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凍える指先であなたの唇に触れると、顔を顰めていたわね。
あの時は指先がささくれだっていたから、あなたの唇から血が流れたのをよく覚えているわ。
その血を拭って、私は自分の唇に触れたわ。
あなたは心底理解できないといった顔をしていたわね。
ええ、私も私の事が理解できなかったわ。
けれど、あなたの嫌がる顔だけは私の心を満たしてくれたのよ。
今だって、あの時を思い出すだけで心が満たされる。
けど、それも今日で終わりだわ。
あなたは私には付いて来てくれない。そして、私は明日には顔も知らぬ男の元に嫁ぐのだもの。
この心は墓場まで持っていくわ。そして、最期の瞬間にはあなたの嫌そうな顔ばかり思い出してあげる。
それだけを胸にいくわ。そうすればきっと、地獄も怖くないもの。