第1話:和田浦
今年の三月から導入された二両編成のワンマン電車に乗って、内房線の和田浦駅に降り立った。
降車した人は他に居なかった。切符を集札箱に入れ、駅舎に入り少し佇んでから、ホームを振り返る。
電車が過ぎ去るのを見送ると、線路と駅の柵越しに海が見えた。空の色とほぼ同じ色をしていた。
駅を出てしばらく歩きながら「空の色は何色なのだろうか」と思案していた。
青と呼ぶには薄すぎるし、水色と呼ぶには少し濃い。
似たような色は他にもたくさんある。
一番当てはまる色は何だろうと、蝉の鳴き声も忘れ、強い日差しで噴き出る汗も忘れ、空の色は深い思案に染まっていた。
踏切を渡り、駅の裏手にあるローソンまで歩く。
チアパック入りのバニラアイスを買い、手で握り溶かしながらジュースのように吸い込み、国道から折れた砂浜まで続く細い坂道を下る。
坂道の先には、誰もいない砂浜があった。
これも流行りかぜの影響だろうか。この海水浴場に来るのは初めてだから、わからないけど。
バニラアイスは暑さで溶けて海に着く頃には空っぽになっていた。
砂浜に降りて水際まで来てから波音をじっと聞き、波が泡になり生ビールができるのをまんじりと眺めた。
踵を返して防波堤に上り、日に照らされてできる影を見た。帽子を取ってみたり、リュックを下ろしてみたり、痩身が動くのを見つめた。
駅に戻り、無人駅にしては大きすぎる駅の待合室で電車を待った。
そして四年前にもここに来た事を思い出した。あの時はお昼に来て、ローソンで買ったざるそばをここで食べたんだったか。
駅に着いて十分後、下り方面の電車に乗車する。
南国の感覚が遠のいていく。