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悲しいと言って彼は泣いていた。
辛いと言って彼は泣いていた。
私には抱きしめる為の腕も、慰める言葉も、もうない。
ずっと側にいるのに、触れる事すらできない。
何もできないのに、心配でずっと側にいてしまう。
……ううん、違う。
私が寂しかったから離れられなかっただけだ。
私が離れないから、彼は一人で立ち上がる事すらできなくなっているのに、私のエゴを押し付けているから、彼が苦しんでいるのに、私は彼の為なんて綺麗事を理由にしてしまった。
本当に私は最低だ。
きっと貴方の涙はいつかは雨に溶けてなくなる。
私との思い出もきっといつか、なくなっていく。
貴方が私を忘れてしまうかもしれない。
それは凄く悲しいし、私はきっと許せない。
でも、もう離れないとね。
もし未練があるとしたら、貴方にちゃんと「さよなら」を言えなかった事だろう。
だから、私は花を降らせて逝きます。
これが今の私にできる唯一だから。
花びらがきっと雨のように降るから、お願いだから、私を思って泣いてね。
これが私の本当に最後の『さよなら』だから。




