13
キラキラと輝くハチミツの入った小瓶。
それをそっと傾けると、ハチミツがとろりと動く。
それが幼い頃から好きだった。
別に食べるわけでもなく、眺めるだけに買ったハチミツはいつの間にやら食いしん坊な同居人に平らげられてしまった。
「ねぇ、私のハチミツ食べたでしょ?」
ハチミツをたっぷりとかけたバニラアイスを表面をカリカリに焼き上げたトーストに乗せ、それをまさに齧りついた同居人に言うと、同居人は気まずげに私の方に首を回した。
「あ、あははっ、えっと……食べる?」
齧った欠片を飲み込んだ同居人が気まずそうに尋ねてきた。
「食べない」
冷たく言うと、同居人は気まずさと不服さを滲ませた。
「せっかく美味しいのに食べないともったいないじゃん」
「そうかもね。でも、眺めるのが好きって私、言ってたよね?」
「それは聞いてたけどさぁ……」
同居人としてはそれは食べ物を粗末にする行為で許せないようだ。
「私、ハチミツを食べるのは好きじゃないの。ベタベタするし、味も独特だし」
「じゃあ、私が食べてもいいじゃん」
「せめて許可取って。私が買ったんだよ?」
頬を膨らませて言うと、小さな謝罪が返ってきた。
「どうせ、期限は長いんだから、もう少し眺めるのを楽しみたかった」
「だって、美味しそうだったんだもん」
食欲に勝てなかった同居人は一口だけ齧ったトーストを手に、切なそうにお腹を鳴らした。
「……もういいよ。また買うから。今度は勝手に食べないでよ?」
「は~い」
同居人はそう言うと、少し冷めてしまったトーストを満面の笑みで齧った。
それが少し羨ましくて、私は台所に行き、インスタントコーヒーを淹れた。
それを手に戻ると、同居人は私のコーヒーをじっと見た。
「あげないよ?」
「いらないよ。ブラックコーヒーは飲めないもん」
「……」
私は仕方なく立ち上がり、再び台所に向かった。
カチャカチャと音を立て、ふわりと甘い香りが私の鼻腔を擽る頃に、同居人はキラキラした目を向けてきた。
それは私の好きな目だ。
本当に私ってば安上がりだ。
「はい、どうぞ」
作っていたマシュマロ入りのココアを差し出すと、同居人は喜んで受け取った。
なんて羨ましいんだろう。
私はいつからご飯を美味しいと思えなくなったんだろう。
その所為で摂取するのはコーヒーかお茶。渋々ながらご飯を食べる時もあるけど、美味しいとは感じない。
いいなと思うけど、それを食べたり飲んだりしたいとは思えない。
私の代わりに食事をしてくれる同居人は、とある黄色い熊のように私のハチミツを奪っていく。
美味しそうに頬張る同居人が羨ましい。
また、いつか私も食べ物を美味しく感じる時が来るんだろうか?
ああ、いいなぁ……。




