか電気、ガス、ガソリンも何も無い。

 水はしばらく使えたけど、家の屋上の水道タンクが空になったら止まってしまって、めっちゃショックだった。

 電気が止まると、道路の水道管から家の屋上の水道タンクに水を持ち上げる電気モーターが止まるみたい。

 テレビ、電話、スマホも電源が無いので止まってしまった。

 ガソリンも早い者勝ちの争奪戦があったみたい。

 たしかにガソリンがあれば、車のエアコンも使えるし、テレビとかの電源にもなるしね。

 エンジンを動かさずに車のバッテリーだけで電源を使うと、すぐにバッテリー切れで止まってしまう。

 電車は、地震の後にすぐに止まってしまっているから使えない。


 乾電池もすぐに店から無くなってしまった。

 太陽光発電や乾電池さえあればラジオとかから情報が入手出来るのに。

 何の状況も分からずに噂話だけで遠くまで動き回るのは本当にキツイ。

 何よりも情報が無いことで少しの余震ですらも不安と恐怖感が本当に耐えられない。

 急に昔みたいな町内会とか近所付き合いが復活したのには驚いたわ。

 ネットが無い時代の昔の人たちって、こうやって情報を収集していたんだ。


 食料は店という店から、全て無くなってしまった。

 食料を持っているという噂が広まると、すぐに空き巣や強盗に襲われるって話を聞いた。

 電気が止まっているから、冷凍庫や冷蔵庫の中の物が、真夏なだけにすぐに腐ってしまう。

 水が無いので保存食で買い置きしておいたはずの乾麺もお湯で戻せない。

 乾麺のタイプって、ラーメンとかは意外と有効期限が短いし大量に水を使うし、保存食としては厳しいかも。

 ただ昔からあるお蕎麦とかパスタとかの乾麺は、かなり長持ちするみたい。

 昔からある知恵だと、缶切りさえあれば缶詰は保存食として抜群に優秀よね。

 有効期限が桁違いだし、頑丈でネズミとかゴキブリとかにも襲われないし。

 家が壊れて穴が開くと色んなものが家に勝手に入ってくるから最悪よ。


 今のところ食料は、松の葉や、笹の葉とかでなんとかお腹を満たしている。

 まさか過去に食べられる野草の知識を教わったのが、こんな所で役に立つなんて思いもしなかった。


 みんなが車で避難しようとしていたけれど、道路が寸断されて高速道路は使えないし信号もついていない。

 車で被災していない田舎の地域に避難するにも難しいようだ。

 行き場を失った車が意味もなく渋滞したり、何かを踏んでタイヤが壊れた車が大量に放棄されて道を塞いでいる。

 そもそも被災者を受け入れ出来るような、余裕がある場所がどこかすらわからないのもキツイわね。


 警察、消防、救急医療も機能していない。

 病院が機能していないから怪我をした人は衰弱して死ぬのを待つような状況だ。


 当たり前だけどエアコンもつかない。

 それなのにあり得ない猛暑のせいで、日中はとても外になんて出られない。

 日中は下手に動き回らずに体力を温存して、涼しい夜に動くしかない。


 大規模な火山の噴煙のせいで、そこら中に砂埃のような灰が積もっている。

 目は充血するし、息をするのも苦しい。

 水中ゴーゴルをしても、すぐに曇って見えなくなる。

 私は学校の授業で使っていた水中ゴーゴルがあったからよかったけど、水中ゴーゴルを持ってない人は風が吹くと眼も開けられないみたい。

 普通のマスクじゃガスマスクみたいに空気のフィルタがついてないから、顔の横から普通に灰が入ってくるし、あまり意味が無い。

 体中の汗に灰がまとわりついてベタベタするし、お風呂は言い過ぎとしても、せめてシャワーだけでも浴びたい。


 それにしても水が無いのが本当に厳しい。

 水を求めて川に行っても、川の水は土砂の影響で黒く濁っていてとても飲めない。

 池や湖から汲むか、昭和の井戸を稼働させてなんとかしのぐか、遠くの神社とかにある湧き水を分けてもらうしかない。

 ただし井戸があっても、水脈が動いてしまって枯れている所が多いようだ。


 このままだと何日も生き延びれる気がしない。

 どうしようか。


 今日こそ水を手に入れないとダメだと思って外を見たその時、奇跡を感じた。


 そうだ雨があった。


 雨が降った時は、本当に恵みの雨だと思った。

 すぐにあらゆる容器に水を溜めた。

 いつも雨が降ると傘を考えて面倒くさいと思っていたけど、これほどまでにありがたいものだったなんて、今の今まで思いもしなかった。


 最近の日本は夕方になると東南アジアのスコールみたいな雨が降っておかしな異常気象だなと思っていたけど。

 まさか、こんな所に繋がる伏線だったなんて思いもしなかった。

 汗でベトベトになった体や頭も大急ぎで洗うことにした。



 突然、目が覚めた。

 背中が冷や汗で濡れている。

 今のはなんだったのだろうか。

 リアルで、ものスゴイ夢だった。


 ここ最近は、やけに人類滅亡の日の夢を見る。

 世界で一体何が起きているのか想像もつかないけど、何かがおかしいのかもしれない。

 いつまで、こんな夢を見せられるんだろうか。


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