130/151
130
昔、学び舎を共にしていた学友は不器用な男だった。
御家の為ならば、自分の感情など殺してしまえば楽だっただろうに。
自分に忠実でありたいのならば、その想いを貫けばよかっただろうに。
どちらもできずに、足搔いて、藻掻いて、苦しんでいた。
けど、そうする事の出来る時間を持てる事が羨ましかった。
自分には貫きたい思いもなければ、ただただ流される事しかできなかった。
何をどうしても、『自分』というものの為に生きる術を持っていなかったこちらにとって、あまりにも羨ましく、疎ましかった。
だから、卒業の時に言ったんだ『いい加減、大人になれよ』と。
最初から諦めていたこっちは、大人なんてものではなかったのにな。




